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 Myヒーロー  (お題:踏切・坂のある街・奇跡)

 僕の街には坂がある。

 海まで続く、長い長い坂道だ。

 僕はその坂を、自転車に(またが)って一気に下る。


 風を切る感覚。

 人や物にぶつからないかという不安。訳の分からない興奮に満ち(あふ)れ、僕が今、此処(ここ)にいる事を全身で感じられた。


 あれだけ鬱陶(うっとう)しかった町並みは紙切れの様に吹き飛び、僕は晴れ晴れした気持ちになる。

 僕の悩んでいた事など、あの雄大な海と、どこまでも続く空に比べればちっぽけなものなのだ。


 僕の進行上に踏切が現れる。

 (わずら)わしい警鐘(けいしょう)が僕の心を苛立(いらだ)たせた。


 「いっけぇ!」

 僕は下りて来た遮断(しゃだん)機をぎりぎりで潜り抜け前に進む。


 今の僕は誰にも止められない!


 警鐘は直ぐに過ぎ去り、道も終わりを告げた。

 ガードレールに自転車が突っ込むと、僕は宙に投げらされる。


 「あいきゃんふらぁ~い!」

 僕は全力で叫んだ。

 今なら、何処までも飛んでいける気がした。


 しかし、無情にも僕の体は海に飲み込まれる。

 結局、この世界に存在している以上は現実に(あらが)えないのだ。


 僕は安らかな気持ちで沈んで行く。

 それなのに。

 それなのに、それすらも現実は許してくれない。


 苦しくなった体が酸素を求めてもがくのだ。

 まだ生きたいと抗うのだ。

 そんな事をしたって無駄だと言うのに。


 「無駄じゃないさ」

 見知らぬ少年がもがく僕の手を取り、引き上げる。


 「ゲホッ!ゲホッ!」

 僕を抱き抱えた少年は何故か海の上に立っていた。


 「どうだい?僕と一緒に世界征服なんて言うのは」

 少年はそう笑うと、おどろおどろしい姿に変身する。

 僕のヒーローに出会った瞬間だった。

 

========


 「まさか、ここまで付いてくるとは思わなかったよ、一号君」

 ヒーローたちに囲まれ二人きり。


 僕は()()で、一戦闘員だ。

 特殊な能力も無ければ、身体能力も常人並み。

 僕がいたからと言って、この状況は変わらないだろう。


 でも、そんな僕を。

 沢山の、同じ格好をした戦闘員の中の僕を、彼は覚えていてくれた。


 僕は無言で彼の横に立つ。

 初めと同じ、二人きり。

 それでも僕らはこれまで沢山の仲間を集めて、沢山の事をしてきた。


 世界征服まであと一歩。

 仲間の皆も、どこかで戦っているのだろう。


 僕は最後まで役に立たないかもしれないけれど…。

 それでも、この瞬間。彼の隣に立てていることがとても嬉しかった。


 二人でなら、どんな困難も乗り越えられる気がする。

 僕が前に出ると、踏切の警鐘が五月蝿(うるさい)いぐらいに僕の耳を(つんざ)いた。


 煩わしい!

 僕は今とても気分が良いんだ!

 今の僕は止められない!


 あの時は道がなくて、沈んでしまったかもしれないけれど、今は彼が道になってくれている。


 今は捨てる為じゃない!

 守る為だ!

 進む為だ!

 笑う為だ!

 信じて加速しろ!

 不可能の向こうへ!


========


 「後に、その日の出来事を、人々は奇跡の日と呼んだとさ」

 静かに本を閉じた私が目を向けると、子どもたちはもう眠りについていた。


 窓から(こぼ)れる月の光。

 虫の声と共に流れる優しい時間。

 あの戦いの日々が嘘のようだった。


 「一号。お前は今幸せか?」

 いつの間にか窓ぶちに腰かけていた彼が声を掛けてくる。


 「そんな事、聞くまでもないだろう?」

 僕の声に、彼は「だよな」と笑って…。


 僕は眠りに落ちた。

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