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どうやら俺は出来の悪いサメ映画的なものに襲われる模様


「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」


 魔術師の断末魔が大気を斬り裂く。

 腰から下を失った魔術師は、血に漬したボロ布のように地面に転がった。

 辺り一面に血の海が拡がる。

 だが。

 それを成した存在が見えない。

 僅かに魔力を感じるだけだ。


「次は聖女かもねぇ」

「くっ!」


 俺は耳朶に残るメイフィスの言葉を振り払うようにして、俺は地上へと向かった。

 その間にメイフィス達は王都とは逆方向に飛び去った。


「ノーマッド! ノーマッドォッ!」


 地上に戻った俺が最初に見たのは、発狂しそうな声を上げる公爵と、血塗れで息も絶え絶えとなった魔術師だった。

 いや、いまだ息があるのが驚愕だった。普通ならショック死している。

 その魔術師は、公爵の言葉に応えるように僅かに視線を移し、震える唇を小さく動かした。


「ご……無事……か……ウィドナさ……ま……ご無事なら……逃げ……さい……」

「喋るな……もう……もう…………」


 最後に公爵の身を案じた魔術師は、そのまま命の火をそっと消した。

 公爵は大粒の涙を零すまま、その場を動けずにいる。

 一体何があったのだろうか。

 俺は、あの魔術師を殺した犯人を見ていない。

 だが、その場にいた面々も、犯人の姿を見ていなさそうではあった。

 故に、公爵以外の者達は全員が姿を消した敵に警戒している。


「何が起きた!?」

「分からん。あまりに突然の出来事だったからな」

「一瞬、鋭い歯のようなものが見えたのですが……。


 俺の質問に、ラグノートとアリィが緊張した面持ちで答えた。

 視線は周囲に向けられており、二人とも俺の方を見ない。


「鮫や……」

「サメ!? こんな所にか!?」


 レリオが呟き、ミディが苛立ったように声を荒げた。

 鮫? あの海にいる鮫だよな?

 まさかそんなクソ映画みたいな敵がいるってのか?


「分かんないけど、変な臭いがします」


 モモが鼻をひくつかせて、そう言った。

 クリクリとした猫目を瞬くモモの様子を見る限り、まだ敵は近くにいそうだ。

 だが、鮫?

 しかも人間の下半身を一噛みで食らうような大きさの?

 何故、それの姿が見えない?


「レリオ……その鮫は何処から出てきた?」

「地面……の様に見えたんやけど……多分ちゃうわ。突然、公爵の足許に現れよった……」


 ラグノートの問いにレリオはそう告げた後、口元に手をあて、何かを思案する。

 なんだそりゃ?

 地面に潜ってるというのは考え難い。

 そんな簡単な理由だったら、レリオ以外が気付かないなんて事態にはならない。

 魔法的に地面に潜れる? または、全く別の方法か? いや、待てよ?

 この《神の肉体》だって異空間に収納できるよな?

 それと同じような存在だとしたら……?


「別の世界に潜む鮫……?」

(アナザープレーン・シャーク!?)


 うおっと!

 突然頭の中にセレステリア様の大声が響き、俺は脳を圧迫されるような感覚に軽い目眩を覚えた。


(あ、失礼しました、レイジ)

(いや、それよりもセレステリア様……アナザープレーン・シャークって?)

(海では無く、異空間を泳ぐ魔獣です)

(この世界、そんな物騒な魔獣がいるの!?)

(いえ、元々はいないはずなのです……)


 いないはず?

 なんでそんなモノが?


(どんな魔獣なのか聞いても?)

(かつて邪悪な魔術師が異界より召還した鮫を素体に創造した魔獣で、それこそ海のように異空間を泳ぐ事が出来ます。厄介なのは、何処からでも現世に飛び出て襲ってくるのですが……)


 なにそれ厄介すぎる!

 ある意味、この世界の全てが海みたいなものか。

 で、俺たちはその海に対して攻撃する手段を持っていない。

 ……どうしたものか……。


「レイジ? 何か分かったのではありませんか?」


 アリィが俺を見て、そう言った。

 俺は静かに頷いてから口を開く。


「セレステリア様が、アナザープレーン・シャークって魔獣じゃないかって……」

「うわ……ホンマかいな……なんちゅう厄介な相手が来とるんや……」


 俺の言葉に、レリオがげんなりとした感じで僅かに肩を落とした。


「確かに厄介じゃな。皆、魔力の流れに注視せよ! 彼奴らはこっちに干渉する際、必ず《門》を作る」

「つまり魔力が集まれば、そこから出てくると? なら、魔力感知で捉えられるよな?」

「その通りじゃ」


 リーフがアナザープレーン・シャークを知っていたのか、見えない攻撃の探知法を示す。

 だからあの魔術師は反応できたのか。


「「【マナよ、その力の流れを我に示せ】【魔術師ウルスラのソーサラー・ウルスラズ魔力感知・ディテクトマジック】」」


 早速俺は魔力感知魔法を唱える。レリオも全く同じタイミングで使用したので、完全にハモってしまった。

 てか、レリオって結構魔法使えるんだよな。

 確か《魔導騎士》なんだっけ? あと《無限刃のレリオード》なんて二つ名もあるんだっけか? 本人は恥ずかしがっていたけど……。


「数は……三……やな……」

「だな」


 俺とレリオはお互いに頷く。

 確かに魔力の歪みを三つ感じる。

 ただ、位置が分かり辛い。

 こっちの次元に出てきていないためか、魔力の感じ方が曖昧で判然としない。逆に言えば、その判然としない魔力の正体がアナザープレーン・シャークなのは確定と言えた。


「旦那! 右やッ!」

「ヌウウウンッ!」


 レリオの声に反応し、ラグノートが手にした巨大なハンマーを振るう。

 相打ち狙いかよッ! と、思ったがあのハンマーなら食いつこうとした相手をもろとも粉砕できそうではあった。

 だが、ラグノートのハンマーはアナザープレーン・シャークをすり抜けてしまい、効果を上げられない。


「今の一瞬で再度異界に潜ったのかよ……」

「そうらしい……本当に厄介な相手だ」


 溶けるように別次元へと消えていくアナザープレーン・シャークを見て、思わずそう発した俺の驚愕にラグノートも同意する。

 異界に潜った相手を攻撃する手段があれば良いんだけど……。


(あるけど?)


 なら教えて下さい、オグリオル様。お願いします。


(一つは次元ごと斬る方法。もう一つは刃を向こうの次元に潜り込ませる方法だな)

(説明が大雑把すぎる!?)

(次元ごと斬る方法は……ああ、今、レリオがやる方法だね)


 え?

 その言葉に振り向くと、レリオは剣を納刀し居合い斬りのように構える。

 居合い斬りと違うのは、鞘の中で高密度の魔力が渦巻いている所だ。


「《無限刃》!!」


 レリオは一つの魔力反応に向かって、居合い斬りの要領で斬りつける。とは言え、まだ対象とはかなり間合いが有り、剣が届く範囲ではない。

 だが、切っ先から迸る魔力が刃となって、魔力反応に襲いかかった。


「GUGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!」


 まるで水面から飛び出るように、アナザープレーン・シャークがその身を捩って空中に投げ出された。


「仙技《縮地》!」


 それを見たラグノートの反応は早かった。

 一瞬でのたうちまわるアナザープレーン・シャークの元へと躍り出ると、今度こそそのハンマーを深々と叩き込む。

 あの、瞬間移動がラグノートの《仙技》か……あの巨体でよくもあそこまで動けるものである。

 ラグノートの一撃がトドメとなり、空高く放り出されたアナザープレーン・シャークは、地面に落下し、数度バウンドした後で動かなくなった。

 その胴体には、内蔵全てを押し潰したような、巨大な陥没が刻み込まれていた。

 これであと、二匹。


(ああやれば良いんだよ)


 出来るか!

 オグリオル様の言葉に俺は頭の中でツッコむ。

 見ただけでやれる様な天才じゃ無いんだよ、俺は。


(もう一つの手段なら、今のレイジにも可能だよ?)


 それを早く言って欲しい。と言うかやり方を教えて欲しい。


(じゃあ、レイジはアナザープレーン・シャークの魔力反応に注力してて。後はこっちでやるから)


 やるからって……ちょっと?

 そう思った直後、俺の身体――というか《神の肉体》が勝手に動き出し、腰に据え付けられた二本の短剣を抜く。

 仕方ない。こっちはこっちで準備をしよう。


「レリオ、左手前のは俺がやるから、あと一匹注意してて」

「合点承知や!」


 合点承知って……まあ良いか。

 俺はこちらに近付いて来る魔力反応に注視する。

 この《神の肉体》の特性なのか、それとも魔力感知魔法の効果なのか、俺が意識を集中すると、アナザープレーン・シャークの気配を明確に捉える事が出来た。

 口では説明しづらいが、あのクソ鮫が潜む異界が何処なのか、感覚として分かり始める。


(そのまま捉えていてくれ)

(了解!)


 オグリオル様はそのまま俺の身体を操作する。

 俺の魔力が《神の肉体》に吸い上げられ、その魔力は両手に持つ短剣に流れ込む。

 短剣が光の刃を形成し、その刀身を伸ばす。今は両手剣くらいの長さまで伸びていた。

 そして、その剣を持つ両手が剣もろともブレた。

 まるで突然映像が不鮮明になったかのように、両手と剣が背景に透過していく。

 その部分だけが幽霊に戻った様にも見えるが、そうでは無い。両手と剣だけが、異界へと潜ったのを俺は感じた。


(レイジ!)

「応さッ!」


 オグリオル様の声を合図に、俺はアナザープレーン・シャークの元へと駆け出す。

 彼我の距離を一瞬で縮めると、俺は先ほどから捉え続けている魔力反応に向かってその両手の剣を突き出した。

 そのままクロスするように剣を振るい、一気に駆け抜ける。


「GUGEAAAAAAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOッ!」


 先ほどと同じようにアナザープレーン・シャークは異界からこちら側へと飛び出す。

 次にはその身を縦四分割にして、臓物と共にその身を辺りにぶちまけた。


「良し! 上手く行った!」

「レイジッ!」


 俺の自賛とアリィの焦燥が重なる。

 直後、俺の下半身にもう一匹のアナザープレーン・シャークが噛みついていた。



レイジ「なんで、ここでサメ?」


最近俺の周りにサメクラスタが増えてなぁ……作者はまだなんだけど……

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