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どうやら俺はヒーローのつもりだったが怪獣大決戦の模様

前回の登場人物


向日島レイジ:本編の主人公。生前は食べることが数少ない楽しみだったが、現在それも不可能になったので浮遊することに楽しみを見いだした。


アルリアード・セレト・レフォンテリア:通称アリィ。当代の《聖女》。勿論浄化できるのはアンデッドだけじゃありません。空気も水も食料も浄化できます。


ミディリス・ナスナ・フィルディリア:通称ミディ。アリィに仕える騎士の一人。実は祝福を受けたレイジに嫉妬している模様。


レリオード・ナスガ・クルツェンバルク:通称レリオ。アリィに仕える騎士の一人。なんかレイジと気が合いつつあるが……。


ラグノート・ナスガ・ブランディオル:アリィに仕える騎士の一人で隊長格…………のはず。


ドラゴンゾンビ:死霊術師ヴィルナガンの刺客と思われるドラゴン。何故かレイジの挑発にのる。


 さて、向こうの治療やらが終わるまで、ドラゴンゾンビの相手をするとしよう。

 一応、ドラゴンゾンビの攻撃を躱すように浮遊……というか、飛翔してみる。

 大分慣れたのか、自分でも驚くほどの速度で飛翔できるようになった。


「GOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!」

「ふはははははッ! 貴様のスピードはそんなものかッ!」


 完全に、バトル漫画のノリである。

 いや……つい…………自在に飛べるようになって、ちょっと調子に乗ってる自覚はある。

 いや、飛べるってのがこんなに楽しいとは思わなかった。

 こんな状況で不謹慎と思いながらも、飛べる事を楽しむ余裕のある自分に驚く。


 多分だが、死んでるが故に痛い目を見ることが無いからだろう。

 でなければ、俺みたいな臆病者にこんな真似が出来るはずが無いではないか。

 精神構造まで死霊化している訳ではないぞ……多分……。


 ただ、このままではお互いに決定打が欠けているため、単なる時間稼ぎにしかなっていない。

 最終的にはアリィの魔法頼みになるとは思うが、それでも無為に時間を過ごすのも頂けない。

 となれば、今俺に出来ること――エナジードレインと憑依を試すとしよう。

 実のところ、これら能力については可能性を示唆されていただけで、本当にそんな能力が備わっているのか分かっていない。

 それ以前にアンデッドに効果があるかも不明なのだが、それも含めて検証することにした。

 まずは接触を試みるべく、俺はドラゴンゾンビの首元に飛びついた。


 バチンッ!


「なんだ!?」


 ドラゴンゾンビの内部に入り込むつもりだった俺の手に、何かが触れて弾き飛ばされた。

 ドラゴンゾンビの肉体じゃない。

 その肉体の表面を覆うように付着する目に見えない《何か》に俺の手が触れ、それに弾かれたのだ。

 まるで魔力のような……いや、間違い無く魔力で出来た《何か》だ。


「なんだこれ?」


 ドラゴンゾンビとの鬼ごっこをしながら何度か触れてみると、その《何か》はドラゴンゾンビの動きに合わせて脈動していた。

 言うなればドラゴンゾンビに巻き付く、《魔力で出来た筋肉》……若しくは《魔力で造られた大量の糸》。

 どうやらこれが、ドラゴンゾンビの肉体を無理矢理操っている力の源であり、アンデッドを使役するためのマリオネットの糸らしい。

 糸と言うには大きすぎるので縄に例えたいが、そうすると何故か違うものに見えてくるので敢えて糸……《魔力糸》と表現することにする。

 縄って何か、いやらしくて……。


 その《魔力糸》に触れると逆に俺を取り込むかのように絡みついてくるが、先ほどと同じく静電気が発生したように、バチッと音がして弾かれる。

 お陰で取り込まれる事はないのだが、同時にこちらの憑依も、ことごとくが失敗に終わる。

 ドラゴンをアンデッドとして使役するほどの巨大な魔力の塊……この膨大な魔力がヴィルナガンとやらの力なのだろうか。

 確か、『この世でもっとも力をつけた死霊術師』とかってレリオが言ってたっけ?

 流石に死霊になって数時間程度でしかない新米の俺が、ドラゴンゾンビの支配権を横取りして憑依出来るような代物では無いようだ。

 寧ろ取り込まれていないだけマシと言える。

 かといってこのまま手をこまねいているのも性に合わない。


「相手と身体の大きさも魔力の規模も違いすぎるんだよな……」


 全長百メートルものドラゴンゾンビを支配するほどの巨大な魔力に対し、俺が発する魔力が小さすぎる……正確には魔力の出口が小さすぎた。

 人間が滝に手を突っ込んでも滝全体の流れを変えられないのと同じだ。

 この膨大な魔力の塊をどうにかしないと、ドラゴンゾンビに取り憑くなど出来ないだろう。


「せめて身体の大きさが同程度なら………………あれ? 待てよ? 俺、身体の大きさを変えられるじゃん! 同サイズになれば干渉できるんじゃないか!?」


 早速俺は身体の中心にある魔力を操作し、その魔力渦まりょくかを高速で回転させる。

 全身に魔力が満ちるのを感じると、そのまま自身の巨大化をイメージする。

 子供の頃みた、巨大ヒーローの様なイメージを増幅させると、あっという間に俺はドラゴンゾンビに組み付ける程に身体を巨大化した。

 思わず右腕を高々と上げてポーズまで取ってしまった。


 …………気持ちいい~~~~~~~~~……はッ! 違う違うッ!

 一瞬我を忘れかかったが、突撃してきたドラゴンゾンビを前に、我に返った。

 肉体があったら、大ダメージ負ってたわ……。

 折角向こうから接触しようとしてきたので、そのままドラゴンゾンビの背後から組み付く。


 バチバチバチッ!


 けたたましい音を立て俺は《魔力糸》を鷲掴みにする。

 かなり力業ではあるが、今度は弾かれることなくドラゴンゾンビに組み付く事ができた。。


「GAAAAAAAAAAAAAAッ!」


 ここに至って、今まで攻勢一方だったドラゴンゾンビが初めて俺から逃げようと身を捩った。

 一見、俺がドラゴンを掴んでいるように見えるが、実際は自身の魔力でドラゴンゾンビを支配する魔力に干渉しているだけだ。それは先ほどまでと変わらない。

 だが身体を巨大化することで、放出できる魔力量が増え、弾かれる事も無く《魔力糸》に干渉できるようになったため、《掴む》というイメージでもって触れる事ができた。


「GOGOAAAAAGAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!」


 ドラゴンゾンビが悲鳴の様な咆哮を上げのたうちまわる。

 俺は組み付いたまま振り回されるが、俺は手を離さない。

 そもそも地面などにぶつかって、うっかり手を離すということがないので引き剥がされることもない。

 かといって、このまま暴れられてアリィ達の元に転がられても困るが…………。

 俺はドラゴンゾンビを吊り上げるようイメージして、アリィ達の方へ近付かないように引き摺り倒そうとする。


「そっち……行くんじゃ……ねえよッ!」


 抵抗し、暴れ回るドラゴンゾンビを押さえ込もうと、俺も渾身の《魔力》でもって《魔力糸》を引きちぎろうとする。

 もしかしたら、この魔力をどうにか解除することでアンデッドの動きを止める事が出来るかも知れない。

 そう思っての行動だったがどうやら正解だったようだ。


 ミチィッ! バチバチバチバチッ!


 感電のような音が響き、右手で掴んでいた魔力糸が一部、ボロボロと崩れ去始める。このまま上手く行けば右腕くらいなら制御を奪えるかもしれない。

 まさか…………これがエナジードレインッ!


 ………………多分、絶対に違う。

 吸い取った感覚無いし。


 実のところ、先ほどからエナジードレインを試しているのだが、根本的に手段が間違っているのか、それともアンデッドには効果が無いのか、そもそも俺には出来ないのか期待した効果を得られていない。

 エナジードレインの原理が分からないと、やっぱり難しいか…………。


「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!」


 ドラゴンゾンビは今までに無い絶叫を上げ、俺を振りほどこうと暴れる。

 当然のことながら俺を引き剥がすことはできないが、その度に毒をまき散らすものだから、周囲の畑が次第に毒の沼地となりつつある。


 ブバチィッ!!


「GUGYOAGAGAGAGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!!」


 今までより一層大きな音がした直後、ドラゴンゾンビの右腕の《魔力糸》を全て引きちぎることに成功する。

 耳をつんざくような絶叫の後、ドラゴンゾンビの右腕がダラリと下がる。

 おしッ!

 これを何回か繰り返せば……って、右腕だけでどれ程の時間と魔力がかかった?


 魔力の上限はいまいち良く分からないが、そこそこには減ってるだろうと思われた。

 パラメータが見えたり鑑定魔法が使えたりする訳ではないので、本当に何となくそう感じただけだ……分かる方法があれば良いのに……。


 いずれにせよ……なるべく早くドラゴンゾンビを動けなくなるようにしないと長期戦は不利になるかもしれない……何かもっと効率の良い方法は……。


 …………もしや……。


 俺はふと思いついてドラゴンゾンビの右腕に俺の右腕を重ね同調を試みる。

 力なく垂れ下がっているだけだった右腕がビクンと跳ねた。


「おおっ! 上手く行きそうだ!」


 俺はゆっくり右手を握ると、それに合わせてドラゴンゾンビの右手も握り拳をつくった。

 なるほど。憑依とはこういう感覚か。

 自身の右腕がドラゴンゾンビの右腕と一体化し、溶け合うような感覚。


 いや、そんな生易しいものではない。

 これは……浸食。他人の肉体の一部を力尽くで自分のものにしていくような感じ。

 精神による領土侵犯。

 確かにこれは生きた人間がやられたら精神がおかしくなるわ。


「GUGYAGUGYAGAAAAAAAAAAッ!」

「そう嫌がるなよ……折角なんだからアンデッド同士、仲良くやろう……ぜッ!」


 そう言うと俺は浸食したまま、他の部位の《魔力糸》を引き剥がしにかかる。

 ジワジワとドラゴンゾンビへの支配が強まり、先ほどに比べて遙かに押さえ込み易くなっていく。

 これならあと少しで完全に押さえ込む事が出来そうだ。

 後はアリィ達の治療が終われば……。


 そう思ってアリィ達の方を振り向くと……全員俺を見たまま時間が停止したように固まっていた。

 治療が終わったのかどうかも定かではないが、全員が全員、俺を見て硬直している。

 その目には驚愕と畏怖が明確に感じられた。

 こ……これは……?


 ………………………………やっちまったぁぁぁーーーーーーーーーーッ!!


 そう。

 俺は今まで、巨大ヒーローになったつもりで戦っていた。

 だが、そう思っていたのは俺だけで、周囲から見たら完全に大怪獣バトルの方だったのだ。

 まあ、この世界にウル○ラ○ンはいないだろうしね……ヒーローに思われなくても仕方ないね。

 しかし今の俺を第三者視点で見ると、もしかして……。


 【問題】全長百メートルの怪物と組み合う巨大な死霊。どっちが人類にとって危険ですか?

 【答え】どっちも危険


 DEATH(デス)ヨネー。

 ヤバい。どうしよう?

 彼らに信用して貰うはずが、完全に逆効果になってしまった。

 良いアイデアが思いつかない……ど、どうしたら良い? どどどどどうしよう……ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる……………………はッ! そうだッ! アレだッ! アレしか無いッ!


「アリィッ!!」

「は、はいッ!」

「俺がコイツを押さえ込んでいる間に魔法を……俺ごと魔法で撃てぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」


 そうッ!

 俺の屍を越えていけ――既に屍だけど――作戦ッ!

 大丈夫ッ!

 きっと痛いだけだッ!


 ………………万が一消滅したらどうしよう……。


ラグノート:「…………」

レリオ:「団長、どうしたん?」

ラグノート:「…………「元」団長……だろう?」

レリオ:「いや、そんな事より、なんかエラい元気ないやん?」

ラグノート:「…………なかった……」

レリオ:「はい?」

ラグノート:「ついに出番がなかった……」

レリオ:「はッ! いや、別に作者も忘れとる訳やないから、だから後書きにおるんやし?」

ラグノート:「そうか?」

レリオ:「だからほら、元気だして次回予告せんと……」

ラグノート:「そ、そうだな。では気を取り直して……」

ミディ:「次回『どうやら異世界転生したはずが死んでる模様』第八話『どうやら俺はアリィ達に大きく誤解される模様』」

レリオ:「ちょっ! ミディちゃん!? ああっ! ほらっ! 団長が益々落ち込んでるやん!?」

ミディ:「気付かないのか、レリオ?」

レリオ:「何が?」

ミディ:「我々の出番もなかったことに……」

レリオ:「はうあッ!」


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