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どうやら俺はアリィ達に大きく誤解される模様

前回の登場人物


向日島レイジ:本編の主人公。本人はヒーローのつもりだったが見た目は完全に人類の敵だった。


アルリアード・セレト・レフォンテリア:通称アリィ。当代の《聖女》。レイジの戦いを見て流石に引いてる?


ドラゴンゾンビ:死霊術師ヴィルナガンの刺客と思われるドラゴン。今のところ名前も無き巨大怪獣扱い。



「す……凄い……」


 アリィはミディを治療しながらも、レイジとドラゴンゾンビが格闘している様を見て言葉を無くしていた。

 いや、アリィだけじゃ無い。

 レリオやラグノート、あれほどレイジを嫌っていたミディですら、その戦いに目を奪われていた。

 おおよそ人間とは違う戦い。

 言うなれば化物同士の戦い。

 しかしその戦いを醜いと思う者はいなかった。


 ミディに至っては、その戦いが誰を守るための戦いなのか分かってしまい、胸が締め付けられる想いすら覚えた。

 それに気付き、今胸が苦しいのは毒ガスのせいだと自身に言い聞かせ、そんな言い訳を考えている自分を情けないと思っていた。


 アリィもまた同じだった。

 レイジは皆を助けるために村から遠ざかりながら戦っていると、瞬時に理解した。

 ただ、同時に戦慄した。

 あれは只の死霊に出来る技ではない。

 あのドラゴンゾンビがヴィルナガンの手に寄るものだとしたら、普通の死霊に組み伏せられるものではない。

 しかも、あのドラゴンゾンビの姿にアリィは覚えがあった。


 普通であればアンデッドとして使役できるはずのない、高位の竜族。

 寿命が近付くと転生を繰り返し、高位の悪魔ですら足下に及ばぬほど強大で、神にもっとも近いと言われる始まりの竜族プリミティブ・ドラゴンのうちが一柱。

 宝石の名と瞳を持つ誇り高き竜。


 紅玉炎竜(ルビードラゴン)リーフェン・スレイウス。


 まさかとは思いたいが、かのドラゴンゾンビの外見は、リーフェン・スレイウスに酷似していた……いや……その眼窩に名前の由来となる紅の瞳が無くても、あれはリーフェン・スレイウスだった竜族に間違いなかった。



      ■



 アリィは少し前に紅玉炎竜(ルビードラゴン)リーフェン・スレイウスに会ったことがある。

 何故か神託で、リーフェン・スレイウスに会うよう言われたのが理由だったが、実際にあったリーフェン・スレイウスは竜族とは思えないほど穏やかな心の持ち主だった。


『私はね……そろそろ竜転生が近いのだよ……』


 確かにアリィが以前、リーフェン・スレイウスに会った際、そう聞いてはいた。


『間も無く竜転生の儀式も終わるんだけどね……』

「何故私にそのような話を……?」

『何故だろうねぇ……ただ、何か嫌な予感がするんだよ……だから、何かあったときは……頼むよ?』

「そんな……私がリーフェン様に出来ることなんて……」


 その時のリーフェン・スレイウスの憂いに満ちた声は、今も忘れていない。



      ■



 あのとき、転生直前の始まりの竜族プリミティブ・ドラゴンは最も力を落とすとは聞いていた……が、それであっても人間やエルフといった人族に支配できるような存在では無い。

 神にもっとも近いと言われる生物は伊達では無い……筈だった。


 それをアンデッドとし使役するヴィルナガンもまた、神に近い化物なのかもしれない。

 その化物級の死霊術師の手によって、強大な化物にされてしまったリーフェン・スレイウス。

 それを押さえつける、同じ死霊術師の手によって呼び出された死霊。

 ヴィルナガンの魔力に干渉しているようだが、いくら膨大な魔力を有していようが、通常の死霊には不可能な芸当。

 本当はレイジは死霊王なのではないかと疑いたくなる。

 それでもアリィはその考えを頭から振り払い、ミディの治療に専念する。

 例えレイジが死霊王だったとしても、今レイジはアリィ達の為に戦っている。ならば自分たちは今出来ることを、先にやるべき事をやるだけだ。


 まずは全員の治療である。

 第一段階として、もっとも危険な状態にあったミディの肉体から毒を浄化する。

 次にアリィ自身の解毒。その後にレリオとラグノートの身体を解毒し、最後に全員の体力を魔法によって回復する。

 アリィが二番目なのは、そうしないと全員が納得しないからだ。

 早急に治療が必要な場合を除き、アリィ自身を最初に治療しないと全員治療を受けたがらないのだ。

 治療順で揉める時間も惜しいので、仕方なくアリィは自身の治療を優先している。


 やがて全員の治療が終わったアリィは、レイジの方を見て驚愕を大きくする。

 ヴィルナガンの魔力を打ち砕いただけでなく、始まりの竜族プリミティブ・ドラゴンである紅玉炎竜(ルビードラゴン)リーフェン・スレイウスに一部分とは言え憑依するなど、只の死霊には不可能だった。

 いや、人間の魂である限りより上位の存在である竜族に憑依できる可能性はゼロに等しい。

 それこそ、かの死霊王以外は不可能だろう。

 だが、レイジが死霊王であることは有り得ない。

 それはレイジを召喚したヴィルナガンの反応からして間違い無いし、何より魔力の質が話に聞いていた死霊王とは違いすぎる。

 最初は巨大さに圧倒され誤解していたが、レイジの魔力はアンデッドというより精霊や竜族に近い。

 いずれにせよ人間の魔力ではないのだが……。

 そこまで考えて、アリィの頭にある仮定が浮上する。


 何故、ヴィルナガンは始まりの竜族プリミティブ・ドラゴンを支配したのか?

 そしてアリィ達の追撃に使用した理由は?

 リーフェン・スレイウスに眼球が無いのは何故か?

 そして何より、何故あのドラゴンゾンビは使役されているはずなのに、アリィ達よりレイジに執着しているのか……。

 その答えを出そうとしたその時……。


「アリィッ!!」

「は、はいッ!」

「俺がコイツを押さえ込んでいる間に魔法を……俺ごと魔法で撃てぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」


 その言葉が、全員をさらに驚愕させた。

 むしろアリィに至ってはレイジを化物と思ってしまったことを大いに恥じた。

 例えどれ程の魔力を持とうと、レイジは普通の転生を望む善良な魂を持つ幽霊なのだ。

 大きな力に振り回されることなく、正しい行いが出来る高潔な魂の持ち主なのだ。


 勿論、それは大いに誤解が混じっている。

 レイジ本人からしたら、保身による行動。

 またはヒーロー気取りを装った痛々しい選択による行動。

 自身の魂がアリィの魔法によっても消滅することがないと本能で理解した上で、自己犠牲を演出しただけに過ぎない。

 実のところ、アリィにもレイジが魔法で消滅することはないだろうと理解はしていた。

 だが、それでも影響が皆無という保証はない。万が一だってあり得る。

 それなのに自らを犠牲にしてまで魔法を撃つよう指示するなど、誰にでも出来ることではない。

 そう理解していたからこそ、レイジの行動は演出では無く、本気の自己犠牲と思ったのだ。

 それに、それまでのレイジの行動や発言がそう思わせるに足るものだったのも大きな理由の一つだった。

 つまりアリィの中ではレイジに対する元々の評価が良かったのだ。

 それ故に、レイジの行動を高潔な魂ゆえの選択と判断した。

 レイジからすると誤解だと言いたいかもしれないが、例えこの行動が保身だと知ったとしても、きっとレイジに対する評価は変わらないのだが、この時点でレイジがそれを知るはずもなかった。

 そしてレイジの行動に感動し、己の考えを改めたのはアリィだけでは無かった。



      ■



 レリオは自身が感じたレイジへの評価を改めた。

 実はレリオの評価ではレイジは魔力が高くても、精神の面では一般人と同じだろうと考えていた。

 いざ戦いとなれば率先して逃げると、そう思っていたのだ。

 実際、レイジは一般人であり、通常であれば戦いから逃げるし面倒なことは極力避けようとして生きていたので、レリオの評価は正しかったと言える。

 ただ、今回はレイジ自身が死霊であり、物理的な被害を被らないこと……ある意味ではゲームの中のキャラクターを操作している感覚に近かったが故に、レイジを英雄的行動に駆り立てたに過ぎない。

 要は『痛くないなら無茶できる』と思ったのである。

 だが、レリオはそんな事情など知らないし、レイジのいた世界でのゲームの話など分かるはずもない。

 だから、レイジの行動を見て『そういうことが出来る人間』だと誤解し、評価を改めたのだ。



      ■



 ラグノートはレイジの行動をみて、彼が死霊であることを本気で残念に思った。

 生きていれば自身の権限で騎士見習いに取り立てたいとすら思ったのだ。

 昨今の貴族のドラ息子共より、余程騎士に向いていると感じた。

 力ある者が自ら率先してその責任を果たす……そう言った意識が欠けた貴族に比べたら、レイジの方が遙かに高潔で高貴であると思ったし、国王や大公はレイジを気に入りそうだとそう思った。

 だが、いずれにしても死霊である以上、それは叶わぬ願いである。

 だからラグノートは、以降レイジを危険な死霊として敵視するのは止めようと誓った。

 勿論、レイジの全てを信じようと言う話では無い。レイジが巨大な魔力を持つ特殊な死霊であることは間違いがないのだから何かの時のため警戒は怠るつもりは無い。

 ただ、レイジを知らないまま敵視するのは、騎士に相応しい態度では無いと自らを律したのだ。



      ■



 そして……ミディは……。

 ミディは一部始終を見ていたのだ。

 ドラゴンゾンビに対し、レイジが率先して囮となったのも。

 村の出入り口を確保するため、村から離れた位置までドラゴンゾンビを誘導したのも。

 ドラゴンゾンビが暴れ出さないよう、押さえつけるのも。

 その為、突然光を放って巨大化したのも。

 そしてそれが全て(・・)ミディを救う為の行動であると、そう感じたのだ。

 ミディは四人の中で唯一、レイジの中にあったイメージ通りのヒーローを幻視したのだ。

 そして、それに見惚れた。

 そんなレイジが今度は自己犠牲でもってドラゴンゾンビを倒そうというのだ。

 ミディは自分の中に、かつて感じた事のない衝撃を受け、戸惑った。

 レイジが創造神に祝福を受けたという理由をレイジの行動に見いだしてしまった。

 何度も言うように、レイジからしたら化物扱いされない為の保身による行動である。

 だが、ミディも例に漏れず、レイジの思惑以上にレイジを認めてしまった。

 余談ではあるが、ミディは男運が悪かった。

 つまり………………チョロかったのである。



      ■



 結果として、レイジの発言はレイジにとって最も都合の良いように解釈されていた。

 実は、これこそ創造神による祝福の効果だったのだが、レイジを含め当人達は知る由もない。

 レイジの発言に対し、最初に行動を起こしたのはアリィだった。


「【現世に囚われ彷徨う哀れな魂よ】」


 レイジの意図を理解した上で、アリィは即座に魔法の行使に踏み切った。

 レイジの意思を無駄にしないためにも。


セレステリア:「オグリオルッ!」

オグリオル:「ん? どうした?」

セレステリア:「レイジがいましたッ!」

オグリオル:「え? どこに?」

セレステリア:「二十年後の私達の世界に魂のまま存在してる……」

オグリオル:「…………なんで!? なんで二十年後?」

セレステリア:「そこまでは見通せてないけど……とにかくちょっと様子を見てみましょう」

オグリオル:「そうするか……次回『どうやら異世界転生したはずが死んでる模様』第九話『どうやら俺は魔法の力に目覚める模様』」

セレステリア:「え? なんで私達の祝福を受けてアンデッド化してるの?」

オグリオル:「創造神の祝福を上回る不幸体質って……」


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