ep.105 夢世界の激闘③
っと、その前に大斧を回収しておかねば。にしても大きいけど、何に使おうかな……。いずれ誰かにあげるとしよう。うん、それだな。もしかしたらアルフあたりが華麗に使いこなすかもしれないし。
「あ、ダンタリオンのやつ倒せたらなんでも教えてくれるって言ってたのに……」
もったいないことしたか?いや、しょうがないよな。
時間はまだ1時間くらいしかかかってないとはいえ、急いで城に行かないと。
身体強化で走ること数分で城門まで辿り着いたが、当たり前のように門番がいる。杖を持った門番と、大剣を持った門番の二人だ。どちらも身長2m以上あるだろう。鎧も真っ黒で、いかにも黒騎士といった風貌の門番だ。
「一応聞いておくけど、ここ通ってもいいか?」
『侵入者は排除せよとの命令だ』
『お前はこれ以上進むことは叶わん』
まぁ、そうなるよな。じゃあ力尽くでも押し通るしかないが、厄介なのは敵が二人だということだ。しかし、戦ってみないことにはわからん。見るからに直接戦闘型と魔法戦闘型の二人だと推測できるが、バランスが良すぎる。上手く攻略しないと、痛い目を見そうだ。便宜上、直接戦闘型を脳筋、魔法戦闘型をもやしと呼称しよう。
「アイスランス×5」
小手調べに脳筋に対して放った魔法は、当たる直前に掻き消された。推察するに、もやしの張った障壁かなにかだと思うのだが……
「まさか魔法無効化……なわけないよな?」
脳筋が魔法無効化だとすると、もやしは物理無効化とか?だとしたら、俺はあいつらの得意分野で闘わないといけないということになるのだが。ちょっと鬼畜過ぎないか?だが、まだ決まったわけじゃないし、確認する必要がある。
「土龍招来!」
物理能力を併せ持ちつつ、魔法攻撃でもある土属性の攻撃だ。こんなところで時間をかけていられるかってんだ。
『ほう、さきほどの魔法攻撃のみで我らの能力に気づくとはやるではないか! 蒼竜刃!』
『甘く見てもらっては困る! 蒼竜波!』
脳筋が大剣を振るうと剣圧が蒼き竜となり、もやしが杖を振るうと魔力で出来た蒼き竜が出現し、俺の土龍と衝突して消えた。魔力をそれなりに込めた魔法だというのに衝突して消えるということは、それなりの威力を有しているということだ。
できるならこの2体もぜひ仲間になって欲しいところだが……。無理かな?
「お前ら、グレシルなんかに従ってないで俺の仲間にならないか?」
『仲間?……わはははは、我らを仲間にとは面白いことを言う』
『だが、我らはグレシル様に忠誠を誓った身。それはできない』
忠誠心も高いとなると、余計に仲間に欲しかったが仕方ない。無理だと分かるや否や、杖に魔力をありったけ込めて脳筋に近づいた。
20m以上あった距離をわずか2歩で詰める。脳筋に向けて杖を薙いだ。
《杖術 薙の型 鎧断ち》
『ぬぅん!』
『蒼竜波!』
薙いだ杖と脳筋の大剣が交差する。力は互角、技術も互角ときている。拮抗しているところにもやしの魔法が邪魔をしてくるせいで、決め手に欠けてしまう。一対一なら負けるようなこともないのだろうが……。
すぐさま大剣を弾いて距離をとり、すんでのところで蒼竜波を躱した。しかし、これで完璧に理解した。脳筋に対しては物理、もやしに対しては魔法でないとダメージを与えることが出来ない。
土属性の攻撃であればどちらも倒すことが可能だが……仕方ない。ここでこれ以上時間を取られるのも馬鹿らしい。魔力を使いすぎるのは癪だが、それほどにこいつらは強いのだ。
「意志ある岩塊よ、生ける竜となりて彼の者を殲滅せよ、岩竜」
『ははは……これほどの竜を召喚できるとは……』
『無念である……』
10m以上ある巨大な岩竜が門番二人を飲み込んだ。グシャグシャと耳障りな音とともに。
「なんとか勝てたけど、このペースで行くと俺の魔力がもたんぞ?」
無傷での勝利とはいえ辛勝、状況はあまり芳しくない。しかし、止まってもいられないのが辛いところだ。グレシルとの戦いにどれだけ時間がかかるかもわからないし、まだまだ敵が出る可能性もある。
城に入って大階段を登り内部へと侵入する。ホールのようなところへ出ると、明らかに雑魚敵らしきものがたくさんいるのだが、まばらに普通の人間も配置されている。おそらく、一気に魔法で殲滅されないための対策なのだろう。頭が回る敵というのがこんなにも厄介だとは……。
だがしかし!
この程度で俺を止められると思ったら甘いんだよ。
気配遮断!魔力隠蔽!
要はバレなきゃいいんだろ?さっきみたいに俺のことを視認しているわけでもないし、必ず倒さなくていいんだったら戦うのは馬鹿らしい。
雑魚敵のいたホールを抜けて城内を索敵していると、明らかに感じたことのない魔力を感じた。それも、グランツァールやレティアと比べても遜色ないほどの魔力だ。
「これは…ちょっとやばいどころの騒ぎじゃないぞ……」
もし龍と同等の強さだとしたら、いくら夢世界といえど勝てる気がしない。単純な力比べにすらならないだろう。一瞬でやられてしまうのがオチだ。
ん?強大な魔力とは別に何か異質な魔力を感じるな。……こっちか?
異質な魔力反応を頼りに城内を散策していると、何もない廊下に突き当たった。周囲にあるのは壁のみで、窓も明かりも何もない。なのになぜか暗く感じないのは夢世界だからなのか、それとも他の要因があるのか…。
「魔力反応は明らかにこの壁の奥なんだよなぁ…」
試しに色々と触ってみたが、特に仕掛けはない。とすると、魔力に反応して開く可能性が高い。手に魔力を込めて注ぎ込んでみたが意味なし。とくれば、秘密の合言葉か?
「ひらけゴマ!」
・・・・・・。
……いや、まぁね、わかってたけどさ。
「くそがっ!!」
おっと、分からなすぎて壁をどついてしまった。
がらがらがら……!
まさかの物理のみ!?そんなの、一周回ってわからんわ。
「埃っぽい部屋だな……。あれは、鏡か?」
壁を破壊した先にあった部屋の真ん中に置かれていたのは、巨大な鏡だった。近づいていくと、思いもよらないものが写り込んでいたのだ。
「これは……前世の俺?」
最初こそアウルの姿の俺が写っていたのだが、すぐさまその形を変えて前世の俺が映し出されたのだ。
『よくきたな、俺。この部屋を見つけてくれると思ってたよ』
喋った?!というかここは第三皇女の夢世界のはずだ。なぜこんなものが……?
「お前は、前世の俺だよな?」
『そうとも言えるし、そうでないとも言える。俺はこの夢世界の宿主がもつ恩恵の本体だからな。その恩恵のおかげでこうして前世の俺に会えているというわけだ』
「よくわからんけど、なんか凄そうだな」
いまいち実感がわかないんだよなぁ。目の前に過去の俺がいると言われても、俺は俺なわけだし。でも不思議と受け入れられるのは、俺だからなんだろうか。
『いいことを教えてやる。お前はこの世界にきてまだ1〜2時間程度と思っているのかもしれないが、すでに4時間以上経っている。これは時間の流れと体内時計が狂っているからだ。大方、宿主に寄生している何者かが弄ったんだろうがな』
「なっ?!」
そこまで考えていなかった!外界との連絡を切られた時点で、時間操作についても疑いを持つべきだった。危ない危ない。
『俺もその何者かにここに隠されていたんだが、見つけてくれて助かったよ。宿主を助けようとしてくれている今の俺に敬意を表して、一つ試練を与えよう。それを乗り越えられれば一段階強くなれる。どうする?受けるか?』
試練、か。さっき感じた魔力は化け物じみたものだった。俺が城に入ったというのに攻撃してこないのは余裕からだろう。おおかた、手下との戦いを見て俺になら勝てるとか思ったんだろうが。その推測は間違いない。あんな魔力で魔法を使われたら間違いなく勝てないし、仮に勝ててもリリーの記憶はぐちゃぐちゃだろう。
「俺は、試練を受ける」
『へぇ、さすがは俺だ。決断力は悪くないな。試練は簡単、俺に勝て!』
鏡の中の俺が言い終えると同時に、鏡から前世の俺が愛用していた杖を持った俺が出てきたのだ。しかもなぜか俺の魔力と同等の何かを感じる。時間が狂わされているとなると、この試練にあまり時間はかけられない。
「先手必勝!」
《杖術 太刀の型 瞬閃》
『考えることは同じのようだな。 《瞬閃》』
杖と杖が交差した音とは思えないほどの甲高い音が部屋に響いた。不意に杖を持つ手の力を抜いて前世の俺の体制を崩す。その瞬間に次の技を流れるように発動した。
「アクアランス×5」
『おいおい、俺との勝負に魔法を使うとは味気ないぜ。《デリート》』
……は?防ぐでもなく、避けるでもなく、掻き消すでもない。魔法自体がなかったことにされた?
「それは反則だろうが!」
『前世の俺に魔法使おうってのが間違いなんだよ!ほら、かかってこい!』
くそう。体格も明らかに前世の俺の方が大きい。力はほぼ互角だが、体格だけでかなり不利だ。これはうまくやらないと勝てないぞ?!
『こないならこっちから行くぜ!』
大きな踏み込みとともに、前世の俺が消えた。しかし、俺は知っている。これは縮地だ。
縮地は瞬間移動ではない。完全に歩法としての技術だが、前世で俺は師匠に嫌という程仕込まれた技の一つだ。生きていく中で使うタイミングが、飲み会から逃れる時くらいにしか使わなかったのはいい思い出だ。
「らぁっ!」
背後から切りかかってくる攻撃をすんでのところで受け止める。それと同時にカウンターを仕掛けた。それも、こっちの世界に転生してから作り出した俺のオリジナルだ。ヨルナードに勝つために編み出した技でもある。
《杖術 薙の型 竜巻落とし》
前世の俺の杖に巻き付くように杖を動かすことで、手から奪い取る技だ。攻撃というよりは技術に近い。
『悪くはない。が、それでは甘いぞ?』
「なっ…!微動だにしない?!」
『ほうら、受け止めてみろ! 斬魔の一刀!』
いちいちモーションが早い!前世の俺ってばこんなに杖術使えてたのかよ?!いや、師匠の鬼のようなしごきを思えば、当たり前か……?
《杖術 太刀の型 斬魔の一刀》
結局、どちらも決め手に欠けるような戦いを続けているうちに、俺はあることに気づいてしまった。
「もしかして、俺に勝つ気はないな?」
『へぇ、意外と気づくのが早かったじゃねぇか。そうだなぁ、あと5時間もすれば俺に勝てるだろうぜ?』
ということは、リリーの中に巣食うグレシルを倒すことを諦めれば俺は試練に勝てる。言い換えれば、リリー救出を諦めれば俺は今よりも強くなれる、そういうことか。
『対して親しくもない女だ。別にいいんじゃないか?もともと俺はのんべんだらりと生きるのが目標なわけだしな。むしろこの女のせいで忙しくなってるじゃないか。休暇中に実家に帰って妹に会う予定はどうした?農業をやる予定はどうなった?……お前は、なんやかんやと誰かのために働いているじゃないか。情けは人のためならずだと?笑わせやがって。前世でお前を誰かが助けてくれたか?いねぇよな。誰かを助けたってお前には返ってこないんだよ。早く気付けよ。その点、このまま俺と戦えばさらに強くなれるし、面倒な女からも解放される。あとは実家に帰って、のんびり農業でもやれば最高の人生じゃないか』
……言いたいことは良くわかる。むしろ、つい最近も同じようなことを考えていた。むしろそうしてしまいたいと思う自分もいる。
けど、改めて聞いてみるとひどい話だ。俺がこの世界にいるのは、あの猫を助けたからだ。
この世の全てを助けたいとは思わないけれど、せめて手の届く範囲ではなにかしてあげたい。その上で俺はのんびりと生きてやる。まだ11歳になったばかりだし、時間はまだまだある。今はのんべんだらりと生きるための人脈作りと思えば、いつかは自分に絶対有利になる。なんてったって、俺の助けようとしている相手は一国の皇女様だからな!
「だったら試練はやめだ。このまま強くなるのもいいけど、この機会はまた今度にするよ。今やらないといけないことがあるからな」
『……この機会が今だけだとしてもか?』
「俺に今できることを精一杯やるだけさ。試練は今じゃないってだけだ」
『そうか……。応援はできないけど、頑張れよ、俺』
それは応援しちゃっているけどな。だが、悪い気はしない。
「じゃあな、前世の俺」
埃っぽい部屋を抜けて、後ろを振り返るとさっきまであった壁の穴が無くなっており、異質な魔力も感じられなくなっていた。機会が今だけっていうのは本当だったようだ。
「さて、無理は承知でグレシル討伐と行きましょうかね!」
ゆっくりと更新していきます。
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