ep.103 夢世界の激闘①
夢を見なかった。今までがたまたまだったのか、それとも第三皇女自身の力が落ちてきているからなのかは分からない。だが、早急に対処した方が良いのは間違いないはずだ。第三夫人にお願いして、グレシルを倒すための準備は整っている。
あとは、俺が睡眠薬入りのお菓子を作成して食べさせるだけで作戦が開始できるわけだが、どんなお菓子を作るべきか……。何を作ろうにもおおよその材料は足りている。
「よし、今回はフルーツパウンドケーキにしよう!」
フルーツはたくさんあるし、それにパウンドケーキなら色々入れてもわかりにくいはずだ。普通のと薬入りのやつを作ってみんなで食べるとしよう。ついでに保護した人たちにも配れるようにたくさん作っておこう。
そうと決まればさっそく厨房へ、と思ったがその前に第三皇女に会いに行ってケーキを作ることを伝えておかなければ。きっと食べたがるだろうからな。魔人にも効くであろう睡眠薬はエゼルミアさんが調合してくれたのを、先ほどアルフが届けてくれた。
コンコンコン
「リリー、俺だ。入っていい?」
「アウルね、おはよう。どうぞ入って~!」
中に入ると第三皇女はちょうど朝ご飯を食べているところだった。まだ食べ始めだし、食後のデザートまでは時間がありそうだ。パウンドケーキは一時間もあれば焼けるだろうから、タイミングはちょうどいいみたいだな。
「朝食中に来て悪かった。美味しそうな果物が手に入ったから、それを使って新しいお菓子を「もちろんいただくわ!!」……。おう、じゃあちょっと待っててくれ」
いや、食い気味すぎだろ。まぁ順調なのは良いことなんだけどね? え、本当にグレシルに乗っ取られているんだよね? 本当はリリー本人ってことはないよね?!信用するよ、アルフ!?
「なるべく早くしてね!」
……お菓子は世界を救うかもしれないんだが? 貴族にはお菓子の魔力が通じるとは思っていたけど、下手すりゃ魔人にも効く可能性があるのか?!
そうと決まれば善は急げだ。そういえば今更だけど、グレシルの望みってなんだったんだろう。それも夢世界で会ってみれば分かることとはいえ、やっぱり魔王による指示と考えるのが妥当なのだろうが……。
みなさんお待ちかね『アウルキッチン』のお時間です。
今日は、「フルーツたっぷりパウンドケーキ」を作っていこうと思います。材料はこちら!
・バター
・砂糖
・溶き卵
・小麦粉
・レモン汁
・塩
・フルーツ各種(ドライフルーツや洋酒漬けフルーツ推奨)
・見るからに毒々しいけど毒じゃない、実は強力な睡眠薬(耐熱性)
まずは下準備として材料を常温に戻します。その次にパウンドケーキの型に油を塗って粉をふるいます。
……あとは適当に材料を混ぜて焼いて出来上がりです。この世界にはベーキングパウダーがないのでメレンゲを作って代用しました!!
「ご主人様、途中からいきなり雑になりましたが」
「気のせいだ。決して面倒くさくなったわけじゃないぞ」
まったくルナめ。余計なところに気がつきやがって。勘の良いガキは……いや、俺の方がガキだったな。ヨミだったらきっと褒めちぎってくれたに違いない。まぁ、ツッコミ役がいるから気兼ねなくボケられるわけなのだが。
ヨミは今頃、保護した人たちのところでお世話をしてくれているのだろう。今日はルナというわけだな。
「説明が雑だったのにとっても美味しそうです!この白いクリームも美味しそうですね!」
パウンドケーキが焼き上がるのを待っている間に色々と収納を整理していたら、生クリームが出てきたので端に添えたのだ。味見をしてみたが、しっとりしている上にフルーツが良い味を出している。全部で20個焼いたが、そのうちの1つに睡眠薬を入れてある。
見た目や匂いは普通なのにかなり強力だった。……ん、なんで過去形なのかって?カミーユが勝手に食べて、今もぐっすり寝ているからだよ。厨房で。
糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちたときは本当に焦ったぞ。でもそのおかげで効力の程を確認することが出来たので、結果オーライなのだが。
もちろん後遺症や副作用はないらしい。エルフ族に伝わる秘伝らしいので、製法を聞くことはできなかったが、恐ろしいことこの上ない。
よし、準備は整ったからあとはグレシルに食べさせるだけだ。
◇◇◇
小皿に綺麗に盛り付けて、第三皇女がいる部屋を訪れると、ご飯を食べ終えてメイドに紅茶を淹れさせているところだった。
「お待たせしました。……ちょうどティータイムに間に合ったみたいでよかったです」
「待っていました!わぁ、それが新しいお菓子なのですね!とっても美味しそうです!」
掴みはばっちり、あとは食べてもらうだけで完璧だな。エルフ族特製の睡眠薬が効くといいんだが……。
「では一口……?! これは……!」
やばい!さすがに気づかれたか?!
「とっても美味しいです!特にこのフルーツ、乾燥したフルーツを蜂蜜漬けにしたものを使用していますね!とっても……私好みで……あれ、なんだか……急に……zzzzZZZZZZ」
ちょろいかよ。焦って損したわ。でもこれも全て演技かもしれないと思うとぞっとする。
『アルフ聞こえてる?対象は沈黙したから、これから準備に取り掛かる。エゼルミアとこっちに来てくれ』
『かしこまりました。到着しました」
うわぁ?!なんで通信中にくるんだよ!なんとなく予想してたけど、やっぱり慣れないな!というか絶対転移してる!
「よし、じゃあルナは第三夫人を呼んできてくれ」
「そうなると思いまして既に隣室にて待機していただいております」
なんて有能なのかしら。ルナといいヨミといいアルフといい……。俺の周りには有能な人材が溢れてやがる。このままでは俺の存在感が……
「よし、みんな揃ったね。準備は良いかな?」
「もちろんです。私がリリネッタの夢世界にアウル君を送り込みます」
この計画は第三夫人の力なくしては実現しなかったからな。多少は無理してでも頑張ってもらいたい。
「私の作った睡眠薬はおよそ10時間は効力が持続します。その間でなんとかしてくださいね。一応私も補助に入りますが、あまり期待はしないでください」
あれ、夢世界では時間の流れ方が違うから結構余裕があるのか?
「あ、念のために言っておきますが夢世界と現実世界の時間の流れ方は同じです。誰かの夢に干渉する場合、時間軸の流れに変化は起きないので注意してくださいね」
うおぉぉぉい!さらっと重要なことぶっこんで来るな?でも制限があったほうが気合も入るってもんだ。
「分かった。じゃあ行ってくる。後のことは頼んだよみんな!」
「では行きます。『夢魔法 共存世界』」
ゆっくりと更新していきます。
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体調崩して投稿ができなくなってました……。申し訳ないです。
皆様のおかげで【ネット小説大賞】受賞しました。双葉社様にて書籍化させて頂きます。また、発売情報が解禁になっていたみたいで、調べてみたら双葉社様のHPに情報が載ってました。詳細なことが分かったら活動報告で書かせていただきますので、そのときはまた後書きのほうにお知らせを書かせていただきます。未だに油断ならない状況ですが、書店やネットで見かけた際には是非お手にとって頂けると幸いです。
(ミレイちゃんがとっても可愛いんです!)




