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その3

二人はほぼ同時に一杯目を飲み干し、お代わりを注文する。アイヴィーはビール、サニィは焼酎のロック。

サ「あ、そうだ。これ、お土産。」

ア「ありがとう…って、これ鮭とば?」

サ「うん。お酒のつまみの方がいいかなって。」

ア「いやいや、ありがたいんだけどさ…サニィ、ひょっとして札幌に行ったの?」

サ「うん。ふへへ。」

ア「もちろん、レインのとこだよね?」

サ「ふふーん。」

ア「レイン、いつ転勤したんだっけ?」

サ「先週の金曜日。」

ア「じゃあ、この土日で行ってたってこと?サニィ、アンタもタフだね。」

今日は火曜日。あのライヴ・イヴェントから10日、レインの追い出しパーティから8日、そして空港での出来事から、わずか4日しか経っていない。

ア「じゃあ…アンタたち二人、なるようになったんだね。」

サ「お陰さまで。」

ア「おめでとう。とりあえず乾杯だね。」

サ「ありがとう。えへへ。」

カチン。

サ「その辺の話、聞きたい?」

ア「サニィが話したければ聞くよ。アタシはどうも女子力が低くてさ、ガールズトークとかそういうのは苦手だから。」

サ「でも、興味はあるでしょ?」

ア「そりゃまあ、一応女子ではあるからね。」

サ「ふふん。」

ア「ふふん。」

サ「まだナミにだって話してないんだからね。アイヴィーちゃんが一番最初だから。」

ア「そりゃ光栄だね、ナミちゃんには申し訳ないけど。」

サ「だって先に約束したの、アイヴィーちゃんとだし。それに、ナミとこの手の話をし始めたら、とてもひと晩じゃ終わらないよ。」

ア「あの子、そういうキャラなんだね。」

サ「そういえば、ナミもアイヴィーちゃんと飲みたがってたんだよ。今度、一緒に誘ってもいい?」

ア「いいよ。この前ちょっと話したけど、あの子もなかなか芯の強い子だね。ただのメスじゃないね。」

サ「アイヴィーちゃんとナミ、絶対に話が合うと思うよ。その代わり、ケンカなんかも本気でしそうだけどね。」

ア「その方がいい。ケンカできるくらいが、仲間としちゃ最高だよ。それで、レインは…?」

サ「ああ、やだ。アタシも脱線しすぎだね、ナミのこと言えないや。」

二人は3杯目をお代わり。

サ「レインが言ってたよ。アタシのことで、誰かさんにお説教されたって。」

ア「レイン、その誰かさんの名前は出さなかったでしょ?」

サ「もちろん。でも、レインにお説教できるような子は、男でも女でもアタシたちの周りには一人しかいないからね。」

ア「ふはは、そうかも。ただ、その誰かさんが話した後でも、レインの気持ちは変わってないように思えたよ。」

サ「そう。あのBtoBの後も、アイヴィーちゃんからの電話があっても、やっぱりレインはアタシに何も言わずに行くつもりだったんだよね。『正論で恋愛するわけじゃないから』って。」

ア「まあ、確かにね。」

ア「アタシ、新しい人生をやり直そうと思ってるレインの邪魔はしたくなかった。彼への想いは空港に置いてくるつもりだった。レインの過去のこと、知ってる?」

ア「まあ、古い付き合いだからね。だいたい知ってるよ。」

サ「ぶっちゃけ、ちょっと前にアタシからレインに告白したことがあるの。」

ア「今回じゃなくて?」

サ「今回じゃなくて。その時に言われたんだ。『サニィは大事な仲間で、それ以上の存在として思ったことはない』って。気持ちがないのに、前の奥さんのことを忘れるための材料にはしたくないって。」

ア「…。」

サ「アタシは傷ついたけど…彼は妥協や同情でアタシたちの仲を半端にしたくないから本音を言ったんだし、それは本気でアタシのことを考えてくれたからこその言葉だった。」

ア「レインらしいね。」

サ「だから、彼が新天地を求めるんなら、アタシは身を引くつもりだったんだ。」

ア「じゃあ、空港で何かが起きたんだね。」

サ「そう、彼から告白されたの。レインが出発する直前にね。」

ア「はあ~、直前?アイツ、タイミング悪いねー。」

サ「でしょ?そう思うでしょ?アタシ、思わず爆笑しちゃってさ。告白なら、もうちょっとマシなタイミングが、その前にいくらでもあったのに!」

ア「ま、でも、遅くはなかったわけだ。」

サ「いつだって遅くなんかないよ。」

ア「だね。」

二人はしばらく黙ってお酒をすすっていた。

ア「サニィの強い気持ち。レインを想う気持ちが、最後の最後にアイツの心を溶かしたんだね。」

サ「それはどうなのか…いや、そうだね。そうだと思う。アタシ自身、ずっとレインに気持ちを支えてもらってきたから。アタシたち、互いに助け合ってきた。いつも、いつも。」

ア「よく分かるよ。アンタたち、お似合いだもん。」

サ「ありがとう。」

ア「しかし出発直前の空港で告白なんて、ちょっと出来すぎじゃない?ロマンチックにもほどがあるよ。」

サ「それはレインに言ってください。アタシが決めたんじゃないし!」

ア「そんな恋愛ドラマ、学生の頃に観たことあるよ。“もうあなた以外見えない!”なんて感じ?はは。」

サ「やめてやめて、恥ずかしい~。」

ア「自分から『聞きたいか』って言ったんだから、今さら恥ずかしいとか言わない。」

サ「アイヴィーちゃん、ノリノリだし!十分女子だよ~。」

ア「そうかな?」

サ「じゃあ聞くけど、アイヴィーちゃんはシン君とどうやって付き合い始めたのよ?」

ア「アタシ?そりゃ、アタシたちは根っからのパンクスだもん。ライヴハウスで恋に落ちたんだよ。お互いの気持ちを確かめたのもライヴハウスだよ。今はもう無くなっちゃったハコで、だけどね。」

サ「そうなの?すてき、カッコいい!ねえ、最初はどんな…。」

ア「アタシの話は後で。今はサニィの番でしょ。」

サ「ああ、そうだね。ごめん。」

いつも間にか、二人は顔を突き合わせるようにして話し込んでいる。


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