狼と親友
満月が雲の椅子に
どっかりと座った夜空
そのすぐ下の四角い丘の上
一匹の狼が高らかにほえる
「オゥーン!」
すると草木はなびき
リスなんかは木の家に隠れた
森は一気に黙り
狼の機嫌をとろうとした
いい気になった狼は
高らかに歌った
「森がこんなに緑なのは
このオレ様の叫びに
青ざめちまったのさ」
すると
綺麗な声の小鳥がやって来て
「狼様の歌声には
流石の僕らもかなわねぇ」
とわざと言った
最高の気分になった狼は
森をねり歩き
寝ている木を叩き起こすと
「オレより強いヤツいねぇか?」
と聞いた
木はビックリして
「そんな!!
あなたより強い人なんて
いるはずがない!!
例えお月様だって
かないますまい」
とすぐに返した
「まぁそうだろうな
それは仕方ないことだ」
さらに機嫌が良くなった狼は
水溜まりに飛び込んだ
ビッシャーン!
大きな音をたてて
近くで寝ていた蛙にほえた
「お前もオレの歌を歌え」
蛙は狼を一瞥すると
哀愁のある声で
「狼どん狼どん
天のお月様に勝てると言われ
それを本気にして喜ぶ
それを聞いて何も言わない
お月様なんと大きなことか」
と歌った
それを聞いて
「おい蛙
誰が月の事を歌えと言った?
オレの事を誉めてみろ」
と狼はムッとした
蛙は
あっはっはと笑い転げた
「何が可笑しい!?」
狼は顔を真っ赤にした
蛙はやっとの思いで息を整えて
「すまんすまん
お前さんが
あんまり自身満々なもんで
ついつい笑っちまった」
と言い、また笑い始めた
それを見ていた小鳥は
「狼さん狼さん
気にする事はないよ
あいつはさ
ちょっと可笑しいんだ」
と言って歌った
「羨ましいばかりに
素直になれない
小さな小さな
水溜まりの中の蛙さ」
「フンまったくだ
気にする事はない」
狼は蛙の方を見て鼻で笑うと
丘の方へ走った
「その走る足の速いこと」
森の羽虫も狼をはやし立てた
狼は丘に大ジャンプした
「あれは鳥かと思ったら
狼さんぢゃないか」
モグラまでが狼を誉めた
ところが!!
丘に着地しようとした狼は
なんと足を滑らせて
おもいっきり
地面に叩きつけられた
森の皆は息を飲んだ
森がシーンと静まりかえった
「おいまさか・・・
死んじまったのか?」
草木はささやいた
「あんなハシャぐから」
リスは言った
「やっぱり狼だったね」
羽虫は飛んでいった
「敵がいないと豪語するも
丘にはかなわない
足をとられて死んでった」
小鳥は嘲笑うかのように歌った
モグラはもう居なかった
森は段々
もと通りになっていく
何もなかったかのように
「おいっ!!
しっかりしろって!!
目を覚ませよ!!」
必死に狼に呼び掛ける声
皆は一斉にそっちを見た
蛙だった
蛙が必死に狼の体を揺する
「何やってんだ?
蛙、お前さん
狼のヤツのこと
嫌いなんじゃないのか?」
小鳥は不思議そうに聞いた
蛙は泣くのを我慢して答えた
「嫌いなヤツだったら
こんなことしない
僕は・・・
こいつとは
本当の友だと思ったから
皆みたいに世辞や嘘じゃなく
接してきたんだ」
蛙はもう
涙をこらえられなかった
「狼よぉ・・・
起きろよぉ・・・
お前が居ないと寂しいよぉ」
狼は死んでしまった
森の中で泣いているのは
蛙だけだった