ep.122 海中神殿
短くて申し訳ないです。
「綺麗な海だ」
今日は満を持してトゥーン海岸に訪れている。カミーユとリリーの許可を得て立ち入っている。かなり危険である可能性が高いので、両親とレブラントさんには城で待機して貰っている。レブラントさんはここぞとばかりに貴族や皇族とのパイプ作りに奔走しているはずだ。
それに対して俺の両親は慣れない城にビクビクするかと思ったけど、そんなことは全くなかった。今頃は部屋でのんびりお茶をしてイチャイチャしていることだろう。……もしかしたらまた弟妹が増えるかな?
「帝国が誇る自慢の海ですからね」
俺の隣で胸を張っているのは、もちろんカミーユだ。危険だから付いてくるなと言ったのだが、管理責任者だからということで付いてきたのだ。だが、俺にはカミーユがそんな真面目なやつだと信じられない。
「カミーユ、近いんだけど」
「あら、犬は主人の近くを離れないものよ。それに、放っておいたらごしゅ……アウルはすぐに別の犬を連れてくるでしょ?」
「いや、そんなことないから。というか、カミーユを飼った覚えもない」
と、俺が否定しているのに俺の婚約者3人は腕を組んで頷いている。俺はそんなに節操無しに見られていたと言うことか。ちょっとというか、かなりショックなんですが……。
本来ならば俺にこんなにもベッタリしてくる女性がいたら、ヨミやミレイちゃんが止めに入るのだが、相手が皇族ということもあってか止めに入ってくれない。
というより、ヨミはこの状況を楽しんでいるのかニヤニヤしている始末。ミレイちゃんも諦めたのか、カミーユとは反対側にくっつき始めた。
両手に花とはまさにこのことか……!惜しむらくは、みんながまだ水着ではないということくらいだ。これから魔物退治と欠片回収のため、普通に冒険するための服装にしている。
「さて、海岸にも着いたしさっそく始めますか」
気配を探ると、確かに海の中にたくさんの気配を感じる。それも、一体一体がそれなりに強い。近くの海だけでざっと100は余裕でいそうだ。
魔物がうようよしているあたりに雷魔法でもぶっ放せば一気に減らせる気がするのだが、そうしたらこの海の他の生物まで死滅してしまうだろうし、死体が浮いていてはこの海の絶景が損なわれてしまう。どうするのが正しいんだ……?
俺がやや思い悩んでいると、アルフとアセナが一歩躍り出た。
「主様、ここは私とアセナにお任せください」
「若様、今こそ修行の成果をお見せいたします!」
靴を脱いで執事服に裸足というやや変則的な格好になった2人は、ズボンの裾を少し折ってまくると、互いに視線を交わして一気に海へと走り出した。
海の中に突撃するのかと思いきや、2人は海にはいったというのになぜか沈まない。端から見れば2人は海の上に浮いている状態なのだ。
「……人間って水の上で立てるんだね。知らなかったよ」
「ご主人様、アルフレッド様は魔人でございます」
「うふふ、それを言ったらアセナは獣人ですね」
そっちじゃないんだが。いや、確かにそうなんだけどそうじゃないんだよ。
「どうやってるんだろう。俺にもできるかな?」
「若様、あれは人間ができるものではありません。あれはアセナが獣人だからマネできているだけなのです」
俺の呟きに答えてくれたのはウルリカだ。そういえばウルリカの歩法もアルフ直伝だったっけ。
「あれの原理を知ってるの?」
「……原理は簡単です。片足が沈む前にもう一方の足で水面を蹴っているだけらしいです。それを魔力で最大限にサポートすると、一見ただ立っているように見えるんだとか」
化け物かな?忍者も真っ青な理由にもはや言葉がないよ。にしても、アセナは本当に強くなったんだな。アルフについていっただけのことはあるだろう。アルフは未だに満足していないらしいけど。
そういえば、エゼルミアさんのことをすっかり忘れてたけどどうなったんだろう? 今回の遠征が終わったら聞いてみるとしよう。
と、いろいろと考えながらぼーっと見ていると、2人が海の上から戻ってきた。さすがに海の中の魔物を倒すのは無理だったのかな?
「主様、無事に終わりました」
「若様、いかがだったでしょうか!」
え?いつのまに終わったの? まだ魔物の気配が……ない。え、でもどうやって倒したの?というか、倒した魔物はどこへ行ったの?
「もちろん、魔物は私の亜空間に保管しております。いやはや、数が多くて倒すのに時間がかかってしまいました。いい準備運動になりました」
「足の裏に魔力を集めて超高速で海面を蹴り、魔物の脳のみを狙い撃ちして破壊しました。まぁ、若様からすれば容易いことかもしれませんが……」
アセナの俺への評価が滅茶苦茶に高いんだけど、誰がアセナにこんな入れ知恵を……。本気でやってアセナに勝てるだろうか?なんだか、執事よりも弱い主人って……いや、案外普通だな。というよりも、それが普通なのでは?なんなら俺農家の倅だし。執事がいること自体凄いことじゃないか。
「凄いじゃないかアセナ!頑張ったんだね」
「あ、ありがとうございます!」
強さは手に入れたのかもしれないが、精神的にはまだまだだな。ポーカーフェイスはかなりできているが、尻尾がもう。ね。はちきれんばかりにぶんぶん振られているもん。かわいいやつめ。
ちなみに、海の中にいた魔物はサメ型の魔物が多かった。確か名前がハングリーシャークとかいう、大食漢のサメだ。ヒレがかなり大きいから立派なフカヒレが作れそうだ。帰ったらフカヒレの姿煮を作ってみるとしよう。
そして、俺たちの目標としている場所は海の中にあるのだ。ハングリーシャークが異常なまでに集まっていた箇所が一箇所あったのだが、そこには神殿のようなものがあり、おそらくそこが封印の場所へと繋がる入り口なのだろう。
「ヨミ、あれを頼むよ」
「はい、任せて下さい――――アクアカーテン」
海辺にいた俺たちの周りに薄い膜がドーム型に形成されていく。これがあれば、海の中でも呼吸をすることも出来るし、ある程度行動が楽になる。昔は、そこまでの広さを維持することが出来なかったが、今となってはかなり広いドームが作れるようになっている。本当に流石と言うべきか、この2年間で恐ろしいほどの成長だ。
「よし、出発!」
俺たちは一路、海中神殿へと歩き始めた。
細々と更新していきます。
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おかげさまで、第8回ネット小説大賞で【金賞】を受賞することができました。本当にありがとうございます。活動報告にて表紙を載せておりますので、見ていただけたら嬉しいです。




