ep.14 燻製式錬金術
俺は今、紆余曲折あってゴーレムの研究に乗り出している。それもよくイメージされがちな岩のボディではない。どちらかと言うとホムンクルスを造るイメージだろうか。
この世界ではホムンクルスという概念がまだ無いらしく、岩ボディのゴーレムが一般的だ。というか、迷宮でたまに出るゴーレムが岩ボディだからという理由だ。聞くところによると鉄ボディのゴーレム、所謂アイアンゴーレムと言うのもいるらしい。
話を戻すが、俺が特殊なゴーレムを作ろうと思い立ったのにはそれなりの理由がある。まったく興味が無いとは言わないが、農家である俺にゴーレムは本来必要ない。
しかし俺の多趣味な性格が災いしてか、とうとう人手が足りなくなったのだ。
家の畑の手伝い、自分用の畑の世話、醤油や味噌の作成、甘味の作成、石鹸の作成、各種素材の確保と未だ6歳の俺には少々厳しいものがある。さらにベーコン作りにも手を出そうとしている・・・
身体強化すればそれなりに無理はきくのだが、成長期にあまり無理はしたくないしな。身長は正義なのだ。
……はぁ、ほんとに自分の性格が恨めしい。
ともあれ、ゴーレムの研究は至って順調に進んでいる。ゴーレムの核となるのは今まで魔物を狩っているうちに沢山溜まっている魔結晶と呼ばれるものだ。
魔物は周囲の魔素を体内には取り込み、蓄積させて魔石をつくる。この魔石が大きければ大きいほど強い魔物になれるという仕組みだ。
そして、魔石はある魔法を使えば合体させることができる。魔物が魔物を食べるのには相手の魔石を吸収するという理由もあると、最近の研究で明らかになっている。
・・・まぁ、俺の研究なのだが。
そして、魔石をある一定以上組み合わせると魔結晶という純度の高い魔石になるのだ。本来、魔結晶は討伐ランクS以上の魔物にならないと手に入らない。
レブラントさんにそれとなく聞いてみると、魔結晶というのはめちゃくちゃ高いらしく、小さいものでも金貨500枚は確実にするらしい。
……これだけで、金持ちになれるのだが大きすぎる力は争いを生むだけだ。今までの歴史がそれを物語っている。
自分自身がもっと強くなって、守りたいものが守れるようになってから好きなことをするのだ。それが、大人というものだろう。
魔石でも核にはなり得るのだが、これでは岩ボディのゴーレムが限界だった。なので、いっそのこと魔結晶で作ってみようと実験したところ、それなりの成果が挙がっている。
「惜しいところまで来ていると思うんだけどなぁ」
ちなみに考えているのは全長30cmくらいの妖精さんだ。家妖精というかお手伝い妖精というか、そんなイメージで、とりあえず機動力がある方がいい。自我もあって魔法なんかを使えると文句なしなのだが、これがまた難しい。
「仕方ない、この研究は継続だな」
こうしてまた自分の首を絞めているのだが、それに全く気づかないアウルであった。
春が過ぎ、夏が顔を見せ始める頃には畑の手伝いも落ち着き始めていたので、やっとこさまとまった時間が取れるようになった。
「というかこの世界、燻製という考え方がないとか嘘だろ・・・」
そうなのだ。保存といえば塩漬けか干すという手法しか用いられていないし、野菜も干し野菜ばかりだ。がっかりしたというか金が稼げるというか、複雑な気持ちではあったがまぁいいのだ。ベーコンは正義である。
「まずは燻製部屋だな」
燻製をするためにはそれなりの設備が必要となる。簡易的な燻製なら別にそこまで大それた設備は必要ない。ドラム缶一つあれば作れたりするのだ。
しかし!俺が目指すは本格的な燻製、それもスモークチップにも拘った一品を作りたいのだ!実は最近レブラントさんが、珍しいものを仕入れてきてくれた。
「アウル君、久しぶりだね。今日は前から欲しいって言っていたチーズと呼ばれるものだよ。いやぁ、なかなか手に入れるのには苦労したよ〜」
「れ、レブラントさん!これ、あるだけください!」
「はい毎度!」
そう言って売ってくれたのだが、それなりの量があったので当分は持ちそうだ。というか、レブラントさん絶対俺が大量に買い込むとわかった上であの量買い込んだんだろうな。・・・どれくらいとは言わないが、業者かと思えるほどには買い込んだ。毎日食べても3ヶ月は持つだろうか?
そんなわけで、ベーコン作るついでにスモークチーズを作る。もう少しで7歳になるとはいえ、まだまだ子供。この世界での成人は15歳でお酒を飲むわけにはいかない。・・・あぁ、早く酒飲みたいなぁ。そうか、酒か。
酒造ろうかな。成人と同時に飲めるように今から仕込んでおけばそれなりに飲めたものができる気がする。よし、そうと決まれば何を作るかだな。まぁ、無難にワインか。葡萄だったら林を少し切り開いて、自分の畑を増やせばいいしな。うん、そうしよう。
・・・そういや、とりあえずは燻製部屋だったな。
燻製部屋作るために木を伐採するのだが、どうせならと葡萄畑を作る範囲の木を伐採することにした。魔法を使えば木の伐採は一瞬だしなぁ。
風魔法と土魔法の汎用性はある意味驚異的なレベルである。ウィンドカッターはすごく綺麗に切れるし、土を隆起させれば切り株も撤去できる。取り出した切り株は薪にすればエコだ。
それから約1週間で簡単にではあるが燻製小屋が完成した。早速ということでリンゴのような木の実がなる木をスモークチップに使ってベーコンを作ってみたのだが。
「うまっ!?これはやば過ぎないか?こんなの食べたら、他の肉なんて見劣りしちゃうよなぁ・・・」
両親にも出してみたが、美味しいとかなり喜んでくれた。特に父は酒の肴に最高だ!と言いながら酒を飲みまくって母に怒られていたが、それほどに美味しいというのは素直に嬉しい。
その要領でチーズ、ついでと川魚も燻製にしてみた。ここまで揃うと俺も酒が飲みたいが、グッとこらえて黙々と燻製を作り続けていかなきゃな。
そうだ、オーク肉はたくさんあるし母の育てているハーブも少し分けてもらって腸詰めを作ろう!そしてそれを燻製させたらパリッとした食感の腸詰めになってめちゃめちゃ美味い。俗にいう、スモークソーセージというやつだ。
やはり食べ物は人生を豊かにしてくれる。ミレイちゃんはベーコンよりスモークソーセージの方が好みだったらしい。・・・ほら、お隣さんだし作り過ぎただけだから!お裾分けってやつ!
しっかし、最近になってミレイちゃんの親御さんが俺にミレイとはどうなんだ?ってよく聞いてくるのだが、どうしたんだろう。やはり、娘が心配ということだろうか。
少量ではあるが、ミュール夫人宛てにベーコンとスモークソーセージを匿名という体でレブラントさんに運んでもらった。目ざといレブラントさんにも仕方ないので少量だけ売った。大した量ではないが、それなりの金額になったのでこれからもオーク系魔物を見つけたら狩り殺すと誓った。
とりあえず当面の燻製を1週間かけて作ったので、食べるのには困らない。母も長期保存を喜んでくれたので燻製は成功のようだ。
この日から朝食にはベーコンを焼いたものが当たり前に出るようになり、これはもはや貧乏農家とかけ離れた食事事情なのだが、地球の記憶があるアウルは異常だとは思わなかった。
夏が本格化する前にミュール夫人から便りがあった。どうやら、前回送った燻製を辺境伯が甚く気に入ったらしく、追加で買えないかということだった。相場の倍で買うから融通してくれとのことなのでこちらとしても否はない。適当な木箱にスモークソーセージとチーズ、ベーコンを詰め合わせて送ってあげた。
するとすぐに代金が送られてきたのだが、あれ?多くない?相場の倍としても多い気がするんだけど・・・あ、手紙だ。なになに?
・・・・・・なるほど。前回送らなかったスモークチーズに感激したということか。それで先に代金送るからもっとよこせということか。にしても多すぎるだろ。これが貴族の経済力ということなのか。仕方ない、少しサービスしといてやるか。
ということでスモークチップを色々試した複数種類のチーズを用意した。この中でもおすすめなのはリンゴもそうなのだが、クルミの木のようなチップを使ったやつだ。本当はピートがあればいいのだが、まだ見つけられていない。
レブラントさんから定期的にチーズを買う約束はしてあるのでチーズの入手は問題ない。これはある意味の錬金術になり得るかもしれないな・・・。チーズを例えば金貨1枚分買うとして、それが燻製するだけで金貨4枚くらいになるのだ。材料は木だけだし手間も大してない。
こうして、ある意味での錬金術を身につけたアウルであった。
ちょっとずつ更新します。
評価・ブクマしてもらえたら嬉しいです。




