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ep.12 ランドルフ辺境伯

えー、こちら現場のアウルです。今私はこの辺一帯を治めているランドルフ辺境伯の豪邸にお邪魔しています。


そして、ミュール夫人に頭を踏まれて喜んでいる変た・・・もといランドルフ辺境伯が私の目の前にいるというのが今の状況です。


「ごめんなさいね、ラルクさん、アウル君。我が家の変態が大変な失礼をしたみたいで。いつもはしっかりしてるんだけど、ちょっと先走って勘違いして盛大にやらかすことがあるのよ。本当は悪意なんてないのよ?ただランドルフ領のことを思ってのことなの。そこだけは分かって頂戴ね。さて、落ち着いたところでお茶にしましょうか」




どうしてこうなったかというと、時は3時間ほど前に遡る。





遣いの騎士達に連れられて、ガタゴトと馬車を乗ること10時間くらいだろうか。尻がそろそろ限界を迎えようとしたところで騎士からもうすぐ着く旨を伝えられた。


「あと少しすればランドルフ辺境伯の屋敷が見えてくるぞ。そろそろ準備をしておけ」


そして、本当にすぐ屋敷へと到着した。印象は控えめに言って大豪邸。屋敷だけで我が家の30倍は軽くあるだろうか。というか、ペット小屋と思われる建物にさえ我が家は負けている気がする。・・・住む次元が違うというのはこういうことを言うのだろう。


べ、別に羨ましくなんかない。ないったらない。



騎士の後ろをついて行きながら屋敷の中に入ると、何人かのメイドさんが働いていた。


「俺の役目はここまでだ。暫しここで待て」


よく見ると、猫耳の生えている者や犬耳のメイドさんもいた。生まれて初めて見る獣人にテンションが上がりそうになったが、辺境伯の屋敷ということで鋼の意思でポーカーフェイスを貫き通した。




・・・もふもふしてぇ。


はっ?!危ない危ない。クインも首回りはもふもふしているが、それとは違うあのピコピコ動く耳に俺の中の熱い何かが揺さぶられている。ポーカーフェイスだ。


・・・もふもふしたら気持ちいいんだろうなぁ。


はっ!!?



ふむ、俺にはポーカーフェイスはまだ無理なようだ。それに俺はまだ6歳。何をしても許される年頃じゃないか。思う存分、視姦させてもらおう。


何の気なくチラリと父を見ると、視線が揺れている。その先には可愛い耳と尻尾。



この親あってこの子ありとはまさにこのことだろう。遺伝というのは誠に恐ろしきものなりけり。


今不明な言葉を使ってしまった。落ち着かねば。



「ほっほっほっ、獣人が珍しいですかな?」



突然背後から声がしたので、驚いて振り向くとそこにはいかにも執事然とした人物が立っていた。


見た目はいかにも好々爺といった感じだが、こちらを見定めるような意思が瞳の奥に見て取れる。そんなことをこちらが察知したのを察知したように品定めのような視線がなくなった。


というか、気配無く俺の背後に立ったというのか?空間把握に気配察知を念のためにと発動させていたにも関わらず、一切感知できなかった。


もしこれが戦場なら何で死んだのかも分からずに死んだだろう。背中に冷たい汗が流れるのを感じながらも、至って平然そうに振る舞うのを忘れない。


親子2人して驚いていると、流れるように執事が自己紹介を始めた。


「私の名前はジモン・ローランと言います。この屋敷の執事長兼旦那様の秘書をやっております。以後お見知り置きを」


・・・セバスチャンでは無いらしい。ちょっと期待してしまっていただけに、勝手に裏切られた気分だ。


「えっと、俺、私の名前はラルクと、言います。こいつが私の息子のアウルと言います。よろしくお願いします」


父が代表して挨拶をしてくれたが、念のためにと俺も挨拶をする。


「本日はお招きありがとうございます。私はラルクの息子、アウルと言います。以後、お見知り置きを」

・・・・執事さんと父がぽかんとしているが、何か変だっただろうか?


挨拶を終えた後、不意に執事さんから圧力のこもった視線を向けられたが、何を喋ればいいかわからないのでとりあえずニッコリと子供らしく笑っておいた。隣で父が顔を青くして震えていたが、そんなに緊張しているのだろうか?



執事に連れられ屋敷を進むと、いかにも応接室と言った感じの部屋に通された。


「ここで少々お待ちください」


執事が出ていくのと同時にメイドが入ってきて、紅茶とお菓子を出してくれた。しかもこのお菓子がクッキーだったのには驚いた。が、この部屋を監視するように何人かがこちらを影から伺っているのがすでにわかっているので、子供っぽく振る舞うのを忘れない。


「お父さん、このお菓子も紅茶も美味しいね!」


「ん?あ、あぁそうだな。美味いな。それにしてもアウルは堂々としてるな・・・。父さんなんか緊張して手がビッチョリだよ・・・」


その後も適当に紅茶を飲んだり、クッキーを食べながら待っていると40分くらいしたところで体格の引き締まったダンディな男が入室してきた。見た目は35歳くらいに見えるが実年齢はもっと上だろうと思わせるほどの覇気を纏っている。


「遅くなってしまい申し訳ない、先のスタンピードの後処理に追われておってな。もうわかっているとは思うが、私の名前はランドルフ・フォン・アリステル、辺境伯の位を拝命している。ざっくりとした話は聞いている。お主がラルク、その隣の童がアウルじゃな?面倒な前置きは好かんので本題に入らせてもらうぞ。お主らを呼んだのは他でもない、先のスタンピードについてだ。最初の発見者は、お主ら2人と村長から聞いておるが、間違いないか?」


「はい、間違いありません」


「で、あるか・・・。ちなみにどうして魔物が大量に迫っているとわかったのか教えてもらってもいいかの?」


鋭い目線で睨まれるものの、事前に決めていたので父は淀みなく答えていく。


「はい、あそこの森では基本的に強くてもツリーディア程度の魔物しか出ないはずなのに、隠密熊やオークナイト、グレイウルフといった凶暴な魔物が数多く森の奥に見えましたので、たたごとではないと思い村長に報告した次第です」



「ふむ・・・。筋は通っているが、何か釈然とせんな。其の方は農民であろう?何故、息子を連れて危険な森の中にいたのだ?」


「はい、緊急用の薬草が切れていることに気づいたので息子に薬草採取を経験させるついでに森に入ったのです」



筋は通っている。が、どこか納得できないランドルフは、この親子が何か隠しているのではないかと疑っていた。


(ここいらで一回揺さぶりをかけてみるか)


「本当はお主らが、スタンピードのきっかけを起こしたのではあるまいな?」


「滅相もありません!そんなことは絶対にありません!創造神様に誓って!」


(これは本当に違うようだな。・・・まさか息子の方が何か隠しているのか?)



「そういえば報告では、今回スタンピードの被害はほぼゼロに近いらしい。これは今までにない快挙であるが、魔物が1番集まっていたところを中心に戦略級の雷魔法が使われたらしい。坊や、何か知らないかい?」


父が驚いたようにこちらをみる。そう、見てしまった。

(こんの脳筋ゴリラのアホ・・・!)



(やはり、父親ではなくこの息子が何か知っているらしいな。・・・まさか、この子供が?いや、さすがにそれはない・・いや待て。最近ミュールのやつが、底の見えない子供がいたと言っていたな。あのミュールがだ。確かそれはオーネン村・・・こいつなのか?)


「いえ、私は怖くて隅っこで震えていました」


「それはおかしいな、誰も君を村長宅で見ていないと聞いているぞ?」


「本当に隅っこに隠れるようにしていたからでしょう」



(ふむ、カマをかけてみようかね)

「坊や、本当は君が村長宅ではなくではなく森の中にいたという報告は聞いているのだよ」



なっ!?


「何か知っているんだろう?」


急にかつて感じたことがないほどの圧力を感じた。いや、強いて言うならあのめちゃくちゃ大きかった隠密熊 ※(本当は暗殺熊)と相対した時並みの圧力だ。父は隣で青くなっているので使い物にならない。こんな時こそしっかりしろよ脳筋ゴリラめ。


諦めて白状しようと思ったその時、急に扉が開け放たれた。そこにいたのはレブラントさんと一緒に村を訪れた絶世の美女。ミュール夫人だ。



「これミュール、今はまだ大事な話をしているところ「だまらっしゃい」・・・はい」


「あなた、こんな子供に威圧を使ってどう言うつもりかしら?」


「えっとだな、この子が何か知っているんじゃないかと思ってな・・・」

言葉はどんどん尻すぼみになっており、最後の方はほとんど聞こえなかった。


「どうせまたカマでもかけていたんでしょうけど」


ぎくっ


「なんの根拠もないあなたの勘なのでしょう?」


ぎくぎくっ


「・・・踏んであげるからそこになおりなさい」


まるで淀みなく流れる川のように地べたへと伏せた領主はミュール夫人に踏まれて嬉しそうにしている。さっきまでの威厳などどこにもなく、ただの1匹の変態がそこにいた。





こうして冒頭に戻るのだ。


「それにしても、今回のスタンピードは被害が少なくて本当に良かったわ。不可解なことがたくさんありすぎて調査に時間がかかるでしょうけど、とりあえず安全は確認されたので安心していいわ。良かったわねアウル君」


「え、あ、はい!良かったです!」


(この人・・・おそらく俺がやったと確信してるんじゃないか・・・?それなのに、辺境伯に伝えるそぶりがない。何を考えているんだ?)


「時にアウル君、君は魔法が使えるわよね?」


「えっと、はい。少しだけですが」


「ふぅん・・・そう。そういえばクッキーは美味しいかしら?最近王都でも流行っているお菓子なのよ?出回っている数が極端に少ないから手に入れるのには本当に苦労したわ」


・・・明らかに俺に向けて言ってきている。


まだ確信はないのかもしれないが、ほぼ確信しているのだろうな。でなきゃこんなにピンポイントで色々聞いては来ないだろう。


俺は両手を軽く上にあげて降参ポーズをしながら会話を続けた。

「そうらしいですね、レブラントさんももっとクッキーが仕入れられたらなぁと愚痴っているのを聞きました。でもなかなかに入手が難しいみたいですね」


「うふふふ、そうみたいなのよ。なんとかならないものかしらね。もっと手に入ればいいのだけれど」


「もし、直接買うことができればそれも可能かもしれませんね〜」


「では今度またレブラントに付いて行ってみようかしら」


今の会話を要約するとこんな感じだ。


ミュ「クッキーもっと食べたいからたくさん作ってくれない?」

アウ「たくさんは作れませんよ」

ミュ「私に直接売ってくれないかしら」

アウ「わかりました」

ミュ「レブラントと一緒に行くわね」


と言う感じだ。



・・・なんだか面倒臭い人に見つかった気もしないでもないが、これを機に貴族のツテを作ってしまおうと計画するアウルであった。そしてミュール夫人もアウルとの仲を確実なものにするために、旦那を黙らせようと決めたのだった。

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[良い点] 面白いけど主人公が頭悪すぎる 笑
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