表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
のんべんだらりな転生者~貧乏農家を満喫す~  作者: 咲く桜
第5章 農家と勇者と邪神ノ欠片 前編
126/177

ep.126 勇者

「白聖武器の使い勝手もだいぶ分かってきたな」


最初から手に馴染むような感覚があったとはいえ、使いこなせるかと言われればそれはまた別の話。引き続いて迷宮でゴーレムを倒して手に馴染ませたのだ。結局、1週間間迷宮に通い続けたおかげでかなり自由自在に使いこなせるようになったと自負している。


「さすがは勇者様です!きっとSランク冒険者にも引けを取りませんよ!」


「Sランク冒険者か……。実際に会った事は無いが、どれほどのものなのか気になるな。アリーシャは会ったことがあるか?」


「すみません、会ったことはないのです。しかし、Sランク冒険者というのは一人で戦況をひっくり返すほどの力を持つと言われています。千剣のヨルナードは勝利の女神に愛されているというのは有名な話です」


「へぇ、そんな男が……」


「でも、勇者様が一番に違いありません!」


「ふふ、おいで、アリーシャ」


「あっ……!そんなところ……!」


僕がこの世界に来てからまだ時間は浅い。闘ってみたい気もするが、今はまだ焦るような時間じゃないな。この世界では恩恵という力があるが、洗礼を受けていない僕は恩恵を持っていない。話を聞く限り、恩恵というのはものによってはとんでもないほどの能力を持つ場合もあるという。


まぁ、それがなくても補ってあまり余るほどの魔法の素質と才能が僕にはある。もう少しなのだ。


「勇者様、今日の訓練はいつもの迷宮ではない違う迷宮に行きたいのです」


僕がアリーシャと話していると、騎士団長の邪魔が入ってしまった。くそっ。アリーシャはイシュタルとは違った魅力があって最近のお気に入りなのに。まぁ、時間はいくらでもある。


「その迷宮というのは?」


「はい、これは教皇様の依頼も含まれているのですが――」


騎士団長が言うには、この国の食糧事情がちょっと悪くなっているらしい。最近、魔物が活発化しているらしくその被害がでているのだそうだ。家畜が食べられたり作物を荒らされるという被害が多発しているため、その対策として迷宮で食糧を集めるということらしい。


「僕がその魔物を倒すというのでは駄目なのか?」


「それも一度は検討されたのですが、人目に出すには些か早計だという意見がでまして。それに、魔物の活動領域は広大です。その全てをカバーするのは不可能でしょう。ですので、冒険者や騎士団で魔物の対応にあたり、食糧確保を手伝って貰おうと思ったわけです。それに、迷宮内にも魔物はいるのでちゃんと訓練になります。欲を言えば、ドロップアイテムが落ちれば勇者様の戦力アップにも繋がるかもしれない、というわけです」


なるほど。確かに騎士団長の言うとおりだ。僕は確かに魔法は使えるけど転移や飛行が出来るわけではない。だったらマジックバッグを持って食糧確保が望ましいか。僕もどうせなら美味いものが食いたいからな。


「わかりました。すぐに準備します。アリーシャ、一緒に来てくれるかい?」


「もちろんです!アリーシャは勇者様にどこまでも付いていきます!」


騎士団長から話を聞いたところ、次に行く迷宮は国が管理している食料庫と呼ばれる迷宮らしい。そこでは肉や野菜、穀物とかなりの食糧が手に入るらしい。原理は分からないが、魔物を倒すと一定の確率でドロップアイテムを落とすのだそうだ。そのほとんどが食糧というわけだ。極稀に魔導具なんかも落とすらしいので、一石二鳥だな。




「ここが、ワイゼラスの食料庫か」


騎士団長は国内の魔物討伐指揮を執るために、今日は不在だ。今日は僕とアリーシャと魔導士団長の3人で迷宮に挑戦している。


「魔物はゴブリン等の人型やウルフ系の獣型、マンイーターなどの植物型の3種類が多いそうです。稀には虫類型などもでるみたいですが、本当に極稀みたいです」


人型の魔物か……。地球で人殺しの経験などあるわけ無いし、僕に上手く出来るだろうか。まぁ、何かあっても魔道士団長が対応してくれるだろうが、レベル上げのことを考えると自分でやった方がいいのは間違いない。いずれ、勇者として闘うことを考えるとこれはある種の試練だ。



ゴブゴブっ!


「勇者様、ゴブリンです!」


アリーシャに言われた方向に視線を向けると、粗末な腰布を巻き、粗く削られた木の棒を握りしめている肌が緑色の人型の魔物がいた。


「……あれがゴブリンか」


背丈は100cmくらいとかなり低い。しかし、その身長に似合わないほどしっかりとした筋肉を持っている。顔は醜く、やや薄汚れた印象を受けた。確かに子供と同程度の背丈ということを考えると、攻撃するのを躊躇するというのも頷ける。だが――


「僕は迷わないっ!」


皇宮にいれば嫌というほどの数の報告が押し寄せる。その中には、地方の村や町が魔物に襲われたなどのものも含まれる。魔物使い(テイマー)などは例外だが、基本的に魔物は悪だ。人間を脅かす存在でしかない。僕は人間至上主義というほど偏ってはいないが、それでも人間が一番だとは思う。


あんな魔物のせいで苦しむ人がいるというのは、この世界は本当に狂っている。力あるものがいるということは、力ないものもまた然り。僕はそのためにここへ来たといっても過言ではないのだから、こんなところで立ち止まるわけにはいかないのだ。


その見返りというわけではないが、魔法も覚えたいし強くもなりたい。美味しいものも食べたいし女も経験したい。この世界に来てからは三大欲求が強くなったように思う。これは日本という国に、いや、地球という世界に縛られすぎていたからかもしれないな。


「流石勇者様です!迷い無く悪を断つそのお姿こそまさに勇者です!アリーシャは感激しました!」


「いや、これくらい当たり前さ」


アリーシャが僕の前だと『私』ではなく『アリーシャ』と言うようになった。最初こそ少なからず警戒心を持っていたのだろうが、いまではこの通りだ。ステータスは見られないが、おそらく、魅力値もパワーアップされているのだろう。俺はもっともっと強くなって、この世界で自分の国を作りたい。イシュタルやアリーシャ、あとは頭がキレて強くて美しい女性なんかもいいな。


もう少しだ。もう少しで一段落つける。そうしたら近隣諸国を回って転生者を探しつつ、運命の人や邪神の手がかりを探すとしよう。





◇◇◇





「さて、フカヒレでも作るか」


トゥーン海岸でのリゾートを満喫した俺たちは、カミーユから逃げるように帰ってきた。下手に長居すれば面倒なことになりそうだったからだ。ただ――


『アウル、申し訳ありません。私が力不足なばっかりに……』


と、リリーが言ってたのだがどういうことなのだろうか。かなり考えたのだが見当が付かなかったが、それだけが気になっている。まぁ、いずれ分かるか。


「にしても量が多いな……」


目の前にはハングリーシャークのヒレが山のように積まれており、その全てをフカヒレにしようと考えているのだ。ちなみに、サメのフカヒレには胸びれ・腹びれ・尻びれ・尾びれ・第一背びれ・第二背びれの6種類がある。よく姿煮なんかに使われるのは第一背びれか尾びれのどちらかだろう。


残りは散翅サンツーと言って、ヒレの繊維をほぐしてバラバラにして乾燥させる予定だ。姿煮なんかに使われるヒレは排翅パイツーとも呼ばれるらしい。


それで、今日やるのは排翅パイツーのほうだ。しかし、フカヒレの製造というのは口で言うほど簡単でないし時間がかかる。その理由はいくつかあるが、大まかに言うと『臭み』だと俺は思っている。


何も考えずにフカヒレを作ろうとしたら、ヒレの洗浄→茹でる→皮や肉の除去→乾燥。これで一応乾燥フカヒレの完成なのだが、これだと臭みは残るし美味しくない。だからといって何度も蒸したり乾燥させるのは面倒だ。時間をかけてもいいのだが、単純にやることが多いからその時間が無いのだ。


「やっぱり魔法って便利すぎだよな……」


清浄クリーン!』


ただの生活魔法だが、これをするだけで洗浄と脱臭が一度に完了してしまうのだ。我ながら、ちょっと卑怯だと思う。でもサメ100匹分の排翅パイツーを一人で作るんだから、これくらいいよね?


あとは大鍋に温めた水を用意する。このとき、熱湯ではなく60℃くらいのお湯で茹でるのがコツだったはず。理由はよく知らない。5~10分くらい茹でたら流水で冷やして皮を包丁で剥ぐと綺麗にこそげ落ちるのだ。こればっかりは、魔法でやると身が傷む可能性もあるので手作業だ。




…………………………




はっ?!さっきまで太陽が上にあったのに、もう暮れかけてる?!かなり時間がかかっちゃった!


ここまで終われば後は簡単だ。干し網に入れて吊しておけば完成なのだが、夏場だと腐る可能性が高い。この世界には冷蔵庫がないから面倒だ。


乾燥ドライ


「……うん。完成だな」


ちょっと形は悪いかもしれないけど、これでフカヒレの完成だ。念のためにもう一度清浄をかけて、今日の分を残して残りを収納へと仕舞う。今日はフカヒレの姿煮を作るぞ!


「あ……。乾燥させちゃったから、水で戻さなきゃ」


くそう。しかし仕方ない。本当に美味しいものを食べるためだ。






翌朝。


「うん、まだ硬いけど仕方ない。とりあえず一口」


コリッ


…………?


味が、ない……だと?フカヒレの加工法は知識として知ってたけど、実際に自作して食べるのは初めてだ。


「もしかして、フカヒレって……そのものには味がないのか?」






この夜、味濃いめにしたスープで滅茶苦茶食べた。みんなからの評判はそれなりだった。

味付けのスープを作ろうにも、調味料の乏しいこの世界ではあまり成功とは言えなかっただろう。


当分フカヒレを作る気は無いとだけ添えておく。

細々と更新していきます。

評価・ブクマ等して貰えたら嬉しいです。


少しずつ、勇者との邂逅が近づいてきましたね。


無事に第一巻発売できました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ワサビをするのは鮫皮が良いとか。
[一言] コラーゲンたっぷりと言えばもっと食いついてきたはず
[一言] なんだ鮫の肉で蒲鉾作らないのか(作業メッチャ大変
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ