ep.131 体質
手始めに、どこの国に行くか考えた結果、レーサム王国という国へいくことにした。聞くところによると、レーサム王国は小国ながら、魔導具開発や高い軍事力のおかげで他国への影響力も凄いらしい。特に僕が気になったのは魔導具だ。
ワイゼラスにも魔導具はあるものの、あまり数は多く出回っていない。もしかしたらレーサム王国に行けば、面白い魔導具が見つかる可能性だってある。それに、高い軍事力を持っているという点も素晴らしい。綺麗で強い女性がいれば、ぜひ勇者メンバーとして迎え入れたいという思惑もある。
教皇にはその旨を説明してあるので、出発は明日の朝となった。
「イシュタル、本当に付いてくるの? 危険な旅になるかもしれないよ?」
「もちろんよ。身の回りの世話をする人も必要だし、勇者様から離れるのは嫌だもの」
「まったく……君は僕が絶対に守るから、安心して付いてくると良い」
「うふふっ、頼もしいのね」
あと、回復要員としてアリーシャも同行する事になっている。「勇者様がいるところに、私ありです!」と言っていたので、何も言わなくても付いてくるだろう。
ひとまずの目標は、レーサムにて魔導具の物色と勇者メンバーの確保、あとは邪神についての資料を探すことだ。次点で、ライヤード王国かな。あそこには、転生者がいる可能性があるし、僕も前世のご飯があるのなら食べたいところだ。
「待っていろよ。僕の名前をこの世界に轟かせてやる」
◇◇◇
SIDE:ライヤード・フォン・エリザベス
お父様から通達が来た。近いうちに勇者という存在がこの国に来ると。詳しいことはまだ言えないとのことだが、勇者はある使命を帯びてこの国に来るそうなのだ。その案内役兼監視役として私が選ばれたということになる。
私も王族である以上、公務は発生する。しかし、今回の勇者の案内兼監視は普通の公務とは異なる。私も勇者という存在について色々と調べてみたが、世界を救う存在だということは判明した。それだけ聞けば、そんな人を案内できる私は誇るべきなのだろうが、勇者にはいろいろな噂がつきまとう。
『無類の女好き』『我が儘で独りよがり』『命を軽んじる節がある』など、良くない噂ばかりが出てくる。英雄色を好むとは言うけれど、もしこれが本当ならあまり関わり合いになりたいとは思えない。
今回召喚されたという勇者がどのような人格なのかは知るところではないが、不安なことには変わりない。しかし、世界を救うような存在であることには変わりないので、王族である私たちがもてなすのが道理というもの。
お父様は、護衛は必要になるだろうから、もし希望者がいれば事前に言ってくれと言っていた。仲の良いイルリアに頼めば了承してくれるだろうが、果たして勇者に対抗できるだろうか。
「強くて、私が面識ある人……」
候補としては思い浮かぶけど、『彼』が受けてくれるかは分からない。知らない仲ではないとはいえ、こんなことに付き合う義理がないのも確かだ。それでも、迷っている時間はあまりない。それに、彼に頼ればきっと他にも助けてくれる人が増える可能性だってある。
「あとは、どうやってお願いするかですわね……」
◇◇◇
SIDE:アウル
「今日は湯葉を食べるよ」
「ゆば、ですか?」
湯葉が食べたくなった。前世でも湯葉は大好きだったが、こっちに転生してからというもの、湯葉は食べていなかった。そうと決まれば、早速行動あるのみである。とは言っても、前日の内に豆乳を作るための仕込みは終わらせてある。
ありがたいことに大豆はたくさん栽培してあるので、ある程度の量が確保できている。これは、自家製味噌造りにも使われているものと一緒だ。
湯葉作りに欠かせないもの、それは『豆乳』だ。実は、豆乳というのは簡単に作ることが出来る。必要な材料は大豆と水。それだけ。
【豆乳の作り方】
①水洗いした大豆を水につける。15時間程度浸して、3倍程度の大きさになるまで待つ。
②膨らんだ大豆を漬け汁ごと粉砕して、滑らかになるまでやる。
③大きめの鍋で10分程度、弱火でかき混ぜながら煮る。
④大きめの布をボウルに広げて、そこに③を流し込む。熱いうちに濾して、しっかりと絞る。
これで、絞ったものが豆乳というわけだ。ちなみに、布の中に残ったものがおからだ。これはこれで、料理に使えるしダイエットフードでもあるので女性陣には人気が出るかもしれない。
「わぁ、なんだか牛乳みたいですね」
今日はルナ以外が出かけているので、俺とルナはお留守番だ。ヴィオレと遊ぶシアを見ながらのんびりしていたのだが、なんの前触れもなく湯葉が食べたくなってしまったのだ。
ルナも豆乳を見たことがないのか、不思議そうにしている。
「飲んでみる?」
「はい!」
コップに少しだけ注いで渡すと、おそるおそる飲み始めた。美人が白濁色の飲み物を飲んでいる。これが無料だというのだから、本当に……いや、落ち着け。エロ親父みたいな思考だったぞ。
「どう?」
「自然な甘味が美味しいですね!私はとっても好きです」
まだ口の中に白っぽいものが残っているのに喋るんじゃありません。
「よかった。これを鍋に移して、弱火で沸騰しない程度に煮る」
じわじわと温めていくと薄らと膜ができはじめるので、3分くらい経ったところでその膜をゆっくりとすくい上げると、湯葉の完成だ。
「膜ができました!これが湯葉と言うのですか?」
「そうだよ。一口食べてみようか」
お皿に醤油を少し出して少しだけつけて口へと運ぶと、濃厚な甘味と独特の歯ごたえが口いっぱいに広がる。できたてと言うこともあって、その美味しさも格別だ。次は、残っている豆乳に浸して一緒に食べると、また違った美味しさが押し寄せる。とろとろとした豆乳と絡みつくように湯葉が口の中で解けていく。塩なんかをかけても美味しいだろうし、葱味噌なんかも合うだろう。
「~~っ!とっても上品で美味しいです!もっとたくさん作りましょう!」
「よし!!今日の夜ご飯は湯葉尽くしだ!」
「はいっ!」
それから、湯葉作りをルナに一任して俺は湯葉に合う葱味噌を用意したり、湯葉を使った料理を作った。『アボカドとネギトロの湯葉のせ』『湯葉しゃぶ』『湯葉の野菜巻き』『湯葉の海老餡包み』なんかを作ってみた。
アボカドはつい最近、王都の市場で見つかった野菜だ。どこで手に入ったか分からないが、それなりの数が手に入ったのだ。まさかのルリリエルが見つけてくれていて、俺がほしがると思って大量に買ってくれていた。
本人にご褒美は何が欲しいか聞いてみたら、「若様の愛人になりたいです」と言われたので、にっこりと微笑んでスルーしておいた。彼女は未だに諦めていなかったみたいだ。初犯からすでに2年以上経っているというのに、こうしてたまに言い寄ってくるのだ。もし、成人してもルリリエルの気持ちが変わっていなかったら、ちゃんと向き合った方がいいのかもしれない。
近いうちに婚約者3人には相談した方が良いかな。もしかしたら、俺よりも事情に詳しい可能性はあるけど、俺から何か言わない限り何も言ってこないだろうからね。
その夜、メイド部隊も呼んでみんなでご飯を食べた。初めて食べる湯葉料理にみんなのテンションは爆上げで、いつも通りの盛り上がりだった。中でもミレイちゃんとルリリエルとルナは湯葉が大好物らしい。作り方を請われるほどに気に入ったみたいだった。
コンコンコン
夕食会も中盤というところで、屋敷の扉がノックされた。
「私が行きますね」
ヨミが気を利かせて出てくれるようだけど、俺には誰が来ているか分かっている。間違うはずもない。
「まさかこんな時間に来るなんてね――エリザベス王女様」
「あら、流石アウルね。こんな時間に来たのは先に謝っておくわ。でも、話を聞いて欲しいの」
「――ひとまず話だけ聞きますよ」
今日は侍女長は連れてきていないみたいだな。まぁ、それだけ本気なのかもしれないけど。というか、なんで俺ってこんなに厄介ごとに巻き込まれるのだろうか……体質かな……
細々と更新していきます。
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