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ep.15 かき氷

スモークチーズやベーコンといった燻製した食べ物作りが軌道にのり、我が家に経済的余裕が生まれてきている。さすがに親にバレずに燻製したものを売るのは無理だったので、どうせならと燻製を兼業でやることとなった。


オーネン村でも少量だが販売を始めている。値段はかなり安く設定していて、村民なら誰でも手が届く値段にしたのだ。レブラントさんには申し訳ないが、村民特別価格というわけだ。


それだとしてもかなり儲かっており、もはや貧乏農家とは言えないくらいには稼げている。これには両親も驚いていたほどだ。


とはいっても影でレブラントさんには、村で販売している燻製よりチップにこだわった特製の燻製を売っているので別段文句を言われたりはしていない。まぁ、レブラントさんに売っても半分以上を辺境伯が買っているらしいのだが・・・。



そう言えば、この村に変化があった。


ここオーネン村は小規模の村だが、最近ではどこで噂立っているのかは知らないが移住してくる人がちらほら出始めたのだ。父さんに聞いた話だとおよそ30人近くが既に移住してきているらしい。これには村長も大喜びだそうだ。



「父さん、なんで最近移住者がこんなに多いの?今までもいなかった訳ではないけど、入ってくる人より出てく人の方が多かったよね?」


「それなんだがな、どうやら理由はアウル、お前なんだ」


「え、なんで?」


「俺も村長に聞いた話なんだがな・・・」



要約するとこうだ。

そこそこ大きいスタンピードが起きたにも関わらず、ほとんど被害なくそれを退けたっていう噂が王都や辺境伯領で流れているらしい。


それを聞きつけた人々がちょっとずつ移住してきているとのことだ。他にもこの村ではめちゃくちゃ美味い干し肉が格安で食べられるという噂も同時に広がっているらしい。


これは村民が他の街に出かけてその街の酒場でついつい話してしまったらしい。それだけなら、与太話として流されたのかもしれないが、ムキになった村民がちょうど持っていたベーコンを酒場のマスターに渡したところ一気に噂が広がったのだとか。



・・・完全に俺のせいじゃないか。でも、故郷を守るために俺は戦ったんだからこれは仕方ない。


村民にも美味しいものを食べて欲しいし、何よりアイテムボックスが肉で埋まっているのが嫌だったから商売がてら売っているのだ。これも仕方ない。


うむ、結果仕方ないってことだな。村長も喜んでいるらしいし万事問題なしだ。



今の季節は夏真っ盛り、去年よりも今年は暑いようで我が家は俺がいるから涼しいが村民は大打撃を受けていた。どうにかしてやれないもんかと考えた結果、プールを思いついたが芋洗状態になるのは目に見えている。


・・・みんなが涼しくなれて、どうせなら商売にできてかつ利率が高いものか。



そうだ、かき氷だ!シロップはリンゴを使えばそれなりのものができるだろうし、クインに言えばはちみつも手に入る。あとは森でベリー系の果実を採ってくれば完璧だな。氷は魔法で作ればタダで手に入る。


というか俺ってもしかしたら、かなり商売の才能があるのかもしれないな。もう少し成長したら、見聞を広めるためにこの領の領都や王都、行けるなら帝国にも行ってみたい。そのついでに商売が出来ればかなり良いな。


冒険者も憧れるが、もう既にある程度魔法は使えるし金にも困ってない。剣はつかえないし、使うとしても槍か刀だけだから、もう少し身体が出来上がってからやりたい。魔力は継続して増やす努力はしているから、最近だと使い切るのが難しくなってきている。




よし、とりあえずかき氷の試作でもしてみようかな。作るのはリンゴのシロップと蜂蜜に漬けたベリー系のシロップの2種類で良いだろう。


森にはたくさんの木の実があるのは散策しているうちに見つけている。しかし、今回は少し遠出してアザレ霊山の麓まで行ってみようと思っている。前回のスタンピードからそれなりに時間は経ったが、特に問題ないかの確認とまだ見ぬ魔物がいないか、それと木の実がないか探すためだ。


身体強化を魔力にものを言わせて走ること1時間で麓に到着した。途中弱い魔物もいたが面倒なので避けながら走ってきた。



「お、これは見たことないな。・・・毒素や有害性も無さそうだし、それに量も沢山ある。ベリー系では無いがこれもシロップにできないか試してみよう」


麓近くまで来ると流石に見たことのない木の実が沢山あった。魔物については前回のスタンピードで見たことある物が大半だったが運良くオークのコロニーを見つけることができた。


数はおよそ20匹くらい。1番強い個体がオークジェネラルと呼ばれる討伐ランクB相当のやつだ。


「他のオークより2回りくらいデカいな……。オークナイトであんなに美味かったんだ。やつだとさらに美味いんだろうな」


じんわりと口の中で涎が溜まってきたのがわかる。俺も大概だな…。本来ならオークジェネラルなんか見たら、死を覚悟するようなレベルの魔物なのにな。



それに、オークジェネラルの持っている武器が気になる。あれは異様だ。なんというか、オーラがあると言うべきか形容するのが難しいが、とにかく要注意だな。形状としては小ぶりのサーベルという感じだが、オークジェネラルが持って小ぶりなので、俺が持ったら少し大きいくらいだろう。



いくら魔法が使えるとしても、油断はできない。ここは麓とはいえアザレ霊山。アザレ霊山は王都では危険度Aとされるほどの危険地帯で、麓でもおそらくB〜Cくらいの危険度はあるだろう。


・・・まぁ、全部レブラントさんから聞いた話なんだけどな。



素材となるオークはあまり傷つけたくないが、あまり危険な真似はしたくない。


となるとやはり風魔法だろう。一撃で葬るためにも魔力を練る。意識してより鋭利で疾く相手に届き得る風を。距離は100m強といったところか。よし!



ウィンドカッター!×20!


不可視の風の刃が油断しているオークたちに迫る。1匹の首が切断されるのを皮切りに次々とオークの首が切断されていく。


呆気なく終わるはずだったはずの狩は、オークジェネラルによって阻まれることとなる。いや、この表現は正確じゃないな。オークジェネラルの持つ武器によって、だ。


オークジェネラルの首に風の刃が当たる瞬間、サーベルが光ったと思うとウィンドカッターが消えていた。


「魔法無効化か…?」


BUMOOOOOO!!!!!



仲間を殺されたオークジェネラルは怒り狂いこっちへと向かってくる。居場所が分からないように魔法を使ったつもりだったが、なにかしらのスキルを持っていると想像に難くない。


「まじか!?やばっ!」


しかも、魔法を使い始める始末だ。と言っても弱い水魔法だけなので、俺の脅威とはなり得ないレベルだがこんなのが当たり前のようにいるのがアザレ霊山なのだろう。


「それにしても、その武器はチート級だろ!!」



距離を置きながらアイスランスを5本放つも、サーベルで全部切り払われてしまった。


そのあともロックバレットやウォーターバレットを放つも全て撃ち落とされる。やはり、Bランクは伊達じゃないようだ。


ウィンドカッターを一気に20本放ってみたが、サーベルが光ると魔法が消えていた。


「あれ、もしかして…」



もしかしてこいつ、質量のある魔法は打ち消せないんじゃないか?まだ勘だが…


サンダーレイ!


思った通りサーベルが光って魔法が打ち消される。次にロックバレット×5を試しに放ってみると切って打ち落とした。


やはり、この仮説は間違いないようだな!



そうとわかればいくらでもやりようはある。瞬時に土魔法の魔力を一気に練り上げる。


「かっこ悪い勝ち方だが、勝ちは勝ちだからな!」



ピットホール!アイスピラー!


いきなり足元に発生した落とし穴には対応しきれなかったようだ。落とし穴の下に作った氷の刺で今頃串刺しだろう。


恐る恐る確認すると運悪く首に氷が刺さったようだ。重すぎる体重が仇となったな!




サーベル含めて、オークを回収して全部の血抜きをしてしまう。これを怠ると肉が臭くなってしまうので欠かせない。


本当は今すぐサーベルを使ってみたいが、ここは未知のアザレ霊山の麓のため自重しておこう。




その後は特に強そうな魔物に出くわすこともなく、無事に採取を終えた。





次の日も夏真っ盛りな天気と気温で、外に長時間いたら熱中症になってしまうだろう。そんな中俺は村の中に唯一ある広場的なところでこぢんまりとだが、露店を出してみた。


まだ6歳の子供がやっていることなので、店の前を通る大人たちは温かい目で見てくれる。それにこの村は優しい人しかいないため、喧嘩などは滅多にないくらい治安がいい。



涼しい食べ物ありますと書いた木の板を店の前に置いて客を待っていると、最初のお客さんは村長さんだった。



「おや、アウル君。お店ごっこかい?どれ、儂にもひとつなにかくれるかい?」


「銅貨3枚です!」


はいよ、と言って銅貨3枚をくれたので最初のお客さんということもあり特別サービスで大盛りのかき氷にしてあげた。


氷は魔法でキメ細く口当たりの良いものを意識して作り上げる。シロップはオススメをかけてあげた。アザレ霊山にあった木の実から作ったものだ。


「はいこれ!」


「おぉ…冷たい。これはなんで食べ物なんだい?」


「かき氷っていう食べ物だよ!溶ける前に食べてね!」


「この時期に氷だって……?」と言いながらも恐る恐る食べる村長。しかし、それも一口目を食べるまでだった。美味しかったのか次々と口に運んで頭を抱えている。


「あ、言い忘れたけど一気に食べたら頭がキーンってなるから気をつけてね!」


「アウル君、それは早く言ってくれ」


どことなく、呆れている村長だった。


この光景が見たかったというのもあり黙っていたのだが、この世界の人からしたら食べ物を食べて頭が痛くなるのは毒みたいなものなのかもしれないな……次から気をつけよう。



そのあとも、ちょこちょことお客さんは来てくれたが、子供がやっているせいもあって思ったよりも客入りは良くなかった。


「まぁ、初日はこんなもんか?」



夜も寝苦しいくらいに暑かったのでミレイちゃんにかき氷を振る舞ってあげたら、泣くほど喜んでいた。アウル君のお嫁さんになってあげる!と口走る程度には美味しかったみたいだ。



あんな美少女に言われると満更でもないな。前世の記憶があると言っても俺はもうこの世界の住人でアウルという人間なのだろう。やはり、年相応な人を好きになってもおかしくない。




両親にも概ね好評だった。ただ、どうしてもみんながっついて食べてしまうのでみんな頭を抱えて痛がっている様は面白かった。




次の日も朝の手伝いを済ませた後に、広場に行くといつもよりたくさんの人が集まっていた。



どうしたんだろうと思いながらもアイテムボックスから露店セットを取り出して店を始めると、数人の大人が近寄ってきた。


「村長が言ってたのはアウルが始めた店だったのか」


「村長さんが?えっと、銅貨3枚でかき氷という食べ物を売ってますよ!」


「ぜひ売ってくれ!」


「あ、ちなみに深皿とかを家から持ち込んでくれたら大盛りにしますよ〜!」



昨日はたくさん伐採した木で皿を作って売っていたのだが、何個も作るのは面倒なのでこうすることでその手間もなくせる。魔法を使って氷を出すので魔力の訓練にもなるし、費用もかからないので一石三鳥だ。



人が人を呼び、毎日70人くらいの人が買いに来てくれる。そのお陰もあって夏限定で1ヶ月くらいやったのだが、それなりの金額になっている。……全部銅貨だけどな。


レブラントさんも食べてこれを売りたいと言っていたが、氷なのでと断念していた。


しかし、余ったシロップは全部買っていったのはさすが商人だなと感心したもんだ。


王都ではこういう珍しい木の実をつかったシロップやソースは無いみたいで、すぐに売れてしまうんだとか。


王都に行けば俺ってかなり儲けれるんじゃ、と思うことがあるが変な貴族に目をつけられるのも面倒だ。


ランドルフ辺境伯は変態だけど常識のあるいい貴族だし、ミュール夫人も癖はあるが優しい人だ。しかし、全員がそんな訳ないし、どちらかというと少数派だろう。



いずれ王都に行くとしても、もっともっと魔法を研究して強くなってからだな。


またこうしてオーネン村では夏に子供が涼しい食べ物を出すという噂が領都や王都で流れ始めるのだが、当の本人はそんなことを全く知る由もないのであった。


ちょっとずつ更新していきます。

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― 新着の感想 ―
[一言] せやなw 辺境伯家にはうまいこと後ろ盾になってもらいたいねw
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