ep.13 スタンピードのその後
ランドルフ辺境伯宅で一泊していかないかと打診されたが、俺以上に父が緊張で今にも倒れそうな気配があったので、無理を言って帰ろうとしていた。
まぁ、俺も早く我が家に帰りたい。母も1人で待たせて不安だし、スタンピード後なので余計に心配である。
辺境伯曰く騎士が念のために数名がオーネン村にいるらしい。それでも、不安なものは不安なのだ。
そういうことで、帰ることとなり無事に馬車に乗れたのだが、どういう訳かお土産ということで色々な物をもらった。名目としてはいち早くスタンピードを知らせたからと言うことらしい。外聞的には報酬というかなり真っ当な理由だった。
・・・あくまで外聞的には、だが。
なぜか、父より俺に欲しいものはないか聞いてきたのだ。・・・辺境伯ではなくミュール夫人が。
要は、こんなに物を融通したんだからさっさとクッキー作りなさいと言うことらしい。俺としてはレシピを渡してもいいのだが。
そのつもりでレシピの話をしてみたら、ニコニコと返事をされた。
「あらぁ?レブラントが言うには取引している相手については何も知らず、たまにふらっと売りにくる流浪人って話だったけど、まさかアウル君な訳ないわよねぇ?」
「いや、えっとですね」
「じゃないと、レブラントが私に嘘を言ったことになるものね。そんなことされてたら、不敬罪で処罰してしまうかもしれないわね・・・」
うむ、退路はない。これが俗に言うチェックメイトと言うやつだろうか。・・・齢6歳にして貴族に、それも辺境伯なんていうかなり上の貴族に目をつけられてしまった。
「まぁ、そんなことはともかく私としてはアウル君とはこれからも是非仲良くしたいわ。よろしくて?」
「あっはい。光栄の至りでございます・・・」
「うふふ、私とアウル君の仲じゃない。さ、ほらオーネン村に向けて出発するわよ!」
どうやら付いてくるようだ。なんとなく予感はしていたが、本当に付いてくるんですね。あっ、そんなにクッキーが食べたいんですね。わかります。
そこからは粛々と馬車の平凡な道のりだった。何故か父は猫耳メイドと同じ馬車に乗り、俺はミュール夫人と2人というよくわからない状況だったりする。父は俺を売って、猫耳メイドと仲良くやっているのだろう・・・。この恨み、晴らさでおくべきか!
覚えておれよ脳筋ゴリラ。家に帰ったが最後、それがお前の最期だ。残り少ない余生を謳歌するがいいさ。なんせ、我が家には鬼の母上がいるのだからな!!!
・・・ふぅ。スッキリした。
どうやらニヤニヤしていたらしくミュール夫人に変な目で見られていた。・・・魔法でポーカーフェイスが作れないかな。
2人きりだからとミュール夫人はアレコレ聞いてくるかと思っていたが、殊の外そんなこともなく終始ありふれた雑談をしていたくらいだ。
隣に住んでるミレイちゃんの話をしたら、かなり嬉しそうに乗ってきたのでやはり夫人も女子なのだと思った。・・・べ、別にミレイちゃんはそんなんじゃないし?!勘違いしないでよね?!
気づけばオーネン村までもう少しというところまで来ていた。当分は恋バナなんてしたくない気分である。根掘り葉掘りとはうまく言ったもんだ。昔の人は天才だな。
これは休憩しているときに騎士の人に聞いた話だが、今回のスタンピードでは数棟の家が半壊したらしいが、補助金も出るらしいし既に簡易テントを張ってあるらしい。当分はそこで暮らすことになるらしいが、その分家が新しくなると聞いて、喜んでる家族ばかりだったそうだ。
・・・異世界の人ってメンタルが鋼並みに強い気がするのは俺だけなのか?
「ただいまお母さん!」
「あら、おかえりなさいアウル。早かったのね?お父さんは?」
「実は──」かくかくしかじかでと説明する。
「へぇ・・・?アウル、今日はミレイちゃんのお家に泊めてもらいなさい。ミレイちゃんも心配してたわよ?」
「う、うん。そうするよ」
母は絶対に怒らせてはいけない。これは今日から我が家の家訓である。普段温厚な母が、文句もほとんど言わない母が、いつもニコニコしてる母が、背景には花畑が似合うような美人の母の背後に般若がいた。
適切じゃないな。異世界風にいうと背後にオーガキングが見えた。ちなみにオーガキングの討伐ランクはSとされている。
触らぬ神に…母に祟りなし!
そうだよな。俺もミレイちゃんと遊びたかったし、丁度いいよな。
父よ、安らかに眠れ・・・
「うふふ、楽しそうなご家族ね。少し羨ましいわ」
「辺境伯夫人様?!なんのおもてなしもしないで、申し訳ありません!ほら、脳筋変態ゴリラ!話はあとでするから、さっさと夫人様をおもてなしするわよ!」
さり気なく父を貶すのはもうプロの域だろう。
汚いところですがと、椅子を用意して座ってもらった。よく見ていると、母がつまらないものですが、と俺のクッキー・・というか母が管理しているクッキーをこれでもかと出していた。
嬉しそうに「息子が作ってくれるんですよ〜」なんて自慢している。母としては俺を貴族に自慢したいのかも知れないが、母よ。それは悪手だ。
あのミュール夫人ですら、苦笑いである。スルーしてくれるところを見ると、聞かなかったことにしたらしい。
まぁ、クッキーを食べる手は止まることがないのだが。
パクパクとクッキーを食べる夫人。
それをどこか悲しそうにじっと見ている母。
物欲しそうにしている猫耳メイド。
母が怖くてすぐに逃げ出しそうな父。
カオスだ……。
クッキーをひとしきり食べ終えたミュール夫人は満足したのか馬車に乗って帰って行ってしまった。どうやら本当にクッキーを食べにきたようだ。一応この後近隣の村を回って被害はないか確認するらしいが、絶対クッキーのついでに行くに違いない。
結局、この日俺はミレイちゃん家にお邪魔した。果報は寝て待てだ。・・・なんだか意味が違う気もするがニュアンスが伝わればいい。
ミレイちゃん家にただでご馳走になるのも申し訳ないのでスタンピードで獲得した肉をそれとなく渡したら、なんの疑念もなく受け入れてくれた。持つべきは良きお隣さんと言うことだ。別に頭が弱いことなんて・・・。まぁ、ケースバイケース、かな。
ミレイちゃんはスタンピードが怖かったのか、夜一緒に寝ようと誘ってきた。え、それなんてご褒b・・・ンンン!まぁ、俺も確かに怖かったのは間違いない。あんな数の魔物に加え、Sランクと言われているエンペラー・ダイナソーの出現。一気に色々ありすぎて、今更ながら体が微かに震えていることに気がついた。ミレイちゃんは俺のことを思って誘ってくれたのかもしれないな・・・。
じんわりと心が暖かくなるのを感じたが、これが恋心だとまだ気づかない。そして、未だに気づかないアウルに対して焦れったい思いをしているミレイ。
2人の関係については、まだ語るほどのものではない。ちなみにミレイちゃんは俺の一個上の7歳で今年8歳になるのだが、強いて言うならば発育が驚くほどいい。8歳にしては、だが。
狭いベッドに2人並んで寝るのだが、なぜかお姉ちゃんぶるミレイちゃんはどこか背伸びしている感じがしたが、そこがかえってグッときた。ベッドに入って少しするとミレイちゃんはスゥスゥと規則正しい寝息を立て始めた。可愛くてついつい頭を撫でてしまった。寝ながらなのにくすぐったそうにしているミレイちゃんは本当に可愛い。
俺もウトウトし始めた頃、ミレイちゃんは寝ぼけているのか不意に抱きついてきた。「・・・アウル・・・好き」などと寝言を言っているが、どんな夢を見ているのか聞いてみたい。と言うか夢の中の俺羨ましすぎだろ。とりあえず「俺も好きだよ」と言ってみた。きっと夢の中の俺は良い思いをしているだろう。
朝、ミレイちゃんがなんとなく俺と視線を合わせてくれない気がする。けど、怒っているような感じではない。・・・ううむ、生理かな。あれ、子供でも生理って来るんだっけ?
朝ご飯まで頂くのは申し訳ないと思い我が家に帰ると、朝ごはんを作っている母と部屋の隅にボロボロになって打ち捨てられている父がいた。
ツンツンしてみると反応があったので一応生きてはいるみたいだ。さすがに可哀想なので母にバレない程度にヒールをかけてあげた。
朝ごはんを食べた後、畑の手伝いをささっと終わらせた。念のためにと森を歩いて見たが、気配を探ってみると小動物たちもちょこちょこいるので、今までの森に戻りつつあるようだった。
一安心したところで、秘密基地の林に戻りエンペラー・ダイナソーを取り出して見た。時間もあまりなかったので血抜きをしていなかったせいか、かなりグロい見た目だ。魔法で血抜きを終わらせた後に改めてみるとその大きさに圧倒される。
・・・よく倒したな俺。というかこいつどうしよう。レブラントさんに売ってもいいけど、さすがにこんなの売ったら普通の子供としては見てもらえないだろうな。
武器や防具を作ってもいいけど、今の俺は成長期。すぐに着られなくなるだろうし、魔法主体の俺に剣は不要だろう。どっちかというと槍とか刀の方が好きだしな。
勿体無いがとりあえずまだ収納しておくこととしよう。俺がもうちょっと成長した後にでも武器や防具にしてもいいしな。
その後はスタンピードの時に回収した魔物たちを順次血抜き、解体していく。あまりの数の多さに、解体魔法が作れないかと色々試してみたら。アイテムボックスに解体機能が搭載された。便利機能なのは間違いないのだが。
・・・てか俺って魔法の才能ありすぎじゃね?ここまで便利というか苦もなく魔法が使えてしまうと、さすがにチートすぎる気がするな。とは言っても両親のためにも自分のためにも、そして幼馴染のミレイちゃんのためにももっと強くなることを止めるつもりはない。何かあった時に後悔しては遅いからな。
チートといえど万能ではない。例えばステータスをみる魔法が使えないのがいい例だ。鑑定といった魔法も先天的に持っている人以外は無理らしいし。油断、慢心せずに精進することを意識しておこう。
その夜、今まで食べたことのないオークナイトの肉を食べて見たら美味しすぎて鳥肌がたった。森イノシシも十分美味しかったが、オークナイトの肉は完全に豚のそれだった。これは加工すれば完璧なベーコンが作れるではないか!!オークナイトはまだ20体以上残っているし心置き無くベーコンが作れる。
小麦もあるし、パスタを作るのもいいな。卵と牛乳があればカルボナーラを作れる。ベーコンもいいが生ベーコンとも言われるパンチェッタ、後は豚トロを使ってグアンチャーレという塩漬け肉も作りたいところだ。後は、生ハムか。この世界に生ハムは無いみたいだし、下手すればかなり儲かるかもしれない。塩漬け肉や干し肉はたくさんあるが、あれはあまり美味しくないからな。母が作る干し肉はなぜか美味しいのだが、どうやって作っているのだろう。
とりあえずはオークナイト肉、長いのでオーク肉としよう。農業の片手間にオーク肉で色々作ると決めたアウルであった。
ちょっとずつ更新していきます。
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