どうやら俺はリルドリア領で足止めをくう模様
第三章での主な登場人物
向日島レイジ:本編の主人公。異世界転生する筈が幽霊となったサラリーマン。仕方ないので、転生するまでこの世界で幽霊生活を満喫することにしたのだが、何故か創造神に天使認定されてしまう。享年二四歳。身長七ミリメートル~五十メートル。体重無し。
アルリアード・セレト・レフォンテリア:通称アリィ。異世界の聖女。レイジを救う為、レイジの転生を手伝おうとする。年齢は一六歳。身長一五三センチメートル、バスト八八センチメートルの金髪ロリ巨乳。
ミディリス・ナスナ・フィルディリア:通称ミディ。アリィに仕える騎士の一人で聖騎士。若くして聖騎士の中でもトップクラスの実力を持つ。やや、性格が残念。身長百六十六センチメートル。バストは八一センチメートル。年齢一八歳。青みがかった黒髪のポニーテールが特徴。
姉は、スフィアス・ナスナ・フィルディリア
レリオード・ナスガ・クルツェンバルク:通称レリオ。アリィに仕える騎士の一人で通称《魔導騎士》。謎の関西弁騎士。魔法を併用した剣技を得意としており、その実力は他国に知れ渡るほど高い。実はアリィやミディと同郷。年齢二〇歳。身長一七二センチメートル。赤みがかった茶髪
ラグノート・ナスガ・ブランディオル:アリィに仕える騎士の一人で騎士達の隊長格。元王都近衛騎士団の団長で《城壁騎士》との異名を持つ。また《仙技》を会得しており、攻撃面でも隙が無い。身長一八九センチメートルの偉丈夫。年齢四一歳。主武器はウォーハンマー。僅かに白髪混じりの黒髪を短く切っている。額に傷がある。
リーフェン・スレイウス:レイジよって《竜転生》した始まりの竜。レイジの趣味に合わせたという理由で《のじゃロリ》化した。現在の身長は一三八センチメートル。燃えるような赤毛の少女の外見をとる。今は完全に人間の少女に擬態している。
個体の戦闘能力としては、ラグノート達を軽く上回る。
ウォード・ユロガ・レーゼンバウム大公爵:通称、大公閣下。オルレニア王国国王の叔父にあたり、王国最上位にいる貴族。七〇を超える年齢だが、それを感じさせない程の覇気に満ちており、周囲の貴族などから畏れられている。周囲の人間に付け入られないよう、常に不機嫌な表情を崩さないが、その理由を見抜いたレイジを気に入り、《聖女》の後ろ盾を申し出る。
スフィアス・ナスナ・フィルディリア:ミディの姉。レーゼンバウム大公爵に使える親衛隊隊長。本来、親衛隊隊長ともなれば、大公閣下の傍を離れないものだが、大公閣下はスフィアスに経験を積ませるため、アリィ達に同行するよう命じている。妹と同じく青みがかった黒い髪の毛を持つが、こちらはショートボブ。身長は一六〇センチメートルと、妹より低いが、胸は妹より五センチ大きい。
モモ:猫獣人の少女。元々はゴブリンとして産まれていたが、稀に生じる《チェンジリング・ソウル》の持ち主であり、魂の本質とはかけ離れた種族として産まれていた。レイジが【大いなる解呪】魔法を使用する事で、本来の姿に戻った。尚、名前の由来はレイジが昔飼っていた猫の名前。リーフに言葉を教わる際、何故か語尾が「ですの」になった。
森の中に剣戟が響く。
程よく人の手が入っているためか、ある程度剣を振れるだけの広さはあった。
とは言え、ぬかるんだ場所も多く、足場は良い方では無い。
「くそったれ! リルドリアに入ってから何回目や、これッ!」
「片手ではきかないでしょうね」
そう愚痴るのはレリオとミディだ。
二人とも、次々と襲いかかる豚頭のモンスターに素早く剣を突き立て倒す。しかし、その数が減る気配が無い。
モンスターの名はオーク。
ファンタジー世界では定番のモンスターである。
初めて見た時は感動してしまったが、こう数が多いと辟易とする。
しかもコイツら肉厚でダメージが通りにくい。
挙げ句にかなりタフときた。
俺も【魔法の矢】をばらまいているが、一体を倒すのに結構な本数が必要な上、森の木々が邪魔をして効果が半減していた。
【眠り】の魔法も併用しているが、人間相手と比べて効果が低い。一応眠るのだが、目覚めるのも早い。
「炎で焼き払えれば楽なんじゃが……」
「それをしたら森ごと焼き払ってしまいますので、止めて頂けると……」
「分かっておる。流石にやらんわ」
「けど焼き払いてぇええええええッ!」
「駄目ですからねッ!」
リーフとアリィの会話を聞いて、俺もフラストレーションを吐き出したが、やっぱり止められてしまう。
本当は【炎の嵐】で焼き払いたいところなんだけど。
因みに今の俺は【氷の嵐】と【雷の嵐】の使用も禁じられている。以前、森の中で【雷の嵐】を使用したところ、雷が木々に先に当たり、森の木々を粉砕した挙げ句、火が出て大騒ぎになったのだ。で、消火しようと【氷の嵐】を使ったところ、木々を完全凍結させた。
森の木々が氷の粒となって砕け散るその景色は、いっそ幻想的ですらあったが、後でアリィにメチャメチャ怒られたので、以降は森の中で使わないよう心がけている。
本来、【氷の嵐】ではそこまでの威力にならないらしい。これは俺の魔力が強大過ぎるが故の弊害だった。
そういった経緯もあり、今の俺は森の中で使える広範囲呪文を持っていない。
結局、一番効率が良いのが、【拘束】か【深き眠り】で行動不能にすることなんだが、これらの魔法って単体にしか効果が無い上、接触が必要なんだよね。
まあ俺の場合、接触出来ないので体内に直接魔法を撃ち込むんだけど。
「後方からもオーク2、それにオーガ1が来ます!」
「ラグノート! スフィアス様と二人でやれますか?」
「お任せを!」
スフィアスの報告に、アリィが指示を出すと、直ぐにラグノートが駆け出す。
この場にいる全員には俺が【速度強化】の魔法を施してあるので、常人の数倍は速く動いている。それでも森の木々が邪魔をするので、思うように動けてはいない。
ラグノートも《仙技》を封じられたに等しいとぼやく。
レリオの得意技も森の中では使えないらしい。曰く『木を軒並み伐採してしまう』とのことだ。
実は、この戦場で最も素早く動き回っているのは、モモだった。
《猫獣人》となったモモは、森の中でその能力を遺憾なく発揮する。森の木々を使った、文字通りの三次元起動でもってオークを攪乱し、隙あらば上空から襲いかかり、手にした短剣で的確にその首を切り裂いていた。
普段はポヤーっとした少女なのに、こういう時は一瞬で狩人の目をするのだから侮れない。
まあ、戦い終わると俺の傍に寄ってきて、またポヤポヤした顔に戻るんだけど。
次に活躍しているのはリーフである。《竜人》状態となり、その翼で木々の間を飛び回りながら、腕力でオーク達を磨り潰していく。大量の肉塊を生産する幼女の姿は、普通の人が見たらトラウマものである。
「ラストオオオオオオオ!」
ラグノートが手にした大型ハンマーを振るい、最後に残ったオーガを倒した頃には、空は茜色に染まっていた。
■
「だから、今日で何回目や?」
「リルドリアに入ってから毎日なので……多分、八回ですかね?」
「その度に足止めくらっとんのか……何時になったらリルドリア領直轄地に到着するんや」
「本来なら、もうとっくに到着しているはずなのですが……」
レリオ、ミディ、スフィアスが口々にそう言う。
三人ともかなり疲労の色が濃くなっており、言動にも覇気がない。
アリィとラグノートにも元気がなく、宿屋の大部屋でぐったりと椅子に座っていた。
この日、倒したモンスターの数はオークだけで四十体を超えていた。
オーガやゴブリンを含めたら八十はくだらないだろう。
正直、精鋭(化け物)揃いとは言え、僅か八名しかいないアリィ達には荷が重い。
各自の疲労が頂点に達しようとしてるのも、仕方ないと言えた。
レーゼンバウム領の直轄都市シティヴァリィを出た後、リルドリア領に入る直前まで、俺たちの旅は順調だった。
ミディとスフィアスは、共に過ごすのが久しい為か、しばらくはお互いギクシャクしていたが、レーゼンバウム領を出る頃には、そんな空気もすっかり薄れていた。
なのにリルドリア領に入った傍から、立て続けにモンスターに遭遇する羽目になるとは……。
何でもここ数週間、警備が手薄になっていたため、モンスターの襲撃を許してしまったらしい。特にここ数日は、リルドリア領直轄都市リルデンにて何かあったらしく、騎士や警備兵の数がさらに減っていた。このため、村の自警団で何とかモンスターを撃退していたのだが、それも限界に近かったらしい。
そのような状態の時に《聖女一行》が訪れたのだ。村の人々からは救世主がやってきたに等しい。
アリィもそんな村人達を見かねて、モンスター退治を請け負ったのだが……ここまで数が多いとは思っていなかった。
「一体、リルデンで何が起きているんでしょうね?」
「流石に、こればかりは行ってみないと……」
「行って分かる物ならええんやけど?」
「……………………」
ミディ、ラグノート、レリオが今後を決めかねる中、アリィは黙したまま動かない。
アリィ自身も、どうした物かと悩んでいるのだ。
「レイジはどう思う?」
リーフがそう聞いてくるが、俺にだって事態が分かっていない。それ程までに情報が少なすぎる。
「情報が少なすぎて『どう思う?』と聞かれてもな……」
「む……まあ、そうじゃったな……では、どうする?」
「まずは情報収集だろうな。手段をどうするか決めてないけど」
「ふむ……」
因みにモモはリーフに膝枕されて既に寝ている。
まあ、ここ数日では一番頑張っていたはモモだ。立て続けの戦闘で疲れていたのだろう。食事をしていたときから、うつらうつらしていたし。
そんなモモの髪を、リーフが優しく撫でる。
この二人、いつの間に仲が良くなった?
「そう言えば、例の《聖遺物》って何処にあるんだっけ?」
「何じゃレイジ、聞いておらんだか?」
「いや、聞いた筈なんだけど、地名を聞いても何処だか分からないから忘れちまった」
「まったく……」
「リルドリア領直轄都市リルデンにほど近い、ウォマリアという都市の近くにある森ですね。確か名前を……」
俺とリーフの会話にアリィが溜まりかねた様に割り込む。
土地勘の無い俺はウォマリアとか言われても、どの辺りにあるか想像出来ないため、憶えきれないでいたのだ。
まあ、今回そのウォマリアへ行けば、大体の感覚は掴めるんだろうけど……って、まあこれは良い訳だな。
憶えようとしていなかったのは事実だ。
「ウォマリアの近くの森じゃと?」
「ええ、何でもかなり大きな森があるとの事ですが……ご存じなのですか?」
ウォマリアと聞いて、リーフが怪訝な顔をする。
明らかに何か知っていそうな態度に、アリィも気になるのか次の言葉を促す。
「うむ。あの辺りには《霊獣の森》があっての。霊獣に認められた者しか踏み入る事を許されておらんのじゃが……そう言えば先ほど名前を言いかかっておったの?」
「え、ええ。確か森の名前が《白き風の森》と……」
「《霊獣の森》ではないかッ!」
リーフが思わずと言った様子で声を張り上げる。
眠っていたモモが一瞬眼を見開くが、リーフが慌てて宥めると、そのままムニャムニャと眠りに落ちた。
しかし《霊獣の森》とは、また厄介事の匂いしかしてこないな。
俺の予想が的中したのか、リーフが神妙な顔つきで俺の方を見た。
その顔には、思いっきり「ヤバいかもしれん」って書いてある。
何がヤバいのか、是非とも即時説明して欲しい。
「霊獣の森って言うからには、霊獣が治める森って認識で良いんだよな?」
「うむ、それで合っておる。ただウォマリアの《白き風の森》は複数の霊獣が支配しておってな……」
「具体的には?」
「三体じゃの。雷角獣セヴェンテス、煌牙狼ファオリア、それに読心猿のモードレットじゃな。いずれも長き時を生き続けた霊獣じゃ。まあ、妾ほどではないがの?」
「そんな土地に人間がうっかり入って良いものなのか?」
「無論、基本的に許されておらん。まあ、森周辺に住む狩人が外周部で得物を獲ることを許されとるくらいじゃ」
そんなとんでもない所に《聖遺物》が安置されてんのか。
オグリオル様も、その辺は事前に説明してくれよ?
「因みに、その霊獣って健在なの?」
「死んだ、という話は聞いておらんな。妾のように代替わりはしておるかもしれんが……」
「勿論、人間よりずっと強いんだよね?」
「当然じゃ。ヤツらだけでなく、配下の眷属達も相当な強さがあるぞ?」
「もしかして、ここ暫く周辺都市から騎士や警備兵が呼び集められてるってのは……」
「まさかとは思いたいが、どうやらその線が濃厚じゃの?」
マジかよ!
つまり簡単に言えば、リルドリア公爵が周辺の兵をかき集めて《聖遺物》を手に入れようとしているのか?
そして、それを裏で糸引いてるのは《魔国プレナウス》。
当然、リルドリア公爵は《魔国プレナウス》が関わっている事を知らない。
それどころか、《白き風の森》に何があるのかすら知らない可能性が高い。
どう言いくるめられたか知らないが、欲に目が眩んで騙されたとか、そんな所だろうか?
リルドリア公爵はレーゼンバウム大公爵に敵愾心を燃やしているらしいから、大方その辺りを突かれたのだろう。
ともあれ、碌でもない事態に移行しつつあるのは間違いなさそうだ。
「このまま放置しておくと、その《霊獣》対《人間》の戦争が始まってしまうのですね?」
「戦争になるかも怪しいがの? 《霊獣》による一方的な殺戮が繰り広げられる方が、可能性が高いじゃろ?」
「そうなっては、国力が低下して、益々《魔国プレナウス》に付け入る隙を与えてしまうじゃないですか……」
アリィが頭痛を堪えるように額を手で覆う。
いや、警備兵に招集がかかったのが数日前なら、既に手遅れかも知れない。
対して俺たちは村々でのモンスター退治に追われている。
ファンガス・パウダーの件で、治安維持が低下していたのが影響し、リルドリア領内ではあちこちでモンスターが増加していた。
そのような状況で、警備兵を中央に招集したものだから、モンスターは更に勢いを増した。
村人達からしたら、たまったものではない。
そんな村人の悲痛な声を無視する事が出来ず、アリィは率先してモンスター退治を引き受けてきた。
しかし、これから先はリルデン……いや、ウォマリアへの到着を急がなければならない。
急がなければならないのだが……。
「かと言って、苦しんでいる人たちを見捨てる事もできませんし……」
ですよねぇ……。
アリィからしたら『大事の前の小事』なんて考えは出来ないだろうし……。
「一応、大公閣下には報告はしているので、何らかの対応はあると思うのですが……」
「レーゼンバウムから援軍を期待できるでしょうか?」
スフィアスが既に対策を打っている事を報告するが、アリィは援軍の到着に懐疑的だった。
まあ、他の貴族が治める領地に大軍を派遣したら、問題にはなりそうだしねぇ……。
けど、少人数を派遣されても、それこそ焼け石に水だ。
レーゼンバウム領の治安を下げてまで、人員を割けないだろうし。
つうか、スフィアスはいつの間に報告をしていたんだ?
そう思ったタイミングで、部屋の扉がココッコンコン! と妙な拍子でノックされる。
それを聞いたスフィアスが立ち上がり扉を開ける。
扉の向こうにいた人物は部屋に入って来ることは無く、スフィアスに何か手渡すと、早々に立ち去った。
「どうやら期待は出来るみたいですね」
スフィアスは、そう言ってニヤリと笑う。
今来たのは大公閣下の手の者か。そう言えば、俺たちのことを調べ上げた連中とかがいたんだっけ? スフィアスの報告も、その人員を使ってたのだろう。
あの爺さん、あちこちにスパイとか潜り込ませてそうだもんなぁ。
「既に一つ手前の村まで先行の騎士が到着している様です。最終的には千人規模の騎士や兵士がリルドリア領に向かっているそうです」
千人!
また、治安維持が目的の割に大規模な人数を送り込んで来たな。
まあ、それだけリルドリア領の治安が悪化していると判断してのことか。
ただ……。
「その、領土的な問題は大丈夫なの?」
「それですが、リルドリア領の治安悪化を懸念して、王国騎士団も動き出したとのことです。今回はそれに同調した形になりますね」
「ああ、王国騎士団の補佐という名目で行動を起こしたのですね」
「そうなります」
俺の懸念をスフィアスとアリィが払拭する。
王国側が、リルドリア領の治安悪化を放置できないと判断し、介入を決めたのであれば、周辺の貴族がそれに協力するのは何もおかしい事では無い。
当然、レーゼンバウムの騎士達は王国騎士団を待たずに行動しているのだが、王国側が動いたという事実があるので、恐らくはお咎めは無いのだろう。
ならば、これから先は治安維持を彼らに任せ、俺たちは先を急ぐことが出来る。
「ただ……悪い報告が一つありまして……」
見通しが明るくなった話が出た直後なのに、スフィアスが眉間に皺を寄せる。
その悪い報告に思い当たる事が一つだけあるんだけど……。
「リルドリア軍と《白き風の森》の霊獣が戦闘状態に入ったそうです」
「「「「「「遅かったああああ~~~~~~~」」」」」」
それを聞いた俺たちは、一斉に額に手を当て、天を仰いだ。
新章突入です!
久々に6,000文字になってしまった……一話を半分くらいにしたいのに……