ep.119 迷宮攻略⑦
今日はまたまた王都にあるNo.4迷宮へと来ている。メンバーは以前と違って、ウルリカ・ムムン・ネロの3人である。前に約束した迷宮攻略の後半組と一緒にやって来たわけだ。
本当はアセナも誘おうかと考えていたのだが、またアルフに連れられて修行の旅に出ている。どこを目指しているのかは分からないが、あれだけ強くなっても満足しないアルフは流石だと思う。
しかも裏でこそこそなにかやっているみたいだし、本当に近いうちに話を聞かないといけないな。
「若様、はやく参りましょう、素材が待っております!」
ウルリカが乗り気だ。今日の目的はこれと言ってない。強いて言うなら新しい階層にいくことと素材の確保だ。だが、ウルリカがあそこまで乗り気なのは、その素材をどうするかを考えているからだろうな。あそこまで目がキラキラしたウルリカを見たのはいつぶりだろうか……。なんだか、意地悪してしまいたくなってしまう。
「そうだね。あ、素材は実験に使うから俺が預かろうかな?」
「え……」
うわ、びっくりするぐらいテンション下がっちゃった。なんというか、本人は気づいてなさそうなのがまた凄い。ムムンとネロに関しては隠れて小さく笑っているし。
「と思ったけど、素材は前回で集めたんだった。今回の分はウルリカからレブラントさんに売ってきてもらって良いかな?」
「はい! 若様の命とあらば仕方ありません! 私にお任せ下さい!」
手を胸に当てて嬉しそうにしているが、掌を返したように元気になったな。なんというか、今までクールキャラだったのに急にこんな感じになられると違和感が凄い。そして、それ以上にもっとからかって遊びたい衝動に駆られてしまうのだ。しかし、その衝動をぐっと抑え込んで迷宮を進む。
今日は前回同様に、41階の墓地エリアからのスタートだ。
道中ではもちろんグールやスケルトンといった魔物が出てくるが、ムムンとネロが息の合ったコンビプレーで次々に倒していく。ムムンは雷属性にしか適性がなかったが、ルナ直伝の魔法をたくさん教えてもらっているため、かなり強い。グールも雷の熱量を使って倒しているのが良い例だろう。結構魔力を使っているようにも思えるのに、かなり元気そうに見える。もしかしたら魔力が高いのかもしれない。あとで、みんなのステータスを確認しておくとしよう。
ちなみに、ムムンとネロは仲が良い。歳が近いと言うことといい、単純に波長が合ったのだろう。ネロの黒武器は鉤爪という珍しい形だそうで、かなりぼったくられたそうだ。それでも本人があれがいいと譲らなかったそうなので、ルナとヨミが買ってあげたらしい。今では鉤爪に火属性を纏わせて闘うほどに成長している。
もともと獣人ということもあって、その武器による攻撃はかなり堂に入っている。それに合わせるようにムムンの越王勾践剣が舞い踊る。元々不安要素であった体捌きや足運びも、この2年間でかなり良くなった。アルフとはまた違った歩法なのは、きっとムムンが自らに合った歩法を編み出したからだろう。
ウルリカも負けじと魔物へと向かっていくが、適正属性が水と氷のため相性が悪い。魔物を凍らせることはできても倒すのは至難である。そのせいでムムンとネロに置いて行かれたのだ。しまいには素材を確保できなくて泣きそうな顔になってきているではないか。
あれだけクールキャラだったのに、最近になって急に女の子らしさが出てきた。やはり、恋というのは人を変えてしまう魔力を持っているに違いない。
3人の共通点は、グールやスケルトンを恐れていない。前の3人はこの墓地エリアが苦手そうだったのに、今回の3人は全く怯む様子がない。
「そういえば、何かを忘れているような……」
敵として出てくるスケルトンを見ていると、何かを忘れているような気になってくるのだがそれが何か分からない。スケルトンに思い出などないのに、なぜかモヤモヤする。
モヤモヤしたまま迷宮を進み、ボスのいる階層に着いたところでモヤモヤの正体を思い出した。
「あぁっ!ノーライフキングに会いに来るって約束してたんだ!」
そうだった。猿に絡まれたり雪崩に巻き込まれたりで、すっかり忘れていた。スケルトンをみてモヤモヤしていたのはそういう事だったのか!
「若様、どうかされたのですか?」
ムムンに心配されているが、別段問題ないはずだ。いくら強大なノーライフキングと言えど、聖属性の前では無力に等しい。
「いや、問題ないよ」
『問題おおありだ!』
ボス部屋の奥から声が響いてくる。もちろん、以前聞いたことのある声である。
「やぁ、久しぶりだね」
『うむ、久しぶりだのう!……ではなぁい!来るのが遅いではないか!約束はどうしたのだ!我、優しいけどちょっと怒っちゃうぞ?!』
うーむ、やっぱりその話題になるよね。あれ、でも……
「いやいや、ここに次来るのは次の階層のボスを倒したらって話だったはずだよ。そして、俺はまだ倒してないから問題ないよ」
『ぬ……?確かに、そのようだな……。いや、だとしても遅すぎる!連絡くらい寄越してもバチは当たらんと思うが?!』
ちっ、騙されてはくれないか。確かに前回から10日くらい経っているからな。ノーライフキングの言うことも間違っていない。
「まぁまぁ、落ち着いてよノラさん」
『む……なんだ、そのノラさんというのは』
「あぁ、ノーライフキングって長いでしょ?だから、分かりやすく名前を付けてみたんだ」
『ノラさん……。う、うむ。別に我に名前など不要であるが?!お主がどうしてもと言うのならば、その名前をも、貰ってやらんこともないぞよ?!』
あれ、急に分かりやすいくらい嬉しそうにしてる。そんなに名前を付けられたのが嬉しかったのかな?でも、こんなので誤魔化されてくれるとか、なかなかにチョロい。
「喜んでくれたみたいで良かったよ。それで、前回俺と話したい事があるとか言ってたけど、今でいいなら聞くよ?」
ウルリカとムムンとネロはいまいち状況が掴めていないのか、よく分からない顔をしている。ただ、何があってもすぐに動けるように武器に手をかけているのは流石だな。
『う、うむ。いや、頼みたい事があったのは確かだがもういいのだ!わははは、今日は気分がいい。我は【ノラさん】である!』
有頂天、とはこのことかな。しかも、なんか勘違いがある気がする。ノラさんのさんまで名前だと思ってるのか?いや、もう敢えて何も言うまい。
「喜んでくれて何よりだ。じゃあ、俺たちは先に行くよ」
『うむ!我も少しだけやることがあるからな!礼を言うぞアウル!』
「うん、またねノラさん」
長い間こんなにジメジメした所にいたら気が狂っちゃうよな。しかも、ここまで深層に潜ってくる人はいないらしいし、いい刺激になったのかもしれない。ノーライフキングは喋れるほどに賢い魔物らしいし、尚更だろう。
それにしても、ノラさんに俺の名前って言ったっけ……?
次の階層へと降りると、前回見た雪山があった。ネロとムムンが雪にダイブして遊ぶと思ったが、現実は違った。
「さ、寒いです……」
「凍えそうですにゃ……」
猫はコタツで丸くなると言うけど、ネロがムムンと抱き合って丸くなっている。可哀想なので、「エアヒーター」を使ってあげた。これで動けるようになるはずだ。
「あっ、あったかいです!」
「きもちいですにゃ……」
よかったよかった。ウルリカにもヒーターを掛けようとしたけど、本人は寒くなさそうだ。流石は水と氷に適性があるだけあるな。だけど、よく見ると足元が震えているようにも見えるので、「エアヒーター」を使っておいた。うん、心なしか顔に余裕が出てきているな。
前回は足元の悪い雪山を馬鹿正直に登ることで修行の意味も込めていたが、今回はそれをするのをやめた。前回のように雪崩が起こっても嫌なので、今回は空から行くことにした。
空にはスノウワイバーンがいるが、こちらも空にいれば氷塊を落とされることは無いので、魔法で撃退できるという寸法だ。ただ、この作戦には難点がある。それは、俺が空を飛ぶと気を失ってしまうという体質だ。
「いや、若様のあれは体質ではなく、単純に極度に空が嫌いなだけでは?」
ウルリカがうるさいので華麗にスルーしておく。
空を飛ぶのは体質が許さないが、空を跳ぶことならどうだろうか?という結論に至った。そこで生み出されたのが、身体強化と風属性の魔法を複合して作った魔法である。
「大気跳躍」
これは空気を蹴るとか空中で二段ジャンプができるような優れものではなく、単純に超絶ジャンプ力が底上げされる魔法なのだ。
しかも、自分だけではなく他人にも付与できるという機能付きだ。この魔法のおかげで一回の跳躍で400mくらい進むことが出来る。もはやこれは飛行と遜色ないが、あくまで跳躍だ。だから、俺の特殊体質も邪魔をしない。
もちろん跳躍中にスノウワイバーンと出くわしたが、ムムンが雷魔法で先制攻撃を仕掛ける。
「雷撃!」
ムムンの手から何本もの雷が発生し、そのすべてがスノウワイバーンへと直撃していく。なすすべのないスノウワイバーンは次々と撃墜され、あっという間にいなくなってしまった。
「ムムン、ルナにも負けないくらい雷属性を使いこなしているね」
「ありがとうございます!でもまだまだルナ様には敵いませんよ~」
お世辞でもなんでもなく単純に褒めたのだが、そうとは受け取らなかったのかな?それとも、本当にルナのほうが凄いのだろうか。最近ルナが魔法を使うところを見ていないし、ちょっと気になるところだ。第一の封印のときも、戦ったのは俺とヨミだったしね。
大気跳躍のおかげですぐに雪山を攻略した俺たちは、その調子でどんどん他の階層も攻略し、今はボス部屋の前にいる。ノラさんの事前情報が正しければ、ここのボスは氷結猿とかいう魔物で、大群だと言っていた。
数が多いということは、一体一体の強さは下がるはず。大魔法で攻めるのが正解だろうが、ここは3人のお手並みを拝見と行こうかな。
「ここのボス戦は3人に任せるよ。もし危なそうだったら俺も参戦するからさ」
「「「はい!」」」
ウルリカが後衛でムムンが中衛、ネロが前衛という編成でいくらしい。さてさて、どう戦う?
扉をあけると、ちょっとだけ小高い15mくらいの雪山があり、数えきれないほどの氷結猿がいる。体長は1mくらいで見た目は猿そのものだ。ただ体毛が全部白いということ以外は。そして、その頂上には明らかに他の氷結猿とは違う魔物がいる。体毛もやや青みがかっており、体長も2m以上あるように見える。
ウキィイーーーーーーーー!!
そのボス猿の掛け声とともに、戦いの幕が切って落とされたのだ。
手下の猿たちは我先にと俺たちに向かって迫ってくるが、ムムンがそれを許しはしなかった。
「サンダーレイン!」
ムムンが発生させた雷の雨が氷結猿へと降り注ぐが、いかんせん敵の数が多いせいで完全には防げない。その漏れた敵をネロが炎を纏った鉤爪で討伐している。このままいけばこちらの勝ちだが、氷結猿の数が多すぎて倒しきる前にこちらが疲弊してしまうのは明白だ。ボス猿もそれが分かっているのか、いまだに余裕の表情だしね。さて、ウルリカはどうするかな?
「あのボス猿の毛皮を使ってコートを作ったら、レブラント様は喜んでくれるかしら……」
おおっと、想像の斜め上を行くことを考えていた模様です。恋は盲目とは言いますが、この状況でもレブラントさんのことを忘れないとは。これはもしかしたら俺より先に結婚してしまうんじゃないか?
「ムムン、ネロ!そのまま雑魚を減らしておいて!私は、あの毛皮……ボス猿を倒します!」
「わかった!」
「わかったにゃ!」
クレイモアを携えてなにやらぶつぶつと呪文を唱え始めたけど、なにをする気なんだろう。しかもクレイモアにどんどん水が纏わりつき始めて、今では水の剣のように見える。
「一刀両断 水ノ太刀!」
油断すれば見えないほどの速さで振り切ったクレイモアから、弧を描くように水が敵めがけて飛び出した。その水に触れた氷結猿は特に変わった様子もない。俺の目にも特に変わったように見えないんだけど……。
ズルリ。という効果音が正しいだろう。
弧を描いた水が通り過ぎ場所から、斜めにずれたのだ。あっという間にボス猿までの道が出来上がった瞬間である。その一瞬を見逃さないようにウルリカは走り出して、ボス猿へと接近していく。
「私のために、あなたの毛皮をいただくわね」
基本的に迷宮では魔物を殺しても素材をドロップすることはない。逆に言えば死にさえしなければ、素材を取ることが出来る。毛皮を剥ごうと思ったら、かなり大変なはずなのだが、ウルリカの手際はその限界を超えているように感じた。
ボス猿も一瞬過ぎて何が起こったか把握できなかったはずだ。目の前でウルリカが手を振ったと思ったら、自分の毛皮が剥がれたのだから。
そして、クレイモアで心臓を一突きにして絶命。まさに一瞬の出来事だった。正直俺の目にも全く見えないほどの早技。本当に愛の力というのは恐ろしいな……。
ボス猿が倒された瞬間に他の雑魚たちはスゥっと消えたのだ。ここはあのボス猿を討伐するのが攻略のコツだったようだな。
「若様~、無事に毛皮を手に入れられました~!」
顔半分に血をべっとりとつけながらもにこやかに笑うウルリカが、とても猟奇的な女性に見えた瞬間だった。
細々と更新していきます。
評価・ブクマ等して貰えたら嬉しいです。
おかげさまで、第8回ネット小説大賞で【金賞】を受賞することができました。本当にありがとうございます。活動報告にて表紙を載せておりますので、見ていただけたら嬉しいです。
あ、コミカライズ企画が進行中だそうです!




