ep.133 レーサム旅行①
短めです。
今日はレーサム王国へと出発する日である。エリーが依頼をしに来た日、流れるようにレーサム王国へ旅行することが決定したのだ。自分から言い出しておいてあれだけど、あんなに即決するとは思わなかった。
アルトリアではあまり観光という概念は無い。豪商や貴族、結婚したばかりの夫婦や、老夫婦などがするものであり、万人がするようなものではないらしい。
「みんな、2泊3日くらいを予定しているんだけど……荷物多くないかな?」
3人とも背中に大きな背嚢を背負っており、今から出かけますと言わんばかりの格好をしている。
「そうかな~?念には念をだよ!」
「備えあれば憂い無しと、ご主人様に教わりましたので」
「うふふ、女の子には準備が必要なんですよ」
そう言われてしまっては何も言い返せないのだが、なんで収納に入れないんだろう。あれくらいなら指輪の収納機能で事足りると思うんだけど。と、伝えたら「旅行気分を味わいたいから」という、趣ある言葉が返ってきた。まぁ、言われてみれば何も持たずに手ぶらの旅行はあり得ないか。
ということで、なぜか俺も背嚢を背負っている。大きさはちょっと小さめだ。ちなみに、この背嚢はターニャ謹製の特注品だ。その材料にもこだわっており、背嚢の革には飛竜のものを。縫製に使う糸は、名前は忘れたがAランク魔物の繭から採れるものを使っているらしい。その材料の全てをメイド部隊が獲ってきたというのだから驚きだ。
パッと見はお洒落な背嚢だけど、見る人が見れば高級品だというのは分かってしまうだろう。背嚢のデザインは俺が提供したので、雰囲気は現代のリュックに似通った感じだな。
いよいよ準備も完了したので出発なのだけど、今回は20日後に王都に行かなければならないので、馬車でのんびり移動という事は出来ない。よって、移動方法はお馴染みのグラさん航空を利用する事になるんだけど……
「アウル、しんどかったら私の膝使ってもいいよ……?」
「「あっ!」」
ミレイちゃんが、白くてミルクのような足を惜しげも無く披露してくれている。やや短めのワンピースはミレイちゃんの良さを存分に引き出しており、見ているだけでドキドキしてしまう。ぜひお願いしたいところだけど、今回の俺はひと味違う。にしても、ルナとヨミの「あっ」ってなんだ?
「実はね、グラさんで移動するように専用の秘密兵器を用意したんだ」
「「「秘密兵器?」」」
収納から取り出したるは、グラさんが背負えるくらいの大きさで作った小屋。中には一面にマットレスを敷いており、中央部には掘りごたつ形式のテーブルを設置してある。もちろん、小屋だけだと背負えないので、アザレ霊山の主から採取した革を鞣して、さらにそれを編み込んだ紐をつくり、小屋へとくくりつけて背負えるようにしたのだ。
小屋に設置したマットレスはもちろんクラゲ素材からとれたものを使用しているので、寝心地は最高級。これ以上無いほどの出来映えとなっている。
「どうかなっ?」
「どうと言われても……」
「はい、なんというか、凄いです」
「ふふふ、みんなで寝られますね」
あれ、思ったよりも驚かないな?
(※引いているだけ)
「まぁ、使ってみればわかるから!グラさん、悪いけどお願いね!」
「うむ、任された」
こうして俺たちは一路、レーサム王国へと向かったのだ。
◇◇◇
SIDE:ミレイ
空の旅を初めておおよそ数時間、あっという間にレーサム王国王都近傍の森へと着いた。さすがにいきなり王都に龍が現れれば問題になるので、いつも通り近くまで来てそこからは徒歩ということになった。
「空の旅ってこんなにも気持ちが良いものだったんだな……!」
アウルが何か言っているけど、確かに小屋での寝心地は最高だった。アウルからのプレゼントで、私と私の両親のベッドはクラゲ素材を使った最高級のものを使っているのだが、あれと同じような寝心地だった。ただ、小屋に窓は付いていないので基本的に光源をつけないと暗い。小屋に入ってしまえばもはや空かどうかも分からないくらいに揺れないので、空の旅と言っていいかはちょっと疑問だ。
それにしても、アウルがレーサムに行こうと言い出したのには本当に驚いた。だって、レーサムは魔導具と軍事力の他に、縁結びとして有名な地だから。レーサム王国内にある『恋岬』と呼ばれる場所で、南京錠に名前を書いて閉じてから海に投げ入れると、その相手と一生一緒にいられるという。気になっていた噂だけど、遠いために諦めていた場所でもある。
アウルとは私が一番歴が長いわけだし、やはり最初に海へと南京錠を投げたい。2人には悪いけど、負けるつもりは微塵もないんだから!
「えへへ、楽しみだねっ!」
◇◇◇
SIDE:ルナ
ご主人様がレーサムへと誘ってくれた。レーサムと言えば、『魔導具・軍事・恋岬』と呼ばれるほど恋愛にも有名な場所で、恋岬と呼ばれる場所にはたくさんの南京錠屋台が連ねているという。
ミレイもヨミも誘われたときの反応を見る限り、この話のことは知っているだろう。
逆に、ご主人様はこのことを知らないかもしれない。というか知らない気がする。そのことをミレイやヨミに知られる前に、私が教えてあげなければ! 恋岬について知らないまま帰るとなったときの2人のこと考えると、ちょっと恐ろしいものがありますからね。
折角ですから、私が一番最初にご主人様と南京錠を投げたいです。2人には悪いですが今回ばっかりは抜け駆けさせて頂きましょう。
「ご主人様、あとでお話があるので聞いて下さいね」
◇◇◇
SIDE:ヨミ
アウル様が私たちをレーサムへと誘ってくれた。このタイミングで行く理由は分からないけど、目的は恐らく『恋岬』だろう。アウル様はああ見えてかなりロマンチストだ。きっと、私たちと一緒に南京錠を投げるために連れてきてくれたのだ。
問題は、誰が最初に海へと投げるかでしょう。順当に行けばミレイなのかもしれませんが、ここは是非とも負けたくありません。初めてのキスはルナに取られ、その次はミレイに取られ、私は三番手だった。恋岬での一番は是非とも取っておきたいですね。
2人の顔を見る限り、私と同じように恋岬での一番を取ろうとしているようですし、遠慮はもってのほか。ちょっとばかり我が儘になっても誰も怒らないでしょう。
「アウル様、楽しい旅行にしましょうね」
◇◇◇
SIDE:アウル
「えへへ、楽しみだねっ!」
「ご主人様、あとでお話があるので聞いて下さいね」
「アウル様、楽しい旅行にしましょうね」
ばちばちばちっ
3人の視線が交差し、火花が散ったように見えたのは俺だけだろうか。いや、気のせいじゃないだろうけどなんとなく3人の雰囲気が怖いのであえて触れないでおこう。
「ほら、3人とも。あそこに見えてる城壁が王都の場所だよ。早く行こう?」
「うん、いまいく!」
「今行きます」
「うふふ、負けられないわね」
さてさて、どうなることやら……
しかし、この3人はあとで思い知ることになる。思いも寄らぬ伏兵がいたことに。
グラ「我を普通に足代わりに使う人間は、アウルが初めてだぞ」
アウ「ごめんごめん、美味しいお菓子作っておいたからさ。レティアと一緒に食べてよ」
グラ「むっ!これは『ちょこれいと』ではないか」
アウ「グラさんとレティアのために特別に作ったんだよ」
グラ「なに?!う、うむ、そこまでされては仕方あるまい!帰りは3日後でよいのだな?」
アウ「うん、ありがとう!」
グラさんはちょろかった。
ゆっくりと更新していきます。
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作者が引っ越しのため、ちょっと更新遅れますが、引っ越しが終わって落ち着けばまたペース戻ります。
 




