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どうやら俺は転生出来なかった場合、引き籠もるしかない模様


「それで……レイジは何か感じますか?」

「確かに森の中心部に強い魔力を幾つか感じるけど、それ以外はもっと色々やってみないと、何とも……」

「セヴェンテス様の方は?」

『眷属達からは遺跡入り口付近を除けば、人の姿は見えないそうだ』

「一体、リルドリア公爵は何処へ?」

『ただ、人間の臭いは眷属達も感じ取っているようだ』


 俺とアリィ、そしてセヴェンテスは《白き風の森》の外周部にいた。

 セヴェンテスが言うには、もう一体の霊獣であるファオリアがラグノート達と共にこちらに向かっているとのことだったので、まずは合流することにしたのだ。

 先に進む案もあったのだが、セヴェンテスの忠告があり断言した。

 何でも、《魔国プレナウス》の魔人達は相当にヤバいらしく、俺たちだけで踏み込むのは危険だと言うのだ。

 そう言った理由もあって、今は森の外周部から様子を確認するに留まっている。


「まあ、ラグノート達やリーフがいた方が、危険は減るか。特にリーフは人間の基準から見たら確実に規格外だしな」


 そんな俺を何故かアリィとセヴェンテスが呆れた様な目で見ているが、今は問いただすまい。それより、合流までの間にできうる限りの情報収集に努めるのが先決だ。

 アリィが精霊達を森の各地に放ち、俺は【熱源探査】魔法を使って森全体の様子を探る。セヴェンテスは眷属達と《念話》にて連絡を取っていた。


「念話って便利だな……後でやり方を教えてくれないかな?」

『無理だな』

「なんで?」


 すげなく返され、俺は僅かばかりの哀しさを覚えてしまった。

 第一印象が最悪なのは分かっちゃいるが、それが理由だろうか。

 まあ、いきなり縛っちまったのは俺なので、仕方ない話ではあるのだが……。


「いきなり縛ったのは悪かった……が、さわりくらいは教えてくれないか?」

『……私が根に持ってると思っていたのか? そんな心根の狭い話はしていない。単に私達の念話は魔術的なそれとは異なるというだけの話だ」


 おっと。気を遣ったつもりが逆に期限を悪くさせてしまったようだ。

 言葉の端々から感じた棘が、少しばかり鋭さを増したように感じる。

 俺が次の言葉に詰まっていると、セヴェンテスは少しばかり荒い息を鼻から出す。

 少しの間を空けると、セヴェンテスは会話を続けた。


『これは魂の絆の証であり、誰に対しても使えるものとは異なるのだ。私と眷属、そして他の霊獣たちとは家族の絆以上の関係で結ばれている。その繋がりを通して、お互いの心を見せ合っているのだ』

「なるほど。特定の相手にしか使えないってことか……」


 残念。その類いの力となると、魔力でどうこう出来るものじゃなさそうだ。

 これ以上、念話について質問しても時間の無駄と判断した俺は、森の中央に視線を向けた。


「――ん?」

「レイジ? どうしましたか?」

「なんだろ? ヤケに温度が高いものがあるな?」


 サーモグラフィーの様に俺の目に映る映像は、森全体に赤やオレンジの熱源を捕らえている。

 だが、森の中央にある一際大きな熱源は、真っ白に輝いていた。

 周囲と比較しても相当に大きな個体が、生物を遙かに超えた熱量を放っている。

 俺がこの世界について得ている知識では、個体の特定が難しい。あれほど大きな熱源となると、は粘度の高い溶岩とかの自然現象と言った方が、しっくりくる。


「高い温度……ですか?」

「ああ、何かは分からないけど、生物の温度じゃなさそうだ。それにやけに大きい」


 一応、目に魔力を流し込み、その熱源まで視界が通るか試したが、森の木々が邪魔になって視線が通らない。

 俺の遠隔視力は、例えるなら双眼鏡と同じなので、視線が通らないこの状況では、熱源の正体を知るに至らない。

 その上、熱源があまりに高温なので、熱源の周囲の状況も判別が難しい。

 熱源が一つなのか、複数なのかがはっきりしないのだ。

 俺は耳を澄まし、熱源の周囲の音を拾おうとするが、異常を感じるような音は聞こえない。

 そう言えば、先ほどまで聞こえていた戦いの音も、今は皆無だった。


「セヴェンテス……今はモードレットと連絡取れそうか?」

『いや、先ほどアイアン・ゴーレムとの戦闘に入ったと念話があった後は、念話が不可能になった』

「それって……?」

『モードレットとの魂の繋がりが……切れた』


 セヴェンテスはぎりりと歯を噛みしめ、蹄をカツカツと鳴らした。

 俺たちみたいに拳が握れたなら、今頃は握った拳から血を流したに違いない。

 そて程までに悔しさが滲み出ている。


「生きては……いるんだよな?」

『ああ……それは間違い無いが……』

「なら、取り戻そう」

「お、お前…………ああ……そうだな! 助けなければな!」


 セヴェンテスは俺の言葉に、何度か目をしばたたかせたが、すぐに同意して決意を口にした。

 アリィが何故か俺をみて微笑んだ?


「うん? 何かおかしかったか?」

「いいえ。やっぱりレイジは凄いなって思っただけです」

「はい?」


 意味が分からん。

 おっと、それより情報収集が先だ。


「で、アイアン・ゴーレムがいたって?」

『ああ、レイジが感知した高温の物体とはアイアン・ゴーレムのことだ?』

「そうなのか?」


 アイアン・ゴーレムって、どちらかというと、冷たそうなイメージがあるが……。


「アイアン・ゴーレムですか……しかも高温となると上位クラス……」

「アイアン・ゴーレムに上位とか低位ってあるんだ?」

「ええ、低位のゴーレムは遺跡の護衛などに使われます。侵入者を撃退するなど、簡単な命令しか実行できません。対して高位のゴーレムは複雑な命令に対応できるよう、術者の魔力を全身に行き渡らせる仕掛けが施されています」

「それが温度と何の関係が?」

「魔力は血流に反って流れやすい特徴があります。高位のゴーレムはこの特徴を反映させているため、全身を血液に相当する物質が循環しているのですが、この《血液》に溶けた鉄を使う場合があるのです」

「成る程……それが高温の原因ということか……」


 つか、鉄が溶ける温度って何度だっけ?

 アイアン・ゴーレムって、生身の生物に勝てる相手じゃなさそうなんだけど?

 モードレットって霊獣は、そんなのと戦ったのか……。


「あれ? 魔力が血液に反って流れるって……俺は血流なんて無いけど?」


 血液すら無いんだけど?


「レイジは魔力の深奥に触れていますから。かつて何人もの高名な魔術師が挑戦し、僅か数名しか為し得なかった『魂での魔力操作』を実施しています」

「ああ、以前にそんな事言ってたっけ? 確か、『魔力は魂で扱え』とかなんとか……」


 俺には元々、その使い方しか出来なかっただけなので、深奥とか言われると、逆に恥ずかしい。俺自身は魔力を極めたつもりが全然無いのだ。


『確かに、魔力は肉体を超えた先で扱うのが、最も効率良く扱えるな』

「そうなのか?」

『肉体に頼っての魔力操作は、必ず肉体の制限を受ける。脆弱な肉体では脆弱な魔力しか使えん』

「魔力過多症を患う魔術師は、魔術行使の際に腕が裂けたりすることが良くありますからね」


 何それ。命懸けじゃん?

 つうか、魔力過多症って何?


『身に余る程の魔力を持って産まれた者の事を、人族の間では魔力過多症と称されるのだ。魔術師としての才能を持ちながら、肉体が堪えられずに、その道を断念した者も多いと聞く』

「中には魔力過多症に悩まされながらも、自らの魔力運用技術を磨き、世界最高位の賢者――《偉大な(マグニフィセント・)る十の(テンフォールド・)叡智(ウィズダム)》――に名を連ねた人達もいますけどね」


 つまり『魂での魔力操作』を習得して、世界最高峰の賢者として名を馳せたのか。

 凄いな……って、もしかして俺も将来そう言う地位を得ることも出来るってこと?

 魔術知識を高め、賢者として生きる。

 ちょっと良いかも……。


『人族であることを止め、不死魔術師イーハイサーとして、世俗から離れた者もおるがな』


 あ……。

 俺はこっちでした。

 人間じゃなくて、幽霊だもんね……。

 化け物呼ばわりされて、世間から離れて山奥の塔に引きこもる方がお似合いですよね……。

 転生し損なった場合は、引き籠もる未来しか見えなくなってきた……。

 って、あれ?

 待てよ?

 もしかして、俺が転生し損なったのって、やっぱりこの辺が理由なのか……となると……。


 そんな俺の考えに気付いたのか、アリィがセヴェンテスに気付かれぬよう、目配せしてくる。

 ああ、そうだった。

 一応、今の俺は天使として振る舞っているんだった。

 転生云々をセヴェンテスに知られると面倒そうなので、俺は口をつぐんだ。


『どうかしたか?』


 そんな俺の様子に何かを感じ取ったのか、セヴェンテスが訝しむように言った。

 いかん、いかん。

 ここは話題を変えねば。


「いや、話が逸れたなって……上位のアイアン・ゴーレムがいたって話だけど、それってやっぱり《魔国プレナウス》の連中に操られてたりするのか?」

『うむ。モードレットはそう言っていた』


 セヴェンテスも己の目的を思い出したのか、厳しい目つきで森の中央を見据えた。

 どうやら上手く話題転換できたようだ。


『しかもその相手は《魔軍八将》のうち、《獣魔王権ビースト・レガリア》と《人形繰者ドール・オペレーター》の二人だそうだ』

「そんなッ! まさか《魔軍八将》が自ら《聖遺物》を狙って……?」


 セヴェンテスの言葉に、アリィが驚きの声を上げる。

 何か、凄い人物なのだろうか?


「びーすと……なに?」


 聞き慣れない言葉に、俺は首を傾げる。


「《獣魔王権ビースト・レガリア》……それに《人形繰者ドール・オペレーター》……いずれも《魔国プレナウス》の《魔軍八将》に名を連ねる者達ですね」

「その《魔軍八将》ってのは何時だったか聞いたな」

「レイジを召喚した死霊術師が、《魔軍八将》の一人ですよ」


 アリィの言葉に神経質そうな男の顔を思い出す。

 そうか、ヴィルナガンが確か《魔軍八将》だと、以前レリオに聞いたんだった。

 あんなのクラスが二人もいるのか……。

 いや、ここ最近も含めれば、三人もこの国にいたことになる。


 ………………《魔軍八将》って魔人というより、暇人の称号か何かなの?



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