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のんべんだらりな転生者~貧乏農家を満喫す~  作者: 咲く桜
第5章 農家と勇者と邪神ノ欠片 前編
135/177

ep.135 レーサム旅行③

SIDE:ワイゼラス教皇



勇者が無事に旅立っていった。こちらの仕込みはギリギリだが完了している。流石勇者と言うだけあって、耐性が異常なまでに強かったが、なんとか想定までは達成したのだ。


「教皇様、勇者はイシュタルを連れて行きましたな」


「うむ。こちらの目論見通りである。まさか、勇者も我々の手の上で踊っているとは思うまい」


イシュタルを使った勇者の『洗脳』は概ね完了している。惜しむらくは完全に傀儡にすることは不可能であったが、その一歩前までは完了している。常識的だった理性を歪め、今では自己中心的で我が儘、独りよがりで独占欲が強い性格になるように洗脳した。本人はその変化に気づいていないだろうがな。


「召喚された当初こそ、面倒な勇者だと思ったが所詮は子供。精神が未発達なおかげで御しやすく、洗脳もできた。……イシュタルとの定時連絡を怠るなよ」


「心得ております」


勇者一行は魔導士団長に任せておけば大丈夫でしょう。勇者には大々的に動いてもらうとして、こちらもそろそろ私の未来を変えるために動きましょうかね。




◇◇◇




『恋するうさぎ亭』へと足を踏み入れると、カランコロンと小気味良い音が僕を迎えてくれた。


「いらっしゃいませ、3名様ですね」


「しばらくの間世話になりたいのだが、部屋は空いているだろうか?」


「はい、問題ありません。最上位以外のお部屋でしたらご案内が可能です」


「「えっ?」」


予想外だった。1泊するのに金貨100枚もするという高級宿に泊まる人間がいるとは。考えられるのが貴族なら、下手に絡むのは本来ならば下策だ。しかし、今は事情が違う。僕は王城で国王から手形のような物を預かっており、この国では一時的に絶大な権力を持っているのだ。


「2人とも、焦らなくても問題ないよ。僕は国王から手形を貰っているからね。折角ここまで来たんだから、少しお話しして部屋を譲って貰おう」


「「勇者様……!」」


2人がウットリとしながら僕を見ている。


そうだよ、僕が遠慮する理由などないのだ。僕はこの世界を救うために動いているのだから、多少の我が儘は許されてもいいはずだ。ここは、2人に格好良いところを見せるためにも、強気に行くのがいいに決まっている。それに、イシュタルとの約束もあるしな。


「支配人、僕たちはワイゼラスから派遣された勇者です。ここに国王からいただいた手形もある。手形には『可能な限り、勇者に支援すること』とある。……言いたいことは分かりますね?」


「?!……しかし……少々お待ち下さい……」


どんなやつが泊まっているか知らないが、この手形がある限りなんの問題も無い。




◇◇◇




出かける前に部屋休んでいた頃、もう少しで出発しようというところで扉がノックされた。ちょうど扉の近くに俺がいたので、そのまま開けた。


「なにかありましたか?」


「すみません……少々ご相談が」


部屋を訪れたのは『恋するうさぎ亭』の支配人だった。なんだか困ったような、申し訳なさそうな、いろいろな感情が入り交じった顔をしている。なにがあったのだろうか?


「実は……かくかくしかじかでして……」


「なるほど勇者がですか……」


勇者がなにを考えているか知らないが、『恋するうさぎ亭』に泊まりに来たらしい。支配人は俺たちにこのまま泊まって欲しいそうだが、国王の発行した手形のせいで言うことを聞かないといけないらしい。


「ですので、上位の部屋へご移動願えないでしょうか……もちろんこちらの要望でご移動してもらうので、宿泊料はお返ししますから……」


本当は嫌だがここでゴネても結局は部屋を移らないといけなくなってしまうのは目に見えている。それに、勇者はレーサムの次にライヤード王国に来ることになっており、俺は案内役の王女の護衛をお願いされている身だ。それを踏まえると、ここでことを構えるのは愚策だな。


「みんなに相談しますので、ちょっと待ってください」


「申し訳ありません……」


支配人も可哀想だな。俺からはチップとして白金貨1枚もらっている手前、無下にしたくないだろうに。ホテル側からすれば上客の俺たちにこんなことをして、変にいい回られたら評判が下がるのは目に見えている。まぁ、そんなことはしないが。


かと言って、レーサムの国王が発行した手形を無視すれば角が立つ。さらには勇者の武力にも怯えることを考えると、断るわけにはいかないだろうな。だが、どうしても最上級に誰かが泊まっているというのにそいつらをどかせてまで泊まろうとしているということは、そういった性格の勇者だということになる。


こんな噂が各国に広まれば勇者の名声なんて地に落ちるだろうに、そこまで頭が回っていないんだろうか?



「ってなわけで、部屋を移ってほしいそうだ」


「え?」

「……勇者がですか」

「あらあら……これは調教が必要かしら」


ミレイちゃんは純粋に驚いている。可愛い。ルナは何か思うところがあるのか、難しい顔をしている。可愛い。ヨミは何故か楽しそうに収納から鞭を出し始めた。怖い。


3人とも反応が違うが、こういう時って性格が出るなぁと思う。


「俺としても嫌だけど、あとで王女の護衛として顔を合わせることを考えるとあまり問題にしたくないんだ」


「「私たちにお任せください」」


「え?」


ルナとヨミが何か決したような顔で支配人のところへ行き、支配人と一緒に部屋を降りていってしまった。これは相当まずいんじゃ……?


「ねぇミレイちゃん。ルナとヨミは何をする気なのかな?」


「……もしかしなくても、勇者一行を追い返すんだと思うわ」


「だよね。俺もそう思う」


顔を見られるわけにもいかないし、何かいいものあったかな? 収納に何かないかと探し始めたら、昔、王都に来たばかりくらいの頃に買った狐のお面が売っていた。ちょっと派手だけど、顔全部隠れるから今回ばかりはちょうどいい。


「……アウル、一応聞くけどそれで行くの?」


「うん、変かな?」


個人的には結構気に入ってるんだけど。お面を付けて、外套で体を覆っているからちょっと怪しさはあるかもしれないけど。


「いえ、アウルがいいならいいのよ……」


「じゃあ行ってくるね」



急いで下の階へと向かうが、いかんせん最上階のため階段が長い。さすがにエレベーターのような魔導具はないようで、それだけが欠点だ。走ること数分でエントランスへと到着したが、そこではルナとヨミが勇者一行と、案の定言い争っていたのだ。


……お面を付けて。いや、しかも俺と同じ種類の狐面。考えることが一緒過ぎて流石に驚いた。というか、君たちも買ってたんだね。


エントランスに入るや否や、ヨミの涼しげな声と勇者らしき人物の怒声が聞こえてくる。


「何度も申し上げているように私たちはこの国の人間ではないのですから、あなたたちの言うことなど聞く必要が無いのよ? 自称勇者だかなんだか知らないけど、あまり調子に乗らないことね」


「言わせておけば!僕たちは使命をもってこの世界を救おうとしているんだ。その僕たちがここの宿に泊まりたいと言うのだから、お前たちは黙って宿を渡せばいいんだ!」


うーん、予想以上にクズな勇者だな。顔立ちは間違いなく日本人なのに、日本人らしからぬ考え方。おおかた、こっちの世界に来て気が大きくなったか、召喚した国のお偉方にちやほやされて勘違いでもしてしまったのだろう。


隠密を使っているだけあって、未だに気付かれてはいないみたいだし。折角だから勇者様とやらのステータスを確認させてもらおうか。



◇◆◇◆◇◆◇◆

人族/♂/四宝院 天馬/17歳/Lv.78

体力:5800

魔力:9500

筋力:230

敏捷:200

精神:510

幸運:70

恩恵:取得不可

◇◆◇◆◇◆◇◆


…………予想よりも相当弱い。いや、こちらに召喚されてからの期間を考慮すると高いほうなのかもしれないけど、それでも勇者というにはややお粗末すぎる。これでは、うちのメイド部隊のほうが強いくらいだ。それでも、この世界では強いほうに入るのかもしれないけど。それでも、Aランク冒険者が良いところだ。


勇者としてもしかしたらユニークスキルとか持っているかもしれないけど、それを考慮しても弱い。恩恵も持っていないし。携えている武器はそれなりのもののようだけど、ルナとヨミが負けるようなことはあり得ない。ただ、気になるのは勇者らしき男の背後にいる女性だ。


ヨミ同様、色気のある女性だがなにか違和感を覚える。なんというか、目か?その正体は分からないけど、勇者よりもあの女性のほうが要注意だと俺の直感が告げている。あの女性はヤバいと。


「うるさい!僕はこの手形がある限り、国王の次に偉いんだぞ!」


そう言いながら勇者が剣へと手をかけた。さすがにこのままでは怪我人がでるし、下手をすれば宿にも影響が出る。


 『魔力重圧プレッシャー


本気ですると宿が倒壊する恐れがあるので、勇者のみに限定してかなり手加減して発動した。


「お話し中すみません。私たち(・・・)になにか御用だそうで」


「……っ!? 誰だお前は。3人してふざけたお面などしやがって」


まあ、勇者の言い分ももっともだ。いきなりお面をしたやつらが出てきたら、ふざけられていると思ってもおかしくはない。ただ、そちらも好き勝手しようというのだからお互い様だ。それにしても、魔力重圧をかけているというのに、あまり顔に出さないのは流石だ。


「少々訳あって顔は出せませんがご容赦ください。私は、『サクラ(・・・)』と申します」


「!?『お、お前もしかして……』」


「『勇者様の御想像通りかと』」


俺が勇者に語った名前は全くの偽名だが、発音を日本語にしてある。勘の良い勇者ならこれで俺が転生者または転移者だとわかるはずだ。ここで、魔力重圧を解く。


「『転移か?転生か?』」


「『転生です。正確には、記憶が少しだけ残っている程度、ですけどね。断片的過ぎて、何の役にも立ちませんが』」


「『僕以外にもいるのは分かっていたが、まさかこんなにすぐ出会えるとはな』」


「『日本人同士、ここは穏便に行きませんか? 我々は2泊したらいなくなるので、どうか最上位の部屋を譲って頂きたい。そうすれば私が知る限りなんでも情報を差し上げますよ』」


「『ふむ……わかった。我々はまだ20日くらいはここに留まる予定だし、部屋の件は了承しよう。ただし、情報が先だ』」


乗ってきたな。やはり、召喚されて日が浅いと、知りたいことは多いはずだ。


「『何が知りたいですか?』」


「『強くなるための効率的な方法を教えてほしい。お前たちはかなり強い。それは、今の俺でも勝てるか分からないほどにだ』」


なるほど、強さか。逆に、これだけの質問で分かることもある。この勇者は特別な力を持っていない。いわゆるユニークスキルに類するものを。そんなものがあれば、こんな質問は出ないだろう。勇者と言っても召喚されただけだと仮定すると、別段特別なことは少ないのだろう。強いて言うなら、魔法を使う際にイメージを固めやすいということくらいか。


「『特別なことなどしてないですよ。単純に迷宮に潜っただけです。もしかしたら気づいているかもしれませんが、魔法を使う際にはイメージを明確にするだけで威力が上がります』」


「『……ふむ、やはりか。あと知っていればでいいのだが、邪神について何か知らないか?』」


「『邪神……噂程度だけですね』」


「『分かった。礼を言う』。アリーシャ、イシュタル、今日と明日は別のところに泊まるぞ」


「「かしこまりました」」


勇者は支配人に俺たちが宿をチェックアウトしたあとに予約を入れて去っていった。支配人もなんとか騒ぎが落ち着いたからか、かなりホッとしたような顔をしていた。




「じゃあ2人とも部屋に……って、どうしたの?」


「……あの、いえ、なんでもありません」

「……あとで話します」


2人がなにか思いつめたような顔をしているけど、なんとなく思い当たる節はある。俺が日本語で喋っていたことについてだろう。だが、これについては本当のことを言うか、言わないか迷っている。3人には打ち明けてもいい気もするが……


しかし、部屋に戻るとルナとヨミは何かを決意したような顔をしていた。騒ぎを未然に防ぐためとはいえ、日本語を喋っていたのだからな。


「あの、もしかしてご主人様は……前世の記憶をお持ちなのでしょうか……?」


ルナが聞いてきた内容は、核心に迫る内容だった。

ゆっくりと更新していきます。

評価・ブクマ等して貰えたら嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公は勇者のステータスを鑑定しました。大抵 鑑定で毒、麻痺、混乱など状態異常も分かるパターンが多いので、『洗脳中』も表記されて主人公は発覚⇒仲間と対策会議への流れを書かないのですか!…
[一言] ステータス確認の時って 状態異常判らんの?
[気になる点] ヨミ怖い。何するの?
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