ep.120 白聖武器
僕は今、白武器とかいう高性能の武器が手に入る迷宮へと来ている。お供には仰々しいほどの装備を身に纏った団長が二人と、淫靡な服装に身を包んだシスターが付いてきている。このシスターは教会本部でも指折りの回復魔法の使い手だそうで、なんでも勇者である僕に一目会ってみたくて迷宮攻略に志願したらしい。
見た目も長い茶髪でやや金髪がかっているようにも見える。僕との距離感が近いうえに、故意にその豊満な胸を押しつけられているように思える。別に嫌ではないし男としては喜ばしいことだが、前世にも同じような輩はいたし、今の僕にはイシュタルがいるからな。今更これくらいのことで動揺したりはしない。
「それにしても、出てくる魔物の殆どがゴーレムなのですね」
「その通りです。そして稀にそのゴーレムが宝箱を落とします。その中に白武器が入っているのです」
魔物が宝箱を落とす。まるでゲームのような設定だけど、魔法が使える時点で今更だな。それにしても既に30体以上ゴーレムを倒したというのに宝箱を落とさない。
「言い忘れていましたが、宝箱を落とし始めるのは5階層より下からとなります」
騎士団長、それを早く言ってくれよ。まだ3階だというのにめちゃくちゃ倒してたじゃないか。まぁ、訓練にはなるし、魔法を実戦で使うのは初めてだから別にいいけどさ。それでも知っていればこんなにワクワクしなかったぞ。
この迷宮で出てくるゴーレムは僕の知っているゴーレムとは少し違う。ゴーレムと言えば岩でできた人形のような感じをイメージしがちだが、この迷宮のゴーレムは割と人間の姿形に近い。とはいえ、似ているのは見た目だけで、機動力や判断力は天と地ほどの差がある。材質も岩や土なんかじゃないみたいだし、魔物というのは本当に不思議だ。
「彼の敵を氷の槍で穿て、アイシクルランス!」
僕が詠唱するとともに掌から長さ80cmもある鋭い氷が飛び出していく。氷はド適性というほどの属性ではないが、四元素属性よりも上位にあたるためお気に入りなのだ。本当は雷属性を使いたかったが、あいにく僕に雷属性の才能はない。泣き言を言っても仕方ないので、氷属性をメインに鍛えて残りの適性属性も鍛えている。
魔力の扱いが上手くなれば片手1属性の合計2属性を同時に使えるようになるらしいので、今は訓練あるのみだろう。それにゴーレムは魔物だから倒せば倒すほど経験値が貯まってレベルが上がるはずだ。そうすれば魔力にも余裕ができるし、もっと強い魔法も使えるようになる。
「よし!どんどん行くぞ!」
その後も積極的にゴーレムを狩りながら進み、気づけばいつしか6階層へと到達していた。僕がどんどん強くなっているということと、団長たちが強いこと、シスターの回復魔法が優れていることが重なって驚くべき速さで迷宮を進むことができている。5階で出てきたボスも一回り大きいだけで、大したことはなかった。
そしてこの6階層からは宝箱がドロップし始めるそうだが、どれくらいの頻度で落ちる物なんだろう。個人的には武器は慎重に選びたいし、納得のいく物がでるまで諦めるつもりはない。
「ん?」
6階でゴーレムを倒していると、不思議な動きをしているゴーレムと出会った。他のゴーレムたちは僕たちを見つけた途端に襲ってきたが、あそこの壁際にいる奴だけは襲ってこない。明らかにこちらに気づいているのにだ。
襲ってこないのではなく、襲って来られない理由がある……? だとしたらどんな?
その答えを探そうと周囲の壁を見ていくと、その不思議なゴーレムの後ろの壁がなんだか嘘くさく見えた。色や質感は遠目に見ても一緒なのに、なぜか嘘くさく見えてしまう。襲ってこないゴーレムを切り捨ててその壁に攻撃してみると、思いのほか簡単に崩すことができた。
崩れた壁から出てきたのはやや小さめの鉄扉が1つ。
「これは、隠し部屋ですか?」
「……この迷宮に隠し部屋があるなど、私は一度も聞いたことがありません」
魔導士団長が今までにないくらい驚いている。騎士団長も声にはださないものの、信じられないといった顔だ。シスターだけは現状を把握できていないのか、頭にはてなを浮かべたままだが。
ということは、俺にしか判別できないなにかだったということだ。慎重に鉄扉をあけるとやや大きめの広間になっており、特に変わったことがない。油断せずに進んでいくと、開けておいたはずの鉄扉が独りでに閉まり、それと同時に奥から一体の馬鹿でかいゴーレムがでてきたのだ。
「気をつけろ!馬鹿でかいメタリックゴーレムだ!」
「20階層以上に出てくるやつが、なぜここに?!」
騎士団長と魔道士団長が珍しく慌てている。確かに今出てきたゴーレムは今までの物とは異質で、見た目も4mちかくあるうえに、体が金属でできているように見える。なにより、こっちに向かってくるスピードが段違いに速いのだ。
ガチャガチャ
「と、扉が開きません!」
「なに?!」
後ろに控えていたシスターが扉を開けようと試みていたが、なぜか開かなくなってしまっていた。これは俗に言うモンスターハウスってやつか?この馬鹿でかいゴーレムを倒さないと出られない仕様だろうな。他に出口はないみたいだし。だが、相手が金属で出来ているってんなら、倒すのは難しくないはず。
近くに落ちていた石ころを力の限りぶん投げた。避けられることはなかったが、当たった石は無残にも砕け散った。しかし、これで分かるとおり、メタリックゴーレムに物理攻撃は有効ではない。が、金属には致命的な欠点がある。
「魔道士団長、僕が氷魔法で攻撃したあとすぐに火魔法で攻撃して下さい!なるべく火力の高いのでお願いします!できればその交互の攻撃を10回くらいやりましょう!」
「どういう意図があるか知らんが、心得た!」
それじゃあまずは僕からだ。
「この世界を揺蕩う氷の精よ、我が敵に暴風雪の戒めを! ブリザード!」
この魔法は僕が独自に考え出した魔法だ。呪文を改変することで普通のブリザードの倍の威力を出せるようになったのだ。まぁ、少し恥ずかしいから本当は呪文詠唱はしたくないのだが、今の僕に無詠唱をする技術はない。これから練習あるのみだ。
そして吹き荒れる暴風雪のおかげでメタリックゴーレムの表面がどんどん凍っていく。動きを止めることは出来なくても鈍らせることは出来た。その直後にタイミング良く魔道士団長が火魔法を唱える。
「聖なる炎よ、彼の敵を浄化せよ! 聖なる火焔!」
やや白っぽい綺麗な炎がメタリックゴーレムを包み込む。それが終わると同時にまた氷魔法を発動した――――
――――当初は10回程度で倒せると考えていたが甘かった。僕と魔導士団長に近づけないように騎士団長がメタリックゴーレムをひきつけ、その間に魔法攻撃をたたき込むことおよそ20回。意味がないかと諦めかけたときに、そのときはやっと訪れた。
ピシィッ!
堅牢なメタリックゴーレムだったが、熱疲労破壊には勝てなかったということだ。その馬鹿でかい体故に時間がかかったが、やっと熱疲労で体にひびが入ったのだ。いかに堅牢な体とはいえ、ひびが入ればこっちのものだ。今まで耐え凌ぐだけだった騎士団長がこれを見逃すはずもなく駆ける。
騎士団長本気の一撃。はっきり言って化け物だった。僕は動体視力に自信があったのだが、何も見えなかったのだ。気づけば騎士団長の剣がメタリックゴーレムに突き刺さっており、メタリックゴーレムはとうとう動きを止めた。
「か、勝ったのですね!さすが勇者様です!」
ずっと騎士団長の回復を頑張っていたシスターが喜びまくっている。ふむ、最初はあまり興味はなかったけどこの子もなかなかに可愛い。特にこの無邪気なところとかね。前世の女たちはみんな僕を見る目に下心があったけど、こうまで純粋だとなんだか毒気が抜かれてしまった。イシュタルに頼んでこの子も仲間にしてもらおうかな?僕は回復が使えないし、この子がいれば何かあったときに助かる確率も上がる。
「いや、君のおかげでもある。えっと、そういえば名前を聞いていなかったね」
「はい、私はアリーシャと言います!」
「アリーシャ、とても可愛い名前だ」
「はうぅぅ~……」
なかなかにチョロい。ちょっと優しくするだけで落ちるとは。だが、純粋で可愛いのは確かだ。今も顔を真っ赤にさせて照れているしな。
「オホン!勇者様、メタリックゴーレムが宝箱を落としましたぞ」
「いまいくよ」
騎士団長に言われてメタリックゴーレムがいたところを見ると、真っ白い宝箱が置かれていた。白一色で安っぽく見えるはずなのに、この宝箱からはなにか特別な何かを感じる。
宝箱を開けると、底には真っ白な金属塊が1つだけ入っている。
「あれ、武器じゃない?」
不思議に思いながらもその金属塊を取ると、急にそれが光り出した。それも目を開けているのが難しいほどの眩い光だ。
光が収まるのに何分経っただろうか。確実に5分は経過したと思うが未だに光り続けている。さらに待つこと5分でやっと光が落ち着いた。
僕の右手にあったのは金属塊ではなく、純白に輝く一本の刀へと変貌を遂げていたのだ。
「……白聖武器」
「え?」
魔導士団長がぼそりと呟いた。
「普通の白武器は最初から武器の形をしているのが常識ですが、持ち主に合った形に変化する白武器があると文献で読んだことがあります。その武器は白武器の性能とは一線を画すほどの性能を持っていると書かれておりました。その記述から察するに、その白武器は白聖武器と呼ばれる物に違いありません」
白聖武器、か。勇者たる僕にとっては出会うべくして出会った一振りに違いない。
「……うん、なぜか凄くしっくりくる。まるで今までずっと使い続けていたような感覚だ」
これで最強の武器は手に入った。あとは、レベルを上げることと防具を手に入れることだな!
◇ ◇ ◇
一方その頃。
「ルナ、このお菓子はどうかな?」
「はい、とっても美味しいです!それにしても、私だけ一人で頂いてよろしいんですか?」
「いいんだよ。最近ルナとはあんまり2人でいられなかったからね」
俺は今、王都の家でルナと2人で『お家デート』というものをしている。アザレ霊山で獲れた果物を使ってお菓子を作って食べているのだが、昼下がりにのんびりと好きな人と食べるお菓子というのは乙なものだな。
「ふふふ、我慢した甲斐がありました!」
「我慢させちゃって本当にごめんね」
「いえ。確かに寂しいと思うこともありますが、ご主人様と同じくらいにみんなのことも好きなので」
ルナは家族が戻ってきてからというもの、一皮むけたと言っていいほど精神的に成長している。まだ10代だというのに、余裕というか落ち着きが凄いのだ。だからこそ、その余裕を崩してみたいと思うんだけどね。
「ルナ、2人きりなんだからそんな堅苦しい呼び方はしないでよ。それに、俺のことはみんなと同じくらいなの?」
「うぅぅ……ア、アウルが一番好きです……!」
え?可愛いが過ぎるんだが。たしかに余裕を崩したいと言ったけど、ここまで真っ赤になるんですか?というか、何気にアウルって呼ばれたの初めてじゃないか?
「……尊死するかと思った……」
「アウル、あーん、して?」
?! ルナが自分から甘えてきた?! 一体何が起こっているんだ!? いや、ここで焦っては駄目だ! 落ち着け、おちちゅくんだ! あぁ、頭の中で噛むとはどういうことだよ!
「あ、あーん」
パクリ
ルナが俺の差し出したクッキーを一口で食べた。俺の指と一緒に。
「えへへ、とっても美味しいです」
クッキーの話ですよね?なんかもの凄く丹念に俺の指を舐めたけど、クッキーの話だよね?!
「そ、それは良かった」
まずい、心の臓がうるさくビートを刻み始めている。未だに俺は未成年とはいえ13歳。レベルのおかげもあって体のほうはかなり成長してきている。そんな俺にこの仕打ちはもはや生殺しでは……
「次はアウルの番です、あーん」
「あ、あーん」
恥ずかしすぎて目を閉じてしまった。だってルナの「あーん」の顔可愛すぎるんだもん!
さくっ ふにっ
んん?今、唇にやわらかいものが……
思わず目を開けると、ルナの唇にクッキーの半分が残されている。そしてもう半分は俺の口の中だ。つまりどういうことだ?
「ふふふ、アウルはとっても甘くて美味しいです」
つまりはそういうことらしい。
このあとも、2人でめちゃくちゃ甘いクッキーを食べた。
細々と更新していきます。
評価・ブクマ等して貰えたら嬉しいです。
おかげさまで、第8回ネット小説大賞で【金賞】を受賞することができました。本当にありがとうございます。活動報告にて表紙を載せておりますので、見ていただけたら嬉しいです。




