ep.134 レーサム旅行②
レーサム王国は一言で言えば『近代的』だ。話には聞いていたが、ここまで魔導具が発展しているとは思ってもみなかった。城壁にいくつも備え付けてある巨大な大砲のようなものは、王都を守るためのものだろう。
あれほど規模の大きいものがあれば、スタンピードや戦争が起こったとしても攻め込まれる確率は低いはずだ。それに、兵士が持っている武器も普通のモノじゃない気がする。
一見すると剣なのだが、剣には魔石のようなものが付いており、いわゆる魔剣のようなものではないかと推測される。炎を纏う剣とかちょっとロマンだ。魔法が使えなくても使えるのだと仮定すると、この国の軍事力はとてつもないのも頷ける。
「想像以上に魔導具が発展しているんだね」
「ご主人様が作った魔導具のほうが高性能な気がしますが……」
ルナが急に慰めてくれた。単純に技術レベルの高さに驚いただけなんだけど、褒められるのは悪い気はしないので甘んじて受け取っておく。今後の生活を豊かにするためにも、レーサムの技術力を少しでも盗めればいいけど、そう簡単にはいかないよね。
とりあえず、観光よりも先にやることといえば宿の確保だ。
「この辺でいい宿なんてみんな知らな――」
「――知ってる!」
「――心当たりがあります!」
「――うふふ、お任せください」
バチバチバチっ
3人とも、レーサム旅行が決まってから一日しかないというのに、かなりリサーチをしてきているらしい。とてもありがたい。ただ、せっかくの旅行なんだから火花は散らさないでほしい。熱いから。
「それで、なんて宿の名前なの?」
「「「恋するうさぎ亭!」です」」
見事と言わざるを得ないほどにハモったな?! にしても、とてもファンシーな名前にちょっと興味がそそられる。3人がどうしてここを選んだのか分からないけど、きっといい宿に違いない。
「じゃあ、そこに泊まろうか」
さっそく『恋するうさぎ亭』に向かおうとしたわけだけど、いかんせん土地勘が無い。3人も来たことは無いだろうから、場所までは把握していないだろう。ガイドマップみたいなのがあればいいんだけど、無いものねだりをしてもなぁ……
どうしようか悩んでいると、不意に後ろから明るく声をかけられた。
「やぁやぁやぁ!なにかお困りかな?何ならボクが助けてあげるよ!」
後ろを振り向くと、短い茶髪に動きやすい恰好をして顔立ちの整った女の子が立っていた。身長は150cmないくらいかな? 俺と同い年位にも見える。一番気になるのはボクっ娘ということなんだけど、敢えて触れないでおこう。新しい何かに目覚めてしまいそうだし……。
「アウル、あっちへ行きましょう」
「ご主人様、きっとあっちです」
「うふふふふふ」
3人は完全に無視する姿勢だ。ミレイちゃんとルナに至っては勘で進もうとしているし、ヨミは楽しそうに笑っている。確かに、こういう手合いはあとでお金を要求してくるのは間違いないけど、こういうときくらいお金を使ってでも観光を楽しんだほうがいいに決まっている。
「えっと、観光できたんだけど、ひとまず『恋するうさぎ亭』ってところに行きたいんだ。案内とかできる?」
「「「アウル?!」様?!」」
「もちろんできるけど……あ~、そういうことね?ってことはお兄さん、かなりのお金持ちなんだ~!」
俺の後ろにいた3人に目線を移したと思ったら、何かを察したらしい。いや、お金持ちってほどではないにしろ、それなりには持っている。口ぶりからすると、『恋するうさぎ亭』という宿は高級宿なのだろう。
「じゃあ、悪いんだけど案内を頼むよ」
そういいながら金貨1枚を手渡す。こういうのは銅貨か銀貨が相場なんだろうけど、ここでケチって痛い目は見たくないし、婚約者の前でくらいかっこつけたいと思うのが男心というものだ。
「まいどありっ!…………って、金貨?!これは張り切ってサービスしなきゃ!」
「「「あっ!」」」
そう言うと、俺の腕へと抱き着いてきた。ただ、残念なことに胸元は空っ風が吹きそうなほど寂しいので、なんとも反応に困る。
「……頑張ってね」
「なにおう?!まだ成長期だから!あと数年もすればもうバインバインなんだから!」
何についてなのかバレてしまったらしい。女の勘というやつだろうか。
「いいからほら離れて。『恋するうさぎ亭』に早く案内してもらってもいいかな?」
「こっちだよお兄さん!」
元気ハツラツな彼女に連れられ、レーサムで有名だという『恋するうさぎ亭』へと歩き始めたわけだが。今更だけど、うさぎって動物界でも屈指の性欲を持つ年中発情期の動物だったはず。それを踏まえて『恋するうさぎ亭』なのだとしたら、かなり際どい宿な気がするけど大丈夫だよね?……大丈夫だといいな。
歩き始めた婚約者3人と案内人のボクっ娘がいつの間にか仲良くなっている。女というのは難しい生き物だ。未だに半分も生態が理解できない。完全に理解できる日は来るのだろうか……。2人きりとかになれば話は違うんだけど、女性というのは集まると別の生き物になるのは何故なんだろうか。もし解明できる人がいるならぜひ教えていただきたい。金貨あげるから。
「そういえば、名前はなんていうの?」
「ボクとしたことが忘れてた!ボクの名前はアンナだよ!」
案内人のアンナか。分かりやすくていいな。いや、もしかしたら案内人っていうのはもしかしたら今だけなのかもしれないけどさ。服装は妙に小綺麗だし、貧民街出身とかではないんだろうけど。不思議な子だ。
「俺はアウル、そっちの3人は――」
「ミレイにルナにヨミでしょ!もう聞いたよ!」
「あ、ソウナンダ」
完全にハブられていたらしい。ガールズトーク恐るべしである。
宿に行く途中、屋台がある通りや衣類を置いてある店、魔導具を扱っている店などを紹介してもらった。前金で渡した甲斐あってか、かなり丁寧に案内してくれたと思う。まぁ、王都の規模を考えたらもっと他にもたくさんお店はあるような気がするけど、それは自分で見つけるのも醍醐味の一つか。
「着きました!ここが『恋するうさぎ亭』です!」
案内されたのは、王都の中でも割と中心に近いところにあり、見た目もかなり高級そうな建物だった。この世界にしては珍しく階数もかなり多そうで、一見して高級宿だというのは理解できた。
「ありがとうアンナ。ここまでの道も分かりやすかったよ」
「いえいえ!たっぷりもらいましたので!また何かあったらボクを頼ってね!いつも王都の入口らへんにいるからさ!」
言い残してアンナは走り去っていった。「このあとも案内するよ」と言われたが、3人が微妙な反応だったので丁重に断ったのだ。3人も行きたいところがあるみたいだったしね。俺としても、魔導具の店をじっくりと見て回りたいのでちょうどいい。帰りにでもアンナには挨拶でもしておこうかな。ついでにお土産になりそうなものでもい聞いてみよう。
「じゃあ、宿をとろうか」
案内してもらったはいいけど、これで部屋が空いていなかったら目も当てられない。扉を押すと、カランコロンと小気味良い音が俺たちを出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ4名様ですね」
「今日から2泊したいんだけど、空いてますか?」
「はい、問題ありません。お部屋の格をお選びください」
そう言って手渡されたのは、綺麗な紙に書かれた各部屋の説明だった。
・格式:下位 1泊金貨5枚
最低限の部屋。クイーンベッド2つ、クローゼット完備。
・格式:標準 1泊金貨15枚
標準の部屋。キングベッド、イス、テーブル、クローゼット完備。
・格式:中位 1泊金貨30枚
標準より部屋が広い。下位の設備に加え、魔導風送機を完備。全設備をより良いものに変更。
・格式:上位 1泊金貨60枚
中位よりも部屋が広い。中位の設備に加え、湯船、魔導空調機を完備。キングベッドを2つに変更。全設備をより良いものに変更。
・格式:最上位 1泊金貨100枚
上位よりも部屋が広い。上位の設備に加え、専属のスタッフが2人駐在。湯船を特大のものに変更。キングベッドの品質をより良いものに変更。大きさも、キングサイズを2つ分のものに変更。全設備を最高品質に変更。
となっていた。金貨1枚が1万円程度だから、最上位だと1泊100万円もするということになる。かなり高く感じるけど、高級宿だと考えるとあながち変じゃないかもしれない。
「みんなはどの部屋がいい?」
「「「最上位で!」」」
既に決まっていたらしい。よくよく考えると、宿に白金貨2枚分も使うなど昔では考えられない。隠密熊を売って、やっと得たのが金貨170枚だったことを考えるとかなりの進歩だ。お金に不自由しないというのはありがたいけど、なんだか感覚が狂ってしまったようで変な気持ちだ。いずれは、お金の使い道も考えなければならないな。
ひとまず前金で2泊分として白金貨3枚を払っておいた。宿のスタッフは、俺のような子供が白金貨を出しても何一つ驚くようなことは無かった。さすがというべきだろう。1枚多く出したのは、チップ兼と念のためである。貴族なんかが絡んできても対処してくれることを願っての保険だ。
専属のスタッフという2人は男性女性一人ずつで、どちらもかなりの美形だった。聞く話によると、2人は夫婦なのだそうだ。夫婦で専属スタッフとかちょっとお洒落で羨ましい。
案内されたのはもちろん最上階。説明にはなかったけど、最上階の部屋はフロア全てが部屋になっているらしい。最上位というだけあって、部屋の数もさることながら眺めが最高だった。レーサムの王都は中心が少し小高くなっているのか、バルコニーから外を眺めると城門まで見ることが出来た。夜になったら、街が灯りに包まれて幻想的な眺めになるに違いない。
「アウルアウル!ベットが凄く大きいの!」
「ご主人様!あっちに面白そうな建物があります!」
「この魔導具、買って帰りたいですね」
3人ともかなりはしゃいでるみたいだし、この部屋にして正解だったな。それにしても、あのベッドに使われている羽毛の感触には見覚えがある。おそらくというか、間違いなくレブラントさんに卸したサンダーイーグルの羽毛だ。こんなとこで出会うとは思わなかったな。
「少し休んだら、レーサム観光に出発だ!」
◇◇◇
僕は今、レーサム王国の王都に来ている。王都に来た数日こそ王城でもてなしてもらったが、邪神に関する資料を全て確認したら王城を出ることにしていた。
そして、王城での資料分析も終わったので魔導具巡りやパーティを探すために市井へと出たのだ。その甲斐もあって、かなり面白そうな魔導具を見つけることができた。まぁ、かなり高かったけど、使えるだろう。
ただ、泊まるところが必要なので、イシュタルに良いところが無いか聞いたら『恋するうさぎ亭』というところを紹介された。そこはレーサムきっての高級宿であり、そこの最上位ランクの部屋に泊まると運が上がると言われているらしいのだ。
その部屋で運を上げた後に、恋岬というところで南京錠を海に投げ捨てると、その人と寄り添い遂げることが出来るという。この話をイシュタルから聞いたときは、ドキッとしてしまったものだ。なにせ、耳元で「一緒に投げましょうね、ゆ・う・しゃ・さ・ま……//」と言われたからな。グッとくるものがあったのは言うまでもない。
その宿の最上位はかなり高いので、上位や中位でもかなりレベルが高いのそこでも十分と言われているが、せっかくなら最上位に泊まってみたい。
「ここが『恋するうさぎ亭』か。思っていたより凄いね」
「そうですよ。最上位が空いているといいですね!」
ゆっくりと更新していきます。
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ぼちぼち再開します。12時更新にするか20時更新にするか迷う……どっちがいいのだろうか……
そろそろ勇者とアウルが邂逅するかも……?!




