ep.109 平和な日常、そして…
ほんのちょっとだけ長いですが、ご容赦ください。
ギルドへの報告はルナとヨミに任せてある。あんな王都に近いところにAランクの魔物がいるというのは異常だ。インビジブルカメレオンの脅威は、その視認性の難しさにある。魔物の強さ自体はC~Bランク相当でしかなく、視認性の悪さを考慮してAということらしい。まぁ、No.4迷宮の湖畔エリアでも戦ったことがあるから、対処は容易だったが。
それ以外に特筆して気になる点は無かったし、冒険者ギルドが対応するだろう。もっと言えば今をときめくルナとヨミが対応したんだから、信憑性は高いはずだ。もう俺が関与するところではない。
「さて、みんなが買い物と冒険者登録している間に地下を作ってしまうか」
俺の収納に入っている屋敷を使えば問題は解決だけど、それを置く場所がない。となると、階数を増やすか下に広げるしかない。一日でなんとかしようと考えた場合、選択肢は一つしかない。
地下を作るのはそこまで難しくない。前世でこそ重労働かもしれないが、魔法が使えるのであれば話は別だ。とは言っても、魔力にものを言わせて作るだけだが。今はまだお昼時だし、7時間くらい魔力でごり押しすれば、大まかには完成しそうだ。
ちなみに部屋数は全部で10部屋作る予定だ。龍であるレティアやグラさんは、居間で寝たり俺たちの部屋に間借りしていたが、この際だから部屋を与えようということだ。……まぁ、いつまでいるのかは知らないが。
もちろんグラさんとレティアは同じ部屋にする予定だ。これで一部屋余る計算になるのだが、これは俺の実験部屋にすることにしている。仲間になった子たちにも収納腕輪くらいは作ってあげたいしね。
そうと決まれば行動だ!
前世の記憶を総動員して作るわけだが、地下室を作るうえで注意しなければならないのは、いくつかある。この世界で地下室を作ろうと思うと窓も何もない洞窟みたいな感じになる。別に、換気さえできればそれでもいいかもしれないが、それだと全然面白くない。
「よし、ドライエリアのあるお洒落な部屋を作ろう」
ドライエリアというのは、地下室と地面の間に設ける空堀のことで、地下にいながら日当たりがとれるようにすることだ。もちろん、窓を設置するので換気も可能になる。これで湿気がこもってジメっとした地下にならずに済むはずだ。注意点としては雨が入ってくる可能性があるので、排水を用意する必要がある。念のために雨が降った時に展開できるように木製の庇も作っておこう。
居間から地下に降りれるように階段も作らないといけないな……。
「間に合うかな……?」
我ながら乾いた笑いが出てきたが、悩んでいても仕方がないのでさっそく始めよう。階段は最後に作るとして、空堀から掘っていくのが効率がいいかな。ただ、住居の下を掘るわけだから、逐次木で補強や土魔法で固めていかないといけない。じゃないと上の住居が落っこちてしまう。
「そういや、この魔法久しぶりだな……。ピットホール!」
住居の家の側面に空堀をどんどん掘り進め、地面から4m弱掘ったあたりで終わらせた。地下室の天井までの距離は3mくらいを想定してみたが、かなり広いかもしれない。天井の厚さは1mもあればいいだろうか?コンクリートがあれば30cmくらいでいいのだが、あいにくと無いからな。もちろん土天井と言っても圧縮するし、木で天井も壁も補強するんだけどね。
部屋の広さは一部屋7畳もあれば十分かな?一人一部屋で我慢してもらおう。あ、せっかくだから居間から下に降りる階段を螺旋階段にして、降りた先に小ホールでも作ろう。ソファーやロッキングチェアを置いて、みんなが親睦を深めやすいようにしてあげよう。
「よーし、頑張るぞぉ!!」
◇◇◇
作業に勤しむこと、6時間でおおよそ部屋の間取り作成は完了した。一応壁や天井の補強は完了しているが、扉もつけられていないし窓もない。未だにドライエリアと地下がつながっている状態だ。あと1時間もすれば夜ご飯どきだし、今日はここまでにしよう。申し訳ないが、今日の夜は地下で我慢してもらおう。
「あ、家具が足りないや。レブラントさんのところであとで買いに行こう。ついでにレブラントさんに挨拶もしなきゃ」
帝国での交渉材料としてベッドや布団は作っていたけど、それ以外は無いからな。買った服を入れるタンスくらいは買っておかないと。
そういえば、最近羽毛の納品が滞ってるな……。以前、大量に納品したとはいえそろそろ納品が必要になるはずだ。バトルメイド部隊のレベリングを兼ねて羽毛の収集はちょうどいいだろう。ルナとヨミにお目付け役をさせれば万が一もないだろうしね。
居間に戻ると既にみんなが帰ってきており、お茶をしているところだった。ミレイちゃんは一度村に帰って、両親に色々と説明してくれていた。それでつい先日王都に帰ってきていたらしいが、ほとんどジャストタイミングだったようだ。そのおかげでみんなと買い物ができているんだけどね。
「お疲れ様ですご主人様」
「地下を作っていたのですか?」
「そうだよ。だいたいは出来たけど、続きは明日かな。それと今からレブラント商会に行っていろいろ買ってくるから、夜ご飯をお願いしてもいいかな?」
「「お任せください」」
さて、さっと行って帰ってこなきゃ。
「アウル、私も付いていっていい?」
と、思ったらミレイちゃんからお誘いがあったので、是非とも一緒にいこう。会うのは久しぶりだからね。
「もちろん!じゃあ早速行こうか」
ということで出発したわけだが、ミレイちゃんが俺の右腕を抱くようにくっついている。やや歩きにくいのだが、それ以上に幸せな感触が……!ミレイちゃん、いつの間にこんなに成長したんだ!?
「アウル、なんだか嬉しそうだね?」
……ミレイちゃんの顔がなんだかニヤニヤしている。くっ、確信犯だったか!まんまとやられたが、一片の悔いなしである。むしろどんどんやっていただきたい次第であります。
「ミレイちゃんとデートだからね。そりゃ嬉しいよ」
「~~~~っ!」
これは一本取り返したかな。ちょっとキザっぽいけど、たまには悪くない。そんなやりとりをしながら歩いているとあっという間にレブラント商会へと着いた。イチャつきながら歩いていたため、周囲の目があったがそんなの無視だ。ちなみに、俺たちにちょっかいを出そうとした酔った冒険者たちがいたが、ミレイちゃんにバレないように威圧を飛ばしておいた。……失禁はしていないと思う。
「レブラントさん、お久しぶりです」
「おや、アウル君。本当に久しぶりだね。帝都は面白かったかい?」
「はい、想像以上に綺麗なところでした」
……あれ、レブラントさんに帝都に行くって言ったっけ? いやはや商人の情報網ってのは恐ろしいもんだな。
「ところで、今日はどうしたんだい?」
「ちょっと家具を数点買わせてほしいんですよ。あとは納品の相談とかですね。なにか必要なものがあれば、数日いただければなんとかしますよ」
「家具は裏の倉庫にたくさんあるから、そこで好きなのを選んでくれるかな。あと、可能なら羽毛とクラゲ素材があると助かるよ。それと、何か新しい面白い商品になりそうなものとかがあれば買い取るけど?」
新しい商品か……。そんな特筆すべきものあったかな?最近忙しくてそれどことじゃなかったし、迷宮攻略もできてない。ちょっとここらで新しい何かを考えるのも面白いか。家に新しく置きたいものは考えてあるけど、売るとなるとちょっとなぁ。
「すみません、最近ちょっと忙しくて何もないですね。また何かあったら連絡しますね」
「ははは、楽しみに待ってるよ~」
裏の倉庫で適当に家具を選んで購入し、家に帰ることにした。新たに雇ったメイドさんたちは女の子なので、ミレイちゃんがかわいい家具を選んでくれたのには助かった。俺が選ぶと機能性やシンプルなものを選んじゃうからね。
でも学院が始まるまでまだ数日あるし、その間に納品用のものを用意しなければ。燻製やお菓子のレシピは売ったけど、家具や寝具の素材は調達が困難になるため、結局納品が必要だからな。
帰る途中で大繁盛している店をみかけた。というか、肉串のおっちゃんの店だ。
「あ、お肉おろしに行かないと。確か在庫はまだあったからついでに寄って行こう」
中に入ると空いている席はなく、店員さんもてんやわんや状態だった。家族三人の経営では間に合わなくなり、店員を雇ったか奴隷を買ったんだろうな。
「おっちゃん!景気がよさそうだね!ここんところ来られなくてごめんね。代わりに今日はお肉大量に卸すから許してよ!」
「おお!久しぶりだなぁ~!おかげさまで大繁盛してやがるぜぇ~?休む暇がないくらいだ!ありがたくいただくよ!お金は今度まとめて払うから取りに来てくれ!今は手が離せないんだ!」
本当に忙しそうなので、いつもの5倍の量のお肉を卸してあとにした。かなり儲かっているみたいで、看板娘であるおっちゃんの娘もかなり肉付きがよくなったと思う。きっと美味しいものを食べているんだろう。おっちゃんとは最近話してなかったし、今度ゆっくり新作料理について話しに来るとしよう。
「あのおじさんの店、あんなに流行ってたんだね。私たちも今度食べに行こうね!」
「そうだね、せっかくだからみんな連れてお邪魔しようか!」
思いがけないところでイベントが決まったので、これも併せておっちゃんに相談しよう。なんか歓迎パーティ的なのができれば面白いしね。迷宮に潜ってレベリングが終わったくらいがちょうどいいかな。
家に帰ると、おいしそうな匂いが外にまで漂っており、メイドさんたちも涎を我慢しているのが見て取れた。涎を我慢できていなかったのはグラさんくらいだな。
「ただいまみんな。凄く美味しそうな匂いだね!早速食べようか!」
「今日は腕によりをかけましたよ!ほめてくださいご主人様!」
「ふふふ、ちょっとばかり本気を出してしまいました」
アセナとネロは見たことのない食事ばかりだからか、今にも飛びかからんとする勢いだ。これは少し時間がたてば改善されるだろうが、アルフが直々に鍛えると言っているからには、ほぼ間違いなく地獄を見ることになるだろう。今もいつの間にか居間にいるアルフが、羊皮紙に何かを書き込んでいる。きっと教育すべきところを洗い出しているんだろう。
俺でさえマナーや礼儀の教育で辛い思いをしたからな……。アセナ、負けんなよ。
ちなみに夜ご飯は、山盛りの焼きたてパン・山盛りサラダ・サンダーイーグルの鬼盛りから揚げ・肉多めのポトフ・果物ジュース各種・肉野菜炒め・ハンバーグ・大量の炭火焼き鳥となっている。
肉多めなのは、みんなのことを思ってだろう。今回保護したというか雇った人たちは、今まであまり肉を食べることがなかったらしい。農民であれば俺も経験があるし、平民だとしてもそんなにいい肉を食べる機会はない。
元貴族の娘や元商家の娘ならばある程度経験はあるだろうが、今回の料理はこの世界ではあまり見ない料理のため目新しいだろう。アセナやネロに関しては肉にしか目がいっていない。これは獣人の性なのかもしれない。
「じゃあ、いただきます」
「「「「「「いただきます」」」」」」
俺やミレイちゃん、ルナ、ヨミなどのもともといた人は食事の挨拶に慣れているが、ほかのみんなは違う。戸惑ってはいたものの、見よう見まねで手を合わせて挨拶していた。アセナに関しては我慢できなかったのか、焼き鳥に手を伸ばしていたのにはみんなで笑わせてもらった。
……若干一名は真顔で羊皮紙に書き込んでいたようだが。南無。
夜はとりあえず設置したウォーターベッドで寝てもらったのだが、あまりの心地よさにみんなすぐに寝てしまったようだ。またしてもアセナがベッドではしゃぎすぎていたが、アルフが羊皮紙に何かを書き込んでいた。
そろそろアセナは自分で自分を苦しめていることに気づいたほうがいい。だがこの際だし、このままどうなるかを見届けたいという気持ちも大きい。
「アルフ、なるべく最初は手加減してやってくれな?」
「かしこまりました。最初は優しく致します」
……うん、気休め程度には優しくなるはずだ。頑張れアセナ。俺は陰ながら応援しているぞ。
久しぶりに自分の部屋で寝られるということで、倒れこむようにベッドに寝転んだ。色々あったせいで一気に疲れが来てしまったのか、死んだように眠ってしまった。
コンコンコン
どれほど眠っただろうか。扉がノックされる音で目が覚めてしまった。確か鍵をかけるのも忘れて眠ってしまった気がする。ヨミならば何も言わずに侵入してくるだろうし、ルナならば夜這いのようなことはしないはず。ミレイちゃんか……? 考えようにも寝ぼけているせいで、思考がまとまらないうちに返事をしてしまった。
「ふぁい……空いてるよ~」
やべ、欠伸しながら返事しちゃった。
「失礼いたしますわ」
しかし、中に入ってきたのは可愛いパジャマを着たルリリエルだったのだ。
……え? 待って。どういうこと?ルリリエルはなんで急にまた。あ、地下が怖かったかな? それとも元貴族の彼女にとって、あんな殺風景な部屋はだめだったか?
「えっと、こんな夜遅くにどうしたの?」
「決まっていますわ。ご主人様のお夜伽に参りました」
お夜伽って……、あれだよね。夜の営みのことだよね?
「「・・・・・」」
「えぇっ?!」
「私はご主人様に助けられました。そのご恩に報いたいのです。どうかお情けを――」
「――そこまでですよ、ルリリエル」
「ふふ、私たちを差し置いてアウル様に迫ろうだなんて、いい度胸してるじゃない」
「こっちへ来なさい」
「へっ? あっ、ちょっと!」
「アウル様、夜遅くに申し訳ありませんでした。お休みなさいませ」
夜も遅いというのに、ルナ・ヨミ・ミレイちゃんの三人が勢揃いだ。……みんなのパジャマ姿可愛いな。じゃなくて! 俺が何か言う前に三人はルリリエルを連れて行ってしまった。
そのあと、夜だというのに女性の声が響いていた気がしたが、きっと気のせいだろう。
◇◇◇
疲れていたというのに、いつも通り夜が明ける前に目が覚めた。気配を探ってもまだ誰も起きていないようだ。とりあえずクインとヴィオレと一緒に、裏庭で朝の鍛錬を始めた。クインとヴィオレは鍛錬というより、親睦を図っているようにも見える。何か喋っているようだが、全くもってわからん。まぁ、仲が良さそうだし良しとしよう。クインが中型犬サイズのヴィオレの頭に乗って落ち着いている。……上下関係が出来上がったようだな。
いつも通り型の練習や魔力制御の鍛錬をしていると、不意に背後から殺気が飛んできたため、ほぼ反射的に杖で攻撃してしまった。が、殺気を発した人物に当たる直前でピタリと止めた。
「ふふ、おはようございますアウル様」
「驚かさないでよヨミ。おはよう、今日は早いんだね」
「ええ、昨日の夜に色々あったものですから。しかし、安心してください。一通りちょうきょ――教育は致しましたので。ただ、さすがは元貴族令嬢というだけあって根性はありました。きっとあの子は化けると思います」
一体何をしたのか聞きたいところだが、この世には触れてはならないこともあるからな。触らぬ神に祟りなしだ。
「そ、そうなんだ。ちょっとは手加減してあげてね……?」
「ふふふ、わきまえておりますとも。……ねぇ、アウル、朝ご飯を一緒に作らない?」
朝ご飯か。もう少し後でもいいかなって思ってたけど、よく考えたら人数も多いし時間がかかるか。よし。というか、急に敬語が抜けるのドキッとするから本当に心臓に悪い。というか未だにドキドキが止まらないんだが。
「そうだね、じゃあ一緒に準備しようか」
「うん!」
朝だからか、ヨミの笑顔が一層輝いて見える。さっきまで物騒なことを言っていた女の子とは思えないほどだ。それにしても、朝ご飯は何を食べようかな。
「今日は天気がいいからパンケーキが食べたいな」
「ふふ、それ天気関係ないね。アウルが食べたいなら私も食べたいから、そうしよっか。サラダとスープは私が作るから、パンケーキとあと何か一品お願いね!」
「りょーかい!」
え、なになに急にヨミが可愛いんだけど?! いや、いつも可愛いんだけどさ。特に可愛いというか。今も隣で小さく鼻唄を歌いながら野菜を切っている。いつの間にかつけたエプロンがよく似合っているのもポイントが高い。
「そういえば、昨日の夜にルリリエルは何で来たのかな? 本人は恩返しって言ってたけど」
「簡単に言うと、アウルに言い寄って妾的なポジションを狙ったそうよ。力もあって金もあるって分かってつい、だって。さすがは元貴族ね。まぁ、私はそういうの嫌いじゃないけど」
あー、なるほど。未だ貴族の心は捨てていなかったってことか。
「野心というか下心ありありだったってわけね」
「そういうこと。でも恩を感じているってのは本当だそうよ」
「そっか。それなら頑張った甲斐があったね」
いろいろ考えたうえでの夜這いだったってことなのかな。
それにしても、パンケーキはいいとしてもあとは何を作ろうかな。……人も多いし、おかずのバイキング形式にしてみよう。ヨミは一品って言ってたけど、時間はたくさんあるし頑張るか。
ウインナー、スクランブルエッグ、鶏肉の照り焼き、フルーツの盛り合わせを用意した。量もかなり多めにしたけど、食べきれるかな?
今日のパンケーキにはバターを乗っけて食べるとしよう。一応選べるようにフルーツジャムも収納から出しておいた。
「ふふ、今日の朝ご飯はかなり豪華だね」
「まぁね。バイキング形式にしてみたけど、これはこれで面白いよね」
「「・・・・・」」
なんだか自然と見つめあうような形になってしまった。え、これってキスする流れか……?
「なーんて!新婚だったらこんな感じなんだろうね、アウル!」
「え?! あ、うん!そうだね!」
ヨミがなんか楽しそうにニヤニヤしてる。これはからかわれたな~。でも、嫌いじゃない。むしろこういうのもありですね。はい。現場からは以上です。
「ヨミ、あーん!」
「! あ、あーん……美味しい」
不意にウインナーを食べさせてあげたけど、これは選択をミスったかもしれない。ちょっとだけムラっとしたのは、内緒だ。
「……アウルのすけべ」
バレていたようだ。
そのあとも粛々と準備を進めて、部屋いっぱいにいい匂いが充満するころには、みんなが起きてきた。みんなそれぞれ眠そうにしていたり、ばっちり起きていたりと三者三様だ。一番面白かったのはシシリーで、綺麗な茶髪が物凄い寝癖がついている。本人がまったく気にしていないのがまた面白い。
用意したご飯を不思議そうに眺めていたので、食べ方を教えてあげた。すると、みんな水を得た魚のように皿一杯にご飯を盛り始めた。
「なんだか――」
「――たくさんの子供ができたみたいですね」
俺の言おうとしたことを先に行ったのはルナだ。俺ってそんな思っていること顔に出てるのかな?
「言われちゃったな。これからもみんな仲良く頑張ろうね」
「もちろんです、アウル」
「っ!!」
不意にルナからアウルと呼ばれてドキッとしてしまった。ヨミに続いてルナまでも。もしかしたら昨日のルリリエルに感化されたのかもしれない。けど、全く嫌いじゃないです。
ルナは言い残してバイキングの列へ、パタパタと走っていった。うん、小走りするルナも可愛いな。
「アウル、鼻の下伸びてる」
「えっ!いや……そんなに伸びてた?」
ミレイちゃんに俺がデレデレしているのを見られてしまったようだ。その横顔はちょっと拗ねているようにも見える。
「伸びまくりだったんだから。別にあの二人なら怒らないけど、私もちゃんと見ていてね……?」
かはっ。思わずキュン死するかと思った。突然のデレと斜め上目遣いにやられた。上目遣いの時に、手は後ろで組んでいるのが高ポイントなのだと思います。はい。
「もちろん。ミレイちゃんが俺の初恋なんだから安心してよ」
「そっ、それならいいの!ほら、朝ご飯食べましょう?」
うん、今日もいい一日になりそうだ。
◇◇◇
朝ご飯を食べ終えた後、ルナとヨミとミレイちゃんには素材の確保をお願いしてある。ついでにみんなのレベリングも頼んでおいたので、きっとボロボロになって帰ってくるだろう。お昼ご飯用にクラブハウスサンドを大量に作って渡してあるので、士気は保てるといいな。
みんなには防具とかが必要だけど、とりあえず今日は安物で我慢してもらっている。いずれは以前ヨミやルナのメイド服を作ってくれたところにオーダーメイドしにいこう。あそこは魔物の糸を扱っている店だからな。今となっては自分で魔物の糸を探してもいいかもしれないし、今度迷宮をくまなく探してみよう。
あとは武器だけど、黒武器は一応持っているし、問題ないかな?武器を入れておける収納腕輪だけは今日中に作っておくか。
「まぁ、その前に地下の部屋を完成させないとだけど」
とは言っても、おおまかには完成している。あとは地下に扉やガラスを設置、さらに昨日買った家具を設置していけば完了だ。絨毯とかはいずれ自分の好みのものを買ってもらえばいいだろう。賃金も支給するしね。
残作業としてもそこまでなかったので、午前中いっぱいで地下の部屋が完成した。特に螺旋階段を下りた先にある小ホールは気合いを入れてみた。豪華な絨毯を敷き、高価そうなソファーとテーブルを設置した。言うなれば談話室のような感じになっている。地下なので暖炉は設置できなかったが。
「やっと一息だ。あとは俺の実験部屋だな」
それこそ収納の腕輪を作ったり、ゴーレムの研究をしたりするための部屋を作る予定だ。みんなには申し訳ないがこの部屋だけ10畳の広さを用意させてもらった。
ちょっと丈夫なテーブルや自作したハイクオリティなロッキングチェア、ソファーなども設置して、かなり快適な空間になった。一番頑張ったのはハンモックを天井から吊るしたことだ。ハンモックってなんかロマンがあるよね。
「こんなもんかな。なんだか、秘密の隠れ家みたいになっちゃったな」
そうか。秘密の隠れ家か。いいなそれ。扉を壁と同化させてぱっと見だけじゃここに部屋があるとは分からないようにしておこう。
今は昼過ぎの3時頃。時間としては余裕がある。みんなのぶんの収納の腕輪を作るとしよう。あんまり内容量が大きすぎてもあれだし、ある程度でいいよね。つい最近グラさんから希少鉱石の詰め合わせをもらったから、素材の心配もない。
アダマンタイトを核に神銀で腕輪の形を象る。最後にミスリルでコーティングしてあげれば完成だ。付与した内容は、ちょっとだけ簡易なものにしてある。
・自動多重障壁展開(3層)
・アイテムボックス 7m×7m、350kgまで
・空間把握 半径25m
人数分なので全部で7つ作成してある。作り終わったので、みんなの夜ご飯を作ることにしたのだが、今日は何を食べようと考えたとき、腹ペコで帰ってくることが想定される。
「よし、パスタにしよう」
簡単カルボナーラ、魚卵パスタ、ペペロンチーノ、ナポリタンの四種類にした。魚卵は迷宮の海で確保できているので問題ない。パスタもいろいろな種類を大量に作ってストックしてあるので足りるだろう。あとはサラダと大量のから揚げ。それと適当なスープだ。
「冬の間にパスタ大量に作っておいてよかった。10kgくらい茹でたけど、このペースで食べちゃったらあっという間になくなっちゃうよ」
とはいえ、みんなの喜ぶ顔には代えられない。
「ただいま帰りましたご主人様」
「ふふふ、納品用の素材はたくさん確保してきました」
「わぁ~アウル、今日はパスタね!おなかすいた~!」
三人はいつも通り元気だが、後ろについてくる6人は目が死んでいる。どうやらかなりしごいたようだ。……そういえばアセナの姿が見えないが、どこにいるのだろう?
と思っていたら、アセナを担いだアルフが帰ってきた。それも、著しくボロボロになっているように見える。……優しくやってあれだけボロボロになるということは、本気で鍛えたらアセナは生きていけるのだろうか?
少しでもみんなのやる気を保つためにも、食事の手は抜けないな。うむ、腹いっぱい食わしてやろう。あれ、メイド部隊のご飯を俺が作るって本末転倒では……?
「わぁー!とってもいい匂いがしますー!」
シシリーが用意してあるご飯を見てテンションを上げている。そのほかの子も目をキラッキラさせている。今にも涎を垂らしそうな子がいるほどだ。というか、シシリーとネロだが。
「いただきます」
ルリリエルは元貴族なだけあって食べ方は綺麗だが、ゆっくり食べているとどんどん量が減っていくため、一心不乱に食べ進めている。うむ、その意気やよし。他のみんなも負けじとバクバク食べる。作り過ぎたかと思っていたが、ちょうどいいくらいのようだ。……食費が凄いことになりそうだな。
ご飯を食べ終えたあたりで、さっきつくった腕輪を配布したのだが、みんな驚くというよりよくわかっていなかった。なので、ルナとヨミに頼んで実演してもらったらやっと意味が分かったらしい。
「みんな使い方は分かったと思うけど、それはかなり貴重なものだから無くさないようにね!」
「……返事は?」
「「「「「「「は、はい!」」」」」」」
ヨミの圧力のかけ方が尋常じゃない。もうあれはヨミに逆らおうとするやつは出なさそうだな。でも、そのおかげで心配する必要はないんだけどね。
◇◇◇
新たな仲間が増えてもやることは変わらない。メイド部隊のうち、半分は迷宮に潜って素材の確保やレベリング。半分は家事をやることになっている。あとは畑の世話などをみんなでやるようになった。賃金も月に金貨20枚渡している。
もっと多くてもいいかと思ったのだが、冒険者稼業でも稼いでいるらしいのでそこまで多くはいらないらしい。それでも、金貨20枚は決して少なくないのだがな。食費、居住費は抜いた額となっているのでこの辺で落ち着いたのだ。
そして学院も再開され、俺もまた普通に通うようになった。いろいろとやっかみやちょっかいを出してくるやつもいたが、アリスやエリーがそれを悉く阻止してくれた。まぁ、すべてというわけではないが。厄介な貴族の子供が行き過ぎた行動にでたこともあったので、嫌がらせを仕返したのは今となっては笑い話だ。
「ご主人様、やっと卒業ですね」
「ふふ、思い返せば色々ありましたね」
「色々あったけど、楽しかったよ。最終的には友達もたくさんできたしね」
ミレイちゃんは去年、一足先に卒業した。それからは実家に帰ったり王都に来たりと忙しそうにしている。移動はティアラが買って出ているらしく、転移ほどではないがかなり早い。俺は絶対に乗らないが。
そして今年になって俺も無事に卒業することができた。あと2年で成人となる歳だ。3年生になってからは研究に勤しみ、魔法陣の研究も頑張った。その甲斐あって、ある程度の成果があった。それは追々わかるとして、魔法陣以外にもイナギの欠片が封印されているであろう場所についても研究した。
その結果としてある一つの仮説に辿り着いたのだ。そのおかげである程度の目途が立ったし、俺が王都でやりたいことはひとまず無くなった。
心残りでもある宰相殺しの犯人については、半ば迷宮入りとなってしまったため、もし何かわかればそのときに国王へと報告することになっている。邪神教はあれ以来なりを潜めているせいで、全くと言っていいほど情報がない。テンドに会えれば何かわかるかもしれないが、テンドも最後に会って以来会えていない。
モニカ教授についても一度我が家に訪れたので、覚醒について色々と教えてもらった。覚醒というのは、恩恵を最大限に使いこなしたときに試練が与えられ、それを乗り越えたときにのみ発現するものだという。俺は試練を乗り越えたが、覚醒した恩恵があれ以来発現できていない。未だにグレーのままなのは、今の恩恵を使いこなせていないからだろうということになった。
覚醒した恩恵がつかえたのは夢の世界だから可能であったというだけで、現実世界ではまた別なのだそうだ。ただ、試練は越えているので、あとは恩恵を使いこなすための努力をすればいいらしい。……まぁ、器用貧乏を使いこなすという意味が未だに分かっていないが。それでも、方向性が分かっただけでも御の字だ。
モニカ教授は王城でいろいろな研究をするようになったらしいのだが、国王が王城に蔵書されている本の閲覧権限を与えたらしい。その対価として研究をしているそうだ。知的好奇心のためならと喜んで研究しているらしい。らしいと言えばらしいな。
エゼルミアさんは一度、エルフの里に帰ったら来ると言っていたのだが、来ていない。アルフが言うには、ハイエルフらしく悠久の時を生きる彼女にとって2年という時間はあっという間すぎるため、全く時間がたっていないと思っている可能性があるらしく、気長に待つしかないとのことだ。なんというか、時間の流れ方が違うっていうのはこういうことなのだと実感した。
「さて、俺は一度家に帰るけどここの家と畑の世話頼むね、みんな」
「お任せくださいませ、若様」
今ではウルリカがリーダー的なことをしてくれているので、そのまま任せてしまっている。呼び方もいつしか『若様』と呼ぶようになっていた。なんでかはわからん。
帰ると言ってもちょこちょこ王都には来るつもりだ。魔法陣の成果のおかげで行き来が楽になったからね。ティアラが村まで送ると言ってくれたのだが、丁重に断っておいた。
今日のところはルナとヨミと3人で村へと向かう。ミレイちゃんはちょうど村にいるので、伝声の魔道具で帰ることを伝えてある。シアや両親に会うのは久しぶりだ。シアはすでに4歳になり元気に遊びまわっている。俺もたまに帰って様子を見ていたが、それでも早く会いたいものだ。魔法も教え始めているのだが、かなりセンスがいい。なにより、剣の才能もあったのか型が綺麗なのだ。天は二物を与えてしまったのだな。
「よーし、じゃあ出発!」
こうして、3年弱いた王都生活は一旦終わりを迎えた。
ストーリーの配分ミスしました。(←書きたいことが爆発しました。なお、書ききれなかった)
長いからと、厳しことは言わないでいただけるとありがたいです。
(内容が多く読みにくいかもしれません。また、ちょっと強引に引っ張った部分もありますが、それも含めてご容赦ください)
学院編のイベントはいくつか考えていますが、外伝でいつか書きます。
また、バトルメイド部隊の話もおいおい外伝で書きます。本編でもバトルメイド部隊の話は出てきますので、ご安心ください。
※内容に過不足があった場合、あとで加筆修正する可能性があります。ご容赦ください。
ゆっくりと更新していきます。
評価・ブクマ等して貰えたら嬉しいです。
もう少しで次章が始まります。110話のあとがきで次章の公表します。
皆様のおかげで【ネット小説大賞】受賞しました。双葉社様にて書籍化させて頂きます。




