どうやら俺は不名誉なレッテルを貼られる模様
うあ。
なんつう叫び声だよ!?
鼓膜がどうにかなるかと思った……って、《神の肉体》って鼓膜あるのかなぁ?
などと現実逃避気味の思考に浸りかかるが、ある一言が瞬く間に俺を現実に引き戻す。
「どうしました!? レイ…………ジ?」
よりにもよって、このタイミングでアリィ達が到着したのだ。
角度的には、大股開きの俺が、股間を女性の顔に押し付けている様にしか見えない位置からのご登場である。
空気が凍り付くのを俺ははっきりと知覚した。
俺の【氷の槍】より広い範囲で凍結してんじゃねぇかな?
「レイジ!! 何してるんですかーーーーーーーーーーーーッ!?」
「いや、誤解だ! 別にやましいことをしてた訳じゃ無い!」
「なら隠したらどうですか!?」
もっともな意見である。
言われて俺は脚を下ろし両手で股間を隠す。
混乱しすぎて、すっかり隠すという手段を忘れていた。
当然のことながら、俺に露出狂の性癖があるのではない。本当だ。
ただ、今はまだ着ぐるみにアレが付いているような感覚で、自分が全裸という意識が薄いのだ。だから、出しっぱなしでも気にならなかったのだが……周囲からするとそんな俺の心情を図れる筈も無い。
アリィは文句を言いながらも、直接こっちは見ない。
いや、こっちを見ようとして、時々チラチラ視線を向けようとするのだが、恥ずかしいのかこっちを見られないと言った状態だ。
ミディは両手で顔を覆っているが、目は隠せてない。指の隙間が全開だった。
というか、それ、ガッツリ見てるから。あと、鼻血でてるから。
冷静さを装いつつ、完全に視線を逸らしているのはスフィアスだ。俺に視線を向けないようにしつつ、《魔軍八将》の動向からは目を逸らさない様にしている。器用な人だ。
モモは、驚いた様に見てはいるが、それが何なのか分かっていないようにも見える。
ゲラゲラ笑っているのはリーフ、そしてレリオだった。
リーフなんか、ひっくり返って腹を抱え、脚をばたつかせている。
レリオは涙目になって笑っていた。
ラグノートだけはその空気に飲まれまいと、敵を見据え武器を構えた。流石である。ちょっと頬がひくついてるけど。
その他の連中は、目の前で矢継ぎ早に起こる超展開に、着いて行けずに呆けていた。
リルドリア公爵達の思考が止まるのも、致し方ない。
リルドリア公爵はノーマッドにしがみついたまま、瞬きもせずに俺の方を見ている。
夢でも見ているのかと言う感情が丸出しだ。
公爵しがみつかれた魔術師にしても同様で、バクバクと口を開閉するが、言葉が出て来ない。
俺とリーフが助けた騎士も、右に倣うかのように同じ反応を見せた。
まあ、そうだよな。
直前まで大虐殺劇が展開していたのに、一瞬で頭の悪いラノベみたいな展開になったら、誰だってそうなる。
俺も当事者じゃなかったら、そうしたい。
そして……最も意外な反応を示したのは、《獣魔王権》と呼ばれた目の前の女性だった。
ていうか、お前が一番乙女な反応すんのかよッ! 外見だけならSM女王様か何かだろうにッ!
完全に半泣きになり、目の前でへたり込んだまま怯えた表情で俺を見上げていた。
予想外のその姿に、俺の中に罪悪感がムクムクと膨らんでいく。
勘違いする諸兄が居そうなので、もう一度言う。膨らんでいるのは罪悪感である。
決して性的欲求でも無ければ身体の一部分でもない。
この《神の肉体》にそんな機能は無いし、何より幽霊である俺にそんなものは無いのだ。
…………本当だ。
「あれ? 良く俺が《神の肉体》に憑依しているって分かったな?」
《神の肉体》は美しい彫刻の様な顔をしており、俺とは似ても似つかない。
なのに、なんで見ただけで《神の肉体》に憑依しているのが俺だって分かったんだ?
「ぷひッ…………いや、だってレイジ……ぷぷッ……顔がレイジの顔になってるで?」
レリオが涙目を拭いながらそう言った。
「え? マジで?」
「レイジは時々何を言ってるか分からんけど、今のは何となく分かったわ……因みに本当やで?」
マジかよッ!
今まで俺は中世の彫刻みたいな着ぐるみを着ているイメージだったんだけど……もしかして憑依した存在に最も馴染みのある顔とかに変化するの?
(あ、言い忘れてた)
ちょっと!? オグリオル様!?
そういうのは早く言ってよ!?
つまり俺は、俺の外見のまま全裸でブラブラしたモノを、似非ビッチ臭漂うお姉ちゃんの眼前に突きつけてたってこと!? 絵面の変態度が急上昇したよ!?
やべぇ……急に恥ずかしくなってきた……。いたたまれねぇ……。
「《獣魔王権》!」
その異質な空気を、《人形繰者》の怒声と、爆発音にも似た巨大な轟音が打ち砕く。
《人形繰者》の脇に立つアイアン・ゴーレムが、その巨大な腕を振りかぶり、俺に向かって放ったのだ。腕は肘関節から外れ、前腕部分が飛来する。
「ちょっ……ロケット・パンチかよ!」
思わずそう叫んだ俺は、ギリギリでその拳を躱す。
背後に誰もいないことは確認していたので、回避したが、受け止めた方が良かっただろうか?
いや、そもそも、この《神の肉体》で受け止められるのか?
(易々と壊れるモノではないがね。ただ質量差があるので、今のままでは難しいかな?)
……受け止めなくて正解か。
って、待てよ? 今のままではって言ったか?
「レイジッ! 《獣魔王権》がッ!」
リーフの叫び声に、俺は自身の目的を思い出し《獣魔王権》を見ると、平静さを取り戻した《獣魔王権》が俺から素早く距離を取るのが見えた。自身を細い両腕で抱くようにして撤退するその姿は、性犯罪者から逃げる被害者のそれであった。
…………俺――というか《神の肉体》を全裸にしたのはお前らだろうに……解せぬ。
って、俺、何か忘れてないか?
………………。
しまった! 《支配の鞭》を奪うのを忘れてた!
元々その為に接近したと言うのに……俺は馬鹿か……。
今の無駄で無意味なな時間は、敵には大いに意味があった。再度、態勢を整えるには充分だったようだ。
【障壁魔法】が破られた今、上空に向かっていた蜂の群れが急降下してくる。
それだけじゃ無い。
紅い毛を持つ巨大な猿に、二体の銀色のスケルトン。それにカマキリ怪人とでも言うべき外見の怪物が戦闘態勢を整え向かってきた。
唯一、先ほどの猿より二回りは大きな白猿――恐らくはアレが霊獣だろう――だけは《獣魔王権》を守るように後方にて身構えている。
前に出て来ないのはありがたいが、そもそも蜂の群れだけで戦力差は圧倒的なのだ。空をバラバラに飛び回る相手を魔法で吹き飛ばすとなると、必然的に地上にいる人間を全員巻き込んでしまう。
その上、凍結しているブロブ・ゴーレムまで復活したら流石にこちらの勝ちの目が見えなくなる。
っと、そうだ!
「アリィッ! その氷塊は《ブロブ・ゴーレム》だ!」
「分かりました!」
アリィはそれだけで俺の言わんとしていることを理解し、呪文詠唱に入る。
「【神の御力によって水の恵みに浄性を授けん】」
あれ?
あの魔法って旅の道中で何度か聞いたことがあるんだけど……攻撃魔法とかじゃなかったような??
俺の疑問を余所に、アリィは詠唱を続けた。
「【我が主セレステリアよ、命を支えし一滴に神の祝福を与え給え】」
え? その魔法でブロブ・ゴーレムを倒すの?
攻撃魔法とか、破邪魔法とかじゃなくて?
「【水浄化の祝福】」
アリィが唱えたのは水の浄化魔法だった。
旅先で新鮮な水が手に入らない時に、アリィが何度が使っていた魔法。
言うなれば、《泥水すら真水に変える魔法》なんだけど……。
バシャッ!
それまで凍結していたブロブ・ゴーレムは、アリィの魔法であっさりと融解する。
そしてそのまま只の水となって地面に染み込んでいった。
って、嘘おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!?
そんな方法で倒せるの? 倒せちゃうモノなの?
第二階位の神聖魔法で!?
(だから言ったでしょう。《聖女》の名は伊達ではないと)
ドヤ顔が想像できそうな声で、セレステリア様がそう言った。
いや、確かにあれが出来るなら、アリィが適任だわ。つうか、魔術的要素すら浄化するとは思わなかったぞ?
(魔術的な毒を浄化出来ねば、《聖女》たる資格はないからな。ベースが水であるなら、例えゴーレム化されていても彼女は浄化してみせるさ)
続いたオグリオル様の言葉に、俺は『そう言われては、確かに』と頷くしかない。
……に、しても……あんな手段でご自慢のゴーレムを破壊された方は堪ったものじゃないだろう。
そう思ってチラリと《人形繰者》の方を見ると、ヤツにとっても想定外だったのか、目玉がこぼれ落ちるんじゃないかと言うくらい、目を剥いていた。
その顔が、次第に怒りへと変貌する。
「ふ、ふ、ふふふふふ巫山戯るなッ! そんな低レベルの魔法で俺のとっておきを破壊したって言うのかッ!」
《人形繰者》はアリィを指さして激昂する。
その動きに呼応するように、ゴーレム達が一斉にアリィに向かった。
遅れて紅い猿も追随する。
(因みに紅い猿はブラッディエイプ。蜂状のものはワスプ・ゴーレム。レイジの言うカマキリ怪人はブレードマンティスで、スケルトンに似たアレは、ドラゴン・ボーンゴーレムですね)
いや、セレステリア様。こんなタイミングでそんな解説しなくても……。
(敵対する個体の情報を正しく認識するのは、戦闘で最も重要な事だと思うのですが?)
名前だけ教えられても意味が無いかと思いますが?
(ええ、本当に必要な情報は、こちらです)
「ぶはッ!」
いきなり俺の頭の中に、ブラッディエイプ、ワスプ・ゴーレム、それにブレードマンティスとドラゴン・ボーンゴーレム、更にはアイアン・ゴーレムと先ほどアリィが倒したブロブ・ゴーレムの詳細情報が流れ込んで来る。
俺は突然渡された膨大な情報量に、一瞬だけ意識が飛びそうな感覚に陥った。
(どうです? これなら充分役に立つかと……)
いや、確かに役に立ちますが……って、まあありがたく貰っておきます。
つうかブロブ・ゴーレムってこんなに厄介なのか……魔法が使えないと対抗しようがないじゃないか。
でも次はもう少しタイミングってやつを考えて欲しい。
(創造神に対して手厳しいですね)
いや、膨大な情報量を前に、意識が途切れるかと思ったよ?
お陰で完全に出遅れた。
もっとも、俺が多少出遅れた程度では《聖女一行》は小揺るぎもしなかった……。
大量のワスプ・ゴーレムの前に立ちはだかったのは、何とミディとスフィアスの姉妹だった。
いや、大きさも蜂と変わらない相手に剣で立ち向かうのって無謀じゃないの?
そう俺は思ったが、二人はさも当然の様に左右非対称に剣を構える。
「「星霜陣・万雷流星!!」」
二人が呼吸を合わせ、そう叫ぶと、二人の周囲に無数の星が瞬く。
それら一つ一つが剣の煌めきと気付くのに、俺はしばしの時間を要した。
って、嘘!
ミディってそんなに強かったの!?
二人の剣戟は、ワスプ・ゴーレムの群れを呑み込み、僅かな時間でその数を半減させる。
いや、ざっと見たところ数百では効かない数のワスプ・ゴーレムが、その身を砕かれ、破片となって散っていった。
残りのワスプ・ゴーレムも脅威を感じたのか突撃を中止し、上空へと逃れる。
いやいやいや。僅か数秒で何連撃を放ったんだよ!?
さっき貰った情報が正しければ、ワスプ・ゴーレムって千匹からなる群体なんだよ?
(創造神の情報ですからね。間違ってませんよ)
分かってますよ、そんなことは!
ただ、千匹もの相手を一瞬で半減とか、人間業じゃないだろ?
魔力を感じたので、何か魔法との併用かとも思ったが、呪文詠唱も無かったし……。
(あれは《仙技》に分類される剣技だな)
せんぎ?
確かラグノートもそんな技が使えるとか言っていたけど、そもそも《仙技》ってのは何なの?
(極一部の戦士や騎士が、長い修練の果てに到達する領域の技をそう呼ぶのさ。流石は聖女の護衛に選ばれることはあるね。勿論、誰にでも習得出来るようなものではないよ?)
うわぁ……マジかぁ……俺は今までミディのことを只のポンコツ聖騎士なんだと思ってたよ……いや、見誤ってた。
後で謝っとくべきかなぁ?
(いや、それも失礼でしょう? 本人を前にポンコツだと思ってましたとか言うつもりですか?)
ですよねぇ……。
「レイジ! ブラブラしてるなら戦列に加わってえな!」
そんな俺にレリオが叫ぶ。
いや、確かに一部がブラブラしてますけど!?
というか、このまま戦列に加われってか!?
全裸で!?
何か着替えとか無いの!?
(《神の武具》を身に纏えば、鎧で全身を覆い尽くせまるぞ?)
そんな方法があるなら早く教えてよッ! オグリオル様ッ!
っていうか、どうやるの、それ!?
(まず、腹部と右手に魔力を集中して……)
こ、こうか?
俺は言われるままに魔力を高める。
(お腹はもう少し下……おへその下辺りに……)
言われて俺は少しだけ腹部の魔力を調節する。
(今から送るイメージを溜めた魔力で形作るんだ)
俺は言われるままに送られたイメージを具現化しようと試みる。
……って、これって?
(今だ! その魔力を解き放て!)
俺は誘導されるように魔力を解き放った。
右手と腹部からストロボのフラッシュの如き光が溢れる。
光が消えた後、俺の手に合ったのは鍵。
そして俺の腰にあったのは……。
「変身ベルト!?」
そう。
それは俺が元いた世界でよく見かけた、テレビのヒーローが身につけていたベルトに酷似していた。
問題は………………。
まだ全裸なんですけど!?
全裸に変身ベルトって、完全に変態じゃねーかッ!!
この世界の創造神様はそんなに俺に変態のレッテルを貼りたいのか!?
レイジ:「って、幾らなんでも変態過ぎませんかね!?」
なにが?
レイジ:「だから! 全裸に変身ベルトってかんっぜんに通報案件ですよね?」
レイジなので仕方ない
レイジ:「ですよねぇーーーーーーって、ちょっと! ほぼ三ヶ月ぶりの更新なんですよ!? これで良いのかよ!?」
タグにも《全裸に変身ベルト》って入れちゃったし……
レイジ:「え!? って、本当だ………………って、止めろよおおおおおおおおおおおおッ!」