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のんべんだらりな転生者~貧乏農家を満喫す~  作者: 咲く桜
第6章 農家と勇者と邪神ノ欠片 後編
150/177

ep.150 水鬼

ギルドマスターに教えてもらった枯れ井戸を訪れた。


「……少し前に、誰かが出入りした形跡が見られます。アウル様の言っていた占い師の言葉は本当のようです」


ヨミが枯れ井戸の周囲を調べたら、人間が出入りした痕跡があるという。俺も見たのだが、まったくわからない。痕跡を消した跡があるということこそが、出入りした証拠だそうだ。なるほど、よくわからん。


隠密行動が得意なヨミが言うのだから、間違いないだろう。


「ただ、この痕跡を消した者は相当の手練れでしょう」


「そうなの?」


「はい。私もよく見なければ分からない程巧妙です。むしろ、ここまで痕跡を消せる人物が、占い師に見られるようなヘマをしたほうが信じられませんね」


言われてみると確かに。老婆だったから目が悪いとでも思ったのだろうか。それとも、老婆の気配に気づかなかったか。はたまた老婆がとんでもない実力者か。いすれにしろ、あの老婆が只者ではないことは確かか。……信じたくないけど、本当に占いで見たとでも?


「ははは、まさかね」


「?」


「いや、こっちの話。ここで間違いなさそうだし、さっそく乗りこむとしようか」


準備はしてきたし、魔力も満タンだ。勇者が突出しないようにだけ気を付けるとして、みんなで連携を取って早急に討伐しよう。今も水位は下がっていて、枯渇寸前だっていうしね。



井戸に縄梯子を設置して順々に降りていく。井戸の底は思ったよりも広がっていて、6人全員が下りても余裕があるほどだった。


下についてわかったけど、奥へと続く洞窟が全部で3つある。それぞれが円形の中に60度間隔で設置されている。空間把握をしようと思ったけど、ノイズが走ってうまく見ることが出来ない状況だった。


「どれかが正解なんだろうね。ヨミ、痕跡から見分けることはできる?」


「……すみません。痕跡を消した跡はあるのですが、全ての道にその跡があるのです」



となると、現状で正解となる道を選ぶことは困難か。


「主様、ここは別れて探索するというのはいかがでしょうか。幸い、ここには腕の立つ者が6人おります」



洞窟はかなり狭く、2人がギリギリ並べるくらいの幅しかない。全員で通っては、何かあったときに対応が後手に回ってしまうだろう。時間もあまりないし、あまり悩んでいてもしょうがない、か。


「そうだね……2人ペアに分かれて探索するのがいいかもしれないね」


ここで重要なのは班分けだ。みんな強いと言っても、全員の力が均等に強いわけではない。俺とアルフは別々になる必要があるし、ミレイちゃんと勇者を一緒にすることもできない。となれば、考えられる組み合わせは一つしかないということだ。



アウル&勇者ペア

ルナ&ヨミペア

アルフ&ミレイペア


「というのが無難だと思うんだけど、どうかな?」


「僕に否はないよ」


「私も問題ないよ」


「私とルナも問題ありません」



決まったな。ルナとヨミはいつも一緒にクエストをしているから、連携も取りやすいだろう。逆に、俺とミレイちゃんでもよかったのだけど、何かあった際にはアルフが一緒に転移で逃げてくれることを期待した。勇者の手綱についても俺が持っておきたいという思惑もある。


「じゃあみんな、絶対に無理はしないように。何かあったら伝声で連絡すること。いいね?」


「「「「はい!」」」」





◆◆◆

SIDE:アウル&勇者ペア




「天馬は、この事件が終わったらどうするつもりなの?」


「うーん……まだ分からないことが多すぎて如何とも言えないけど、僕は王女様にひどいことをしたんだろう?」


「えっ⁈」


まさか思い出したのか? 起きた当初、何も覚えていなかったこともあり、今回のことについては教皇の責任ということで国が動いているはずだ。


「……最初は何も思い出せなかったんだけどね。時間が経つにつれて、ちょっとずつ頭の中が整理できたんだ。夢を見ていたような感じだけど、その反応を見る限りでは本当のことのようだ」


俺の反応を見たってわけか。なるほど、半信半疑だったってことね。そのことも確認したかったのだろう。俺とのペアは好都合だったってことか。


「アウルにも迷惑をかけてしまった。……歩きながらで良いから、僕の話を少し聞いてくれるか?」


「え、あ、うん」


「僕はこれでも四宝院財閥の御曹司だ。選ばれた存在とでも言うのかな、嫌味になってしまうけど僕はなんでもできた。努力を少しするだけで人並み以上になれる。はっきり言ってつまらなかった。最初は自分が主人公だと思ったものだけど、思い通りになるというのは存外苦痛だった。僕は逃げるようにラノベや異世界というものにハマってね、そんなときに目の前に現れた魔法陣。天啓とさえ思ったよ。異世界でもう一度自分を試したいと思ったんだけど、言っても僕は高校二年生。精神的に脆かったんだろう。挫折を今まで知らなかった僕は、異世界の厳しさに心が負けそうになったこともある。一人知らない異世界という状況にも心細かったのもあるかもしれない。そんなところを支えてくれたのがイシュタルだったんだ。彼女は俺のことを献身的に支えてくれていたけど、今なら分かる。彼女は俺を――天馬として見ていたことなどなかったのだろうね。俺はあくまで勇者で選ばれた存在だったから、なんだろう」


「天馬……」


「洗脳されていたとはいえ、俺がしたことは許されることではないのはわかっている。けれど、もしチャンスが貰えるなら、俺はもう一度勇者として頑張りたいと思っている。まぁ、何をすべきなのかは分からないから相談はしたいけどね」


勇者である天馬も悩んでいたということだろう。でも、俺が思っていた通りなんだな。こんな顔をするのは、それほど悩んだという証拠でもある。



「遅すぎるということはないんじゃないか? 確かに異世界転生に浮かれたのはわかる。けど、ちゃんと反省して前を向いているじゃないか。王女と王国に謝るなら俺も一緒に謝ってあげるよ――同郷だろ?」


「アヴル゛~~~っ!」


「泣くな泣くな。とりあえず、今回の件をなんとかすれば、少しは心象もよくなるでしょ」


「……ゔん……! ……そうだな、王女に振り向いてもらうためにも、俺は水鬼を倒す!」


あ、王女に惚れていたのは本気だったんだ。まぁ、頑張れ。いろいろと。エリーと勇者か……、絶対に尻に敷かれるんだろうなぁ。付き合えたらだけど。



特に罠などない道を粛々と歩いていくと、かなり広い空間に出た。あんまり気づかなかったけど、歩いてきた洞窟は緩やかに下へと下っていたんだな。



「っと、話はここまで。……お客さんだよ」


「……みたいだね。前衛は任せて」



現れたのは、青い体躯の鬼が2体。気配はかなり強い。……が、なにか違和感がある気がする。倒せば何かわかるか?






◆◆◆

SIDE:ルナ&ヨミペア




「ねぇルナ、今回の件が終わったら何がしたい?」


「うーん……みんなでゆっくりしたいかな。それも、メイド部隊や私の両親も含めてね。海に行くとかもありかな?」


「海ね……それも悪くないね」


「ヨミは何がしたいの?」


「そりゃもうアウル様と2人でデートよ。少し大人っぽくなってきたし、あと数年もすればもっと格好良くなるわよ~?」


「デートかぁ……最近忙しくてあんまり時間とれてないもんね」


「そうねぇ。アウル様はのんびりするのが好きな割に、お人好しだからね。巻き込まれ体質なんでしょう。むしろ、自分から巻き込まれに行くこともあるけどね」


「ふふふ、ヨミの言うこと分かる気がするわ」


「あと1年半くらいで成人でしょ? そうすれば婚約者も終わりよ。それまでにはルナの中のイナギも開放して、全てを終わらせたいわね」


「……うん。イナギとはたまに話すけど、私も会ってみたいかな。一族の役目が終われば本当の意味で自由になれるもの」


「これまで以上に忙しくなるかもしれないけど、もう少しの辛抱よ。私たちには心強い仲間がたくさんいるのよ?絶対大丈夫よ」


「うん! いつもありがとう、ヨミ」


「ふふふふ――っ!! どうやら敵さんみたいよ」


「みたいだね。青い皮膚の鬼が2体。かなり強そうね」


「これはちょっと不味いかしら……。全力で行くわよ!」



道を進んだ先にいたのは青い躯体の鬼が2体。いずれも強力な気配を感じる。私たち2人でかてるだろうか? ヨミもいるし、連携して戦えばきっと勝機はあるはず。



『……鬼から微かに邪神の気配がする。気を付けろ』



「……え?!」



イナギが邪神の欠片の力を感じたということは、この付近に邪神の欠片があるかもしれないということだ。……鬼を倒すのは、簡単じゃないらしい。





◆◆◆

アルフ&ミレイペア



「…………」


「…………」


き、気まずい……! よく考えたら私がアルフレッドさんと二人きりになることってなかった。確かに強いのは知っているし、頼りになるのは間違いないんだけど、何を話せばいいんだろう。


「あっ、そういえばアセナは今何をしているのですか?」


「アセナですか。今はとあるダンジョンで鍛錬をさせております」


「……そ、そうですか」


ふぇ~ん……何を話せばいいんだろう……。


「そういえば、ミレイ様は魔法以外の鍛錬などはされているのでしょうか?」


「鍛錬ですか……護身程度の体術と短剣術をしているくらいですね」


私にはあまり体を動かす才能が無いのはわかっている。ただ、アウルのおかげで魔法は練習できたからそれなりには使える。冒険者としては魔法があって最低限の護身ができれば問題ないと思っている。


「ふむ……私が鍛えて差し上げましょうか?」


「え……でも……私にできるでしょうか?」


本心としては、私にこれ以上のことが必要かどうかと思っていることだ。魔法は好きだし、これからももっと鍛錬を積むつもりではいるけど、これ以上の武術を修めようとはあまり考えたことが無かったな。


「……主様は、これからかなり危険な者と戦うことが考えられます。自分を守るためにも、もっと自衛の手段を得るのは必要です。とはいえ、すぐにとはいきませんので、なにかに絞りましょうか。……歩法なんかはいかがですかな?」



アルフレッドさんの歩法は強力なのは知っている。ウルリカさんもアルフレッドさん直伝の歩法を使っていたはずだ。……自分の身は自分で、か。


「歩法を教えてください」


「もちろんです。おっと、ちょうどいい敵がいるようですね。ミレイ様は確か水属性が得意だったはず。水属性と相性のいい歩法をお教えいたしましょう」


「はいっ!」



アウル、私はあなたに迷惑をかけないくらい強くなって、これからは隣に立てるくらいになるからね!


のんびりと更新していきます。

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