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どうやら俺は異世界転生したはずが死んでる模様  作者: 仁 智
第三章:大公爵との出会い
48/111

どうやら俺は過去の記憶に助けられる模様

お待たせしました。

そして、諸事情により第三章のタイトルを変え、この48話が第三章の最終話となります。



……ぶっちゃけると次の話も長くなりそうだったので、ここで切りました(笑


「え? 何故、大公閣下が? 書簡を持ってきたって……? ええええッ?」


 流石にアリィも狼狽を隠せない。

 俺だってめちゃめちゃ驚いている。

 さっき謁見の間でにらみ合った相手が目の前にいる。その事実が呑み込めない。

 そもそも、書簡を届けるなら部下に任すのが普通なのに……何故?

 しかも、いま目の前にいる大公閣下は先ほどまでの不機嫌な老人ではない。孫娘と共に優雅に紅茶を飲んでいるその姿は、縁側に座るのが似合う普通の老人のように見えた。


「来たか……今は大公爵として訪れたのではないからな、その呼び方は止めてくれんかね?」

「い、いえ……しかし……その、なんとお呼びすれば?」

「レーゼンバウム卿……いや、それでは堅いな。ウォードさんとか、まあ好きなように読んでくれて構わんよ」

「じゃあ、ウォードさんで」

「レ、レイジッ!?」


 終始動揺を隠せずにいたアリィは、俺の発言に飛び上がらんばかりの反応を示す。だが、当の本人はカッカッカと笑いながら手を上げ、落ち着くようアリィを制した。

 その顔からは、謁見の時の気配は微塵も無い。

 その事に俺は、本当に驚かされた。

 この手の人物が、こういった態度を取る理由が、俺には思いつかなかったからだ。

 だが、そんな俺の困惑など気にすることなく、大公閣下――いや、ウォードさんは言葉を続けた。


「成る程、お前の本当の名は『レイジ』と言うのか」

「ええ、改めて自己紹介しますね。レイジ・向日島と申します」


 俺は内心の戸惑いを一旦脇にどけ、平静を装いつつ頭を下げた。

 隣にいたメリエラが、驚きを隠すように両手で口を覆い、俺を見つめる。

 まあ、天使と思って接してたのが普通の名前を名乗るんだもんな。不思議に思うのもしかたないか。


「随分と変わったお名前ですのね?」


 って、そっちかい。

 まあ、この世界の名前じゃないしな。


「この辺りの名前ではないですしね」


 別段、嘘は言っていない。

 ホントの事も誤魔化してるけど……。

 ただ、メリエラは俺の言葉に疑いを持つこと無く、ただ感心していた。


「それで、レイジ様は、その……人間、なのでしょうか?」

「レイジ、で良いですよ。メリエラ様」

「でしたら私の事もこの場はメリエラとお呼び捨て下さい」

「ではメリエラ。自分の正体ですが、元人間であり今は霊魂のみの存在となります。もっとも、創造神様二柱(ふたり)に天使認定されているのもまた事実(の様)ですが……」


 メリエラが「ほぉ~~」と感嘆を漏らす。

 敢えて死霊という言い方は避けてみたが、幸いにしてアンデッドの様に思われてはいないようだ。

 そんなメリエラの反応を微笑ましそうに見ていたウォードさんは、本題を思い出したのか少しだけ気を引き締め、俺たちに座るよう促した。

 その言葉に従い、俺も見た目だけは座っているようにポーズを変える。


「私が君たちを訪ねたのは他でもない。レイジを謁見の間に呼びつけてしまったことを、個人的に謝罪したかったからだ」


 ウォードさんから発せられた爆弾発言に、アリィが幾度目ともしれない驚愕を顕わにした。

 だが、無理も無い。俺だってさっきから驚きっぱなしだ。

 ただ、ウォードさんの目と、そして態度を見る限り、その言葉はは本物だと確信する。

 いや、そもそも大公閣下ともあろう者が、警備も連れずに孫娘と二人だけで会いに来ているのだ。何か裏の意図があるなど、勘ぐるのも馬鹿馬鹿しい。


「え? その、たい……ウォード様? そのような……」


 アリィは、レーゼンバウム大公爵という人物を俺より知っている為か、未だ混乱の只中にいるようだ。大公閣下と言いかけて、慌てて言い直しているし……。

 ここは俺が話を進めた方が良さそうだ。


「それについてはお互い様といったところでしょう」

「レ、レイジ? そ、それは一体どう言うことでしょうか?」

「つまり俺とウォードさんは今回の謁見について対応を誤ったんだよ。ウォードさんは例え部下がやったことだとしても、《天使》を呼びつけるべきではなかった。そして俺も《天使》として振る舞うなら呼び出しに応じるべきじゃあなかった。もっとも、千年ぶりの天使とあっては、どう対応したら良いかなんて誰にも分からないんだろうけど……」

「そうだな。だからといって謝罪しなくて良いものでもないのでな。こうやって足を運んだ次第、という訳だ。おっと、分かっているとは思うが、この事は口外しないでくれよ?」

「分かっています。その為に俺たち二人だけを呼んだのでしょう?」


 ウォードさんは俺の言葉に大きく頷いた。

 本来、大公爵ともあろう者が、易々と頭を下げるべきじゃ無い。公の場でそんなことをしたら、俺はともかくアリィの立場が微妙なものになるだろう。

 もしそんな事が知れ渡れば、アリィは多くの人から尊敬の念をいだかれるだろう。しかし一部の貴族達はアリィを見る目に嫉妬の情念を燃やし、利用しようと近付く者も出るだろう。

 そう言ったトラブルを避ける為に、ウォードさんは非公式の場での謝罪を選択したのだ。

 そして俺も、お互いに悪かったと認めることで、謝罪そのものを無いものとして扱うよう意思を示したのだ。

 今回、おおやけには大公閣下は、国王陛下への書簡を自ら届ける事で、『国王陛下に対し』誠意を見せただけだ。

 ただ、アリィはまだ事態が飲み込めないのか、「いや、しかし……」と繰り返している。


「納得行かないか?」


 ウォードさんがアリィにそう問う。

 アリィは困惑の色を浮かべながら、小さく「はい」と頷いた後、俺の方を見る。


「それでも、わざわざウォード様が自ら足を運ぶ理由が分かりません…………レイジはわかるのですか?」

「これは予測でしかないけど……一つは俺の言葉に何か思うところがあったんじゃないかな?」

「一つは? ですか? 他にもあると?」

「次は後れを取らないとの意思表示、かな?」


 俺がそう言うとウォードさんは、小さく吹き出した後、嬉しそうに目を細める。

 本当に、今のウォードさんには謁見の間での雰囲気が欠片も無い。

 暫く笑いを堪えていたが、遂にウォードさんは大声で笑い始めた。


「ふ……ふはははははははッ! これは驚いた! まさしくその通りだ! その通りだよ、レイジ! 負けたままでいるのは悔しいからな! しかしそれまで読まれるとは思わなかったぞ!? 連敗を喫した気分だ!」


 突然大笑いしたウォードさんを見て、アリィだけでなくメリエラすら息を呑むほど驚く。

 世間一般にウォードさんは気難しい人物として通っているのだから、人前で大笑いするなど想像出来なかったのだろう。勿論、俺だって驚いたし、何より負けを認める発言をするなど、想像すらしていなかった。

 そんな俺たちの反応が面白かったのか、ウォードさんは目を細め、


「確かにあの時お前が言った『天使を屈服させたと諸侯に自慢でもしたかったか』という言葉は痛烈な一撃であったわ」

「ウォードさんは普段、他の貴族からそういう扱いを受けているんじゃ無いかと思いましてね。だから、常に不機嫌な態度を取っているのだと判断しました」

「全くだ。全くお前の言うとおりだ。私に会いに来る貴族は皆、私に取り入ろうとするか、屈服させようとするか、どちらかしかおらぬ。まあ、最近は取り入ろうとする輩ばかりだがね」


 屈服させようと近付いた連中は、全部逆にひれ伏させたんだろうなぁ。

 何度も貴族達を屈服していくうちに、遂には大公閣下を屈服させようって連中が出なくなったと……。


「レイジ、お前はその考え方を誰から教わった?」

「父方の祖父ですね」

「なんと教わった?」

「『力を持つとそれを利用しようとしたり取り入ろうとする者が後を絶たなくなる。だから常に不機嫌でいる必要が出てくる。下手に優しくすると、認めてもらったなどと勘違いして吹聴し始め、トラブルの元になるぞ』と言われましたね。あとは……『力ある者に謝罪されたら次に注意しろ』とも……」

「成る程。お前の祖父はそうとう大きな力を持っていたのだな」

「そうだったようです。俺は祖父にあまり会ったことはないのですが……」


 本当に直前まで忘れていたのだが、何故かあの時不意に思い出したんだよね。

 不機嫌な態度を崩さなかった祖父が一瞬見せた穏やかな目。その時に聞いた祖父の言葉。小さかった当時の俺は、祖父の言っていることを何一つ理解出来なかった。なのに、何故かその時の言葉は。俺の胸の奥に大事にしまわれていた。


「やはりウォードさんも……」

「うむ。下手に甘い顔をすると『大公閣下が私を認めて下さった』などと嘯く輩がおおいからな。極力不機嫌でいるよう務めておるよ」


 力ある人間の周囲には、必ずその力をあてにして寄ってくる連中がいる。

 その手の人間を一々相手にすると、きりが無いし、何よ後々敵になったり、獅子身中の虫になったりする。

 そうならない為には、横柄な態度でもって、取引相手以上の扱いとしないのが最良の手だ。

 これも祖父の受け売りなんだけどね。

 結局あの後、俺自身が力ある立場になることは無かったのでその教えが生きることはなかったんだけど、まさか異世界にきて役に立つとは思わなかった。


「ところでウォード様……エスムス卿に関してはあのようにしてしまって良かったのでしょうか?」


 話すタイミングを見計らっていたのか、会話が落ち着いたところでアリィがそう質問する。

 そう言えばエスムス卿は俺に対する態度を問題視され、その場で処分されたんだっけ?

 少なくとも側近だったんだろうし、それを処分してしまって良いのか、俺も気になっていた。


「ああ、エスムスのヤツか。構わんよ。元々周囲からは引退を勧められておったからな?」

「え? 引退ですか?」

「うむ。年齢的なものか、最近のヤツは考え方が凝り固まっていてな。後々問題を起こすのではと危惧する者が後を絶たなんだ。城下の警備長官に甥のマオカを強く推したのも彼奴あやつであったしな」


 ああ、あのマオカを推薦したのってエスムス卿だったんだ。

 しかも血縁者って……道理であの二人、何となく雰囲気とか話し方が似ている筈だ。


「私からも遠回しに引退を勧めていたが、断固として譲らなかったのだ。今回、処分という形ではあるが彼奴を引退させたのは、こちらにとって都合が良かったのだ。故に気にする必要はないぞ?」

「更にはマオカ様にも要職を辞して頂きましたしね」


 ウォードさんの言葉にメリエラが補足をする。

 ……って、やっぱりおっかねぇわ。この爺さん。

 思いっきり俺――というか天使としての俺を利用してんじゃん?

 天使との謁見という想定外の事態を、自分の都合が良いように即利用するとか……。つくづく敵に回したくねええええええッ!


「あの、そんな話を聞いてしまって良いのでしょうか?」


 アリィが恐る恐る手を上げてそう言うと、ウォードさんは一瞬眉を上げると、小さく息を吐き出した。


「当代の聖女殿は、もう少し政治的な取引と言うものを憶えた方がよさそうだな?」

「そうですわね」


 ウォードさんが苦笑しながらそう言うと、メリエラも頷きつつ苦笑する。

 アリィは「え? え?」と言いながら二人を交互に見た後、俺に助けを求めるように向き直った。

 いや、そんな目で見られても……俺だって政治的取引なんてのは物語のなかでくらいしかしらない。

 まあ、ここはあれだろう……。


「アリィ、こういう時は『聞いていない事にする』んだよ?」


 そう言うと、アリィはあっと小さく声を上げ、顔を真っ赤にして慌てて口元を覆った。


「い……今のは聞かなかった事に……しますね?」

「うむ、それで良い。ならば、私はその見返りとして。今後は《聖女》の後ろ盾となろう。何か困ったことがあれば私の元を訪れるが良い。勿論、レイジもな?」

「はい……え? えええええええッ!?」


 ウォードさんの言葉に、最初は頷いたアリィだが、その言葉の意味を理解した直後に大声を上げた。

 俺が宥めると、アリィはソファに座ったまま小さく縮こまっていた。

 まあ、国王陛下も苦手と公言している大公閣下の後ろ盾を得られたのだ。驚くのも無理はない。しかもそれが、タナボタ的に目の前に落ちてきたのだから、尚更だ。

 アリィは、あうあうと言葉にならない声を上げ、その場に固まっている。


「では、早速ですが、リルドリア領の事について情報を頂けるとありがたいのですが?」


 固まったままのアリィを余所に俺がそう言うと、それで良いとばかりにウォードさんは首を縦に振った。


「リルドリアとプレナウスの関係については今も探らせておる。都度スフィアスに連絡するので、そちらから聞いて欲しい。聖遺物に関しても、現状分かる限りのことはスフィアスに伝えてある」

「分かりました。何から何までありがとうございます」

「なに、これもお前に対する詫びのうちだ。気にすることはない。さて、私はここいらでお暇するよ? スフィアスには出発の準備が整ったらここに向かうよう伝えてあるので、彼女が来たら出発すると良いだろう」

「はい」


 そう言うとウォードさんは立ち上がる。

 メリエラもウォードさんを補佐するように、立ち上がった。

 それを見て、俺とアリィも慌てて立ち上がる。


「では行こうか、メリエラ?」

「はい。あの、レイジ?」

「うん?」

「また、レーゼンバウムに来てくれますよね?」

「ええ、勿論」

「その時は晩餐をご一緒頂いても宜しいですか?」

「え? その、メリエラが良いなら是非」

「ふふふ、ではその時を楽しみにしておりますね」


 そう言うとメリエラはウォードさんと共に扉に向かう。

 アリィが先に扉に向かって、ベルを振ると老執事が迎えに来る。

 玄関まで二人を送ると、後を老執事と警備兵に任せ、俺たちは二人が帰るのを見送った。


「ふあああああああああああああああああああああああ……」


 二人を乗せた馬車が見えなくなると、アリィは盛大に息を吐き出して、その場にヘナヘナと崩れ落ちた。

 こういう時、肉体があれば支えてあげられるんだけど、それが出来ないのがもどかしい。


「ま、まさか大公閣下の後ろ盾を得られるなんて……」

「俺もまさかそんな事になるとは……」


 謁見の時はどうなるかと思ってビクビクしてたんだけどね。

 だが、蓋を開けてみれば予想以上に良い結果となった。

 まさか、これも《祝福》の効果なのかね?


「まったく……レイジといると次々とんでもない事が起きますね?」

「え? これ、俺のせい?」

「レイジのせいと言うより、レイジのお陰ですかね。本当にありがとうございます」


 アリィは少しふらつきながらも立ち上がり、そう言って俺に笑いかけた。

 この笑顔が見られるなら、苦労した甲斐もあると……


「で、何やら随分メリエラ様に気に入られていたご様子ですが? あれはどう言うことでしょうか?」


 あれ?

 さっきまで笑顔だったのに、何で今、光が消えた様な目で見られてるの?

 心なしか声も低くなってるんですが?

 それに、寒さを感じない筈なのに、寒気がしましたよ?


「え? え? そうかな?」

「ええ、そうですよ? お食事にまで誘われて。しかも食べることが出来ないのに、あんな約束を……」

「いや、あれはその社交辞令と言いますか……」

「メリエラ様は、そう思って無いようですけど?」


 何かアリィが怖い!

 今まで見たことがないよ、こんなの!?

 女性に対する経験値が低い俺にはどうしたら良いか……」


 ――センパイ。こういう時は……


 突然、脳裏に懐かしい声が響く。

 さっき祖父の事を思い出したせいか、今日はヤケに元の世界の事を思い出すな……。


「アリィ、あのさ……」

「何ですか?」

「《神の肉体》を手に入れたら、二人で食事でもしないか?」


 俺の言葉にアリィはキョトンとした後、ついっとそっぽを向いてしまう。


「メリエラ様より先に……ですか?」

「勿論」

「なら、許してあげます」


 アリィはそっぽを向いたまま、小さくそう言った。

 そしてそのまま屋敷の中にスタスタと歩いて行く。

 あれ?

 でも俺って、アリィに許して貰わなけりゃならない事をしたんだっけ?


「何してるんですか、レイジ。さっさと出発する準備をしますよ!?」

「ああ、分かった」


 いや……実のところ俺、何の準備の必要もないんだけど?

 まあ、これを口にするとまたアリィの機嫌が悪くなりそうなので、それは黙っておくことにした。

 ただ、ちょっとだけ俺の中に引っかかるものがあった。


 ――さっきのアリィ……本当にアリィだったのかな?



いやー……今回は難産でした。

大公閣下を、ファンタジー物にありがちの「馬鹿な貴族」にしたくなかったため、何度も書き直してしまいました。


次章からはいよいよ、神の肉体編となります。


その次は……当初の予定になかった迷宮都市編になりそうな……。


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