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どうやら俺は俺の過去を許される模様

      ■



「貴方の罪は私とセレステリア様、オグリオル様が許します」


 たっぷり二〇分以上――いや、多分もっと長い時間泣き続け、それが止んで沈黙が数分続いた後で、壁の向こうからアリィの声がした。


(はい。私も、オグリオルもレイジを許します)

(うむ)


「あ、ありがとうございます」


 ああ、許された。

 許されてしまった。

 なら、俺は俺を許さないといけない。

 そうして、他者に踏み込むのを躊躇って、距離を置くような生き方を止めねばならない。

 すぐにそう出来なくても、そう務めなくてはならない。

 かつてミズハが俺にそうしたように……。


「色々とありがとうございました」


 俺はそう言って深々と頭を下げた。

 アリィに……というより、一人の聖職者――聖女に対して、である。


「もう大丈夫ですか?」

「……大分楽にはなりました」

「そうですか。貴方に神のご加護が……もう充分過ぎるほどありますね」

「そうですね」


 自然と笑みが零れた。


「では行かれると良いでしょう。先に教会の外で待っていて下さい」

「はい。それでは失礼致します」


 そう言って、俺は懺悔室を出た。

 教会の外に見知った気配を感じ、不思議に思う。


「ああ、庇護下にある対象とは《繋がり》が発生するんだっけ? なんか以前より随分強く感じるけど……」


 間違いない。俺が感じた気配はリーフとモモのものだ。

 導かれるように俺は教会の外に向かった。

 そして、そこには予想通りの二人――リーフとモモが待ち構えていた。


「リーフ! モモ!」

「レイジ!」

「ご主人様!」


 リーフとモモが駆け寄ってくるのを見て、俺も駆け出した。その勢いのまま俺は二人を抱きしめた。


「ごめん。二人とも。今までちゃんと向き合ってなかった」

「いいの……いいんです。ご主人様……」

「心の楔はとれたんじゃな?」

「ああ、もう大丈夫だと思う」


 俺に抱き締められたまま、モモは嗚咽を漏らしつつ俺を許した。リーフは俺の背中を軽く叩いて慰めてくれた。


「いつ、どんな転生をするか分からないけど、それまで俺は精一杯この世界で《生きる》よ」

「うむ。それで良い」

「嬉しいです。ご主人様」


 俺達はそのまま暫くの間、抱擁を交わし続けた。



      ■



「うう~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……」


 懺悔室の中で、アリィは台の上に頭を横たえ、目を瞑ったまま呻き声を上げていた。

 耳まで真っ赤になった顔は、羞恥に染まりきっており、鎮めるにはどのようにすべきか当人にも分かっていない。

 ゆっくり目を開けるとダークパープルの瞳が揺れていた。普段のエメラルドグリーンとは異なる色合いの瞳が……。


(いきなり主導権を寄越せと言ったと思えば……何をしているんですか貴女は……)


 その声は誰かが口にした声では無い。アリィの頭の中にだけ聞こえる声だった。

 そして、今のアリィはアリィではない。今のアリィの表面的人格はミズハになっており、アリィは心の奥に引っ込んでいた。


「だってだって……先輩があんなに苦しんでるなんて知らなかったから……。あんなに自分を責めてたなんて……。だから少しでも先輩の力になりたいって思って……でも……」

(でも?)


 アリィ……いや、ミズハは手を組み肩を寄せ、頬を染めたまま俯きながら身を捩る。


「でも、あんなに熱烈な告白されるとは思わなかったんだもの……もう、先輩のバカ……。私のこと好き過ぎでしょ?」


 非難しながらも嫌そうな顔はしない。

 むしろ緩んでた。緩みまくってた。デレデレだ。今にも溶けそうだ。というより蕩けきっていた。


(ミズハだってそうでしょうに。レイジの事を好き過ぎではないですか? いきなりあんな事を言って……気付かれると思いましたよ?)

「否定出来る要素皆無ですよぅ~……。あとごめん~~~~~~……。どうしても言いたかったの~~~~~~。だってあの先輩があんなに力強く『愛してる』なんて言うんですよ? 付き合ってた頃だってあんなに魂を振り絞る程の『愛してる』は言われたことないですよ? そんなの聞かされたらこっちだって『愛してる』って言っちゃいますよ!?」


 アリィ(ミズハ)は両手で顔を覆い、脚をバタバタして身悶える。

 普段のアリィだったら絶対こんな狼狽え方はしないだろう。アリィの事を知る人間がこの行動を見たら混乱するかも知れない。


(早いとこ落ち着いて下さい。今の状態で入れ替わったら精神的に悪影響出そうです)

「悪影響とは酷い言い方だなぁ……ちょこ~~~っと先輩の事を好きになるだけだって」

(だから駄目なんですよ。それはミズハの気持ちに引き摺られただけで、私自身がレイジに心惹かれたのとは違うでしょう? それにレイジは正しく転生することが目的なのです。今のレイジに惹かれてしまっては、後が辛いでしょう?)

「む~~~~~~……そうなんだよねぇ。なんでこんな形ですれ違っちゃったかなぁ?」


 アリィ(ミズハ)は目の前の机の上に、へにゃりと突っ伏す。

 そして思うようにならないもどかしさに、肩を少しだけ竦めた。


(それについては追々調べるしかないでしょうね。何故、かの死霊王はレイジの魂に魔力を譲渡したのか……って聞いてますか?)

「先輩……格好良かったなぁ……やっぱり良いなあ……」

(聞いてませんね……)

「ねぇ、アリィ……」

(うん? なんでしょうか?)

「色々昂ぶっちゃったんで、ちょっとここでオ○ニーしていって良い?」

(とっとと身体の主導権返して下さい!)



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