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どうやら俺は異世界転生したはずが死んでる模様  作者: 仁 智
第三章:大公爵との出会い
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どうやら俺はアリィ達に恨みがましく思われる模様


 大公閣下は不愉快そうな視線をエスムス卿に向けたまま動かない。

 その目には、事態を理解していないエスムス卿に失望したような感情さえ浮かんでいる。



「た、大公閣下……い、一体何を?」


「何度も言われないと分からないのかね、君は? 私は君に『控えろ』と言ったのだよ」


「そ、そんな……何かのご冗談では?」


「私がこういうことで冗談を言わないことは知っているな?」



 大公閣下は、知らないとは言わせないとばかりに、エスムス卿に刺すような視線を飛ばす。

 エスムス卿は、混乱の中でもその意図を感じ取ったのかガタガタと震えだした。



「はっきり言おうか? 君はこの場には相応しくない。即刻退室したまえ」


「な…………あ、か…………」


「どうした? 何をジッとしている?」


「た、大公閣下……私に何か落ち度がありましたでしょうか?」


「分からんか?」


「は…………」


「ならば聞こう。君は何故《神の御使い》である天使に横柄な態度を取った?」


「そ、それはあの天使が大公閣下を前にひれ伏さないから……」


「何故、《神の御使い》である天使がひれ伏さなければならないのだ? しかも君の命令に従って……」



 大公閣下は《神の御使い》を何度も強調するように言った。

 その度に、エスムス卿は萎縮していく。



「そ、それは……」


「それは?」


「それはあの怪しげな者が天使を偽ったからで……」


「証拠はあるのかね?」


「そ、それは…………」


「私は何人もの部下から、創造神様が御姿を顕されたと報告を伺っているよ。その際、創造神様自らその天使に光を注いだとね。勿論それが幻覚の類いではないことも調査済みだよ。なのに何故君はその天使が偽物と言い張れるのかね?」


「……………………」


「反論が無いならここから立ち去りたまえ。君の処分については追って指示するが、まあ私の傍仕えを今後も続けられるとは思わぬ事だ」



 エスムス卿はガチガチと歯を鳴らしながら、重い足取りで奥の扉に向かう。

 扉の前でこちらに振り返るが、目線を上げないまま深々と頭を下げた。



「し、失礼します……」



 それだけを何とか絞り出すとエスムス卿は退室した。

 それを機に、重苦しかった空気が少しだけ和らぐ。



「さて、配下の者が少しばかり失礼をしたね。そもそも私は天使殿を呼びつけるつもりはなかったのだが、どうやら先ほどの男が余計な真似をしたようだ」



 そう言って大公閣下は、相変わらず機嫌の悪そうな目で俺をジッと見る。

 ただ、一瞬だけ口角が僅かに上がっていたのを俺は見逃さなかった。

 立場が立場の為か、その口から謝罪の言葉はない。

 ただ、俺も謝罪を求めていた訳では無いので、その事はどうでも良かった。

 それより大公閣下が部下の非を認めた発言をしたことに、少々驚いていた。



「そちらの天使殿はお初にお目にかかるな。私はウォード・ユロガ・レーゼンバウム大公爵と申す。隣に座っているのは私の孫娘であるメリエラだ」


「メリエラ・レーゼンバウムでございます。本日は聖女様と天使様にお目通りが叶い、まことに光栄ですわ」



 メリエラは、そう言って春の花のように健やかな笑顔を浮かべた。

 先ほどの緊張状態からは既に解放されたのか、今は凜とした態度で俺に接している。

 あと、もう天使設定からは逃れられない模様。

 仕方ない。開き直るか。



「レイジ……いや天使レイジエルと申します。この度はお目にかかれて光栄です」


「今は随分と澄んだ魔力でいらっしゃいますのね?」


「先ほどは失礼いたしました。あの者の態度があまりに失礼であったため、嗜めるつもりで魔力を放ったのですが、些か強すぎたようです」


「本当ですわ。私、あれほどの魔力放出を感じた事は初めてでしたから、少々驚いてしまいましたわ。私に魔術を教えて下さる先生も、あれほどの魔力を出せませんのよ?」



 そ、そうだったのか。

 大公爵の孫娘が師事する魔術師となれば、相当な実力者だろうに。

 今後はもっと微細に調整できるようにならないと、どんどん自分の首を絞める事になりそうだ。正直、このまま天使を続けるのもツラいっす。



「それより……君たちは私に話すべき事があったのではないのかね?」


「は、はい。国王陛下より書簡を預かってございます」



 大公閣下の言葉に、それまで少しだけ呆けていたアリィが慌てて懐から書簡を取り出す。

 スフィアスが近付いてその書簡を受け取ると、それを大公閣下に渡した。

 大公閣下は封を解いて書簡の中身を取り出すと、ゆっくりと目を通す。



「ふむ……事の顛末については了解した。君たちの迅速な対応についても感謝する。で、君たちはこの後リルドリア領に向かうのだな?」



 大公閣下の態度は相変わらず変わらない。不機嫌なままだ。

 その理由に察しの付いてしまった俺は、こういうものだと受け入れている。

 だが、ミディやレリオは大公閣下の一挙手一投足に萎縮していた。

 アリィは既に気持ちを切り替えたのか、今は落ち着きを取り戻している。

 ラグノートは…………元近衛騎士団団長だけあって、慣れているんだろうな。



「はい。彼の地には《魔国プレナウス》の魔の手が迫っている可能性があります。それに神託にて《聖遺物》の回収を命ぜられておりますゆえ……」


「直ぐに発つのか?」


「時間が惜しいですから……」


「少しばかり出発を遅らせてくれんか、リルドリア公爵に書簡を届けて欲しいのだ」


「私達に、ですか?」


「うむ。勿論、私の配下の者も同行させよう。午後までには準備をさせよう」



 そう言うと大公閣下はスフィアスを見た。



「行ってくれるな?」


「はい」



 スフィアスは恭しく頭を下げた。

 アリィは暫く目をしばたたくと、やがて何か察したのか「よろしくお願いします」と頭を下げた。



      ■



 こうして、レーゼンバウム大公爵への謁見は幕を閉じた。

 謁見の間を出た後、誰も一言も発しないまま別邸まで戻る。

 リーフとモモが出迎え、全員がリビングに集まる。



「で、どうじゃった?」



 リーフがそう切り出すと、それまでずっと黙っていたアリィ達が一斉に大きな溜息を漏らす。



「はああああああああああ……生きた心地がしませんでしたよ?」


「まったくやで、戦場でも無いのに死を覚悟するところやった」


「私なんか、目の前真っ白になって倒れそうでしたよ?」


「しかし、まさか大公閣下が非を認められるとは……」


 アリィが大きく方を落とし、レリオも身震いする。ミディは軽く頭を振り、ラグノートは信じられないものを見たかのような表情を浮かべた。



「まったく誰のせいだ?」



「「「「レイジのせいでしょうが(やろが)!」」」」


 一斉に俺を恨みがましい目で見るアリィ達を見て、事情が分からないリーフ達は、ただ目を見開いた。

 いや、俺のせいじゃなくてあのタコのせいじゃね?

 そう言いたかったが、全員の視線はそれを許してはくれなそうだった。

 ………………解せぬ。




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