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どうやら俺は天使としての功績をあげる模様


 地上に戻ると、リルドリア公爵の兵士達が、次々に遺体を運び出す準備をしていた。

 少し気持ちが落ち着いたのか、リルドリア公爵自身も幾許か平静さを取り戻している。

 ただ、その憔悴っぷりは誰の目にも明らかだった。

 彼が周囲に放つ空気も、何処か重苦しい。

 自業自得なので同情は出来ないが……。


「今後、どうするって?」

「一度、本陣まで戻るそうです。それとファオリア様が今後について協議したいと……」

「協議?」


 俺はラグノートの言葉に首を傾げる。

 霊獣が人間に対し、賠償請求でも求めるのだろうか?


『今後、無闇に我らの領域に入り込まないよう、今一度盟約を結ぶつもりなのだろう』


 セヴェンテスがそう補足する。

 《魔国プレナウス》の魔人達に唆されたとは言え、リルドリア公爵がこの森に攻め入った事が全ての始まりなのだ。

 公爵が軍隊を用いて陽動などを仕掛けなければ、今回の事件は違う結果を見せていたかもしれない。

 いや、そもそも甘言にのせられなければ、ここまでの事態にはならなかったのだ。

 リルドリア公爵には、今後王国からも何らかの処分が降るはずだが。霊獣達からしたら、それだけで済ます訳には行かない。

 でも……。


「それって、本陣まで霊獣を連れていくってこと?」

「ええ、リルドリア公爵も了承しております」


 ラグノートの言葉に俺は、なるほどと頷く。

 兵士達の困惑した様子はそういうことか。

 いきなり森へと招き入れられたと思えば、突然戦闘の終了を宣言され、更には敵対していた霊獣を本陣に招こうと言うのだ。理解が追いつかず混乱するのも仕方ない。

 だが、惨劇の有様を見て、納得せざるを得なかったのだろう。


「戦争に負けたって実感が足りないのか?」

「いえ、聖女と天使の介入により、場を収めたことに理解が追いつかなかったようです」


 ちょっと! ラグノートさん!?

 ……って、いや、事実だし仕方ないか。

 そもそも俺が再度転生するためには、《聖女》アルリアードが民衆に強い信仰の対象となる必要がある。

 そう言う意味では今回の対応は正しいし、その結果は俺としても望ましい……筈だ。


 忘れている人もいるかも知れないけど、俺の目的は再転生だからね!?

 別にこのままこの世界を謳歌することじゃないから!


(忘れていました……)

(だな……)


 神様が忘れないで……。


「じゃあ、彼らの困惑って……」

「リルドリア公爵の《過ち》を聖女と天使が正したと、公爵自身が宣言したことで、今回の戦いの正義を見失ったんだと思います」


 俺たちの元に近寄りながらそう答えたのはスフィアスさんだ。

 遺跡に入る前に、アリィが公爵に何か話しかけてていたけど、その時に諭したのかな?

 あれだけ憔悴して取り乱していた公爵が、短時間にそこそことは言え立ち直ったのは、その辺りに理由がありそうだ。

 ただ、兵士達は直接その言葉を聞いていない。

 公爵が聖女に窘められたと言うことは、実は公爵に大義が無かったことを示す。

 領土の為に戦っていた筈の兵士が混乱するのも、無理もない。

 それでも、聖女という存在が、混乱を鎮めるのに一役かっているのだ。

 アリィはリルドリア公爵を責めたりはしない。

 勿論、兵士達も。

 ただ、一言、「もう戦わなくて良いんです」と彼らに伝えただけだ。

 その一言に、安堵を漏らす者も多い。

 流石は《聖女》と言った所か。


「レイジ、ラグノート! 準備が整ったそうです!」


 リルドリア公爵の側近である騎士と話していたアリィが、大声で俺たちを呼んだ。

 その声に俺とラグノートは顔を見合わせ、クスリと笑う。


「仮にも《聖女》が町娘みたいな大声を張り上げるのは、どうかと思うんだが?」

「アリィ様らしいではありませんか」


 ラグノートが苦笑交じりにそう答えた。

 まあ、確かにそうか。

 あんな彼女だからこそ、民衆にも慕われているのかも知れない。

 そんな事を思いながら俺はアリィの元へと向かった。



      ■



 俺とアリィ、それにラグノートの三人は、本陣に構えられた一層大きなテントへと招かれた。

 あ、先に断っておくが、今の俺は全裸にマントなんていう変態めいた格好はしていない。ここに到着する前に、レリオに着替えを借りている。

 そんな俺たちを迎えたのは、意外な人物達だった。


「ウォードさ……いや、レーゼンバウム大公爵!?」

「久方ぶりじゃな、レイジ。成る程、それが《神の肉体》という訳か……」


 うっかり名前を呼びそうになったが、今は公の場であるので慌てて訂正する。

 大公閣下は気にしたそぶりもなく、俺をまじまじと見つめた。

 っていうか、なんで《聖遺物》が《神の肉体》だったって知ってんのよ?

 つくづく、この人の情報網はおっかない。

 そして、親しげに話す大公閣下の隣で、珍しいものでも見たかのように眉を上げている人物は……。


「こ、国王陛下!?」

「《聖女》アルリアードよ……此度の働き、真に大義であった」


 え? 国王陛下?

 わざわざ出向いてきたの!?

 アリィもそう思ったのか、飛び上がらんばかりに驚いていた。


「此度の件は、私が出向かないと収まらないと思ってな……まあ、たちの悪い叔父にせかされたのもあるが……」


 そう言って、国王陛下は大公閣下を見た。

 ああ、大公閣下は前王の弟だったっけ?

 そう言われた大公閣下は、素知らぬ振りを決め込んでいた。相変わらず神経が太いな、この人は……。

 そしてもう一人、木製の車椅子に座った老人がその場にはいた。

 身なりからして彼も貴族なのは間違い無いが、今まで会ったことはない。


「ち……父上……」


 そう震える声を発したのは、リルドリア公爵だった。


「前リルドリア公爵です」


 アリィが俺に、そっと耳打ちする。

 成る程、最近代替わりしたとは聞いていたけど、別に亡くなったとは聞いてないものな。


「ウィドナ……我が息子よ……其方は何をやったのか分かっておろうな?」


 前公爵がそう言うと、リルドリア公爵はその前に膝を着いて頭を下げた。


「は、はい」


 その顔は蒼白となっている。

 それはそうだ。

 これは単に霊獣の森へと進軍したという話ではない。

 《魔国プレナウス》の魔人にそそのかされ、大公閣下を陥れようと画策した。更には霊獣を一体、戦力として《魔国プレナウス》に差し出したに等しい。自らの欲に負け、よそ者の甘言にのせられ軍隊を動かし、挙げ句に国家を危機にさらす一端を担ったのだ。

 《ファンガス・パウダー》から始まった一連の騒ぎで、オルレニア王国の治安は著しく低下した。特にリルドリア領は被害が大きい。

 治安維持を怠った為、村々ではモンスターによる被害が相次いだ。収穫の時期だっただけに、食料面での被害は特に大きい。

 この時期は、各地の治安維持に力を注がなければならないのに、それを怠った。

 今回の件では一番喜んだのは隣国である《魔国プレナウス》だろう。

 国家転覆罪を疑われても仕方ない。

 だが……。


「済まぬな、息子よ。儂がお前にもっと教えておくべきだった」

「え!?」


 そう言って前公爵が頭を下げる。

 それに驚いたのは公爵自身だった。


「儂がお前にもっと霊獣の事を教えておくべきだった。もっと霊獣と関係を持たせるべきであった。霊獣の森との距離を置きすぎたせいで、お前は霊獣の恐ろしさを理解しなかった。全ては儂の責任だ……」

「そんな!? 父上は何も悪くは……」

「いや、お前の中にある不安を理解出来なかった。守ることの大切さを教えられなかった。生まれながらに《成功者》であることの振る舞いを、儂自らが理解していなかった」

「ち……父上」


 ああ、そうか。前公爵は今になって気付いたのだ。

 自分の息子が、自身の《成功体験》がないことに不安を憶えていることに。

 今回の騒動は、原因をそこに発する。

 偉大な父親を持った息子は、その父親に匹敵する《成功例》を欲する事がある。

 歴史に名を残すであろう父親と比べ、何もない自分に焦りを憶えるのだ。

 そこを《魔国プレナウス》の魔人達に付け入れられた。

 存在も不確かな《神の武具》を手に入れる為、ありもしない大義を振りかざし、挙げ句多くの物を失った。

 リルドリア公爵はこの後、処分を受けるだろう。場合によっては極刑の可能性すらある。

 そんな公爵に対し、謝罪をしたその父親の心境はいかなものだろうか?

 ただ、リルドリア公爵自身には響いたようだ


「いえ、これは私の問題です。父上は何も悪くはありません。私が未熟だったのは、自らの未熟を認められなかった故です。……うッ…………国王陛下を始め、多くの方々にもご迷惑をお掛けしました。なにより、民を苦しめることになった私は、爵位を持つに相応しく……ありません」


 リルドリア公爵は、ここに来て初めて謝罪した。


「聖女様も、この度はありがとうございました。それに……」


 リルドリア公爵は、アリィに頭を下げた後、俺の方を見た。

 だが、俺は手の平を公爵に向け、次の言葉を制した。


「私には感謝も謝罪も不要だ。私はただ、セレステリア様より《聖女》アルリアードを補佐するよう遣わされただけに過ぎない。今回の件も、オグリオル様より《神の肉体》を下賜頂いただけに過ぎず、リルドリア領やオルレニア王国を救おうとしたのではないのだ。私は地上の事柄に干渉するつもりはないのだ。感謝ならこの騒ぎを収めたいと望んだ《聖女》アルリアードに捧げるがよい。もしそれで気が済まないと言うなら、私の事は極力内密に頼む。私がここを訪れたのもそれを伝える為なのだから」

「は……ははぁ!」


 俺の言葉に、リルドリア公爵は頭を地面に擦りつけんばかりに下げた。

 その間に俺は《神の肉体》を異空間へとしまい、俺自身は姿を消した。

 リルドリア公爵は頭を上げると、再びアリィに向かって感謝と謝罪の言葉を述べた。

 ちなみに……先ほどの台詞は俺が言ったのではない。

 勝手にオグリオル様が《神の肉体》を通して、そう喋らせたのだ。

 いきなり乗っ取られたのでびっくりしたぞ?

 姿を消すよう指示したのもオグリオル様だった。


(神としては、直接的に地上に干渉するつもりはないと、そう意思を伝えておかないとね)


 天使が干渉するのも全ては《聖女》の意思とする訳か。

 確かにそうすれば聖女の威光が益々広まる。

 逆に言うと、俺は今後、無茶を控えないとならない。対応を間違えたら、アリィの立場を悪くしかねない。

 …………普段は幽霊のままの方が、良いかもしれないなぁ。


 リルドリア公爵は何度もアリィに謝った後、再度国王陛下の前に跪いた。


「さて、リルドリア公爵。其方に対する処分を伝える」


 そう言って、国王は一歩踏み出した。

 その国王の前で、リルドリア公爵は跪いて、黙って処分を待っていた。


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