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どうやら俺は魔国プレナウスの魔人達の力量を見誤った模様

「うわあああああああああああああああッ!」

「レイジッ!」


 俺の全身が炎に包まれる。

 だが、叫び声を上げてしまったのはそれが理由では無い。

 俺は今、炎に遅れて出現したモノに、高々と持ち上げられていた。

 それは巨大な顎たっだ。

 青い鱗に覆われた巨大な頭部が俺の視界を埋め尽くしている。

 その顎は、がっちりと俺の身体に食い込んでいた。


「ドラゴン!?」


 俺がそう確証するより早く、その顎の持ち主は、首を大きく振って、そのまま俺を地面に叩き付けた。


「ガッ!」


 俺の身体が数回バウンドし、ゴロゴロと地面を転がる。

 全身を震わす衝撃に思わず声が漏れる。

 それでも俺はすぐに体勢を立て直し、そのドラゴンを見据えた。


 大きい。


 その巨体は全長にして一〇〇メートルほど。

 出会った頃のリーフに匹敵する。

 って、まさか!?


「アーセナ……?」


 リーフが信じられないモノを見るような目をして、そう呟いた。

 知り合いか……って、マジかよッ!


始まりの竜プリミティブ・ドラゴン……アーセナ・ローシルト様!?」


 アリィが震える声で小さく呟く。

 やっぱりか!

 《獣魔王権ビースト・レガリア》の名は伊達ではなかったのだ。流石は《魔軍八将》の一人と言った所か。流石と言ってしまって良いのかは不明だが。

 別に始まりの竜プリミティブ・ドラゴンの能力が低いのではない。普段からリーフを見ているが、リーフの能力はあらゆる面において人間を大きく上回る。

 戦闘能力ではパーティ内随一を誇るラグノートですら、リーフとは比べものにならない。

 そんな存在の自己を崩壊させてでも支配してみせる《魔軍八将》。

 つくづく、化け物揃いと言えた。


 一番ショックを受けているのはリーフだろう。

 同族が魔人に支配されているという事実は、相当に衝撃的だったらしく、ブレードマンティスに対する攻撃が止まっていた。

 その隙を逃すような敵ではない。


「リーフッ!」


 リーフの背後からブレードマンティスが迫る。

 残った方の腕の刃でリーフの首をねようと、神速でもって斬りかかった。


「貴様ああああああッ! 何をしておるかッ!」


 リーフは腹の底から吼え、背後から迫る刃ごとブレードマンティスに裏拳を叩き込んだ。

 直撃を食らったブレードマンティスは、その一撃で粉々になって散弾の様に周囲の地面に突き刺さる。

 幸い、それに巻き込まれた者はいなかったが、もし巻き込まれていたらと考えたらゾッとするような光景が拡がっていた。


「あっさりと軍門に降りおって! それでも始まりの竜プリミティブ・ドラゴンの一柱かッ!」

「軍門!? 何を言っている。我は我が意思により《獣魔王権ビースト・レガリア》メイフィス様に仕えておるのだ」


 リーフの叱責に、《始まりの竜プリミティブ・ドラゴン》アーセナが静かに答える。

 その言葉に、リーフが再び言葉を失った。

 つまり、強制的に支配されているんじゃないと……?


「我は生涯メイフィス様に仕え、その傍を片時も離れないと固く誓っ…………ち……ちか……チカレリレレレレルレルレリレレリリリリリリィ……」


 あ、絶対に違うわ。

 呪い(カース)とか制約(ギアス)とか、そう言うヤツで無理矢理支配されてるわ。何か凄い痙攣してるし。今もアーセナは自己を取り戻そうと抵抗しているようだ。

 リーフがそんなアーセナを見て、少しだけ緊張を緩めた。

 気持ちは分かる。

 強制されているなら解除することも可能だろう。

 見たところ完全に支配はされていない。これならアーセナとやらを元に戻す可能性もありそうだ。

 まあ、現在の状況が好転している訳では無いし、今すぐに手立てがある訳でも無いが……。


「アーセナ……落ち着くのよぅ。今貴方がすることは、誰かと言葉を交わすことではないでしょう?」


 いつの間にかアーセナの頭部に飛び乗ったのか、《獣魔王権ビースト・レガリア》メイフィスがアーセナの頭を撫でて囁いた。

 途端にアーセナが大人しくなる。


「そうであったな……」


 そう言うとアーセナの胸の辺りがボコンと膨らむ。


「マズいッ!」


 リーフの声から次を予測した俺は、《神の肉体》を異空間にしまって、呪文の詠唱を開始する。多重詠唱でないと防ぐことが出来ないからだが、果たして五枚で足りるか……。

 一瞬の躊躇の後、リーフが駆け出すのを見た俺は、覚悟してそのまま詠唱を継続した。

 一瞬でも保てば後はリーフが何とかしてくれる!

 俺はそう信じた。


「「「「「【魔術師ボルドアソーサラー・ボルドアズの障壁(・マジックウォール)】」」」」」


 正面から受けるのでは無く、背後にいる仲間への被害を最小限とするため、左右に受け流すように逆Vの字に【障壁魔法】を展開する。当然、五枚重ねだ。

 アーセナが俺たちに向かって竜の吐息(ドラゴン・ブレス)を吐き出した! 視界が一瞬で炎一色に包まれる。

 直後、リーフがアーセナの顎を目掛け、下から砲弾の如き勢いで蹴り上げた。

 爆発したような音が炸裂する。

 見ればアーセナの首が跳ね上がっている。

 だが、音源はそこではなかった。

 僅か一秒に満たない竜の吐息(ドラゴン・ブレス)で五枚重ねの【障壁魔法】が全て吹き飛んだのだ!


「ガアッ!」

「くぅぅっ!」

「キャアッ!」

「ゴフアァ!」

「ぐうっ!」


 しかも、それで抑えきる事が出来ず、背後にいたレリオ達にまで被害が拡がっていた。

 辛うじてアリィの前に立つラグノートが大盾を構えて堪えているが、レリオ、スフィアス、ミディ、そして公爵が連れていた騎士が倒れていた。流石にセヴェンテスは大した怪我を負ってはいなかったが、何かを探すようにキョロキョロと首を振っていた。

 アリィとモモはラグノートの背後でお互い抱き合ってしゃがみ込んでいた。

 あの様子なら、大きなダメージはなさそうだ。

 流石はラグノート……あの人のスペックも大概なんだけどなぁ。

 公爵は配下の魔術師にしがみついてはいるが、これと言ったダメージは負っていない。魔術師が展開した【障壁魔法】が、ギリギリで公爵と魔術師を守ったらしい。

 被害は味方だけではない。今のブレスでドラゴン・ボーンゴーレムはレリオ達と同じように吹き飛ばされている。

 ワスプ・ゴーレムは上空に待避しているが、何匹かは巻き込まれていた。

 ブラッディエイプも地に伏している。その口からは血泡が溢れて…………ってアレ、ブレスの影響じゃないよね? まさか、ラグノート……アレをあっさり倒したの? アレを倒した上で、アリィの守りに戻ったの? スペック高すぎだろ!?

 モードレットの姿が見えない。セヴェンテスがキョロキョロしていた理由はそれか……。


 そして、俺が展開した【障壁魔法】の外側は酷い有様だった。

 地面が一部マグマの様に沸騰し泡立っている。

 それを見て俺はゾッとした。

 一部とは言え、僅か一秒程度、竜の吐息(ドラゴン・ブレス)に晒されただけで、この有様なのだ。

 リーフが後一秒遅れていたら、俺以外全滅していたかもしれない。

 というか、俺はさっきあんな高熱に晒されたのか……《神の武具》ってどんだけ丈夫なんだよ!?


 俺は異空間から再び《神の肉体》を取り出して憑依する。

 外気の感覚が俺に伝わる。

 それが、急に突風となって俺に叩き付けられた。

 辛うじて吹き飛ばされはしなかったが、それでも下手に身動きが取れない。今走り出せば、確実に転倒する。

 何とかして顔を上げると、始まりの竜プリミティブ・ドラゴンアーセナがその巨大な翼を羽ばたかせ、ワスプ・ゴーレムと共に上空へ昇っていく。

 その背後には《獣魔王権ビースト・レガリア》と《人形繰者ドール・オペレーター》、そしてモードレットが乗っているのが見えた。

 《人形繰者ドール・オペレーター》が召還呪文を唱えたのか、ヤツの周囲に魔法円マジック・サークルが光り、その光の中からドラゴン・ボーンゴーレムが姿を現す。


「逃げるのか!」

「逃げるわよぅ。当たり前じゃない。聖女にアイアン・ゴーレムを一撃で倒す天使、更には始まりの竜プリミティブ・ドラゴンの顎をカチ上げるような化け物までいるのよ? 元近衛騎士団団長の実力も噂以上みたいだし? これ以上無理をしたって良いことないわよぅ」

「今は退いてやる。だが憶えておけ。お前だけは絶対殺す。殺した後でその《神の肉体》を奪う。《人形繰者ドール・オペレーター》ラディルの名に賭けて、絶対にだ」


 《獣魔王権ビースト・レガリア》メイフィスと《人形繰者ドール・オペレーター》ラディルが、それぞれ俺を見て言った。

 どちらもその瞳に暗い念を浮かべて。


「逃がすか!」


 アイアン・ゴーレムにブレードマンティス、それにブラッディエイプを倒した今、例え始まりの竜プリミティブ・ドラゴンを召還されたとしてもこちらの方が有利なのだ。

 リーフの為にもあの始まりの竜プリミティブ・ドラゴンは正気に戻したい。

 なら今はかなりの好機と判断した俺は、二人の魔人にそう宣言すると上空へと飛び上がる。


「あらぁ? 私達を追いかけて良いの?」

「なんだと?」

「私が召還したのは始まりの竜プリミティブ・ドラゴンだけじゃないわよぅ?」


 え?


「公爵様! 私からお離れ下さい!」


 俺の疑問を吹き飛ばす様に、下から絶叫とも取れる声が上がる。

 慌てて下を向くと、公爵配下の魔術師が主である公爵を突き飛ばしていた。

 直後。

 魔術師の下半身が、何ものかによって食い千切られ消失した。


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