ep.145 砂漠の街スリード
「さて、問題はこいつか」
目の前で伸びている勇者。すでに解呪はしているので洗脳の類は解けているはずだけど、絶対ではない。かなり深く鳩尾に入ったようで、全くと言っていいほど起きてこない。先ほどまでは全力で戦っていた相手が目の前で寝ている。なんとも不思議な感覚だ。
「……無理やりにでも起こしましょうか?」
ヨミがなんだか物騒なことを言っているけど、それはやめておこう。
「ひとまず勇者を連れて場所を移動しよう。ここにいたら魔物が来る可能性だってあるからね」
ここは砂漠地帯のため居心地も悪いし、留まるには最悪だ。スリードの街に行ってひとまずギルドにでも行こう。そうすればゆっくりとできるはずだ。
「ギルドでしたら私とミレイが先ほど行ったので案内します」
「こっちだよ」
ルナとミレイちゃんは街を探索しているときにギルドへ寄ったらしい。まぁ、情報を集めるのなら最適と言える場所か? 実際にちゃんと行ったことがないから何とも言えないけどね。
みんなに連れられて街へと行き、すぐにギルドへと向かった。スリードの街へと行くと、王都とは全く違った建物様式で、白っぽいレンガつくりの家が多い。きっと、暑さを生かした建て方なのだろう。
前世でも、砂漠地帯では日干しレンガを使った家が多かったはずだ。わらと粘土、水を混ぜて天日で乾かせば比較的に簡単にできるもので、冬は温かくて夏は涼しい優れものだったはずだ。まぁ、耐久力はどうかと言われると、何とも言えないけどね。
「……?」
街中を歩いていると心なしか住人の元気がないように思える。暑いからというのもあるだろうけど、なにかあったのだろうか?
「アウル、ここがこの街の冒険者ギルドよ」
そうこうしているうちに冒険者ギルドについてしまったらしい。屈強で厳つい男たちが多い印象を受ける。中には女性もいるが、割合的には2~3割と言ったところか。暑いから女性から敬遠される街なのかもしれない。
ちゃんとギルドに入ったのはほとんどない。以前、王都でギルドマスターに呼ばれたときとかくらいだから、片手で数えるくらいしかないかもしれない。いや、それ以外にも数回入ったっけ?
それでも、王都のギルド以外に入るのはここが初めてだったはず。やはり王都だけあって綺麗だったしかなり大きかったけどここはまた違う。良い言い方をすると、土地に根差した趣ある感じだ。……悪く言えば小汚くちょっと臭い。あまり長居はしたくないな。
「おい、あの双姫と水姫と一緒にいる男、誰だよ」
「あんなガキと一緒にいるとか、もしかしてアッチのほうが凄いのか?」
「俺だったらもっといい思いさせてやるのにな」
「いや、もしかしたら何か脅すためのネタを持っているのかもしれんぞ」
「お前らよく見ろ、あっちのちょっと上品な嬢ちゃんも上玉だぞ?」
「なんにしろ、どっかのボンボンが金にものを言わせて従えているんだろう。嫌だねぇほんとに」
俺たちが冒険者ギルドに入ると、ひそひそと声が聞こえてきた。その中で気になったのは水姫だ。これに関しては初めて聞いた名前だけど、もしかしなくてもミレイちゃんのことだろう。
「……………………」
おそるおそる隣を見ると俯いていたので、怒っているのだと思ったら、顔を真っ赤にしながらプルプルさせていた。いや、死ぬほど恥ずかしいのはわかるけども、これだけは言わせてほしい。
恥ずかしがっているミレイちゃん滅茶苦茶かわいい。
「アウル様、こっちですよ。奥の部屋を借りれました」
なぜか周囲に聞こえるように言い放ったヨミ。その顔にはわかりやすいほどの作り笑いが張り付けられており、明らかに怒っているのが見て取れた。
「……ヨミは、周囲の冒険者(笑)たちに、ご主人様を侮辱されたのを怒っているのですよ。まぁ、私も怒っていますが」
ルナがこっそりとヨミの気持ちを代弁してくれた。こういうヨミはあまり見かけないからちょっとだけ得した気分だ。でも、俺も言われっぱなしは腹が立つので、ギルドの奥の部屋へ移動しながら、周囲にいた野郎どもにそっと威圧を放ってあげた。
『ひぇっ……!』
これに懲りたら真面目に働け。俺が言えたことでもないけど。……いや、俺は働いてるか。
奥の部屋へと移動した俺たちは、麻袋にいれた勇者をソファーに寝かせた。一息ついてから気づいたけど、部屋の隅には縄でぐるぐる巻きにされた勇者の取り巻き二人がいた。神官っぽい女の子となんだか艶のある女性の二人だ。どうやらヨミが見つけてきたらしい。
「わ、私たちにこんなことして、勇者様が黙っていないわよ!」
「そうです! 今なら神も許してくれます!」
何か言っているけど、先に粗相をしたのは教皇のほうだろうが。一国の王女を誘拐したなど、国際問題以外の何物でもないぞ。まぁ、半分以上はテンドのせいなのかもしれないけどね。
「勇者様というのは、これのことですか?」
エリーが麻袋から勇者の顔を覗かせた。さらっと勇者をこれ扱いしたのに笑いそうになったけど、鉄の精神でなんとかこらえることができた。やはり王女も怒っていたということだろう。しかしそれも無理はない。
「うそ、勇者様が……」
「なんということを……」
勇者が負けたという事実が信じられないのか、未だに愕然としている二人。特に神官じゃないほうはさっきから目線が泳ぎまくって挙動不審だ。
「ふふん、勇者は私の護衛であるアウル様によって倒されました。何者かに精神干渉を受けていたようですが、それでも一国の王女を誘拐したというのは許されませんからね。それ相応の対応があると覚悟してください」
うん、そりゃそうなるよな。神官に至っては顔を青ざめさせているし、きっと国に帰ったら処罰されるんだろうな。けど、自業自得なのでこればっかりは諦めてもらうしかない。
「ん?」
先ほどまで挙動不審気味だった女性が、俺を見つめたまま固まっていた。口元は微かに動いており、何かを喋っていた。
「……勇者様は本当の勇者様ではなかった……? ということは、本当の勇者様はアウル様ということ? となると、勇者を召喚したという教皇様はうそをついていた? いや、でも……」
なんだか面倒くさそうなことを口走り始めていたので、これは聞かなかったことにしよう。
コンコン
どうしようか考えていると、外から扉がノックされた。ひとまず中に入ってもらったら、ギルドの受付嬢が入ってきた。
「お話し中のところ大変申し訳ありません、エリザベス王女殿下。実は折り入って相談があるのですが……」
勇者は未だに目を覚まさず、話が進んでいなかったということと、受付嬢の顔が思ったよりも険しいものだったので話を聞くことになった。ただ、説明するのはギルドマスターらしく、気絶している勇者を担ぎ、勇者の取り巻きも連れてギルドマスターの部屋へと向かった。
ゆっくりのんびりと更新していきます。
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