にゃんこ大戦争 (お題:敵陣・ノート・簪)
「珠緒様……、行ってしまわれるのですね……」
女がそっと背を向ける男に覆いかぶさった。
「止めてくれるな、珠美……。奴らにこの地を明け渡すわけにはいかないのだ」
男は足を止め女をなだめる。だが、決して振り返ることはなかった。
男の姿勢に女も覚悟を決めたのか、男からすっと離れる。
男の手元に置き土産を残して。
「これはお主が大切にしていたもの……本当に良いのか?」
男は初めて振り返り女に問う。
「はい。それを私と思って……。いえ、必ず返しに参ってください。それは私の命より大切な簪。もし無くなろうものなら地獄の果てにでも探しに参る所存」
女は先ほどまでの弱々しさとは相反した凛々《りり》しい表情で男に答えた。
「あいわかった。この簪、命に代えてもお主の下に送り届けよう」
男は険しい顔を崩し、悪戯っぽく笑う。
一瞬の沈黙の後、からかわれていると理解した女が怒り出した。
男は「こりゃたまらん!」と笑いながら戦場へ向かった。
「敵の数はこちらの倍近く!しかし地の利はこちらにある!勝てぬ戦ではない!」
「おぉぉ!!」
将の激励に皆の者が奮い立つ。
斯く言う私も武者震いが止まらなかった。
しかしそれは将の言葉から来るものではない。この簪が奮い立たせてくれるのだ。
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「平成三十年五月一日。戦いの火ぶたが切って落とされた…。この戦は以後にゃんこだいせんそ」
バシン!
「なにするのさー。良いところだったのに~。」
ノートで頭を叩いてきた友人に反抗の意味を込めて「しゃ~!」っと毛を逆立てると、再度頭を叩かれた。
今度は束になっている部分だ。痛い部分だ。
「何猫見てぶつぶつ言ってるんだ!お前今日は朝礼当番だろ!」
「はっ!そうだった!じゃあね~猫ちゃんたち~!」
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手を振って去っていく少女を何事もなかったかのように見送ると、私は余裕の態度で毛繕いを始める。
「ほら、人間様はもう行ったぜ。来いよ、腰抜けども」
その言葉に呼応したかのように暗い路地裏の向こう。黄色い眼光がいくつも浮かび上がった。
戦争はまだ終わらない。
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「猫ちゃんって可愛いよね~」
「…お前の方が可愛いよ」
「え?今なんて言ったの紗枝ちゃん?」
「な、なんでもねーよ!ほら行くぞ!」
「あ!まってよぉ~!」
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※おっさん。の小話
今回は、それぞれにそれぞれのストーリー「人生」があるというお話です。
案外身近に面白い物は転がっている。という事。
他人を傷つけたり、否定するのはたやすい事ですが、その前に相手の世界も考えてあげてください。
という2点を伝えたいお話でした。
少し、ギャグ仕様ですがw