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どうやら俺は何故かアリィに懐かしい感覚を覚える模様

「泣かないでって言ったじゃないですか」

「いや、ゴメン……」


 いや、ガチで無茶苦茶美味かったのよ。あのミートパイ。

 包丁で細かく刻んだ肉――ハンバーグというよりもう少し肉々しいステーキのようなパティと、ペースト状にして練り込んだソースの相性が最高で……。さらには粒胡椒が少量まぶしてあるのが良いアクセントだったし……。それを包むパイ生地のサクサクした食感も絶品でございました。

 生きてたときもあれほどの料理はあまり食べたことがないかも。

 ……………………貧乏だったし……。

 追加で頼んだ腸詰めも美味くて感動してたら、また店の人に色々おまけされてしまった。


 それらを散々食べ終えた――聖女様の名誉の為に言うが、大半は俺が食べた――俺とアリィは大通りに面したパン屋に立ち寄った。何故パン屋なのかと言うと、この世界の都市部のパン屋は、午後に紅茶と焼き菓子を売る店が多いとの事だった。

 俺達はテラスに据えられたテーブルに向かい合って座り、クッキーらしき焼き菓子と紅茶を頂いていた。


「いや、アリィだって感動してたじゃん?」

「……まあ、確かにあれほどのパイは私もあまり食べた覚えがないですけど……」

「宮廷料理とかご相伴に与ったこととか無いの?」

「流石にそれはないですね……まあ貴族と食事をする機会もあるのですが、味より量を重視する貴族も多いので……」

「ああ、そうやって財力を誇示する方を優先するのか……」


 量を作る場合、当然それに見合った人数の料理人と広い調理場が必要になるが、常にそれを確保しているとは限らない。そういう貴族が料理人の苦労を考えずに量ばかり要求したら、当然味は劣化する。なのに量だけはあるから、食べる方は辟易とする。

 そういうもてなし方をする貴族はもてなす相手――この場合は聖女を舐めているのだ。庶民に味が分かるはずもない。財力にまかせ量を出して圧倒させようという魂胆なのだ。

 もし国王相手であれば、そのような料理を出すことは無いはずだ。料理人を何処からか調達してでも料理の質を落とすことはないはずだ。


「下手な貴族料理より、市中で頂く料理の方が美味しかったりするんですよね。私の好みに合うのも理由でしょうが」

「俺もあまり格式張った食事は苦手だね。味が分からなくなる」

「それにその……貴族のパーティーなどでは言い寄ってくる人も多いので……」

「ああ、ウチの息子の嫁にって言う貴族もいるのか……」

「いえ、まだそれはマシな方で……中には愛人にならないかと言ってくる人も……」

「……天罰でも下れば良いのに……」


 聖女を愛人にって、不信心にも程があるだろ?


(下しましょうか? 天罰)


 なんか創造神様がとんでもない事を言いだしたよ?

 スルーするのも尾を引きそうなので、一応アリィに確認だけは取ることにした。


「ところでアリィ? セレステリア様が天罰下そうかって言ってるけど?」

「そ、そんな恐れ多い! というかとんでもない事になりかかってませんか!?」

「まあ、声を掛けられる度に相手に天罰が下ったりしたら、アリィのストレスが大変なことになりそうだよな……」

「胃が壊れてしまいそうなので、出来れば遠慮したいのですが……ただ神様からの申し出を断るなんて……」


 聖職者としては拒絶できないけど、一人の人間としては遠慮したいよなぁ……。

 流石に神様自ら天罰をポコポコ下すのは宜しくないよな。


(まあ、私もそこまで心の狭い神ではありませんので。一応、創造神ですから。それに今後はアルリアードの危機はレイジが守れば良いのですよ)


 あ、そうか。そうすれば良いのか。


「?? どうしました?」

「いや、俺がアリィを守れば良いんだって思って……」

「レイジが私を……?」


 途端にボッっと音がしそうな程、一瞬でアリィの顔が真っ赤になる。

 それを見て、俺がうっかり何を言ったか気付いた。


「あ、いや! 別に変な意味じゃ無くて! その、そう! 天使として聖女を守るのは当然というか!」

「あ! そう! そうですよね! 天使として……ですよね!」


 そう言ってお互い会話が途切れる。

 あ~~~~ちょっと気まずい! 間が持たない! 自分の経験値が足りない!

 何か話を変えないと。

 あと、往来に面した場所でする話でもない。通りがかった何人かの人が怪訝な眼でこっちを見てた。天使なんて千年も現れていないんだから、街中で易々口にすることじゃないもんな。


(ついに天使であることを認めたな)


 ……………………ああッ!!

 ヤバいッ! 流されてるッ!!

 このままじゃ人としての営みがドンドン遠のくッ!

 ………………今更なんだけど………………。

 まあ、アリィを守るのに《天使》という立場は便利ではあるんだけどね。ただうっかりした行動が大事になりかねないので、極力自重しないと……。


 そんな事を考えていたら、少し落ち着きを取り戻したアリィが、僅かに身を乗り出して俺に質問する。


「そう言えばレイジ? レイジは生前、その……そう言う相手はいなかったんですか?」

「え?」

「その、守らなきゃいけない人というか……」

「大事な異性とか、そう言う話?」

「い、いえ! 異性に限らなくても良いんですが!」

「あ~~~~~……う~~~~~ん……」


 俺はしばし思考する。

 そういうのって縁遠かったけど、いなかった訳じゃないんだよな……。

 いや、いたこともある。それは否定しないし、したくない。

 ただ、今まで話題にしたことはなかった。


「あ、あの話すのが嫌なら無理に話さなくても良いんですよ?」

「あーーーーーー……嫌って訳では……」

「生前の話ってあまり話された事が無かったので、少し気になってしまって……」


 アリィは俺の様子をチラチラと窺いながら、一つ一つ確かめるように聞いてきた。

 その仕草がいちいち可愛らしくもあり、こっちとしてはどぎまぎしてしまう。

 心臓無いので、気付かれることはないだろうが……。


 こういった感覚は何時以来だろうか?

 その感覚から過去を思い起こすと少しばかり胸が痛む。心の奥に小さな棘付きの重しがあるような感覚。

 俺が目を背けてきたこと。前世の心残り。

 何故だろう? 今日は前の世界でのことを何度も思い出してしまう。

 そう言う話題が多いから?

 それともアリィの仕草や表情に、アイツの姿が重なって見えるからだろうか?


「……似てる訳でもないんだけどな……」


 ポソリと呟いた俺の言葉はアリィに届かずに済んだらしく、アリィは僅かに小首を傾げただけだった。


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