ep.100 万能執事の力②
あぁ、なぜこの感覚を忘れていたのでしょうか。闘争とはこうでなくてはなりません。敵の実力にやや不満はありますが、一方的な虐待にはならなそうですね。10歳と大人くらいの戦いにはなるでしょうか。
おっと、そういえば主様も10歳くらいでしたね。まぁ、比べるベくもありませんが。
「あなたの階級は第二階級のカレアウとみました。どうです?」
「?! その通りだ。しかし、俺が魔人と知られて生きて返すわけにはいかないんだ。これは使いたくなかったが、仕方あるまい」
カレアウが持っているのは・・・丸薬、ですかね?私の知識のなかで該当するのは『天使の涙』しかありませんが・・・。とは言っても、『天使の涙』は劇薬。いくら第二階級の魔人と言えど、飲めば1週間は思うように動けなくなるはずですが、それほど本気ということでしょうか。
「天使の涙を飲むというのですか?」
「ほう、これを知っているか。これは魔王様から直々に頂いた貴重な物だ!それを使ってやろうというのだから光栄に思うがいい!・・・・・・ゴクン。・・・・・・おぉ、これが天使の涙の力!はははっ、これで俺が負けるはずがない!くらえ!暗黒の鋭槍×15!」
先ほどの暗黒の槍とは比べものにならないほど威力がありそうです。一つ一つの大きさも先ほどの倍以上ですね。
「さすがは天使の涙、篭められている魔力量がさっきとは桁違いです。黒き槍×15!」
それにしても見たことの無い魔法ばかりですが、私がいなくなってからも魔法は研究されてきたということでしょうか。やや禍々しい感じの魔力ですが、これは私の知らない魔王で間違いないですね。・・・まぁ、私の知る魔王は温厚な方ばかりですから、分かりきっていたことですが。
「流石にこれだけじゃ倒せそうにないな。しかし、勘違いしてもらっては困る。俺は接近戦もできるんだぜっ!」
この魔力波動は身体強化系ですね。そういえば、魔法関係は試しましたが、体の調子は確認していませんでした。この際ですしそれも確認すると致しましょう。
「御託はいいからかかってきなさい」
「瞬動!」
消えた? いや、後ろですか!ぐぅ、なかなか重い蹴りですね!
「やりますね・・・。まさか目で追いきれない程の速さとは思いませんでした」
しかし、瞬動ですか。なかなか恐ろしい技ですね・・・。殺気があったから気付けたものの、気配を絶てるほどの手練れだったならば、危うかったな。・・・・・・ふぅ、ちょっと油断していたかもしれません。
「驚いてるようだな。だが、天使の涙を飲んだ俺の速さはもっともっと上がるぞ!連瞬動!」
・・・・・・完全に消えましたね。ただでさえ速い瞬動を連続して発動するとは、少々敵を侮っていましたか。私もそろそろ本気を出すとしましょう。
そういえば強い技ではないですが、どこにいるか見えない敵にはちょうど良い技がありましたね。
「なかなかやるようですが、次は私のターンです。黒き衝撃波!」
私を中心とした衝撃波が360°方向に波紋状に広がるため、密閉された空間内では確実に当たりますからね。
「ごほっ!・・・ちっ、多様な技を使いやがる!だが、俺が何の意味も無く走り回っていたわけじゃない!」
おや・・・? 地面になにか書かれていますね。これはなにかの術式・・・?
「これは・・・何かの術式のようですね」
「今更気づいても遅い!『封魔の印』発動!!はははっ!これでお前は魔法を使えないただの『老いぼれ』だ!!」
ぬっ・・・!魔法を封じられた?む、確かに魔法が発動できないですが・・・魔力は練れるようですね。それより・・・
「私を今、『老いぼれ』と言ったのですか・・・?」
「ははっ、聞こえなかったか?魔法も使えない貴様はただの老いぼれだろうが!」
私が老いぼれですか。そうですか。
「・・・私は大抵のことは許してあげられますが、『老いぼれ』だけは聞き捨てならねぇぞ若造」
『歩法之極意・風~疾きこと風の如し~』
「なっ! 消えただと?! 魔法は封じたはずなのになぜ?!」
歩法之極意とは歩法を極限まで昇華させてやっと体得できる秘術であり技術だ。第二階級のカレアウごときに見破れるものではない。魔法など無くても私が強いということを教えてやろう。
「阿呆め。これは魔法などでは無く、ただの技術だ。歯ぁ食いしばって腹に力いれろ若造!!」
『勁之極意・螺旋発勁』
「いつの間に目の前に!?がはっ・・・・・・」
歩法によって生み出したスピードをそのまま右拳にのせることで威力が上昇する。さらに発勁の瞬間に腰から拳までかけて捻りを加えることで、相手の体内で気が暴れ回るせいで破壊力が倍増する技だ。しかもこの技は相手を吹き飛ばすようなことはない。後ろに飛ばずに膝から崩れ落ちるのが特徴なのだ。
私の気と魔力を練り込んだ特性の『氣』のせいで、回復もままならないだろうが。まぁ、死にはしないだろう。
「ごほっ・・・。少し油断したぜ。天使の涙を飲んでいなかったら気絶していたところだ」
ふむ、さすがにしぶといですね。確実にダメージは与えていますが、天使の涙のせいで痛覚も鈍くなっているのでしょう。しかし、私を老いぼれと言った報いは受けさせますよ。
「ほら立て若造。まだまだ目上の相手に対する接し方を教えてやる」
「うるせぇジジイ!・・・右手に暗黒の焔、左手に暗黒の雷 『合成魔法 暗黒の焔雷!」
合成魔法まで使えるとはなかなか器用ですね。伊達に組織のまとめ役を任せられているとわけではないか。それに対し、こちらは魔法を封じられているときている。
ハンデにはちょうど良いでしょう。
『歩法之極意・水~流るること水の如し~』
「な、なぜ当たらない!目では追えているのに、捉えきれないだと!・・・魔法も無しにその体運びを行っているというのか?!」
川を流れる水のような体運びを可能にするのが、『歩法之極意・水』です。これは完全に私のオリジナルですが、流水はそう簡単に捉えられるものではないですよ。
「では、こちらの番だ」
『歩法之極意・雷~動くこと雷霆の如し~』
「さっきよりも早い?!これじゃあ俺の瞬動と同じじゃねぇか! ちっ、どこから来る・・・・・・!?」
「一緒にするな阿呆め。何度も言うがこれは技術だ。そら、耐えられるものなら耐えてみろ若造!」
『勁之極意奥義・螺旋十字勁』
「また、正めっ?! がはっ・・・・・・・・!」
私に勁之極意の奥義まで使わせたことは誇るといい。まぁ、魔法なんてものはあってもなくてもタイマンではさして関係ないことですからね。それこそ主様くらいの魔力を保有しているなら話は別ですが
。
「お、思い出した、ぞ・・・!独特な歩法と、体術・・・・・・。それに、幅広い、魔法・・・ゴホッ・・・・・・。お前は・・・いや、貴方様は、その昔、十傑、と呼ばれた原始の魔王の一人・・・・・・、そのときの他の魔王さえも、恐怖したという逸話の、ある化け物・・・・・・!その性質は常に強者を求めて、いたと聞くが、まさか、ここまでとは・・・・・・」
ほう・・・。私の過去にそのようなものがあったとは驚きです。覚えている記憶と失った記憶が穴あき状態過ぎて判断に困りますが、言われてみれば常に戦っていたような気がしますね。
「過去に興味は無いが、今後はあまり汚い言葉を使うなよ若造。私は老いぼれではなく執事だ。覚えておくといい」
「・・・・・・」
ふむ、気絶しましたか。息はありますし回復を待って、あとは少し『おはなし』すれば問題ないでしょう。現状、この組織の掌握は難しいですが、このカレアウの主である魔王が誰かさえ聞き出せれば、そちらにも釘を刺しておけば問題ないでしょう。
「さて、ひとまずお茶でも飲んで目が覚めるのを待つとしましょうか」
これは主様がよく飲んでいる紅茶ですが、なかなかに美味しいですねぇ。
おや、この気配は……ふふ、エゼルミアのほうももう少しで終わりそうですね。さすがエゼルミアです。心配の必要もないですね。
これを飲み終えたら魔人たちを確保してエゼルミアと合流するとしましょう。
ゆっくりと更新していきます。
評価・ブクマ等して貰えたら嬉しいです。
気づけば100話目にはいりました~。
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