ep.108 新たな仲間、そして帰還
「じゃあ、右端から自己紹介していって」
ヨミに促され、順々に自己紹介をしてもらった。
「私の名前はターニャです。元平民で裁縫が得意です。今年で14歳になりました。趣味はお菓子を食べることで、適性属性は土と風らしいです。ライヤード王国に行くのは大丈夫です。それと、改めてお礼を。助けて頂いてありがとうございました。これからメイドとして頑張りますのでよろしくお願いしますご主人様」
印象はちょっと内気そうな女の子。けど、ルナやヨミのしごきによってちょっと自信がついたようにも見える。茶髪のボブがよく似合っている。……それにしても裁縫か。何か新しいことを始めてみるのも手だなぁ。それこそ、服飾関係で。希望を聞いてみてからになるけど、俺もある程度の知識はあるしちょっと面白そうだ。
「私の名前はターナー・フォン・ルリリエルと申します。……今は没落した子爵家の娘ですので、ルリリエルとお呼び下さい。他の貴族に騙され、家が取り潰しとなりましたが私は両親に逃がされました。しかし、貴族として生きてきた私には生きる術はなく、あのグループにあえなく攫われたということです。……本当に助けて頂いてありがとうございます。歳は今年で16歳になりました。特技は貴族令嬢としての立ち居振る舞いやマナー、ルールでしょうか。趣味は体術・剣術・魔法、強くなれることなら全般です。適性属性は火と水らしいです。王国に行くのも問題ありません。今はバトルメイドとして力をつけることに注力したいと考えております。以上、よろしくお願いしますご主人様」
桃色髪のツインテールが印象的な女の子だ。さすが元貴族というだけあって、その立ち居振る舞いは堂に入った物が感じられる。雰囲気はちょっと危なっかしい感じもするけど、ターニャと同様に鍛えられて力をつけたことでやや落ち着いているようにも見える。どちらにしろ、目の奥には復讐心が見て取れるのは間違いない。これは注意しておかないとなにかしらの問題を起こしそうだ。……過去を顧みたら、仕方ないのかもしれないが。
「私はシシリーです!元農民で今年15歳になりました!趣味は料理で、農作業も好きです!……私は、家族の人頭税が払えず奴隷として売られましたが、奴隷となる前にあのグループに攫われていました。助けて頂きありがとうございました!あっ、得意属性は火・土・水・風の4つらしいです!王国ではメイドとして頑張りますので、よろしくお願いします!」
いかにも元気いっぱいだな。心に闇を抱えている可能性もあるけど、これだけ明るいのはルナやヨミが精一杯付き添ってくれたからだろう。それに、適性魔法が四元素全て揃っているとはかなり有望だ。料理もできて農作業も好きで、顔も可愛らしい方だ。茶髪セミロングがよく似合っている。
「私はウルリカといいます。商家出身です。といっても今は商売に失敗して一家離散してしまいましたが……。歳は今年で17になりました。特技は算術や文字の読み書きは一通りできます。趣味はお金を稼ぐことです。得意属性は水と氷です。住む場所にこだわりはないので王国に行くのは問題ありません。この度はあのような輩から助けて頂いて有り難うございました。今後は精一杯仕えさせて頂きます」
冷静というか頭の良さそうな感じが全面に出てきている。さすがは元商家の娘ってところか。お金を稼ぐのが好きっていうのもあわせてな。それに他の子たちが身長150~160cmくらいなのに対し、ウルリカは175cmくらいある。まさにモデル体型と言うべきだろう。髪は青髪というのが特徴、さらに魔法は水と氷だから、育て方次第では氷結系で名を馳せそうだ。
「私はムムンと言います。元農民で、私の両親は早い内に他界していて、知り合いの家に預けられていたんですが、気づけば売られていました。買ったのがここをアジトにしていたグループだったみたいです。今年で13歳になります。趣味は掃除です。あとは子供と遊ぶのも好きです。適性属性は雷らしいです。王国に行っても頑張りますのでよろしくお願いします」
一番俺に歳が近く、薄い金髪ボブが眩しい女の子だ。身長も小さく140cmくらいしかない。なにより、雷属性が適性となるとルナは嬉々として魔法を教えそうだ。元農民だったら農業を手伝ってもらったり、王都の畑の管理とかもお願いできるかもしれない。
これでひとまず最初に保護した5人は完了か。あとは追加で保護した猫獣人と狼獣人の2人だけだな。
「俺は狼獣人のアセナ、です。歳は15歳、です。索敵が得意、です。掃除が趣味、です。魔法は、無属性と氷属性が使える、です。よろしく頼む、です」
ちょっと口下手なのか、もしくは敬語が苦手なのか。どっちにしろ、俺の方が年下なのだから別にタメ口でもいいんだけどな。これは最初の5人にも共通して言えることだけど、ほとんど全員がヨミのことをチラチラ見ている気がする。というか確実に顔色を窺っている。何があったかは知らないが、絶対的な上下関係が築かれているに違いない。女の世界というのは恐ろしい……。あ、アセナは男だったか。
「わたしは猫獣人のネロっていうよ!特技は両利きなこと!趣味はひなたぼっこなの!えっと、歳は忘れちゃったけど、たぶん15歳くらいなの!無属性と火属性が得意なの!美味しい魚を食べさせてもらえるって聞いたので、よろしくお願いします!」
……猫耳がピョコピョコしている。しかも可愛い。尻尾もうようよしていて面白い。唯一このネロだけがヨミの顔色を窺っていない。きっとネロは大物になるぞ。毛色はグレーっぽいから、アメリカンショートヘアかな?
「以上が今回仲間になった者達です。まだ教育が行き届いていませんが、取り急ぎ最初の5人は問題ないかと。アセナとネロに関してはこれからですね。アセナに関してはアルフが直々に鍛えると息巻いておりました。ネロは私たちが面倒を見る予定です」
「おおまかには分かった。これから色々あるかもしれないけど、本人の意見を尊重していくつもりだから、やりたいことができた場合は遠慮無く言ってください。ひとまずそんな感じですね。帝都でやるべき事は完了したので、そろそろ王都へ行くけどいいですか?」
一応年上ばっかりだから敬語も交えて喋ってみたけど、ヨミに窘められてしまった。形式上、俺が雇い主ということなので敬語を使わなくていいらしい。といっても一番上で17歳だから、おれより6歳も年上だ。なんだかやりにくいけど、仕方ないんだよね。
「エゼルミアさんは俺たちと一緒に来ますか?」
「そうですね~、一度エルフの里に行って結界の張り直しと、救助の完了を報告しに行く予定だったから、それが終わったらライヤード王国に向かうねぇ~!魔力波動は覚えたから勝手にお邪魔するよ~」
「そうですか、アルフも楽しみにしているみたいなので、いつでも来て下さいね」
「りょうか~い!」
よし、これで後顧の憂いなし……あ。闇ギルドのトップはどうしよう。未だにここに無力化して捕らえてあるんだっけ。
「主様、闇ギルドの連中はお任せ下さい。好い加減に処理しておきます。ですので先にお帰り下さいませ」
おぉう、まだなにも言っていないのに俺の思考を読んでくるとはさすがだな。有能の中の有能だ。
「じゃあ、悪いけど頼むよ。俺がやったら完全に潰しちゃうだろうから……」
さて、これで本当の本当に憂いはないな。あんまり長時間帝国にいると厄介な女がけしかけてくる可能性すらある。さっさと帰らなければ。
「じゃあグラさん、悪いけど王都の近くまで運んでもらっても良いか?」
「任されよう」
俺の問いかけに応えるように龍へと姿を変えた。急に巨大な龍が出てきて、新たに仲間になった人たちは驚きを通り越して目を点にしている。まぁ、気持ちはわかる。だけど慣れてもらうしかない。
よし、これですぐに王都へ……あれ、何か忘れている気がする。龍に乗って帰るということは……
「みんなちょっと待ってくれ。やはり俺は陸路から――」
「――アウル様、早く行きますよ?」
「みなさんもう乗りましたよご主人様」
くっ!ヨミとルナめ!俺が空を飛ぶのが苦手だと覚えてて言わなかったな?!俺もこんな大事なことを忘れるとはなんて失態だ!!
「空は嫌だぁぁぁぁぁぁぁ……――」
◇◇◇
「死ぬかと思った……」
空をゆったり飛ぶこと数時間程度で王都へとついた、らしい。疲れていたからか寝ていたせいでどれくらい乗っていたかはわからないが、1日も経ってないのは間違いない。
「アウル様は気を失われていたのですよ」
ヨミさん、現実をぼそっと耳元で囁くのはやめなさい。
「さて、ここから先は歩いて行くかぁ」
さすがに王都までグラさんに乗っていくのはできないので、王都から20㎞くらいのところで降りた。街道沿いだと人の往来も多いため、森付近で降り立った。これには他にも理由はある。仲間となったみんなの実力が見たいのだ。弱い魔物しか出ないだろうが、それでもある程度の判断はできる。
お、早速噂をすればゴブリンとホブゴブリンだ。数は合計で10匹くらいか。
「あそこにゴブリンがいるからみんなの実力を見せてもらっても良いかな?もちろん魔法はなしで」
なにかあったら直ぐ助けられるように魔法だけ待機しておけば、万が一もないだろう。
「「「「「かしこまりました」」」」」
えっ。なにこの統率のとれた連携は。アセナとネロはまだ教育前らしいので待機だが、最初の5人組は颯爽とゴブリンへと突撃していった。使っている武器はみんな黒武器のようだが、練度としてはまだまだだな。俺の黒武器である杖もまだまだだが。
それでも、武器性能の悪さを感じさせないほどの連携と攻撃力。リーダー的存在はウルリカみたいだ。まだまだ荒削りで、技術力の低さや経験の浅さを感じさせるが、それを含めても数日でここまで鍛えたルナ・ヨミ・アルフの腕前は相当の物だ。
この時は称賛した俺だったが、修行方法は俺がルナとヨミに行った方法をアレンジした物だと聞き、自画自賛していたことに気づいたのはもう少し後の話だ。
先頭にいるゴブリンに対して、先陣を切ったのは意外にもルリリエルだ。ニムシャと呼ばれるシミターに似た片手剣の黒武器を使用している。棍棒を振り回すゴブリンの攻撃を紙一重で躱し、通り抜けざまに背後からゴブリンを袈裟懸けに切り捨てた。
それに続けと言わんばかりにシシリーとムムンがゴブリンへと迫る。錆びた剣を振り回して攻撃してくるゴブリン数匹に対し、シシリーがファルカタと呼ばれる湾曲した黒武器を使って攻撃している。未だに武器を使い切れていないせいか、やや振り回されている気もする。それでもほぼごり押しでゴブリンをなぎ倒している。
……あれ、ムムンの武器ってもしかして越王勾践剣か?あんな黒武器もあるんだ。どっから見つけてきたのかわからないけど、あの武器が異世界にもあるとは。創造神様も随分とコアな武器を創造したもんだな。
ムムンは元農民とは思えないほどに剣の使い方が上手い。ただ、いかんせん体が未熟なために体捌きはまだまだだ。足運びも一番拙いだろう。それでもゴブリン程度に遅れを取るようなことはないが。魔法を使えばもっと違った戦い方ができるだろう。
ターニャは前からではなく、側面に回って攻撃している。武器はエストックと呼ばれる刺突特化の黒武器を使っており、ゴブリンに気づかれる前に片付けるという戦闘方法だ。
ウルリカはクレイモアと呼ばれる黒武器を使っており、その長身を活かすような武器である。ウルリカは最初こそ動いていなかったが、他のみんなが闘ってゴブリンを減らし、ホブゴブリンがやや焦ったところで行動に出た。流れるような足運びでホブゴブリンに近づいて一刀のもとに切り捨てた。……俺はあの足運びを知っている。あれは、アルフの歩法に間違いない。比べると天と地ほどの差があるが、それでもホブゴブリン程度ならば余裕で翻弄出来るほどの完成度だ。
いずれも、ゴブリンの反撃を許さないほどに圧倒している。魔法無しですでにこれだけ戦えているのならば、すぐに冒険者としてもやっていけるようになるだろう。
「みんなお疲れ様!つい最近まで戦闘経験がなかったとは思えないほど戦えているね。数日間でよくぞここまでといった感じがするよ」
俺が褒めたからか、安心した表情がみんなから見える。心なしかルナとヨミもホッとした表情だ。
「!! この気配……ちょっと強いかもね」
グラさんは人型になって気配を抑えているせいで魔物は普通に寄ってくる。さっきのゴブリンが良い例だ。しかし、今感じたのはちょっと変な気がする。念のために発動していた空間把握に、王都近辺ではあり得ないほど強い反応が出たのだ。
その気配のするほうへと走ったけど、特に目に見える敵はいない。それなのに気配はある。警戒していると、急に自動障壁が発動したのだ。空間把握に意識を集中すると、木の上の方に巨大なカメレオンのような魔物がいるのがわかった。
「そこか!」
俺が敵のいる場所を見つけたと同時に、ウルリカが攻撃態勢に入った。しかし、カメレオンの舌で弾き飛ばされるように迎撃された。すんでのところで剣で防御したようだが、ダメージは否めない。すぐさまヨミが回復させているが、あの敵はまだあの子たちには早いだろう。
しかし、王都まで20㎞くらいだというのにこんなに強い敵が出るのはやや異常だ。これは素材も確保した上でギルドに報告した方が良いだろう。
場所さえ分かればこっちのもんだ。さらに自分より上にいるというのがちょうど良い。
「水龍招来」
避けようと逃げたみたいだが、見えているぞ。俺の水龍からは逃げられない。水龍がカメレオンの喉元に噛みつき、絶命させた。防御力は低いみたいだ。
落ちてきた魔物はインビジブルカメレオン。確か討伐ランクAの魔物だったはずだ。収納に入れて後ろを振り向くと、5人組がちょっとキラキラした目でこっちを見ていた。
「えっと……?」
「この子たちはアウル様の魔法に感動しているのよ」
「ご主人様の魔法はオリジナルばかりなので、見ていてとてもおもしろいんです」
あぁ、確かに言われてみたらそうかも。この技を使えるのは俺とヨミくらいだもんね。ちょっとはかっこつけられたみたいでよかった。これで少しは面目を施せたかな?
「みんなの実力は分かった。これからは王都で冒険者登録して迷宮に潜って修行すると良いよ」
「「「「「かしこまりました」」」」」
こういう返事は一級品なんだよなぁ。きっとヨミあたりが仕込んだんだろう。本当に仕事が早いよ。ただ、当面の家をどうするか考えないといけない。一気に7人も増えるわけだけど……。あ、そうか、地下を作ればいいんだ。
◇◇◇
家に着くとレティアがムーランに魔法を教えていた。グラさんが言うには喧嘩をしかなり怒っていたらしいが……そんな感じはしない。グラさんは念のために一緒に帰ってこずに、少し離れたところで別行動している。
保護した7人は、ルナとヨミに引き連れさせて買い物に行かせた。あわせてミレイちゃんの紹介もするそうだ。女子会というやつだろう。……アセナは可哀想だが仕方ない。
「ただいまレティア、ムーラン」
「おかえりアウルお兄ちゃん!」
あぁ、ムーランは天使や……。うちのシアには負けるが、シアの次くらいに天使だ。王都にできた心のオアシスといっても過言ではない。
「おかえりなさい、アウル」
「何か変わったことはあった?」
とりあえず情報収集をしなければな。
「変わったことねぇ。特にはないけど……グランツァールと喧嘩したくらいかしら」
それだ。まさにそれだよ。まぁ、そのおかげでグラさんが帝都に来たくれたわけだが。
「ちなみに、なんで喧嘩したのか聞いてもいい?」
「……あいつが悪いのよ。私が頑張って素直になろうと思ったのに」
「なんか言われたの?」
「あいつ…………って言ったのよ」
「え?」
「あいつ、ティアラの父親が誰か聞いてきたから、あなたよって言ったら、嘘をつくな!ふざけるなって言ったのよ!酔って交尾したとはいえ、全く覚えていないなんて悲しいじゃない……」
あぁ……。以前にもこの話あったな。でも、自分から聞くとはグラさんなりに頑張ったんだろう。ただ、覚えていないから仕方ないとはいえ、レティアからしたら腹立つ話だよなぁ。
「それで大喧嘩になったってわけね」
救いようがない気もするが、どうにかしないことには始まらない。グラさんと約束してしまったし、仕方ない。一肌脱ぐか。
「レティアはグラさんと仲直りしたい?」
「……もちろんよ。ただ、分かってはいるけど、そう簡単には素直になれなくて」
「――だってよ、グラさん?」
近くで話を聞いていたグラさんへと問いかけた。
「……そうだったのか。俺が悪いというのに、ひどいことを言ってしまった。本当に申し訳ない」
「あれが初めてだったんだから……」
「今更許して欲しいとは言わないが、もう一度最初からやり直さないか?」
「……次、記憶飛ばしたら許さないんだからね!」
おっと、ここからは2人の問題だ。俺が関与するべきではない。きっかけは作ったし、俺の仕事はここまででいいだろう。もしかしたら近いうちにティアラに弟妹ができるかもしれないな。
ゆっくりと更新していきます。
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もう少しで次章が始まります。110話のあとがきで次章の公表します。
皆様のおかげで【ネット小説大賞】受賞しました。双葉社様にて書籍化させて頂きます。




