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どうやら俺は力に溺れていたことを反省する模様


 結局、リルドリア公爵は極刑を免れた。

 ただ、爵位と領地は失うことになった。

 領地は三分割され、そのうち二つを、公爵の息子達が引き継ぐと聞いた。

 ただ公爵の息子達は二人ともまだ若い。長男はまだ十五歳になったばかり。この世界では十五歳となれば成人として扱われるが、領主となるにはまだ若すぎる。

 次男の方はまだ十二歳である。

 このため、双方に後見人を付けることで落ち着いた。。

 次男の後見人はリルドリア公爵が自ら務めることになった。

 それを聞いた時、傀儡にするんじゃ無いかと最初は疑ったが、監視として複数の貴族が就くことで後見人として認めた。王家もその一つとなる。

 そしてリルドリア公爵は爵位を剥奪され平民となるため、貴族を傀儡とした場合には今度こそ極刑が下されることになると、後でラグノートが教えてくれた。

 長男の後見人はレーゼンバウム大公爵が務めるそうだ。

 勿論、二人の息子は公爵ではなく新たに男爵位を与えられる。恐らく、家名も改められるだろう。実質的にリルドリア公爵家の取り潰しという処分が下されたのだ。


 三分割した最後の領地は、レーゼンバウム領に組み入れられることになった。

 リルドリア公爵はその決定に僅かに肩を落としたが、それ以上感情を表すことなく、粛々と処分を受け入れた。

 元々はリルドリア公爵はレーゼンバウム大公爵を陥れようとしたことが発端だったが、終わってみればリルドリア公爵の完全敗北で決着がついた。


 また、霊獣たち……というかファオリアとリルドリア公爵も改めてお互いに話し合ったらしい。ある種の終戦協定である。

 これには前公爵が間に立って、それぞれ取り決めを確認したそうだ。

 前公爵はファオリアと特に仲が良かった事もあり、せめてもの罪滅ぼしとして、病をおして霊獣との関係改善に尽力していた。

 ただ前公爵の病はかなり進行しており、公務を行える程の体力が無かった。そのため、協議が終わるまではアリィが幾度も神聖魔法による治療を行っていた。

 その甲斐もあって、霊獣との協議が終わる頃には、以前よりも体調が回復していたそうだ。もっとも高齢と言うこともあり、病の完治はアリィでも出来ないとのことだったが、それでも前公爵は何度もアリィに礼を言っていた。


 この時の《聖女》の噂は、リルドリア直轄都市リルデンに瞬く間に広まった。

 俺たちがリルデンに滞在している間は、ひっきりなしに病人や怪我人が教会を訪れていたが、アリィは面倒くさがる事も無く、その全てに丁寧に対応していた。

 勿論、聖女とは言えアリィも万能では無い。

 全ての患者を完治させるなど出来ないのだが、彼女の真摯な態度に民衆は心の奥底から感動し、まさしく神の使いとして崇めていた。

 ただ、昼夜を問わず大勢の人々が教会に訪れていたため、アリィの方が、危うく疲労で倒れる所だった。

 幸いミディがいち早く気付いたお陰で大事には至らなかったが、それ以降は毎晩俺がアリィに回復魔法を遣い続けることになったのだが……。

 あ、俺の存在は一般には秘匿されているので、天使が出たなんて騒ぎは起きていない。ただ、アリィに天使が遣わされた噂は、静かに人々の間に広まっていたらしいが……。


 霊獣との数日間の協議の結果、《白き風の森》は従来通り霊獣の管理下に置かれ、森の周囲二〇〇メートルは霊獣の地として一般には不可侵となった。これは以前からあった取り決めだが、王家から正式に通達されたため、より強く民衆に認識された。

 その為、今後はお互いの関係をもっと密にすると決められた。

 具体的な方策の一つとして、森を守る騎士団が設立されることになった。

 《白き風の森》も管理する霊獣がファオリア一体となってしまった為、リルドリア領の人間の連携して森を守らなければならなくなったことが大きな理由である。

 また、霊獣側からも協力者をだし、騎士団と連携をとるとのことだった。

 セヴェンテスはどうしたのかと言うと、魔人に奪われたモードレットを取り戻すため、《白き風の森》を離れる事を決めたと聞いていた……のだが……。


「あんた……なにやってんの?」

「ヒヒン」

「ヒヒン……じゃねえよ! なにやってんのか聞いてんだよ!?」


 しれっとセヴェンテスが、馬の振りをして教会の馬小屋に居座っていた。

 セヴェンテスの特徴である、刀のような角は見えない。

 ただ、その目は通常の馬とは明らかに異なる。瞳に宿る意識が違いすぎる。

 全身から発せられる魔力が完全に強者のオーラとなっている……。


「もう少し魔力を抑えろよなぁ……そんな魔力ダダ漏れの馬がいるかよ……」


 この世界に来た当初、ダダ漏れだった俺が言うのもアレだけどな。

 こうして客観的に見ると良く分かる。

 あまりにも膨大な魔力は見ている者に言い知れない感覚を与える。人によっては恐怖に感じることもあるだろう。アリィ達が当初、俺を警戒していた理由も、今更ではあるが良く分かる。


『ぬ、そうか。角を隠すだけでは駄目だったか?』

「いや、そんな事より……なんで馬の振りしてんだよ?」


 セヴェンテスは、しまったと言いたげな表情をしたあと、少し拗ねたように口をもごつかせたあと、渋々と理由を口にした。


『いや、聖女殿に頼み込んで、お主達に同行することにしたのだ』


 はい?

 霊獣がついてくるの?


「な、なんで?」

『我も出来ればすぐさま《獣魔王権ビースト・レガリア》を追いたい所なのだがな……流石に我でも彼奴相手は分が悪い……というか相性が悪い。となれば彼奴らと再び相まみえそうな者達と行動を共にするのが良策というものよ』

「いや、出来ればあんな連中に何度も会いたくないんだけど?」


 思わず本音が漏れる。

 いや、だって普通は危険人物にわざわざ会いたくはないでしょ? 怖いし……。


『そうは言っても、彼奴らは聖女一行……というか貴様を見過ごすつもりはなかろうよ』

「なんで?」

『《魔軍八将》とまで呼ばれる魔人二人を相手取って、命があるどころか完全に撃退したであろう。負けを素直に認めるような連中ではないぞ。必ず仕返しにやってくる』


 しまったな……ああいったプライドが高く面倒な手合いには極力関わらない様にしていたのだが……。

 まあ、今回は仕方ないか……。

 俺は大きく息を吸うと、肩を落とし大きな溜息をつく。


「何らかの対策が必要かもなぁ」

『そう言う意味でも我が共に行動をするのは利害が一致すると、そう思わんか?』


 そう言われればそうなんだけど……。

 段々と《聖女一行》が大仰になってるのが気になるんだよなぁ。

 って、それも俺のせいなのか?



      ■



 その日の夜。

 皆が事後処理に追われる中、俺は宿屋の一室で《神の肉体》の能力について調査していた。

 本当はすぐにでも食事をしてみたかったが、アリィ達がまだあちこち走り回っているのに、俺だけ飯を食うのは躊躇われた。

 それにどうせなら皆と一緒に食事がしたい。ただ、モモとリーフは既に寝てしまっているので、今日は無理かもとは思っている。

 別に俺は食事をしないと死ぬ訳じゃ無いので、あと一日くらい待たされても、どうってことはない…………と思う。

 精神的には今すぐ食事したいんだけど……。


(待たされた分だけ美味しく感じられるかも知れませんよ?)


 いや、そうかも知れないけど……ってセレステリア様、人の思考に割り込まないで頂けませんか? いや、そっちにダダ漏れなのは知ってるんだけど、せめて「ちょっと良い?」くらいの一言が欲しい。


(そうですね。少し配慮に欠けていました。わざとですけど)


 わざとかよ!


(その反応を見るのが少し楽しくなってきてまして……つい)


 セレステリア様とオグリオル様が《神の肉体》の視界に写る。

 その場にいるのでは無く、視界に割り込む事で、その姿を俺に見せていた。


(で、どうだい? 《神の肉体》は?)


 とんでもないってのが正直な感想ですね。

 いや、だって本人が習得していない技能をダウンロード出来て、一瞬で地面を沸騰させるような高熱にもあっさり耐えて、別次元にいる敵すら攻撃できる。

 つくづく、《神の肉体》はとんでもないと、そう言うしかない。


(すごいだろう?)



 オグリオル様。凄いけど、今はそれを素直に受け入れる気になりません。

 今日の俺は、かなり力に溺れていたと思う。

 あの時、俺は自分で何でも出来ると勘違いしていた。自分が一人で皆を守るんだと愚かにも思い上がった。

 そして……危うく皆を死なせてしまう所だった。


 始まりの竜プリミティブ・ドラゴンアーセナ・ローシルトがブレスを吐こうとした時もそうだし、アナザープレーン・シャークが現れた時も危なかった。

 俺一人で全員を守るなんて思い上がりでしか無いのは分かってる。

 だが、あの時、俺は少なからず平静さを失っていた。

 リーフがアーセナ・ローシルトの顎を跳ね上げたのを見た時、アレはより近い俺がやるべきだったと思った。

 伏兵の事など微塵も考えず、《獣魔王権ビースト・レガリア》を追ってしまい犠牲者を出してしまった。


 あの場に留まっていたからと言って、防げたとは限らない。

 ただ、ヤツらを追ったのは、自分が力に溺れていた証左でしかない。自分なら止めをさせると錯覚していたからこそ、何も考えずにヤツらを追いかけたのだ。


 平和な日本にいた俺には、戦闘行為など土台無理な話なのかもしれない。

 だが、今のままで良いとは思っていない。

 今後、また《魔軍八将》が関わってくることは充分にあり得る。

 その時、また同じ失敗をしてはならない。

 幾ら《神の肉体》が凄くても、俺一人生き残るのでは意味がないのだ。

 俺自身は、アリィ達がいなければこの世界では何も出来ないのだから。


 俺は、ラグノート達の様な強さが……戦いの場において、常に冷静さを保てるような強さが欲しい。自分が出来る最善を判断する場数が圧倒的に不足している。


『《神の肉体》を得たからって強くなったつもりか!』


 《人形繰者ドール・オペレーター》の台詞が何度もリフレインする。

 その言葉が俺の心に突き刺さる。

 確かに俺は強いかもしれない。

 チートであることに間違い無い。

 でも…………俺はちゃんと戦うことに向き合っているのか?


「俺は強さが足りない……」


 俺の口から出た言葉は、そんな後悔の言葉だった。

 己の強さを理解し、それを最大限に活かして戦う。それが俺には出来ていない。

 例え戦う技術をダウンロード出来ても、それを有効に扱えない俺は弱者でしか無い。

 そんなことを思い知らされた戦いだった。


(今それに気付いたなら、やることは分かっているだろう?)


 ああ……オグリオル様。頼みがある。

 この世界のことを。

 戦い方を。

 技術や知識を。

 どうか教えて欲しい。


(オグリオルだけにですか?)


「勿論、セレステリア様にも」


 俺のその言葉に、二柱の創造神は、にっこりと笑って頷いた。


やっと第四章が終わりました。


レイジ「長かったな……物語がというより、更新ペースが……」


す、すまん。


じ、次回からは少し日常回を挟むかと……


レイジ「更新ペースは?」


…………えと……保証はできない……

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