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どうやらリルドリアは霊獣相手に無謀な戦闘を仕掛ける模様

今回、珍しく主人公一行の出番無しw

その為、サブタイトルが普段とちょっと異なります。


「ふざけやがってッ!」


 リルドリア軍が使用する天幕の一つから、周囲の天幕を吹き飛ばさんばかりの怒号が炸裂する。

 ウォマリア常駐の騎士――騎士長を務めるカレオが、伝令に伝えられた作戦を目にして、盛大に悪態をついたのだ。

 とばっちりを受けたのは伝令に来た兵士で、まるで自分が怒られたかのように身を竦ませる。

 それを見た騎士が今悪態をついた騎士を宥めた。


「カレオ騎士長、彼に当たっても仕方ないことです」

「分かってんだよ、そんな事はッ! じゃあ、ヘルマン! お前に当たれってのか?」

「誰もそんな事は言ってませんが、兵士に当たる位なら、自分に当たって貰った方が周囲の心象は良いでしょうね」

「そうやってお前の評価がまた上がるって訳か!」

「騎士長の評価が勝手に下がっているだけですよ」

「ああ、そうだよ! その通りだよッ! いつも通りってか!? ちくしょう!」


 一瞬でカレオの矛先がヘルマンに向かった直後、ヘルマンはその矛先を瞬時にしてカレオに返す。言い返せないカレオは地団駄を踏んで悔しがるが、ヘルマンは涼しげな顔をしていた。

 伝令に訪れた兵士は、目の前の舌戦に口を挟めず、ただ行く末を見守るだけだ。

 その兵士を気遣ってか、同様に経緯を見守っていた寡黙な騎士が、身振りだけで兵士に下がるよう指示する。


[あ、ベルガー、勝手に伝令を帰すな! 公爵に対し、文句の一つも伝えて貰おうと思ってんのに!」

「そんなの伝えられる訳がないでしょう? 皆が騎士長みたいに厚顔無……度胸がある……やっぱり厚顔無恥じゃないんですよ?」

「おい、ヘルマン! 今何て言った!? つか、なんで二回言い直した!?」

「ヘルマン、嘘が苦手」

「ベルガーもヘルマンの味方かよ! 大体、ヘルマンが嘘を苦手にしてる訳ねぇだろうが!」


 この三人を良く知る者なら、『またか』の一言で済まされる光景だが、伝令に来ていた兵士はそんな事を知る由もなかったので、聞こえないフリをしつつ、本陣に向かって駆け出した。

 伝令が去ったのを確認すると、ヘルマンと呼ばれた騎士が、自らの上司に問いかける。


「で、何て書いてあったんです?」

「明朝にトール騎士長の部隊と連携して前線を押し上げ、雷角獣ライトニング・ホーンセヴェンテスを足止めしろってよ! しかもそれしか書いてねぇんだぞ!? 流石にどうかしてんだろ?」

「まあ、間違い無く我々は『囮』でしょうね」

「んなこたぁ、分かってんだよ……問題は、本命はどこだって話だ」

「昨日編成した『精鋭部隊(笑}』は、森の外周部に到着した直後、煌牙狼シャイニング・ウルフの眷属にボコボコにされたらしいですからね」

「全く、笑えねぇ。まあ、戦場に出ちゃ、雷角獣ライトニング・ホーンにボコボコにされてる俺らが、言えた義理じゃねぇがな」


 事実、カレオは騎士二〇名、兵士八〇名を率いていたが、負傷者はこの数日で半数に届こうとしていた。

 本来なら撤退を選択する所だが、公爵から許可が下りなかった事、一応は治癒術師を派遣された事から、ギリギリ前線に留まっている。

 だが、治癒術師の魔力も底を突きつつある今、精々があと一度の戦闘が限界。

 いや、可能なら今すぐ全員を率いて後方に待避したいと、カレオは考えていた。

 それほどまでに、今回の戦いは分が悪い。

 幾度もモンスター退治を経験したカリオも、今回ほど勝ち目の見えない戦いは経験が無い。

 そもそも、まともに相手すらされていないのだ。

 しかも明らかに手加減をされている。

 あの、雷角獣ライトニング・ホーンセヴェンテスが本気を出せば、人間など一撃で消し炭に出来るだろう事は、これまでの戦いから容易に想像できた。


「そもそも今回の戦いは、あの森の遺跡にあるお宝が欲しいって、公爵の我が儘だろうがよ。何でそんなモンに俺たちが命がけで付き合わなきゃなんねぇんだよ!」

「公爵に聞こえたらどうするんですか?」

「寧ろ面と向かって言いてぇよ!」


 カレオの愚痴を聞きながら、内心ではヘルマンもベルガーも、カレオの意見に同意している。

 騎士の本分は、領民を守るための戦いであると、彼らは考えていた。

 例え侵略行為としての戦争を命じられても、それが後々領民の為となるのであれば、彼らは率先して戦場に立つ覚悟がある。

 だが、今回の戦いはどう考えても、公爵の私欲が原因である。

 それが騎士としての矜持からほど遠い故に、彼らのモチベーションも下がりっぱなしだった。

 せめて大声で愚痴の一つも言わなければ、やってられない。


「で、どうするんです?」

「何人動ける?」

「騎士は我々含めて十二人。兵士は五十弱ってとこでしょうね」

「んじゃ、三分の二を連れて出るぞ」

「了解。すぐに編成します」


 全てを出撃させないのは、撤退を考慮しての事だった。

 全員出撃して、動けなくなった人間を戦場に放置はできない。

 撤退を補佐する要因は残しておかなければならない。


「ベルガーは残って撤退時に支援してくれ」

「カレオ騎士長、自分は?」

「ヘルマンは前線行きに決まってんだろうが! 寧ろ俺様より前に立て!」

「騎士長酷いッ!」


 戦闘前の軽口は、緊張をほぐす為に彼らが積極的に行う儀式と言えた。

 彼らは、戦闘前であれば何時でも軽口をたたき合う。

 そうやって三人で長いこと共に戦ってきた仲なのだ。

 そして彼らは、今日も勝ち目のない戦場に向かうのだ。



      ■



「ヘルマン、状況は!?」

「左翼に展開していたトール騎士長の部隊はほぼ壊滅ですね。我々が撤退を支援した方が良いかと」


 その言葉を聞いて、カレオは苦虫を噛みつぶした様な顔をした。


「ちッ……それでも二時間持ったなら、マシな方か……」

「全くです。戦術に関しては流石トール騎士長ですね。うちとは大違いです」

「さらっと俺をけなしてんじゃねぇよ! だがうちもアレやるぞ!」

「了解です」


 カレオはそう言うと、手にした長槍を地面に突き立てる。

 少し離れた位置で、ヘルマンも長槍を地面に突き立てた。

 そして、その長槍より姿勢を低くして移動する。

 これまでの戦闘で地面に転がっていた長槍を拾っては、更に地面に突き立て、トール陣営の撤退を補佐するついでに、長槍を借り受けてはまた地面に突き立てた。

 そして、前線を押し上げる度に、後方の長槍を抜いては前線に運び、また突き立てる。

 そうやって、カレオ達は、ゆっくりとセヴェンテスに迫っていく。


 カレオは、それまで遠目にしか見えなかったセヴェンテスの姿を、ここに来て初めて明確に捉えた。

 馬に似た外見だが、その額からは曲刀のように突き出した角があった。

 その角がパリパリと電撃を周囲に放っている。

 いななきと共に、周囲に落雷が発生するが、その大半が人に落ちるより先に、突き立てられた長槍を直撃する。

 勿論、確実ではない。

 何人かは雷の直撃を受け、動けなくなるが、それでもここ数日の間では、最も犠牲が少ない。


「トールのヤツ、一体どうやってこんな方法を知ったんだ?」

「何でも、公爵の元に来ていた魔術師団から聞いたらしいですよ?」

「チッ、もっと早く教えてくれりゃ良かったのに」

「元々、連中は積極的に動いてなかったですからね」

「まあ、それでも対抗手段を教えてくれたんなら、感謝しなきゃな」

「遺跡のことを公爵に教えたのも、彼ららしいですがね」

「……絶対に感謝なんかしてやんねぇ」


 そう憤慨すると、カレオは部下から手渡された長槍を前線に突き立てる。

 セヴェンテスの嘶きが、初めて苛立ちを含んでいるように感じ、カレオは少し上機嫌となっていた。

 このまま追い詰める事は難しいだろうが、セヴェンテスの足止めには成功しそうだった。

 セヴェンテスは《白き風の森》に人間を侵入させないために、あの場に立っている。

 こちらが攻め上がれば、攻撃されない様にその分後退し、カレオ達から距離を取るかもしれない。だが、人間を森に素通りさせる訳には行かないセヴェンテスは、どこかでその後退を止めるだろう。

 そうなった時、セヴェンテスは接近戦を仕掛けてくるかも知れない。

 カレオは、そうなる前に前進を止めるつもりだった。

 彼らの役割は足止めなのだ。

 それには、中間距離で膠着状態に持ち込むのが、最も都合が良かった。

 そして一応、それこそ一時的ではあるが、カレオ達の戦術は功を奏した。



      ■



「あらあら、頑張っちゃってまあ」


 カレオ達が善戦している戦場から一〇キロほど離れた高台で、一人の女性が手にした望遠鏡でその様子を窺っていた。

 その言葉には、どこか嬉しそうに聞こえるが、同時に見下しているようなニュアンスが含まれる。

 例えるなら、大して可愛がっていないペットを、からかって遊ぶ飼い主と言ったところか。

 その隣に立つ少年は、憎々しげに唇を歪め、そっぽを向いていた。

 女性の名はメーニエ。

 少年の名はランド。

 リルドリア公爵の元を訪れ、《神の武具》の事を教え、そそのかした二人。

 そして、クーエルと共に《魔国プレナウス》からやってきた魔人でもあった。

 ただ、クーエルすらこの二人について知らない事があった。


「ふん、あの程度の対策すら自力で思いつかんとは、王国の騎士達は猿以下の知能しか無いのか?」

「まあ、仕方ないわよ。王国は神聖魔法には優れた人材が多いけど、その他の魔術は《魔国プレナウス(わたしたち)》に比べて十年は遅れてるんだから」

「ふん、こんな王国なんか、さっさと滅ぼしちまえば良いのに」

「そう言わないの、そんなんじゃ貴方の望む世界なんか来ないわよ、《人形繰者ドール・オペレーター》」

「《獣魔王権ビースト・レガリア》ッ! 今、俺をその名で呼ぶんじゃねぇよ!」

「アンタだって、呼んでるじゃん?」


 クーエルすら知らされていなかった二人の正体。

 ランド、およびメーニエという名前は偽名であり、本当の名はクーエルすら知らなかった。

 少年の本名ははラディル・マルガ・ブランドル。通称《人形繰者ドール・オペレーター

 女性はメイフィス・マレガ・ファルニェット。通称《獣魔王権ビースト・レガリア》。

 二人とも《魔国プレナウス》の《魔軍八将》と呼ばれる最上位の魔人、その内の二人だった。



「マリオネット・マスター」はありがちだったので、「ドール・オペレーター」に変えてみました。

主に気分でw

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