どうやら俺は魔法の力に目覚める模様
前回の登場人物
向日島レイジ:本編の主人公。人類の敵から脱する為に奮闘中
アルリアード・セレト・レフォンテリア:通称アリィ。レイジが途轍もない化物と理解しながらもレイジを信じようとする。
ミディリス・ナスナ・フィルディリア:通称ミディ。アリィに仕える騎士の一人。警戒したり嫉妬したりしてたが、実はチョロかった。
レリオード・ナスガ・クルツェンバルク:通称レリオ。アリィに仕える騎士の一人。流石にレイジの化物っぷりに驚いた。
ラグノート・ナスガ・ブランディオル:アリィに仕える騎士の一人で隊長格。レイジの力は警戒しつつも、人格は認めた。
リーフェン・スレイウス:死霊術師ヴィルナガンの手によってアンデッド化したドラゴン。プリミティブ・ドラゴンという特殊なドラゴンである模様。
「俺がコイツを押さえ込んでいる間に魔法を……俺ごと魔法で撃てぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
そう叫んだ直後、アリィは一瞬躊躇ったようだった。
その行動に俺は少しだけ安堵した。
躊躇いがあると言うことは、アリィはまだ俺の事を完全に化物扱いしていないということだ。
俺の屍を越えていけ作戦は予定通りの結果をもたらしたと言えた。
「【現世に囚われ彷徨う哀れな魂よ】」
アリィが呪文を高らかに唱える。
その祈りは離れた位置にいる俺にも届いた。
「【我が主セレステリアの導きに従え】」
アリィの中に高まる魔力を感じる。
改めて感じてみるとその魔力の強大さに驚く。
《聖女》というのは伊達ではない。
そして俺とドラゴンゾンビの周囲に光が満ちる。
「【死せる魂に安らぎを】!」
魔法が来るッ!
そう思って俺は身構えたが、それより早くに行動を起こした者がいた。
「GOAAAAAAッ!」
ドラゴンゾンビが吠えた。
パキィッ!
え?
次の瞬間、軽い音がしたと思ったら、俺たちの周囲に発生していた光が霧散する。
何が起きたんだ?
「そんなッ!」
「……魔法無効化……」
アリィが驚愕し、レリオが息を呑むように呟いた。
魔法無効化?
「おい、魔法無効化って!?」
「そのドラゴンの周囲に魔法を無効化する結界が発生しとるんやッ! ちゅうても、お嬢の魔法を無効化するなんて……」
俺の問いにレリオが答える。
「やはり……あれは始まりの竜族……」
「「「なッ!!」」」
アリィが何か呟くと、三人が驚愕と共にドラゴンゾンビを凝視した。
プリミティブ・ドラゴン?
なんか凄そうなんだけど、やっぱり凄いドラゴンなのか?
いや、そんな事より……。
「こうなったら魔法が通じないのか?」
魔法が通じなければこのドラゴンゾンビを撃退するのは難しい。
《魔力糸》を全て破壊すれば動きは止まるだろうが、それにはあと何時間格闘すればいいのか想像がつかない。
それまでに俺の魔力が枯渇しない保証がないのだ。
いや、確実に枯渇する。
実は先ほどから気になっていたのだが、俺はどうやら魔力の扱いが下手らしい。
まあ、元々魔力なんてものが無い世界にいたのだから当然とも言える。
だが、それにしても無駄な魔力が漏れ出てるのを感じた。
巨大化と《魔力糸》の干渉の同時併用は、死霊初心者には無理があったらしい。
このため、ドラゴンゾンビを無力化するより先に魔力が枯渇すると判断した。
ならば、他の手段を考えないと……いや、俺が考えるより聞いた方が早いか。
「何か方法はないのかッ!?」
「方法は……あるんやけど……」
「しかし……あれは…………」
俺の問いにレリオとラグノートが何かを言い淀む。
そんな二人を余所にに、凜とした態度でアリィが一歩前に踏み出す。
「いえ、他に方法はありません。私が行きます」
「そんなッ! いくら何でも危険すぎますッ!」
「あのドラゴンをこのまま苦しめ続ける訳にはいきませんッ!」
「ですがッ!」
アリィの決意に対し、ミディが強く反対する。
ラグノートとレリオも、アリィの前に立ち塞がった。
「その方法って一体何だッ!」
そう聞いてみたものの流石に嫌な予感がする。
まさかと思うが、直接接触して魔法を放つとかじゃないよな!?
「私が直接接触して魔法を放ちます!」
まさかじゃなくて、そのままだった……。
「流石に危険過ぎるだろうッ! それはッ!」
全長百メートルだぞ?
それが全力で暴れてるのに、それに接触?
周囲は毒沼になってんだぞ?
人間なんか近付いた直後に踏み潰されて死ぬわッ!
そう思った直後、ドラゴンゾンビの動きが止まった。
理由は分からないがジッとアリィを凝視している。
いや、眼球が無いから実際見てるのか怪しいが……それでもアリィの方に首を向け、暫く硬直した。
今のうちなら大丈夫か?
いやいや、いつ動き出すか……。
「しかし私がそのドラゴンを解放しないと……」
そこまで言ってアリィも気付いたようだ。自分がドラゴンゾンビに見られていることに。
そして、ドラゴンゾンビは……猛然とアリィに向かって駆け出した。
このまま行かせたらアリィ達を、踏み潰しちまうッ!
「ふぅざけんな、コラァッ!!」
俺はドラゴンゾンビをアリィの元に行かせまいと、慌てて羽交い締めにして止めようとする……が、ドラゴンゾンビは今までにない力でもって、無理矢理アリィの元へ行こうとする。
くっそ! いきなりなんだ!?
俺よりアリィの方が驚異と判断したのか?
だが、このまま直進されたら、確実にアリィを踏み潰す。
流石にラグノート達が騎士と言え、百メートルもの巨体を止めたりは出来ない。
せめて、ドラゴンゾンビが移動出来ないよう《魔力糸》を破壊できていれば話は違ったかも知れないが、今からでは間に合わない。
それどころか、ドラゴンゾンビはどんどんアリィ達に近付いていく。
まるで俺の事など忘れたように。
くそッ!
ドラゴンゾンビとの力の綱引きを続けながら、俺は他の手段を考えていた。
例えば、どうにかしてドラゴンゾンビの動きを完全に押さえ込むか、それともアリィの魔法が通じるようにするか……それも今すぐ効果のある方法で……。
…………駄目だ……俺なんかじゃ何も思いつかない。
そもそもこの世界のことも魔法のことも分からないのだから当然ではあるが、だからといって何も出来ない自分を情けないと思う気持ちが消えることも無い。
焦る心を制御出来ず、何か出来ないかという言葉だけが、壊れた機械の様に繰り返し頭に浮かび上がる。
せめて俺に魔法が使えたら…………。
――祈りなさい……。
え?
今何か女性の声が……。
――祈りなさい。貴方の想いが叶うように……。
――祈り給え。君の願いが届くように……。
この男女の声は……間違い無い。忘れようがない二柱の神の声。
そうだ。
俺はあの時、言われたじゃないか。
『例えば貴方が神職を選び、信仰心に厚い司祭となった場合にはこの祝福は貴方の大きな力になると思いますが……』
――祈りなさい。貴方の大切なものを守るために。
――祈り給え。君の未来を守るために。
――さあ、早く。
分かったよ……俺は俺の心に浮かんだ祈りをそのまま口にする。
「【現世に囚われ彷徨う哀れな魂よ】」
俺はドラゴンゾンビに組み付いたまま祈りを捧げた。
一度しか聞いたことがない呪文なのに、何故か自然と頭に浮かぶ。
「「「「なッ!」」」」
四人の驚きに満ちた声が聞こえた気がしたが、不思議と頭には入ってこない。
ただ俺の脳裏に浮かんだのは、俺が魔法を使えればこのドラゴンゾンビを倒せるんじゃないかという根拠のない希望と、その希望を後押しするように微笑む二柱の創造神の姿だった。
「【我が主セレステリアとオグリオルの導きに従え】」
俺は初めて神に祈った。
かつての世界では呪ったことはあれ、祈ったことはない。
そんな俺が生まれて初めて……いや、死んで初めて神に祈った。
アリィ達を助けたいと。
そして……。
死してなお他人に操られるこのドラゴンを救いたいと……。
何故か、そう思った。
俺とドラゴンゾンビの周囲に魔法円が展開し、膨大な光を放ち始める。
アリィ達の元へ向かっていたドラゴンゾンビも動きを止め、無効化しようと身を捩る。
だが、俺は構わず、憑依した右腕から流し込む様に魔力を解放した。
「【死せる魂に安らぎを】!」
そして魔法が完成するッ!
俺のこの世界で最初の魔法がッ!
「GUGYAGOGAAAAAAAAAAAAAッ!」←ドラゴンゾンビの断末魔
「ぶるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぇぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」←俺の断末魔
そうして俺の意識と二つの断末魔は膨大な光の中に消えていった………………。
アリィ:「ついに魔法が使えましたね、レイジ」
レイジ:「…………………………」
アリィ:「これで主人公の面目躍如といったところですか?」
レイジ:「…………………………」
アリィ:「しかし初めての魔法でこれほどの効果を見せるとは、正直少し妬けてしまいますね」
レイジ:「…………………………」
アリィ:「…………レイジ? 感動で声も出せないとか?」
レイジ:「…………………………」
アリィ:「レイジが話せない様子なので、僭越ながら私が次回予告を……次回『どうやら異世界転生したはずが死んでる模様』第十話『どうやら俺が神聖魔法を使えるとばれるのはマズい模様』」
レイジ:「…………………………」
アリィ:「……もしかしてレイジ……死んでませんよね?」
レイジ:「最初っから死んでるよッ!?」