ep.102 真相の行方
今考え直すと最初からおかしかったんだ。俺たちが帝国に行くタイミングが盗賊に完全にバレていた。よく考えるとこれはおかしい。前もっていつどこを通るかなど分かっていないと出来ない芸当だ。
あの一件のせいで俺たちは第三夫人を怪しいと思ったし、警戒した。その結果、第三夫人が元邪神教でいろいろと企てていたのを暴けたわけだが。それでも闇ギルドに襲撃させたりはしていないし、違和感が残る。
それに俺の夢に出てきたあの聞き覚えのある女性の声。なんとなく引っかかっていたけど、思い直してみるとあれは間違いない。
「あの声はリリネッタ第三皇女のものだったんだ。おそらく、第三皇女が黒幕ってことなんだろうなぁ」
正確には、第三皇女を乗っ取っている魔人が、だが。元々の第三皇女が魔人グレシルに何を願ったかは分からない。けれど、アルフが誤認させられる程度にはグレシルを強くしてしまうような内容だろう。
例えば『人の延命』とかな。流石に死んだ人を生き返らせることは無理だろうが、人の延命くらいはやってのけそうな気がする。それこそ、上皇である爺さんの延命とかな。
これはあくまで推測の域だが、上皇の命はもう限界なのだろう。俺も回復してみて思ったが、本当にあそこまで元気なのは異常なほどにギリギリだった。
きっとグレシルに唆されて、デメリットを伝えられずに契約をしてしまったのだろう。結果的に上皇は延命に成功しているわけだし、第三皇女の思惑としては成功なのだろうけど、結果だけ見れば帝国のトップが魔人に乗っ取られる可能性すらあるわけだ。
闇ギルドに敢えて自分も含めた暗殺依頼を出すことで、容疑者から外れるという心理トリックまで使っているし、闇ギルドに接触出来ていなかったらここまで至ることは出来なかっただろう。
なぜ不穏分子である俺を帝国に呼んだのか等、未だに分かっていない部分はあるけど俺の想像はあながち的外れというわけでもないはずだ。
「アルフ、グレシルについてもっと詳しく教えてくれ。……例えば、依り代に影響を与えずに討伐する方法、とかね」
「…!! お優しいのですね。そうですね、依り代を考慮しなければ討伐方法などいくらでもあるのですが、依り代に影響なしとするとその方法は限られます。そもそも依り代に憑依しているときのグレシルには実体がなく、精神体なので精神体に攻撃する方法があれば一番理想的です」
精神体への攻撃?いや、そんなのもってないんだけど。標準的な攻撃魔法は自信あるけど、精神体への攻撃となると聖魔法か?いや、そもそも憑依は呪いとは違うからセイクリッドヒールでも治せるとは思えない。
「アルフは精神体への攻撃方法持ってたりする?」
「……あるにはあるのですが……」
? アルフにしては歯切れが悪いな。なにかデメリットもあるのかな?
「なにか問題でもあるの?」
「精神体のみを破壊する拳技がありますが、依り代となる精神体もろとも破壊してしまいますので、抜け殻のような人間になってしまうかと……」
「却下だ」
いや、普通に考えて怖すぎでしょ。精神体が無くなったら外側だけが残るとかそれはもうただの人形でしょ。……ん? そうなると知っているということは、アルフは……。うむ、知らないほうがいいこともあるな。触れないでおくとしよう。
「そうなりますと、あと考えられるのはグレシルと依り代の精神世界に潜り込み、グレシルの精神体を討伐する方法でしょうか。ただ、これには精神世界への干渉を手助けしてくれる存在が必要になります。私の知る限り、エゼルミアが可能でしょうが専門ではないため不安は残ります」
精神世界への干渉か……。確かに難易度は高いけど、精神世界で囚われている第三皇女の精神体を救出しつつ、グレシルを討伐する必要があるということだな。でも俺にはそんな能力はないし、一体どうすれば……。
「あっ。……精神世界というのは詰まるところ、『夢』でも解釈としては一緒か?」
「夢ですか……。考えたことはありませんが、依り代が人間であるならば、夢というのは確かに精神世界と言えるのではないでしょうか?」
となれば、エゼルミアさんに助力を頼んで第三夫人の夢魔法を補助してもらえればいけるか……?問題は本体をどうやって拘束するかだけど……。
「外側の拘束はどうすればいいと思う?」
一応、案はあるけど効かない場合には違う手を考えないといけないからな。
「ふむ……。こちらが気づいていると悟られなければ、眠らせるのが一番効率がいいでしょう」
となれば、お菓子をつくってそれに睡眠薬を入れるのが一番手っ取り早いか。あと残る問題は、グレシルの依り代が本当に第三皇女かどうかの確認だけど。アルフに居場所を悟らせないようにするほどの手練れとなると、確認するのも一筋縄じゃいかないか?
「なるほど……。あと、アルフはグレシルに近づけば存在の認識は可能?」
「そうですね。そのままでは難しいかもしれませんが、少しでも動揺させて揺らぎのようなものが察知できれば可能かと」
アルフまじで優秀だな?! よくこんなに優秀な魔人を召喚できたものだ。俺も負けないように頑張らないと。と言っても、この件が終われば学院卒業までを適度に頑張って俺は村へ帰るがな。
合間を見てイナギ解放のための封印の地を割り出して、みんなの助けを借りてイナギの解放を目指すとしよう。俺は美味しいワインの研究や村の発展、シアの成長を見守ったりしないといけないからやることはたくさんあるのだ。
そのためにも今を全力で終わらせてやる。
「ここはルナたちに任せて、俺たちは城へと戻ろう。とりあえず何も知らない体で戻って、第三皇女に接触を試みよう」
「かしこまりました。エゼルミアは準備ができたタイミングで来るように伝えておきます」
「うん、それで頼むよ。エゼルミアさんには俺からあとでお礼を渡すよ」
お菓子の詰め合わせで手を打ってもらうとしよう。あれ、でもどうやって来てもらうんだろう。まさか転移系の魔法でも使えるってのか?……ぜひ教えて欲しいものだな。まぁ、それも今度だな。
さぁ、いくか。
◇◇◇
「お帰りなさいアウル。何か分かった?」
おっと、城に帰ってきたのはいいけど早速お出迎えとは。……まぁ、俺がどこまで情報を掴んでいるのか知りたいんだろうけど。そうはいかないぜ。
「第三夫人に話は聞けたけど、体調が悪そうだったから回復だけして出てきたよ」
うむ、あながち嘘じゃないはず。精神的な回復はしたわけだしな。
「そうですか……。でもアウルが無事で良かったです。今日はもうゆっくり休んで下さいね」
よし、とりあえず悟られてはいないみたいだ。あとはその前に確認する必要があるか。
「あ、そう言えば1つ情報が入ったよ。この帝都には魔人が4人いるらしいんだ。もしかしたら何か関係あるかもしれないんだけど、何か知ってる?」
「っ! いえ、初耳です。それにしても魔人ですか……もし関係があるなら厄介な話ですね」
今僅かだけど動揺したように見えるけど……どうなんだ?
『主様、間違いありません。その少女の中にグレシルがおります』
俺の中にいるアルフから念話が伝わってきた。どうやら俺の推測は当たっていたみたいだな。そうと分かれば話は早い。とりあえず今日は一旦引いて、第三夫人に助力を願うとしよう。きっと手助けしてくれるはずだ。
「まだ調べてる途中なので、また何か分かったら報告します。じゃあお休みリリー」
「はい、おやすみなさいアウル」
よし、この足で第三夫人の下にいくか。
「あら、坊や。こんな夜中に来るなんておませさんね。どうしたの?」
「実は『かくかくしかじか』で、手伝って欲しいんだけど、そもそもそういう魔法は出来る?」
「夢世界の共有、やったことはないけど多分出来るわ。もちろん手伝うけど、私一人では長時間の魔法維持は難しいかもれないわよ?」
できるなら問題ないな。
「それはこちらでなんとかします。決行は明日です。今日はゆっくり休んで下さい」
よし、あとは明日起きたら睡眠薬入りのお菓子を作って第三皇女に食べさせるだけだ。俺は図らずも第三夫人のおかげで夢世界には行ったことがあるから順応できるはずだ。……というか一人でないといけないのかな?
ルナやヨミ、アルフを連れて行けたら楽なんだけど。それも明日確認するとしよう。なんにしろ今日は疲れたから、ルナとヨミに連絡だけして寝るかな。
『ルナ、ヨミ、詳しいことは明日伝えるけど、今回の件の首謀者が分かったよ。それで明日に白黒つけるからそのつもりでいてくれ。あと、保護した人たちはヨミとルナに任せるから、どちらか手の空いている方が俺のところに来てくれたら助かる』
『『かしこまりました』』
よし、これで細工は流々。あとは仕上げを御覧じろってか。もしかしたらまた、夢を見るかもしれないし、早めに寝ないと。
しかしその夜、俺は夢を見ることはなかった。
ゆっくりと更新していきます。
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