どうやら俺は神の肉体の性能に驚愕する模様
いや、ホントにびびった。
心臓があったら動悸が止まらないところだった。
人間を押し潰す程の鉄塊が向かってくる恐怖なんて、生きている間に経験なんか…………いや、あったわ。
そのとき死んだけど。
それもあって、流石に受け止めるとかは無理だった。
(力負けしないって言ったのになぁ……)
(へたれですね)
創造神様二柱が酷いな。
色々化け物呼ばわりされてるけど、基本的に平和な世界で生きてた人間なんだよ?
肉体を得た後の感覚が久しぶりで、妙に身の危険を感じてしまったのも確かだけど。
でも、まさか《神の肉体》を別の次元――異空間に収納できるとは思わなかったな。
そう。
今のは回避したり透明になったのではなく、一旦《神の肉体》への憑依を解いて、別の次元に収納したのだ。
飛んできた鉄拳が直撃するまさにその時、オグリオル様から《神の肉体》が異空間に収納出来ることを聞き、俺はすぐに《神の肉体》を収納した。
只の幽霊に戻った俺の身体を、鉄拳が直撃したので、《人形繰者》ラディルは俺を倒したと思ったのだろう。
後はいつも通り、一旦姿を消してから、再度《神の肉体》を異空間から取り出して憑依したのだ。
(便利だろう?)
便利です。
何でこんな機能が付いてるのかは聞かないでおいてあげます。
どうせ、寝室に忍び込んだりするために必要だったとかだろうし。
(ゲフゲフンッ…………いだっ! いだだだだっ! セレステリア! それ痛いッ!)
……マジかよ。
本当にそんな理由で付けた機能なのか。
知りたくなかった。
っと、もたもたしている暇はなかった。
まずはアイアン・ゴーレムを倒さないと……。
そう考えた直後、地面にめり込んでいたアイアン・ゴーレムの鉄拳がモゾリと動き出す。
「おっと、そう簡単に返すと思うなよッ!」
俺は軽く飛び上がり、大きく脚を振りかぶった。
そのまま鉄拳に踵を叩き付けた。
ボメギャンッ!
金属が歪に歪んだ音が響き、アイアン・ゴーレムの鉄拳が地面に再度突き刺さる。
内部から溶けた鉄が溢れ、周囲の草花が火を放つ。
鉄拳を足蹴にした俺はそのまま、両腕を失ったアイアン・ゴーレムに向かって飛翔する。
「って、この状態でも飛べるのか!?」
(体内で【飛翔魔法】を構築してるからな)
なんと! 魔法を詠唱無しに使えるのかよ!
俺はオグリオル様の言葉に、本気で驚く。
ズルイ気もするが、幽霊の時と同じように飛べるのは有り難い。
ただし、魔力の消費もそれなりに高いけど……。
「強くなったつもりかって聞いたよな!? 強いかどうか、今から試してやるよ!」
俺はそう叫ぶと、アイアン・ゴーレムの頭頂に思いっきり正拳を叩き付けた。
ゴキゴキゴギンッ! ゴメシャアアアアッ!!
正拳が直撃し、アイアン・ゴーレムの頭部がその胴体にめり込んだ。
全身がひび割れ、裂け目から溶けた鉄が溢れ出し、周囲に飛び散る。
「【魔術師ショットの氷の槍】!!」
俺は高速で魔法を構築すると、アイアン・ゴーレムに向かって解き放つ。
ビキキキッ! と音を立て、一部ひび割れながらアイアン・ゴーレムは氷の柱と化した。
溶けた鉄は即凍結とは行かなかったが、それでも赤々と燃えていたのが嘘の様に黒ずんでいる。多重詠唱したら完全凍結出来たかもな。
《神の肉体》に憑依している今は、口があることを意識してしまう為か、同時発声が出来ず、故に多重詠唱が出来ない。
……慣れれば出来るんだろうけど一長一短だな。
「馬鹿なッ! 認められるものかッ!」
そう叫びながらラディルが《氷の槍》から逃れるため大きく飛びすさる。
メイフィスも呪文の詠唱を続けながら同様に距離を空けた。呪文の完成が近いのか急激に魔力が上昇していく。
「レイジ! 《獣魔王権》を止めよ!」
リーフが何か気付いたのか、ブレードマンティスを蹴り上げながら、俺に向かって叫ぶ。
ブレードマンティスは片腕を犠牲にしながらも、ギリギリで致命傷は免れていた。ゴーレムとは思えない機敏さである。いや、ブレードマンティスにあれほどの戦闘能力を与えた《人形繰者》が化け物なのだろう。
「何かマズいのかッ!」
「あれは召還呪文じゃ!」
「召喚呪文? 異世界とか魔界から何かを呼び出すアレ?」
「違う! 召喚ではなく召還じゃ!」
いや、同じにしか聞こえないんですけど?
「自らの眷属を己が元へと召還する呪文じゃ! 《獣魔王権》の召還呪文ともなれば、どれ程の眷属が現れるか分からんぞ!」
「もう遅いわよぅ」
リーフの焦りを知ってか、《獣魔王権》が嗤う。
途方も無く巨大な魔法円が《獣魔王権》の目前に……いや、俺の足下に展開する。
その大きさは直径五〇メートルをに達そうかと言うほど……って、五〇!?
グゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
直後、魔法円の中心から巨大な火柱があがり、俺を包み込んだ。