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どうやら俺は今まで経験の無い嫌な感覚を覚える模様


「あーーーー誰か着替え持ってない? マントだけだと変態度が上がった気がしてるんだけど……せめてパンツくらいは……」

「パンツですね! 分かりました!」

「まて、ミディ。誰がお前のはいているパンツを寄越せと言ったか。さり気なく俺の変態度にお前の変態度を加算してくるんじゃない」


 ミディが腰鎧の下にてを突っ込んだまま、俺の方を「えッ?」と言わんばかりの目で見てくる。

 いや、その脱ぎたてパンツを俺にどうしろって言うんだよ、お前は。

 ホカホカなうちに俺に履けと言うのか?

 それとも頭に被れば良いのか?

 見事な変○仮面の完成だな!?

 どうして、この娘はここまで壊れた?


「レリオ? 予備のパンツないの?」

「馬車は戦場に入る前に置いてきたからなぁ。流石に手荷物には入って無いわ」


 まあ、そうだよなぁ。

 戦場に持ち込むならパンツより重要な物は幾らでもあるもんなぁ……。

 因みに、普段の俺――つまり幽霊の姿を上手く顕在化できれば見た目は服を着ているように出来るんじゃないかと試したのだが、《半透明の服を着た高度な変態》が出来上がったので、却下となった。

 天使としての威厳とか、完全に何処かに行ってしまったが、まあ、俺なので仕方ない。

 あと、頭の中で二柱の創造神がずっと爆笑してるんですが、そろそろ止まって貰えませんかね?


「となれば早々にここを立ち去りたいんだけど……」

「先にやるべき事がありますからねぇ……」


 俺とアリィはお互い見合わせた後、リルドリア公爵を見た。

 リルドリア公爵は、息絶えた魔術師の傍で泣き崩れている。

 ノーマッド! ノーマッド! と公爵が呼びかける魔術師は、もうピクリともしない。

 貴族であることを忘れたかのように取り乱す公爵に、誰も言葉が出ない。

 公爵の年齢は四十代半ばと聞いているが、憔悴しきった今は、十は老けて見えた。

 その傍ではバラマールと呼ばれた騎士が、悲痛な顔をして、胸に手を当てている。


 この結果は自業自得と言える。

 全ては公爵自身が招いたことだ。

 ただ、どうしても『他に手立てがなかっただろうか』と考えてしまう。

 あの時『もっと周囲に気を配っておけば』と考えるのは傲慢だとは思う。

 だがもしあの時、アリィが真っ先に被害に遭っていたら……そこに横たわっていたのがアリィ達の誰かだったとしたら、俺は自分を責めずにいられただろうか?


「セヴェンテス様、少し宜しいでしょうか?」


 アリィが不意に発した言葉に、俺は悪い思考の渦から抜け出した。

 いかん、いかん。

 結果は結果だ。それを悔いるより、今後どうするかを考えるようにしないと。


『何かな? 聖女よ』

「どうか、リルドリアの兵達を、一部この森に招き入れる許可を頂けませんか?」


 セヴェンテスはしばし黙考する。


『ふむ、確かにこの場をこのままにも出来ぬか……』

「はい、亡くなった方々を遺族の元に届け無ければなりません」

『分かった、何かの為に森の外周部に残したファオリアにそう伝えよう。代わりと言ってはなんだが、少々手伝って頂きたい事がある』


 アリィの意図を汲んで、セヴェンテスはすぐに念話でファオリアを呼び出す。

 その後、セヴェンテスはアリィと、そして俺に向かって頭を下げた。


「俺も?」

『ああ、危険は無いはずだが、一応な』

「一体何をすればよいのでしょうか?」

『遺跡の内部を共に調査してほしい』

「調査?」


 うん? その言い方だと、この遺跡には《神の肉体》以外にも、何かあるのだろうか?

 そう思って問いかけると、セヴェンテスは首を横に振った。


『いや、他には何もない筈だ……だが、ヤツらの引き際の良さが気になってな……』


 セヴェンテスの言葉に、胸の奥に嫌なものが拡がるのを感じた。

 確かに、彼らの引き際は良かった。俺も、それが妙に気になっていた。

 ヤツらの実力は未知数だが、あの時全力を出しているようにも見えなかった。


「分かりました。皆の治療が終わりましたら、すぐにでも向かいましょう」


 アリィはそう言って了承した。



      ■



「酷い有様だな……」


 俺は破壊された遺跡の内部を見て、そう呟いた。

 地上の後始末を終えた俺とアリィ、そしてセヴェンテスは遺跡の内部にいた。

 もうそろそろ日が暮れそうな時間ではあるが、今日中に確認したいというセヴェンテスの意向を汲んだためだ。

 因みに後始末とは言え、俺は殆ど何もしていない。

 一番頑張っていたのはアリィだ。

 怪我人の治療――その中にはブラッディエイプも含まれていた――をし、リルドリア公爵を落ち着かせて話をし、兵士達が来ることを告げた。

 更にラグノート達に指示を出し、警戒と休憩を交代で行うよう命じた。

 本人は働きっぱなしなのに……。

 こういう所は本当に《聖女》なのだなぁと思い知らされる。


「気を付けないと、崩落するかもしれませんね」

「一応、【魔法の盾】を展開しているから大丈夫だとは思うけど……この魔法は初めて使うからな……」


 【魔法の盾】は【障壁魔法】と異なり、守れる範囲は狭い。ただし、術者の思ったとおりに移動出来ることが大きな特徴だ。

 今はそれを傘のように上に展開している。

 さらには万が一の為、再度《神の武具》を身につけている。

 ただこれ、本当に消耗が激しいので、あと二時間も装着し続けたら、魔力が枯渇しそうではあるが……。


(二時間も身につけられたなら、充分に化け物ですけどね)


 いや、セレステリア様……貴女まで俺を化け物呼ばわりしますか。

 俺がげんなりしてると、アリィが不思議そうにこちらを見た。


「どうしました?」

「今、セレステリア様に化け物呼ばわりされた……」

「は?」


 あれ? なんか妙な反応が……って、そうか!


「あ、この《神の肉体》に憑依していると、オグリオル様とセレステリア様の二柱と話ができるんだけど……言ってなかったっけ?」

「聞いてません」

「本当に化け物だな、貴様」


 そろそろ否定出来なくなってきた。

 確かに、この《神の肉体》に憑依した直後に戦闘に突入したもんな。説明する暇は無かったわ。


「うん、この《神の肉体》は一種の聖域らしくて……」

「常にセレステリア様と繋がっているということですか!? なにそれ、羨ましい」


 アリィさん?

 いや、聖女からしたら羨ましいかも知れないけど、常に自分の中に誰かいるみたいで、これはこれで結構煩わしいですよ?


(煩わしいですか?)


 おっと、やぶ蛇だ。

 まあ、暇なのかなぁとは思ってたけど。


(暇ですね)

(暇だな)


 暇なのかよ!


(やらなきゃならない事は、大抵が一瞬で片付きますし……)


 ……流石は創造神……。

 だからといって、俺を娯楽扱いしないで欲しい。


「また、セレステリア様と話をしてます?」

「ああ、御免。で、遺跡の状況はどう?」

「聖霊によれば、トラップなどの類いは無いようです。というか、ここまでと同じく、破壊されたようですね」


 そう。

 セヴェンテスが言うには、遺跡には数々のトラップがあった。

 だが、焼かれ、溶かされ、叩き潰された遺跡の壁を見る限り、今はまともに機能してはいまい。

 連中、かなり力尽くでこの遺跡を探索したらしい。

 お陰で、何処に行ったかは一目瞭然なのだが。


「外の連中は大丈夫なのかな?」

「まあ、《獣魔王権ビースト・レガリア》達が戻ってくることはないと思いますけどね」

『リーフェン様がいるのだ、早々に遅れはとるまいよ』


 心なしか、セヴェンテスが怯えたような表情を浮かべる。

 まあ、アレが始まりの竜プリミティブ・ドラゴンだと知ったときは相当に驚いていたしな。まだ、あの衝撃が後を引いているんだろう。

 あとは、立場的なものもあるみたいだけど……。


「しかし……結構広い遺跡だな」


 《神の肉体》を安置するだけの建物にしては、広すぎる。

 破壊の跡が無ければ、何処に向かって良いか分からなかっただろう。


『ここは太古からある遺跡だからな』

「え? じゃあ、《神の肉体》を安置するより前からあるってこと?」

『うむ』


 セヴェンテスの意外な発言に、俺はちょっと戸惑った。


「じゃあ、ここには《神の肉体》以外にも何かあるってことじゃないのか?」


 そもそも、この建物は何の為に作られたんだ?


『いや、打ち捨てられてかなりの年代を経た遺跡でな……何も無かったが故に、一番奥に《神の肉体》を安置したのだが……おお、そこをくぐればすぐだ』


 言われて俺とアリィは【魔法の明かり】に照らされた大きな入り口を見た。

 大きく破壊され、無残な姿を見せている入り口をくぐって俺たちが見た物は……。


『なッ! 何だとッ!』

「こ、これは……」


 そこで俺たちが見たものは、《神の肉体》が安置されていたであろう祭壇と、その奥にある破壊された壁だった。


「まだ、奥があった?」

『そ、そんな馬鹿な……』


 セヴェンテスは他には何も無いと言っていた。

 だが、実際にはそうではなかったのだ。

 破壊された壁の奥には、もう一つ部屋があり、その中央には何かが置かれていたであろう台座が残されていた。

 セヴェンテスも知らない、隠し部屋が……。


(セレステリア様、オグリオル様、ここに何があったかご存じですか?)

(いや、記憶にないな……)

(……………………)


 まあ、そう言う事もあるか。

 地上の全てを常に見ている訳ではないだろうし……。

 ただ……ここにあった何かを、ヤツらが持って行ったのは間違いなさそうだ。

 オグリオル様も知らないってのは気になるけど……。


「嫌な……感じがしますね」

「ああ」


 アリィの不安げな声に、俺も同意する。

 俺も初めて感じる形容しがたい不吉な感覚に、思わず首をさすっていた。



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