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どうやら俺は今後全力で魔法を使うことを止める模様


 《白き風の森》より数キロメートルほど南下した上空。


「クソがああッ!」

「ちょっとぉ、悪態つくなら降りなさいよねぇ?」


 ラディルは始まりの竜プリミティブ・ドラゴンアーセナの背中の上で盛大に叫んだ。

 それを見たメイフィスが迷惑そうにたしなめる。


「そもそもお前が男の股間見た位で取り乱さなきゃ負けなかったんだよ! 乙女か! 手前ぇはッ!」

「なによぅ。私が悪いってのぉ!?」

「違うって言うのか!?」

「アレは私のせいじゃないわよぅ!? あの《神の肉体》にはある種の呪詛が組み込まれていたのよぅ。《神の肉体》のイチモツを間近に見た女性に対してだけ発動する精神作用の術式がねぇ」

「なんでそんな術式が組み込まれるんだよッ!?」

「知らないわよぅ。私が作ったんじゃないんだしぃ。大方、《そう言う目的》の為につくられたんでしょう?」

「チッ……くだらねぇ術を仕込みやがって……」


 メイフィスの言っていることは半分正しい。

 実際、《神の肉体》にはその類いの術式が組み込まれていた。

 ただし、『かつて』の話である。

 そんな女性の尊厳を否定しかねない術式をセレステリアが許す筈も無く、今とは完全にその術式は破壊されている。今はその形跡のみが残るだけである。

 なら、何故メイフィスはあれほどまで動揺したのか。

 それは……。


(ああああああ、あんな間近で見ちゃった……いや、見たこと無い訳じゃないんだけど……目と鼻の先っていうのは、あうあうあうあ~~~~暫く夢にみそうよぅ……)


 単に経験が無かっただけである。

 メイフィス周囲の誰もが知らないことだが、彼女は『乙女』だったのだ。


「何、紅くなってんだよ?」

「な、何でもないわよぅ!」

「にしたって、多少は耐えろよ! 一瞬、偽物かと思ったじゃねぇか!」

「不意を突かれたんだから仕方ないでしょぉッ! そもそも相手の戦力を見誤ったのはお互い様でしょうにぃ?」

「ああ、俺に落ち度があるってのか!?」

「ムキになるから無駄に手駒を失ったんでしょう!?」


 二人はアーセナの上で口論を続けた。

 当のアーセナはかなり迷惑そうな顔をしているが、下手に逆らえない為、下手な口出しはしなかった。

 ただ、早く終わることを願っていた。



      ■



 アナザープレーン・シャークは俺に噛みつくと、そのまま一気に俺の身体を異界へと引きずり込んだ。

 自分のホームで戦おうと言う訳だ。まあ、鮫としての基本行動かもしれんが。

 本来ならピンチの筈なのだが、俺に焦りは無かった。

 それも当然である。

 アナザープレーン・シャークの牙は《神の武具》に全く通用していないのだ。

 その一見薄そうな装甲に食い込む事すら出来ていない。

 《神の肉体》も頑丈なので、無茶苦茶に振り回されても、関節が外れたりもしない。

 生身の人間だったら、今頃絶命確定だろうけど、相手が悪かったな。

 こちとらとっくに死んでるんだよ!


 そんな俺を見て、アナザープレーン・シャークの目が歪に歪む。

 嗤った?

 アナザープレーン・シャークは突如として、その身を高速で回転し始めた!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」


 すげー回る。目が回る! って、それ程でもないか。脳や三半規管がある訳でもないしな。

 脚の関節も特に異常はない。流石にこの回転速度だと膝関節に負担がかかりそうだが、俺は《神の肉体》にストックされた【飛行魔法】を使って、わざと一緒に回っていた。

 視界が多少目まぐるしいのは仕方ないが、その目まぐるしさを判断する背景の情報がここは少ない。空間の色あいは一定ではないものの、大きく色あいが変わったり、星明かりの様な光源がある訳でも無い。その情報量の少なさが俺に冷静さを与えてくれていた。


「GUA!?」


 今度こそ、アナザープレーン・シャークの目に困惑の色が浮かんだ。

 高速で回転すれば、脚を千切れると思ったのかも知れないが、当てが外れたな?

 いや、その戦法を思いついた時点で、かなり知性は高いんだろうけど……。


「それに、ここなら手加減の必要なんか無いんだぜ?」


 俺は体内の魔力を一気に練り上げる。宣言通り加減無しで最大限の魔力を魔法に注ぎ込んだ。


「【戦神の刃たる荒ぶる雷よ、我が前に集え】【雷は光の剣となり、雷鳴を纏いて力を示せ】【襲い来る汝の敵に裁きを与えよ】」


 俺の中の魔力に怯んだのか、アナザープレーン・シャークがその口を開く。

 俺は勢いのまま数度回転するが、詠唱を継続しながらも、なんとか【飛行魔法】を使って体勢を整えた。

 アナザープレーン・シャークはその身を翻し、慌てて俺から逃げ出した。

 だが、もう遅い!

 俺は全力で魔力を術式に注ぎ込む。

 今までは大きすぎる影響が怖くて、全力では出来なかったが、ここなら問題あるまい。

 俺は両手を高々と上げる。その手の平に、これまで憶えがない量の魔力が集まっていく。


「【魔術師ソーサラー・ショット(ショッズ・)の雷の槍(ライトニング・スピア)】」


 魔法を完成させた俺は、その手の平の上に出来た巨大な【雷の槍】をアナザープレーン・シャークに向かって放った。

 その槍の大きさは直径三〇メートル以上、長さは三〇〇メートル以上……って、戦艦かよ!?

 それ程まで巨大な【雷の槍】が、光速でもってアナザープレーン・シャークに向かって突き進んだ。


「GA………………………………………………………………………………ッ!」


 当然、躱せるはずも無く、アナザープレーン・シャークは【雷の槍】に呑まれ、その断末魔も雷鳴にかき消された。

 核爆発の様な光の奔流が収まると、そこには消し炭となった僅かな残骸が残っているだけだった。

 あ、うん。

 地上じゃ絶対に全力出さない。というか、出せない。


(本当に止めてくださいね)


 はい。しません。ちょっと俺もビビってる。いや、ちょっとじゃないわ。かなりビビってるわ。

 こんなん、地上で使ったら被害が想定出来ない。

 数キロ先の都市とかうっかり消滅させかねないし……。

 今後はもっと魔力運用技術を高めよう。

 そう俺は決心した。


(さて、では元の世界に戻ろうか?)


 そうしたいのはやまやまなんだけど……どうやるんだ?


(まだ【魔力感知】は使えるだろう? その対象を元の世界に残した人達に変えるんだ)


 オグリオル様のアドバイス通り、俺は【魔力感知】を使ってアリィ達を探る。

 真っ先にリーフの巨大な魔力を見つける。

 そのまま暫く集中すると、アリィ達の魔力も感じ取る事が出来た。

 でも、異界にいても感じ取れるんだな。


(アナザープレーン・シャークがあちこちに穴を開けたからね。でももうすぐ修復されるから、急いだ方が良いよ?)


 俺は更に集中を続けた。程なくして、皆の魔力を明確に捉える事が出来た。

 って、あれ?

 今まで【魔力感知】でアリィ達を探った事が無かったから気付かなかったのだが、アリィの中に何か懐かしい気配がするのを俺は感じていた。

 なんだろう? これは? 懐かしくもあって、それでいて少しだけ胸の奥が疼く。

 いや、気のせいかな。

 異界なんて場所にいるから、ちょっと不安になっているのかも知れない。


(魔力をちゃんと捉えたかい?)

(ああ、問題無いよ)

(じゃあ、行くよ。ちょっとだけ目を閉じて……)


 オグリオル様の声を合図に目を閉じると、俺の全身をにゅるんと絞り出すような感覚に包まれた。


「「「レイジッ!」」」

「レイジ様ッ!」

「「レイジ殿!」」

「ご主人様!」


 目を開けると一瞬眩しさに眩むが、すぐに視界が戻る。

 其処には俺を見つけこちらに駆けつけてくるアリィ達の姿が見えた。


「って、なんで全裸なんですかああああああああッ!」

「ぐぬあっ!」


 直後、アリィが手にした杖を俺に投げつけた。



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