ep.107 お家騒動の終わり
目が醒めると俺はベッドに寝かされていた。
体を起こすと、すぐ横にはルナが俺の手を握りながら寝ていた。俺が夢に潜っている間中ずっと握っていたのだろう。疲れたのかルナは夢の中のようだが、その顔は俺を心配していたのが伝わってくるような顔をしている。
辺りを見回すと、未だにベッドに寝ているリリーと、疲れ切った表情の第三夫人。部屋の隅っこで憔悴しているエゼルミアさん。およそ10時間近く魔法を維持して疲れたのだろう。そのおかげもあって、無事にグレシルは倒すことができたはずだ。
外を見ると真っ暗なので、今は深夜ということなのだろう。
「……終わった、のか」
「お疲れ様でございます主様。あの娘から魔人の気配はありませんので、もう心配はないかと」
よかった……。これで全てが終わったんだ。残るはいろいろな後処理だけだから、それはもう俺の知るところじゃない。ここからはリリーが頑張るところだ。
「ルクレツィア様、本当にありがとうございました」
「いえいえ、私の力でリリネッタが助かったのなら喜ばしいことです」
「エゼルミアさんも本当に助かりました」
「いいよ~。あとで甘い物が食べられれば」
報酬が甘い物でいいとは、けっっこうなことだ。作りおいてあるフルーツパウンドケーキがあるから、それを丸々一本渡しておこう。
収納からだして渡すと、それをまじまじと見ている第三夫人。あんなに優しそうな顔をしていたはずなのに、今は余計にいい笑顔をしている。……この世界の女性は無言の圧力が上手すぎるんではないんでしょうか?いや、もちろん頑張った第三夫人にも渡しましたけどね。
ひとまずルナをベッドに寝かせ、起きている人たちでお茶をすることになった。夢世界での出来事を話しつつ、ケーキに舌鼓を打っていると、リリーが起きたのだ。
「……んん、あれ、ここは……?」
「おかえり、リリー」
「……アウル?そっか、私、助かったんだ」
「今はゆっくり休むといい。話は明日し――」
「美味しそうな物食べてるのね?」
・・・・・・。
食はなにものよりも勝るということかな。結局、ルナも起こしてみんなで深夜にお茶をすることになった。リリーやルナも含めて夢世界でのことを話すことになったが、リリーは夢世界のことを全く覚えていないそうだ。俺が覚えている範囲で経緯を説明し、もう魔人は倒したことを伝えた。
「改めて、ありがとうアウル。本当に助かりました」
「なに、俺は当たり前のことをしただけだ」
「あ、当たり前!……私を助けるのが、当たり前……!」
なにせチョコレートについて教えてもらう約束だからな。なんだか赤面しているようだが、まだ体調が悪いのだろうか……?とりあえずヒールをかけておこう。
「オホン!とにかく、ご主人様と皇女様が無事で良かったです」
なんだかルナが心なしか怒っているように感じるのは気のせいか……? 第三夫人とエゼルミアさんが楽しそうにニヤニヤしているのも気になる。一体全体なんだってんだ。
「ええ、おかげさまで助かりました。……これも、私が魔人に誑かされたせい、ですね。魔人の甘い言葉に乗せられてしまいました……」
「魔人に願ったのは上皇の延命、とかですか?」
「! 凄い、アウルにはなんでもわかってしまうのですね……。その通りです、私が願ったのはお祖父様の延命です。どうしても、婚約者ができましたよってお伝えしたかったの」
やはりそうか。あの爺さんが生きているのが凄いくらいだと思っていたのだ。回復魔法をかけても、体の悪いところを少し治せただけで、それ以上は無理だった。回復魔法で老衰は治せないからな……。
「そういう切実な願いにつけ込まれた、ってことか」
「悔しいけど、そういうことになるわ」
「……話は変わるが、報酬の件をお願いしてもいいか?」
「チョコレートね。チョコレートの原料となるカカオの苗木をあとで届けさせるわ。これはお祖父様が見つけたのだけど、そのカカオという豆からチョコレートができるそうよ」
なるほどね!爺さんめ、知っているならさっさと教えてくれればいいものを……。まぁいい。これで念願のものは手に入ったわけだ。これは帰ったら早速カカオの育成に入るとしよう。自重など無視したカカオの育成を実施する予定だ。
「ありがとうリリー。これで依頼は完了だ」
「ええ、ありがとう。すぐ王都に帰る?」
「明日には帰ることにするよ」
「わかった。婚約者の件については私の方でなんとかしておくわ」
その後もちょっとした雑談をして、そろそろお開きにしようと思ったときにその部屋の空間が歪んだのだ。何事かと思っていつでも魔法を展開できるように待機していると、その歪みから出てきたのはなんとグラさんだった。……グラさんって、転移の魔法使えたんだ。なんかショック。
「……グラさん、なにしてるの?」
「アウルか……、ちょっとレティアと喧嘩をしてな……。ひとまずアウルになんとかしてもらおうと思って、逃げてきた」
「はぁ……。手のかかる駄龍だな……。あ、そういえばグラさんの加護をもらったら寿命が延びたりってする?」
「寿命?……ふむ、火属性の適正値が最高の場合に限って、その可能性もあり得る。火属性による活性の影響で僅か10年くらいが限界だろうがな」
10年ってかなり長いと思うのは俺だけか?いや、半永久的な寿命の龍にしてみれば10年というのは一瞬なのだろう。
「実はかくかくしかじかで――」
「……ふむ、他でもないアウルの頼みだしいいぞ。その代わり、レティアとの、仲直りをな?その……」
いや、いいのかよ。何を理由に喧嘩したか知らんが、長い龍の一生のうちで3回しかできない加護をそんな理由でくれるとは。やっぱりただのアホかもしれん。まぁ、今回は助かるのだが。
「紹介が遅れたけど、こいつはグランツァールだ。またの名を――」
「――赤龍帝、であろう?」
俺が言う前にグランツァールについて喋ったのは上皇だったのだ。声がした方に視線をやると扉を開けて爺さんが立っていた。
「お祖父様!歩いて大丈夫なのですか?!」
「おお、リリー。今日も可愛いなぁ。……体は問題ない。急に尋常じゃない気配が城内に発生したのが気になってな。しかし、まさか死ぬ前に赤龍帝様に出会えるとは。長生きはするものだのう」
なんて都合のいいタイミングで現れるんだ。もはやこれは偶然というより必然だろう。グラさんにお願いしておいた通り、爺さんに加護を授けてもらった。炎帝と呼ばれていただけあって、火属性の適正値は最高であった。それも相まって加護を受けた後の爺さんは、以前にも増して元気はつらつとしている。いや、ちょっと元気過ぎるが……
今だってリリーと踊っているからな。
現皇帝も無事に元気になったそうだし、これならまだまだ皇帝の引き継ぎは先だろう。これでお家騒動も綺麗に解決だ。報酬のカカオも手に入るし、頑張った甲斐がある。
これは後から聞いたことだが、第三夫人のしでかしたことは許されることではないものの、元々の責任は帝国にあるとして、今後の働きを以て許されることとなった。アルフ曰く、記憶を無くしていた兄姉達も日ごとに元気を取り戻していくという。これもグレシルの影響が少なからずあったそうだ。
「さて、今日のところはそろそろ寝るとしようか」
「……アウル、加護はやったのだからレティアとの仲直りの件、忘れずに頼むぞ」
「わかってるよ、グラさん」
こうして、短いようで長かった帝国での生活も今日で終わりだ。さっきヨミに伝声の魔導具で連絡を取ったところ、ひとまず保護した人たちのうち最初の5人は王都に連れて帰るという。その後に保護した子達は帰る家があるらしいので、ほとんどが帰ることにしたという。数人はご飯の美味しさに惚れ込んで付いてきたがったらしいが、家で親が待っているだろうとのことで帰って行ったそうだ。
エゼルミアさんが助けたエルフ達も皆帰省し、残ったのは猫獣人の女の子と狼獣人の男の子だ。この子達は故郷ごと焼き払われて、帰る場所がないという。助けた手前、そのまま放置するわけにもいかないので連れて帰ることにしたらしい。帰ったら自己紹介と、みんなが住む家をどうにかしないといけないな。
次の日、いつもより早めに目が覚めたので、夢の中で使えた技が使えないか試してみたが、やはり思うように技は発動しなかった。中途半端な技であることから、《斬魔の一刀・零式》といったところだ。
「そういえば、久しぶりにステータスを確認しておこうかな」
恩恵が覚醒したってのも気になるしね。
◇◆◇◆◇◆◇◆
人族/♂/アウル/11歳/Lv.178
体力:12000
魔力:50000
筋力:460
敏捷:420
精神:720
幸運:88
恩恵:器用貧乏→蓋世之才(覚醒)
◇◆◇◆◇◆◇◆
確かに表記が変わっている。器用貧乏でそれなりにできていたというのに、覚醒したら蓋世之才なんていうチートな恩恵になってしまった。とは言うものの、蓋世之才(覚醒)の表記だけが、グレーで半透明になっている。これは通常時は器用貧乏でしかないって事なのかな?未だに恩恵の覚醒には謎が多い。モニカ教授が詳しく知っていることを願うしかないな。
確認作業を終えて簡単にストレッチをしたら、次にベヒーモスを召喚できるか試してみたところ、無事に呼ぶ出すことができた。一時はどうなるかと思ったけど、成功して良かったな。
「やぁ、ベヒーモス。夢世界から無事に現実世界に来られたみたいだね」
『そのようだぞ、我が主。……それで、私にも名前は頂けるのか?』
そういえばあとで名前をつけるって言ったんだっけ。どうしようかな、なんにも思いつかないや。というか、このベヒーモスは雄なのか?雌なのか?
「ベヒーモスって雄なの?雌なの?」
『性別であるか?我々のような存在に性別という概念は無いのであるが、我が主はどちらがよいか?』
うーん、忠犬が女の子ってのも考え物だよな……。でも声は割と可愛い方だし迷いどころだ。まぁ、性別は今すぐ決める必要は無いか。
毛並みは綺麗なすみれ色……ヴァイオレット……うん、決めた。
「性別に拘りは無いから、のちのち自分で決めるといいよ。そして名前だけど、君の名前はヴィオレだ」
『ヴィオレ……いい名前だ!ありがとう我が主!』
尻尾がぶんぶんと振っていてとても可愛い。見ているだけで癒やされるなぁ。仔犬くらいのサイズで俺の周りを走り回っているのを見ると、強大な力を持っているとは思えない。こうして部屋の中でヴィオレと遊んでいると、ルナとヨミが部屋に入ってきた。
「失礼しますご主人さ――わぁ、可愛い~!」
「おはようございます、アウルさ――あらあらあら」
俺の周りを走り回っているヴィオレを見つけるや否や、抱きしめたいと言わんばかりに俺をガン見している。紹介もしないといけないけど、仲良くやれそうかな?
「こいつはベヒーモスのヴィオレ。夢世界で仲間にしたんだ」
『よろしくね!私はヴィオレ、我が主の従魔だ!』
「私はルナ、ご主人様の婚約者よ」
「うふふ、私はヨミ。同じく婚約者よ」
『……我が主は若いのにスケコマシなのだな!決めました、私の性別は雌にします!』
……なんかとんでもない勘違いをされているんだが。俺は全く以てスケコマシではないのだが。というか、そんな理由で性別を決めるのも凄いな。
「それにしても可愛いですね、ヴィオちゃん」
「うふふ、毛並みも最高ですね。ずーっと撫でていられそうです」
2人にもふもふされまくっているヴィオレは、振り払うまではしないがなんだか微妙な顔をしている。ルナに関しては早速ヴィオレに愛称をつけているし。
『助けて、我が主ーーー!』
そんな平和な朝を過ごしていると、メイドさんがノックして部屋に荷物を置いていった。置いていったそれは20個ほどあるカカオの苗木だった。これは皇女が用意した報酬ということだろう。これさえあれば、チョコレートが作れる。待ちに待ったチョコレートだ。さよなら自重、こんにちは快適な生活。
その後、諸々の準備を終わらせて、皇帝や上皇、リリーに挨拶を告げて城を出た。皇帝に言い寄られて、リリーの本当の婚約者にならないかと誘われたが、丁重に断っておいた。カミーユはギラついた目で俺を見ており、今にも付いてきそうな気配がしたので、睡眠薬入りのフルーツパウンドケーキを食べさせて眠ってもらった。これで起きる頃には俺たちの姿がないという寸法だ。
一国の皇女を連れて帰ったとなったら、下手すりゃ国際問題にもなりかねないし、あんな歪んだ性癖を持っていらっしゃる方はゴメンだ。リリーからも熱烈な視線を送られたが、あえて無視した。なにも言ってこないのは、俺よりも皇族内の後処理がたくさん残っているから、構っている余裕が無いことを理解しているのだろう。俺からすれば好都合だけどな。
つつがなく城を出た後はスラムにある拠点へと移動し、保護した人たちに会うこととなった。なお、王国までの帰りはグラさんの背中に乗せてもらえるのであっという間に着くだろう。転移は1人でしかできないらしいので、仕方がない。
「お待たせヨミ。その人たちが新しく仲間になる人たちだね」
拠点に着いて、中に入るとヨミと数人が待機していた。この人たちが新たに仲間になるということだろう。にしても、初めて会ったときよりも肉付きが良くなっているし、顔つきもかなり変わっている。ダンジョンでの特訓が良い刺激になったのかな?
「ふふ、その通りです。申し訳ありませんが、お先に自己紹介をお願いしてもよろしいですか?」
「そうだね。俺はアウル。本拠地はライヤード王国のほうで、今はちょっとした理由で帝国にいるんだ。これから王国に帰る予定だけど、それで問題ないか教えてくれると助かるよ」
帝国にいたい!っていう場合もあるし、そのときは冒険者登録でもしてもらって、生計を立ててもらうしかない。
「じゃあ、右端から自己紹介していって」
ヨミに促されて順々に自己紹介を始めた。
ゆっくりと更新していきます。
評価・ブクマ等して貰えたら嬉しいです。
もう少しで次章が始まります。
皆様のおかげで【ネット小説大賞】受賞しました。双葉社様にて書籍化させて頂きます。




