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どうやら俺は死霊としての能力を少し理解する模様

前回の登場人物


向日島レイジ:本編の主人公。何やら膨大な魔力を持つことと魔力制御に長けていることが判明。やっと主人公っぽい性能が出てきたか?


アルリアード・セレト・レフォンテリア:通称アリィ。この世界での《聖女》。彼女が《聖女》なのは能力的な部分もあるが性格的な要素が大きそう。


ミディリス・ナスナ・フィルディリア:通称ミディ。アリィに仕える騎士の一人で、アリィを心酔している節がある。そろそろレイジに突っかかる以外の特徴が欲しい人。


レリオード・ナスガ・クルツェンバルク:通称レリオ。アリィに仕える騎士の一人。何を考えているか分からない部分もあるが、レイジに対し警戒心が薄い様子。


ラグノート・ナスガ・ブランディオル:アリィに仕える騎士の一人で隊長格。レイジを警戒しているが、それはアリィの身を案じてのこと。




 村に到着する頃にはすっかり日が落ちていた。

 村には、人っ子一人おらず、辛うじて馬の(いなな)きが聞こえる位で、人の声は全くしない。

 何より、どの家にも明かりが点いていなかった。

 村に入る前にみた畑は、収穫前の作物が一面を埋め尽くしており、良く人の手が入っていることを伺わせたのに……。


「さて、今日の所はここに泊まることにしましょう」

「何処に泊まりましょうか?」

「やはり教会ですかね……寝床が無ければ村長の家にお邪魔したいところですが……あまり気乗りしませんね」


 アリィとラグノートの口調が重い。


 俺はその理由を聞く勇気がなく、口を閉ざしたまま村の様子をまじまじと見た。

 石を積み上げて作られた家々は、年代を感じさせつつも頑丈さを感じさせる。

 村の中央広場はサッカーが出来そうなほどの広さはあった。

 広場の正面には大きな教会があり、広場の中央には先ほどアリィが言ったように、石窯と(かまど)、それに石のテーブルが設置されている。ただし、石窯と竈に火は入っていない。

 周囲の家は密集しており、広場を取り囲むように円形に建てられている。


 ミディとレリオがその広場に幾つか設けられたランプに火を灯す。

 こぢんまりとしながらも、どこか暖かみを感じ、それが逆に物悲しい。

 きっと本来なら、各家々から今頃は家族の声が聞こえていたに違いない。

 だが今は、戒厳令でも敷かれたかのように、静まりかえっている。


「明日はどう致しましょうか?」

「まずは回収した遺品だけでもどこかにまとめて安置しましょう……出来れば遺体の代わりに墓地に埋めてあげたいのですが……」

「それだけの時間はありませんしね……」

「そうですね。先に領主殿に連絡する方が先決でしょうし……」


 ここで俺は遺跡でのアリィ達の行動について、ある種の誤解をしていたことに気が付いた。

 あれは戦利品を回収していたのでは無い……。


「さっきのあれは……遺品を回収していたんだな……」

「そうや……この村の住人は全て、あのけったくそ悪い死霊術師に無理矢理アンデッドにされてたんや……」


 そう言うレリオの言葉は、俺の中にあった懸念に対する答えそのものだった。


「死霊術師……?」

「そうや……この世でもっとも力を付けた死霊術師……《魔軍八将》の一人で《冥王使徒(ハーデス・アポストロ)》の二つ名を持つヴィルナガンってヤツの仕業や……」


 その言葉の中に、明らかな怒りの感情を感じ、少し意外に思った。

 もうちょっと感情を隠すタイプかと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。

 しかし……ヴィルナガンか……ソイツが俺を召喚したダークエルフ――この世界でダークエルフって言う種族なのかは知らないが――の名前なのか……。


「なるほど……そんな危ないヤツに召喚された(おれ)を警戒するのも仕方ないか……」

「警戒しとんのはラグノートの旦那とミディちゃんだけや……ワイはそれほどでもないわ」

「そうなのか?」

「お嬢がアンタを救おうとしてるんなら、ワイもそれに従うまでや。それについてとやかく言うつもりもあらへん」

「軽そうに見えて、以外に忠義に厚いんだな、アンタ」


 正直ちょっと感心した。


「軽そうってそれは失礼やで!?」

「あ、すまん」

「おいっ! そこの軽そうなのッ! 何を無駄話をしているッ! 飼い葉の準備ぐらいさっさと終わらせろッ!」


 ミディの怒号が矢のようにレリオに降り注ぐ。


「……こっちにも失礼な人がいたわ……」

「そのようだ……と言うか馬を連れてきてたんだな……」

「この村まではな……っと後でまたゆっくり話そうや」

「ああ……」

「早くしろと言っているッ!」

「「うひゃっ!」」


 再びミディから叱責を受けると、レリオは肩を竦めてからミディの元に向かった。

 ミディは建物の裏手から薪を一束持ち出していた。

 これからどこかの家で煮炊きするつもりなのだろう。

 身体の無い俺に手伝える事がある訳でも無い――手伝いを申し出ても余計警戒させるだけかもしれない――ので、どうしたものかと思案しながら夜の帳が降りつつある空を見上げた。

 そう言えば、身体も無いのに生前と同じように見聞きできるんだな。

 匂いとか味とかはどうなんだろう?

 その辺りをちょっと実験してみるか……。


 結論からすると、触覚、味覚、嗅覚は完全にアウトだった。

 対象に接触することが前提の感覚は今の俺には無いらしい。

 まあ、これはある程度分かっていたことだ。

 もっとも、エナジードレインの話があったように、生物に触れた場合は事情が異なるだろう……とは言え、安易に試す訳にもいかない。

 どこかで虫か小動物でも見たら確認してみよう。


 逆に視覚や聴覚については、どうやら生前より良く見聞きできるようだ。

 と言っても、これは物理的に見聞きできている訳ではなさそうだ。

 下腹部に溜まった魔力を目や耳に送り込むことで、どうやら見聞きできているものらしい。

 肉体による感知とは異なるようだ。

 実際、視覚は慣れると暗闇でもかなり遠くまで見通せた。

 魔力を意識して両目に流し込むようイメージすることで、双眼鏡のように遠くが見渡せたのだ。

 ……これかなり便利だわ。

 魔力を操作する感覚を覚えるのにも丁度良いので、暫く色々試してみよう。


 聴覚も同じように魔力を運用することで、かなりの広範囲の音が聞こえるようになった。

 範囲だけでは無く微細な音も拾えるようだが、音の整理をしないと逆に何の音か判別するのが難しい。というかひたすらに喧しい。

 これはまだ練習しないと駄目だな。


 あと偶然分かった事として、俺の身体(?)はイメージすることで身体の大きさを変えられる。ちょっと試したところ、普段の倍くらいの大きさになったり、全高数センチまで縮んだりなんてことも出来た。


 他には見た目を変えることも出来た。

 例えば服装――何故か今までスーツ姿だったが、ローブを被って幽霊っぽい外見になることも出来た。この世界ではスーツ姿より違和感はないだろう。今後はこの姿で行くとしよう。

 自分の顔立ちも変えられるようだが、水面に映った自分を見たときの違和感というか気持ち悪さが結構キツかったので、こっちは自分の顔のままとした。

 自分の顔が映っている筈なのに、違う顔が出てくるとここまで違和感が強いものなんだな……。


 あと気になるのはやはり……《浮遊》!!

 元々浮いてたけど、もっと高く浮かんだり出来るんじゃないかと、ずっと気になっていたのだ。

 では早速実験。

 俺は自分の身体が少し上に移動するイメージを繰り返す。


「おお……本当に浮遊した……」


 まさしく幽霊の本領発揮!

 まさか空を飛ぶ感覚を得ることが出来るなんてちょっと感動。

 勿論、首だけ伸びてるとかそういうのではない。下を見て、ちゃんと脚が宙に浮いているのを確認する……って、思ったより高ぇッ!

 気付けば周囲の建物よりずっと高い位置にいたしッ!


「うわっととと……落ちいいいいいいいいえええぇーーーーーーーーーーーーッ!」


 次の瞬間、俺は落下した。

 と言うか落下するというイメージを止めることが出来なかった。

 そのまま地面に激突するイメージに従い、俺は地面の上に倒れた格好になる。

 衝撃は勿論無い。物理的に接触出来ないのだから当然だ。

 ただ、精神的なショックはあった。

 心臓に悪いぜ……そんなものは持ち合わせいてないがなッ!

 でも心臓がドキドキしているような感覚はあるんだよな。これもイメージによるものなんだろうか?


「何をしているんですか?」


 そんな俺にアリィが声をかける。


「いや、空を飛べそうだったので実験」

「なるほど、霊体であるが故に、魔法の行使なく空中浮遊(レビテーション)が可能ということですか」

「若干魔力は使ってるみたいだけどね。歩く程度の体力を使うのと大差無いみたいだけど……所で何か用かな?」

「あ、食事の用意ができたので……」

「俺、食べられないよ?」

「いえ、その……皆の目が届かない所にいない方が良いかと……」


 そっちか。

 一緒にいるのも不本意だが、勝手にいなくなられるのも困るということだ。

 多分、ミディかラグノートがそうアリィに進言したのか……いや、アリィが二人の懸念をくみ取ったのかもしれない……。

 やけに申し訳なさそうにしているアリィが来たところを見ると、多分後者だろう。


「レイジには重ね重ね申し訳なく思っております」

「良いよ、俺にだって問題はあるんだろうし……」

「そんなッ! レイジは望んでその状態になった訳ではないのにッ!」

「あ、そういう意味じゃなくて……」

「では……?」

「彼らに信用して貰えるような行動を取れてないことかな……」


 警戒の要因の一つに、相手を知らないという事が挙げられる。

 得体が知れないからこそ警戒する。それは至極当然のことだ。

 アリィは警戒心より使命感によって俺と接しているように感じる。

 レリオは……やっぱり良く分からんが……アレは警戒していないのではなく、探りを入れてるんじゃなかろうか?


「まあ、どんなに信用して貰おうとしても、信じて貰えない事があるのも分かってるんだけどね……」

「え……今、何か?」

「いや……もっと信じて貰えるよう努力するよ」

「じゃあ、私は……もっとレイジを信じますね。私が信じれば、あの者達もレイジを信じるようになるでしょうし」



 そう言ってアリィは屈託無く笑った。

 この前向きな所は見習いたいと心底俺は思った。

 この後、俺はメシテロの洗礼を受けることになった。

 メシテロってあれだよな……見た目や匂いなんかより、旨そうに食ってる姿が一番のメシテロだと思うわ。

 ああ、腹が減るはずも無いのに飯が食いたい……。



レイジ:「レリオって……本当、良いヤツなんだな?」

レリオ:「……唐突になんや、レイジ?」

レイジ:「いや、糸目キャラって、何か企んでるイメージがあって……」

レリオ:「それは糸目キャラに対する偏見やで!?」

レイジ:「あ、いや、その、スマン」

レリオ:「……まあええや……ワイもレイジは最初、ヤバい敵か何かと思っとったし……」

レイジ:「ああ、やっぱりそうなのか……まあ、状況が状況だしなぁ……」

レリオ:「でもお嬢の破邪魔法を食らった時のレイジを見て、思ったんや……」

レイジ:「…………何て?」

レリオ:「次回『どうやら異世界転生したはずが死んでる模様』第六話『どうやら俺はドラゴンとの戦いに挑む模様』……いや、あのやられっぷりは単なる面白さんやってな?」

レイジ:「ヒドいッ!」

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