ep.110 2年間の成果と帰郷
今はオーネン村へと帰るために馬車に乗っている。御者はヨミがやってくれている。馬車を曳いているのはベヒーモスのヴィオレだ。一般的な馬と同じくらいの大きさに姿を変え、力いっぱい曳いてくれている。クインは楽しそうにヴィオレの頭の上で御者の真似をしている。とっても可愛いです。はい。
そして、今乗っているこの馬車はただの馬車ではない。普通の馬車だと、力強いヴィオレの牽引に耐え切れずに車軸がすぐに壊れてしまったのだ。金貨100枚もする立派な馬車を買ったのにもかかわらず、ものの数㎞走らせただけで、だ。さすがに悲しかったが、それ以上にヴィオレのオロオロした姿が可愛かったのは、今では笑い話である。
馬車を買おうにも、ベヒーモスに曳かせることを前提とした馬車などあるわけがない。ということで、一から作ることにしたのだ。まず壊れる原因としては、車軸がもたないということと、曳く速度が速すぎて車体が跳ねてしまうせいで車輪も壊れてしまうのだ。
ヴィオレがゆっくり走ればいいのだが、もともとの馬車の乗り心地が悪かったということもあったので、作るということになった。
木製の車輪と車軸では限界があるので、金属製のものへとすることにしたのだが、鉄で試作してみてもヴィオレの牽引には耐え切れなかった。ガルさんにも協力を頼んでみたのだが、車軸にアダマンタイト、車輪にミスリルを使うという暴挙に至った。ついでと言わんばかりに、板バネを採用して揺れも防いだ。
ガルさんは作る材料を聞いたときに卒倒しかけたが、何度も説得することでなんとか了承を得た。きっと今頃は美味しくワインを飲んでいることだろう。……いや、別に誰の造ったワインとかは関係ないのだ。
作り始めて一週間でおおよその外観が完成した。内装に関してはすでにフカフカのソファーを作ってあったので、それを設置するだけだ。出来上がった馬車は、どちらかというと幌の付いた大きめの荷馬車みたいな感じになってしまった。だがまぁそれも悪くないだろう。
「ご主人様の作ったこの馬車、とっても快適です!お尻が痛くならないなんて今まで考えたこともありませんでした!」
「ランドルフ辺境伯様の馬車に乗ったことがあるんだけど、お尻が痛くなったのを覚えていてね。せっかく作るんだからそれも改善してみたんだ」
そのおかげでかなり快適な馬車になった。リリーの乗っていた馬車もかなり良かったけど、もしかしたらこっちのほうが高性能かもしれないな。これは売ることもできないし、基本的に使わないときは収納にしまっておこう。
「ご主人様、メイド部隊を王都に置いてきてしまいましたが、王都にはもう戻られないのですか?」
「ふふふ、やっぱり気になるよね。でも心配いらないよ。この二年間の研究のおかげでその問題は解決したから」
「研究……それは学院でしていたという魔法陣のことですか?」
「そうだよ。すでに王都の家には魔法陣を刻んだミスリル盤を設置してきたんだ」
「ミスリル盤ですか……。なんだか贅沢な使い方ですね」
「そうだね。でもそれくらいのメリットがあるんだ」
俺が学院で研究したうちのひとつに魔法陣がある。俺が研究したのは『転移魔法陣』である。アルフやレティア、グラさんの協力のもと、試行錯誤の末に完成したのだ。転移魔法は使えないが、転移魔法陣を刻んだミスリル盤を二枚用意することでそれを可能にした。
魔力を大量に消費するため、一日に一回か二回しか使えないが、それでも王都とオーネン村間の転移が可能となったのは奇跡に近い。ミスリル盤は1m×1mの大きさで、その盤上にあるものをもう一枚の盤上に移動できる。
正確に言うと、実はこれは転移魔法陣ではない。盤上にあるものをもう一枚の盤上のものと交換できるというものだ。転移先のミスリル盤の上の物と、乗っているミスリル盤上の物が入れ替わるため、転移先の盤上の上に物があれば、交換するように移動することができる。なにも乗っていなければ自分だけが移動することができる代物なのだ。
これを便宜上、転移魔法陣としている。
「なるほど……。それって普通の転移魔法よりも有用ではないですか?」
「使い方次第だよ。使う魔力が多すぎて、俺かルナ、ヨミくらいしか使えないからね。メイド部隊の子たちだと、ギリギリ一回移動できるくらいだと思う」
あとはこのミスリル盤を家に設置すればいいだけだ。他にも研究して作ったものや、分かったことがあるが、それは追々みんなに説明しよう。まだ確証もないから検証してからだ。
「ふふふ、楽しそうなところ申し訳ありませんが、村に着きましたよ」
おお、ヴィオレの牽引が速すぎてあっという間についてしまったみたいだ。馬車を収納してヴィオレには一度亜空間に入ってもらった。別に問題はないだろうが、念のための処置である。ヴィオレがいないため、クインは俺の頭の上に移動した。やはり可愛いです。はい。
久しぶりに帰ってきた村は、以前帰ってきたときのままだ。門のところには俺が設置したゴーレムが立っている。周囲に建てた木の囲いも無事だ。いつもと変わらないのどかな雰囲気がそこにはあった。
家の近くまで歩いていくと、家族の姿が見えた。
「あら、アウル。おかえりなさい。それと、卒業おめでとう」
「おおアウル!おかえり!」
「お兄ちゃんおかえり~!」
シアはお手伝いをしているみたいだ。お手伝いと言っても、雑草を抜いたりだが。それでもお手伝いを一生懸命やるシアは、控えめに言って大天使だ。今日も今日とて可愛さが爆発している。
「ただいま、みんな!」
◇◇◇
私は宗教国家ワイゼラスの教皇である。私は創造神様から頂いた恩恵のおかげで、この地位まで上り詰めることができた。私は選ばれた人間なのだ。神に選ばれた私は、この地に住まう人の救済をしなければならない。
私の恩恵はやや特殊で『聖眼』と呼ばれるものだ。使いこなすまでには苦労したが、今となってはこれのおかげで私はすべてを見通せる。
「教皇様、招集により馳せ参じました」
「して、御用とはなんでしょうか?
「おお、騎士団長と魔導士団長。よく来てくれた。用というのは他でもない。『邪神』についてだ」
「邪神……ですか?」
「遥か昔に封印されたと聞きましたが」
「確実な日時は分からんが、近い将来に邪神が復活する未来が見えた」
私の『聖眼』はいくつか能力があるが、そのうちの一つに未来視がある。常に見えているわけではなく、危機が迫った時などに見えるのだ。
今言ったように、見えたのは邪神の復活。
邪神については我が国にも口伝や資料がたくさん残っている。もしあれが復活した場合、我が国どころかこの世界が滅ぶ『可能性』がある。
「「・・・」」
「もちろん対策は考えている。この国に伝わっている秘術を使い、邪神に備える」
「おお、秘術なんてものがあるのですか!」
「もしや……『勇者召喚』、ですかな?」
「さすがは魔導士団長、よく知っているな。その通りだ。このまま世界が滅ぶのを放っておくわけにはいかない。資料をあとで届けさせるので魔導士団長は『勇者召喚』の準備を。騎士団長は、召喚された勇者の世話を頼む。勇者はスペックは高いようだが、最初から戦う力を持ち合わせていないらしいのだ」
「「御意に」」
よし、これで問題あるまい。
「まぁ、嘘は言っていない。これを機に我が国をこの世界の王とするのだ!」
確かに邪神は復活する未来が見えた。だが、その後に私が追放され、処刑される未来も見えてしまったのだ。そんなことあってはならない。私は創造神に選ばれし存在なのだから。さっきは正確な日時は分からないと言ったが、その時期は分かっている。それは約3年後だ。そのころを境に私の地位が落ち、最終的に処刑される。
せっかくここまでの地位に上り詰めたのだから、こんな暮らしを捨てるわけにはいかない。それに選ばれた私は世界の王になる必要がある。
勇者が復活した邪神を討伐してくれれば、私は安泰である。
「はははは、勇者よ。せいぜい私のために精一杯働いてくれよ?」
ゆっくりと更新していきます。
評価・ブクマ等して貰えたら嬉しいです。
次章から『第5章 農家と勇者と邪神ノ欠片編(前編)』が始まります。
(章の名前が思いつかず、適当ですので悪しからず…)
次章の更新は数日空くかもしれませんが、なるべく早く更新できるように善処いたします。(ちょっとした充電期間が・・・)




