ep.124 『第2の封印』②
SIDE:アウル
『お前は異界者……いや、転生者だな?』
「……えっ?!いや、その……」
なぜバレた?この世界でそのことを知っているのは、帝国の爺さんくらいのもんだぞ?!
『よい、隠さずとも私には分かっている。伊達に神などやってはおらぬよ』
「その神様……が、俺、僕になんのようでしょうか?」
先ほどから敵意が絶えることはないけれど、殺意は今のところ感じない。見定めているのか警戒しているのかは分からないが、明らかに存在の格が違うのは分かる。
龍帝もあり得ないほどの存在感があったが、このヒュドラから感じるなにかは、文字通り次元が違う。こいつが言っている神というのもあながち嘘ではない。
『なに、懐かしい波動を感じたものでな。それと、確認したいことがあったのだ。――お前はこの世界で何を望む?』
何を望む、って言われてもなぁ。そんなもの最初から1つしか無い。まぁ、ちょっと遠回りや道草食ってる感は否めないけどね。
「僕が望むのは仲間とののんべんだらりとした生活です。辺境でのんびり農業が楽しめればそれで満足ですから」
『…………ほう』
きょとん。という言葉がしっくりくる。それくらいに目の前のヒュドラは間の抜けた顔をしたのだ。俺の返答が思った物と違ったからか、先ほどまであった身を刺すような敵意を霧散し、今ではなにも感じない。
「ちょっと仲間に元邪神がいるので、邪神の悪の部分を除く欠片のみを回収しているところなんです」
『中から感じたあの波長はやはりそうであったか。再度問うが、本当にこの世界を征服したり破滅させてやろうとは考えておらぬのだな?』
「天地神明に誓って」
『フハハハハ、神を目の前にして天地神明とは恐れ入る。そなたのこと、信じよう。しかし努々忘れるな。身の丈以上のものを望む者は大切なものを失うぞ』
「肝に銘じておきます」
『うむ、分かれば良い。ついでと言ってはなんだが、1ついいことを教えてやろう。この海中神殿は確かに邪神を封印するためのものだが、あの神殿は意思を持っている。……そして、一度扉が閉まると中の守護者を倒さない限り開くことはない』
「なっ?!」
それはかなりまずいぞ?!中にいる守護者はかなりの強敵のはずだ。アザレ霊山にいたあの守護者も、2年間鍛えた俺の全力でなんとかギリギリ倒せたというのに。今回はアルフがいるから大丈夫だとは思うが、純粋な回復魔法を使える人はいないはず。
『ではな。また機会があったら会おう』
「あ、ちょっと!」
闘わなくて済んだのはありがたいけど、いったいどうしろってんだよ……。ひとまず海岸に戻ってグラさん達と今あったことを話すしかないか?
試しに扉を力尽くで押してみたけど、全く動く気配はないし……。魔法を放とうにも扉に当たる直前に何かに弾かれるように消えてしまった。
神殿の周囲を探索しても侵入出来る場所は無い上に、神殿全てに結界が張られているようで魔法も物理もまるで歯が立たなかった。全力の攻撃をしてみても良いのだが、そのせいで中にいるみんなに被害があったら一大事だし……。
「打つ手無しってわけか……」
ルナやヨミ、ミレイちゃんの帰りを待つしか出来ない自分に腹が立つが、それでも今の自分には待つことしか出来ないというのは理解できる。
暗い面持ちで海岸へと帰ると、グラさんが砂浜で顔だけ出して埋もれていた。まさに満喫していると言って過言ではない。
「む、アウルだけか?」
「実は――」
起こったことを正直に全て話すと、グラさんとレティアは神妙な面持ちをしていた。これは推測らしいが、あのヒュドラは龍帝である2人に感づかれないほどの結界を張っていた可能性があったのだ。だからグラさん達が助太刀にも来なかったというわけだ。さらに、そんなことができるヒュドラは限られている。
「おそらくそのお方は神龍と呼ばれる存在だ。神龍と呼ばれるのは3柱いて、その中の3番目の神龍がたしかヒュドラの姿をしているらしい。我も実際に会ったことはないから確かなことは言えないがな」
あのグラさんでも敬うほどの存在ってことか。じゃあ神と名乗っていたのも嘘じゃないということか。
しかし、タイミングが良すぎたせいで敵だと錯覚したけど封印とは無関係なんだな。あれと闘わないといけないとなると、命がいくつあっても足りやしない。明確に存在の次元が違うのは理解できたけど、強さまでは計れなかった。あれは、強さの尺度が違いすぎて理解が及ばなかったからなんだろう。
神とは言え、あれほどの力を目の当たりにすると、人間のちっぽけさを痛感してしまう。イナギの解放が終わったらそれこそ辺境に閉じこもって暮らすんだ。
「……とりあえず、俺はもう一度神殿の前に行ってみんなを待つよ」
みんな、無事に帰ってきてくれよ……!
◇◇◇
SIDE:ヨミ
急に現れた扉を潜るとそこは薄暗い空間が広がっており、アザレ霊山と同様くらい広さのある半ドーム型の部屋だった。そして、前回と同じように奥には祠のようなものがある。おそらくあそこに封印がされているのだろう。
「ルナ!あそこに祠がある!私たちで時間を稼ぐから、行って!」
「わかった!」
前回は馬鹿でかい竜のような魔物がいたのに対し、これだけ広い空間には敵の姿がない。神殿自体が敵だとすると、そもそもここに入れただけで私たちの勝ちということ?
「ヨミ様、上です」
ルナの護衛に就いているアルフレッド様に言われて上にまで気配察知を飛ばすと、確かになにかがそこにいた。大きさは私たちと同じくらいしかない。前回とは違って人間型ということだろう。
「みんな!あそこに向かって一斉攻撃!」
「「「「はい!」」」」
それぞれが思い思いの攻撃を発射する。私も全力でアクアランスを20本発射した。
色んな属性の攻撃がドームの天井にいる敵へと押し寄せ、確かに直撃した。気配察知や空間把握でもそれは間違いないのを確認している。
『残念、こっちだよ』
直後、私の背後で声がしたと思ったら、思いがけない人型の守護者が笑いかけながら殴りかかってきたところだった。完全に不意を突かれていて、カウンターは無理。自動で障壁が展開するから、障壁で攻撃を防いだ後に反撃しようと思った。
しかし、不意に首筋に悪寒が走ったのだ。まるで、死神に命を刈り取られるようなそんな悪寒が。
受けの体勢を捨てて守護者が殴ってくるのに合わせて背後へと思いっきり跳躍する。本来であれば展開されるはずの障壁は展開されず、確かに腹部に衝撃が残っている。
「障壁が展開されない……?」
『へぇ、やるじゃん。衝撃に合わせて背後に飛ぶなんてね』
他のみんなにも警戒を呼びかけようと思ったが、そんな余裕はなかった。みんなにも私にも。突然のことで気づくのが遅れたが、私以外のところにも敵が現れていた。いまこちらで戦えるのはルナを除いて7人。敵の数もちょうど7人ときている。しかも、それぞれがある容姿をしているのだ。
「アウル様に化けてくるなんて、趣味の悪い守護者もいたものね」
『へぇ、彼、アウルって言うんだ。みんなの意識の深層には彼がいたからね。大切な人なんだろう?その想いの強さは内部に入られる前から分かっていたよ。だから彼だけは入れないように仕組ませてもらった』
アウル様に化けた守護者6人は、喋りながら移動して私たちの前に集合して見せた。全部で7人のアウル様。そのどれもが同じ顔をしている。言われなくても分かっているが、これは幻術だ。それは分かっている。アウル様に見せかけているということに対してかなりの怒りも覚えている。それなのに……
「改めて、私がどれだけアウル様のことを慕っているか理解させられるわね……」
ミレイや他のみんなも闘いにくそうにしているのは見て取れる。1人を除いて。
「本調子でない私ですら、凌ぐことが出来る程度の強さといったところですか」
アルフレッド様は偽アウル様が現れてからというもの、常に攻撃を仕掛け続けていた。アウル様の姿形をしているというのに手加減など一切無しだ。なんというかさすがとさえ思える。そのせいで、アルフレッド様に敵対している偽アウル様だけは孤立して闘っている始末だ。
『老いぼれのくせに、足腰の強いことだな!』
「お褒めに与り光栄ですな。偽物とはいえ、主様に褒められるのは悪くない」
『今のは嫌味だよ!』
魔法を一切使わない体術だけの戦いをしている。いくら結界のせいで本調子では無いと言え、アルフレッド様と対等にやり合っているこの守護者は凄い。しかし、なぜ魔法を使わない?
「まさか……幻術以外に魔法が使えない?」
私の自動障壁が展開されなかったのは、おそらく敵をアウル様と誤認したところにある。この魔導具はアウル様が作ったものだから、アウル様が攻撃してくることを想定していないはず。そのせいで障壁が展開されなかったのだろう。そうなると、今後も自動展開に頼ることは出来ない。が、幻術以外に魔法が使えないのならば話は別だ。
『ちっ……死ね!』
偽アウル様6人が一斉にこちらへと攻撃をするために突撃してきた。そのスピードは本物のアウル様と見分けが付かないほどに速く、攻撃方法に杖を使うというところまで全く同じ。
「3つ、教えてあげるわ。1つ目――アウル様の杖術はそんなものではないわ」
『がっ……どう、して?』
杖を正確無比に且つ、的確に打ち込んできた。それは流石とさえ言えるが、それだけなのだ。一般人やランクBの冒険者程度までなら相手にならないだろうが、ここにいるのはそんな枠に囚われない猛者ばかり。本物のアウル様の杖術ならまだしも、ただ杖を正確に振れるだけの敵なぞ怖くはない。
「2つ目、アウル様の本領は魔法にこそある」
『ぐぅっ……!なぜ、攻撃が読まれる……?!』
「3つ目、私にアウル様の動きが分からないはずがない」
『がはっ……!』
決着、ね。確かに強かったけど、魔法も使ってこない偽アウル様なんて怖くない。まぁ、唯一勝てない要素があったとするなら、色仕掛けでもされたときかしらね。
他のみんなを見ても、圧倒し始めていた。メイド部隊はまだ時間がかかるだろうが、アセナはもう終わる寸前だ。歩法や体捌きはまさにアルフレッド様のものと酷似している。あれほどまでに成長するのに数年しかたっていないとは恐れ入る。本気で闘った場合、私やルナでも厳しいかもしれない。
アルフレッド様と私の次に偽アウル様を倒したのは、意外にもミレイだった。戦闘力はあまり高くないと思っていたけど、アウル様のことを理解している度合いで言えば、ミレイはダントツだろう。その分動きもわかりやすかったのかな。
その後、10分程度で全ての偽アウル様が倒された。
「あなたの敗因はアウル様に化けた事ね。正攻法ならば、私に勝てたかもしれないのに……」
確かに弱くはなかったけど、特別強くもなかった。守護者としてこれで成り立つのだろうか?それとも他の要因が?
「なんにせよ、私たちの勝ちね!」
「私の方も欠片の抽出が終わったわ!早くご主人様に会いに行きましょう!」
神殿の外へと出ると、アウル様が一人で待ってくれていた。
「おかえり、みんな。怪我がなさそうで良かったよ」
「ただいま戻りました!アウル様!――外では何をされていたのですか?」
「え、ええ?!いや、なんとか中に入れないかと魔法を打ち続けていたんだけど、結界に弾かれるから途方に暮れてたんだ。結界を壊そうと思っても全然壊れなくて参ったよ」
……!もしかして、あの守護者はこの結界を維持するのに力を使っていたということかしら。だとすれば、結界維持に力を割いたせいで本調子じゃなかったというのも頷ける。ふふふ、アウル様はどこにいても私たちを助けてくれていたんですね。
あれ、でもアルフレッド様が外に強大な存在を感じたと言っていたけど、気のせいだったのかしら。アウル様もなんにも言ってこないし。いや、あのアウル様の慌てようは何かあったに違いない。けれど、私たちに言ってこないということは、言えない何かということだ。
「アウル様、私達はいつでも待っていますからね?」
「っ!……あぁ、ありがとうヨミ」
さて、明日は海で遊びまくりますよ!
細々と、本当に細々と更新していきます。
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