ep.148 情報収集
エリーからは王家の紋章が施された扇子を2つ預かってきている。これがあれば何かあっても王族の庇護下であると証明できるだろう。
さて、エリーの護送はアルフに頼んだから問題はない。今更テンドが絡んでくることもないだろうしね。問題はエゼルミアさんが来るまでにある程度の情報を集められるかどうか、ということだ。
エゼルミアさんだって知らない可能性も大いにあり得る。そうした場合、対処が遅れればそれだけ住人に被害がでるのだ。すでに商人が荒稼ぎをしているみたいだし、早急にどうにかしたい。となると、班を分けたほうがいいかもしれないな。
商人を探る班と、水喰いについて調べる班だ。みんなの力量・特性を考えると、商人を探るのはルナとヨミに任せてしまったほうがいいように思う。逆に、勇者には水喰いについて調べるほうを手伝ってもらおう。
「ルナとヨミには商人について調べてほしい。出来るかどうかわからないけど、出来れば商人のバックにいる存在が誰かを調べてほしい。あとは一つの街を賄うだけの水をどこから入手しているかも調べてほしい」
「かしこまりました」
「ふふふ、お任せください」
2人はすぐさま行動を開始し、颯爽と部屋を出て行った。本当に頼りになるよ。
残ったのは俺とミレイちゃんと勇者の3人。
「ミレイちゃんにはギルドに残っている資料を調べてほしい。あと、勇者の付き人だった2人についても見張っていてくれると助かる。」
「有力な資料が見つかったら連絡するね!」
ギルドマスターにはエリーが事情を説明していたから、きっと協力してくれるだろう。ギルドにもっと水喰いの資料が残っていればいいんだけど、それは望み薄かな。
アルフがエゼルミアさんを連れてくるかもしれないから、拠点とするギルドには人がいてほしいという狙いもある。雑用に使うようで悪いけど、これ以上ワイゼラスの人間に迷惑をかけられるのはごめんだ。
かくいう俺は勇者のお守りをしないとならない。エリーには貸し一つと言ったけど、貸し二つでも足りないくらいだ。
国王にも王女にも貸しがある。うーん、これはこれ以上俺に深入りしたり依頼をしないでくださいと頼み込むのもありかもしれないな。そうすれば今後絡まれることはなくなる。
うん、悪くないな。ただ、国王はいいとして、エリーは王女と言っても第三王女だ。どこまでの権力を持っているのかと言われたらやや疑問が残る。智将と呼ばれるほどに頭がいいらしいけど、それは権力とはイコールではない。
「早くのんびりしたいな……」
「アウル、早く聞き込みに行くぞ! 王女様とこの街は俺が救ってみせるぞ!」
……前途多難だ。
それからというもの、俺と勇者は街中を聞きまわった。王女に頼まれて調査していると言うと、住人たちはとても協力的で、この街を助けてくれと懇願された。
エリーは王女としてもかなり求心力を持っているようだ。その王女が街を救おうとしているというのだから、協力的になるのも頷ける。
「うーん、あまり芳しくないな」
勇者が独り言ちている。しかし、勇者の言う通りあまり多くの情報は入ってきていない。というか、噂程度の話しか聞けていないのだ。その噂というのも真偽が不確かな曖昧なものばかり。
ふと勇者を見ると、まだ聞き込みしていない住人に話しかけていた。
勇者はもう大丈夫に見える。本当に洗脳されていたせいで正常な判断が出来なくなっていたのだろう。
しかし、見た目的には高校生くらいか。四宝院の神童と言えど、精神は子供のままだ。こういう異世界に来てしまっては年相応にしか見えない。
それ故にやや危うい感じもある。そのせいでいいように利用されていたのだろうが……。
彼にはこの世界をゲームか何かと勘違いしている節があると思う。常に浮足立っているというか、そんな微かな違和感だ。今回のことで地に足を付けてくれるといいんだけどな。
「アウル! このおばあちゃんが知ってるって!」
「! いまいく!」
おっと、無駄だと思っていた聞き込みにも意味はありそうだ。
SIDE:ヨミ&ルナ(ルナ視点)
ご主人様に商人の調査を依頼された。これは完璧にこなしたい。私とヨミの能力をフルに使えばきっとそんなに時間はかからないだろう。
「ルナ、私は裏から攻めるわ。だから、正攻法はお願いしてもいい?」
「うん、いつものやつね。任せて!」
いつものというのは、私たちがいつも冒険者として依頼をこなすときに使っている作戦の一つだ。
対象を商人として、私が真正面から正攻法で聞き込みを行う。第三王女の遣いと言えば話も通りやすいはずだ。加えて、私たちはそれなりに名の通った冒険者でもある。武力行使してくるような愚行は犯さないだろう。
逆に、ヨミは私が正面から攻めている間に商人の背後にいる人間関係を探るのだ。私が正面から攻めたら少なからず動揺するだろう。その隙をヨミは逃がさない。背後にいる黒幕に連絡を取るようなミスをしてくれれば最高、次点で指示書のような書類を廃棄しようとしてくれれば御の字といったところか。
要は私が陽動で、ヨミがその隙に終わらせる方法だ。陽動だけで済んでしまう場合もあるので、お互いに気は抜けない。
「さて、すぐに終わらせましょう」
商人のいるところに到着し、ヨミが裏手へと回ったのを確認したら作戦開始だ。
「いらいっしゃいませ、お水をお求めですか? 量が減ってきているので、いつもよりも少しお高くなっております」
ニコニコ顔の商人が揉み手で近寄ってきた。
「すみません、一番偉い人を呼んでもらえますか? ……私は第三王女殿下から直接依頼を受けてここにきています」
「!! しょ、少々お待ちを!」
ご主人様から預かった王族の紋章入り扇子を見せると、店員は冷や汗をかきながら店の裏手へと走っていった。
「さて、思ったよりも効き目はばっちり。これでどう出るかしら」
ここまで順調にいけば、あとは圧力をかけて商人をいい感じに焦らせることが出来れば私の勝ち。逆にうまくあしらわれたら私の負け。
でも、うまくあしらわれたとしても得られる情報はある。
第三王女の名前を出しても顔色を変える必要のない人物が背後にいる可能性があるということだ。そして、王族が出てきても怯える必要のない人物など相当に限られる。
順当に考えれば他国の大貴族、王族が有力だろう。王国の国力を削ごうとしているとかかな?
……もしくは、『自国』の王族だ。それも、第三王女よりも権力があり継承権の高い人物、とかね。
ヨミ、そっちは頼んだよ。
SIDE:ヨミ&ルナ(ヨミ視点)
ルナが表から攻めてくれるお陰で、こちらは楽に動くことが出来る。ひとまず気配を隠しつつ、裏口から侵入して屋根裏に潜伏している。
特に腕の立ちそうな護衛や用心棒はいなさそうだ。いるのは、冒険者崩れの傭兵だけ。あれなら如何様にも対処ができるだろう。
おっと、ルナがうまくやったみたいね。
「商会長! 表に第三王女の遣いを名乗る人物がやってきています! どうしますか?!」
「ええい、落ち着きなさい。何があったのか落ち着いて話しなさい」
「へ、へい」
うーん、あの蛇みたいな男がこの商会の頭ってわけね。なーんか如何にもって感じで、逆に怪しいな。それにしても、なんで小悪党ってみんな悪そうな顔をしているのかしら。不思議ね。
「いつものように水を売っていたら一人の美女がやってきたんです。ここいらで見たことはないので、おそらく違う街からきた冒険者か何かだと思って、いつもより高めに売ってやろうと思ったら、そいつは第三王女の遣いだっていうんですよ」
「ふむ……本当に王族の遣いだったんですか?」
「それは間違いありません。なんせあのお方と同じ紋章の入った扇子を見せてきましたから!」
「ちっ……それは本物のようですね。わかりました。私はひとまずあのお方に連絡を入れておくので、そちらは何とか誤魔化しておいてください。私が不在とでも言えば問題ありません」
「わ、私は切られたりしないでしょうか……?」
「まさか、そんなことをすれば王家の信用が地に落ちるだけ。安心して行ってきなさい」
「へい!!」
「さて、あまり時間もないみたいですし、さっさとここを去るとしますか。それにしても動きが早いですね……。あのお方が読み間違えるとは考えにくいですし……。ひとまず、あいつをここの商会長だという書類を残して逃げるとしましょう。早くあのお方に報告せねば」
思った通り、背後にはお偉いさんが付いているようね。ただ、気になるのは『あのお方』だ。名前を出すようなことはなかったけど、問題はそこじゃない。
店員が言っていた一言が頭の中で反芻される。
『なんせあのお方と同じ紋章の入った扇子を見せてきましたから!』
『あのお方と同じ紋章の入った』
我々がアウル様から借りたのはライヤード王家の紋章が入った扇子だ。つまり、その紋章と同じ紋章ということは、背後にいる人間もライヤード王家の人間ということになる。
これは正確な情報が欲しい。できれば書簡なんかを確保しておきたい。
「本当はもっと荒稼ぎする予定でしたが……まぁ、当初の目的は達せられました。あのお方も満足されるでしょう。っと、よし。忘れ物はないですね」
本来の商会長がいそいそと逃げる準備をしているので、準備が整うまで待つ。その中で、ひと際大事そうにしている袋があったのに気づいた。お金が入っている大量の袋は別にあったので、おそらくあれが目的のものだ。
そうとわかれば、あとは行動するだけだ。
「彼の者をひと時の夢へと誘え 水魔法『睡霧』」
「おや……あれ……あははは、大量の金貨! それは私のものだぞぅ⁈」
この技は相手を完全に眠らせることはできなくとも、一時的に夢を見ている状態にすることが出来る。これは使い勝手のいい水魔法で、対人戦で相手が素人だとよく効く。
虚空を眺めながら金貨を数えている商会長の傍に落ちている袋を開けると、そこには数枚の紙が入っていた。
「なになに……? うーん、馬鹿正直に名前を書くような真似はしないですか。書かれている内容も一見しただけでは普通の注文書に見えます。敵ながらやりますね。とりあえず、これは一枚頂いていくとしましょう」
パチン
また屋根裏に隠れて指を鳴らす。これで睡霧が解除された。
「ん、あれ、私は一体……っと、それどころじゃありません。はやくここを去らねば」
ひとまず、商会長の魔力は覚えた。そして、私の放った魔法も沁みついているので、追うことは可能です。魔力操作を訓練していくとこういった芸当ができるようになるとは思いませんでしたが、アウル様には感謝でですね。
「さて、ある程度の情報は知れましたし、ルナと合流しましょうか」
ゆっくりのんびりと更新していきます。
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