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どうやら俺は異世界転生したはずが死んでる模様  作者: 仁 智
第三章:大公爵との出会い
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どうやら俺は謁見してはいけないことに気付くのが遅れた模様

 翌日。

 朝食を終えた俺たち――例によって俺は除外する――は謁見の為にレーゼンバウム大公爵の本邸を訪れていた。

 今は呼ばれるまで別室で待機しているところだ。


「ううううう、緊張するわぁ……」


 普段明るいレリオがそう言って暗い顔をする。

 まあ、身分の高い相手に会うのは俺だって緊張するし、苦痛にも思う。

 堅苦しいのが苦手と常日頃口にしているレリオにとって、大公閣下との謁見は苦痛でしかないのだろう。


「何時までも緊張していないで、覚悟を決めんかッ!」

「いや、でもミディちゃん」

「その呼び方をするなッ!」


 あ、最近ご無沙汰だった遣り取りだな。これ。

 初めて会った頃はこんなだったっけ。

 あの頃はミディが俺を警戒していて……。

 ………………もしかして……。


「ミディも緊張してる?」


 ミディは緊張すると、少し余裕の無い発言が増える傾向にある気がする。

 そう思ってちょっと話を振ってみると、ミディはピクンと片を震わせて言葉に詰まった。


「は、はい……実は……」

「やっぱり……」

「まあ、レリオやミディが緊張するのも致し方ないでしょうな。儂もあの方に会うときだけは未だに緊張しますし……」

「そんな、凄い人なのか……」


 ラグノートすら何度も身体を揺すって緊張をほぐそうとしている。

 一体、どんな人物なんだか……。


「つうか、いっつもムスッとしてて怖いねん、あのオッサン」

「しぃッ! 誰かに聞かれたらどうするんですか!?」


 そう言う場合、既に誰かに聞かれてたりするのがお約束よね?

 そう思いながらもアリィの様子を窺うと、同様に堅くなっているのが分かる。

 アリィですらこれほど緊張するのだから、相当な相手と思って良さそうだ。

 …………益々会いたくねぇ。


 なお、リーフとモモは別宅にて留守番をお願いしていた。

 昨日の事もあり、俺の傍に置いておくのは危険と皆が判断した。

 それに、リーフからしたら人間にわざわざへりくだるような真似をする訳にはいかない。かといってそれは大公閣下も同様だろう。

 そんな二人をわざわざ会わせる必要が無いという意見で満場一致したのだ。


 それに呼ばれてもいない者を謁見の間に連れて行く訳にも行かないという、真っ当な理由もあった。

 逆に言うと、呼ばれてしまった俺は行かざるを得ないのだが……。

 そう思った直後、部屋にノックの音が響き渡る。

 ついに、その時が来たようだ。



      ■



 俺たちが謁見の間に通された時、そこに肝心の大公閣下の姿は無かった。

 アリィ達はそれを気にした風もなく、それぞれ整列し膝を着いてこうべを垂れた。

 俺もそれにならい、アリィの隣で同じようにする。

 まあ、見た目だけでも跪いているように見せないとね。


 ……あれ? 俺はここでへりくだるべきなのか?

 ………………あ。

 駄目じゃん、これ!?

 そもそも俺はここに来たら駄目なやつだった!

 今から退室する訳には……行かないよね?


「……レイジ?」


 跪かない俺にアリィが怪訝な顔をする。

 他の皆も同じように俺を見る。


「アリィ、俺はどう言う立場でここに呼ばれた?」

「それは勿論、天使…………ああっ!」


 アリィもここに俺がここにいる事に問題があると気付いたようだ。

 とは言え状況は手遅れ。

 果たして大公は何を考えて俺を呼んだ?

 俺が断ると思っていた?

 となれば俺は大公の思惑とは異なる行動を取ったことになるが……いや、そもそも……。


「アリィ、以前に天使と認定された存在が地上に現れたのは何時だ?」

「千年前になりますね」


 元の世界だったら千年前の伝説なんて只のお伽噺だ。自称天使が現れたら、単なる危ないヤツと思われるだろう。この世界だってその点は同様と考えられる。天使認定された対象なんて眉唾ものと思われていても不思議ではない。

 昨日マオカ達がひれ伏していたが、あれは俺にではなく、背後に顕れた創造神に対してひれ伏していたとみるべきだ。

 それだって《創造神の御姿》を見て驚いたというより、その姿から発せられる圧倒的な圧力を前に屈したようなものだ。

 文字通り神の威光を前に屈服したのだ。


 つまり、その《神の威光》を見ていない人間が《天使》を前にして考えるのは、その存在の否定ではないだろうか。

 特に身分の高い者なら尚のこと、自身より上の存在としての《天使》を絶対に認めない。

 だが、成り行きとは言えこっちも正式に《天使認定》されているのだ。

 例え大公爵……いや、王族であっても安易に頭を下げる訳には行かない。

 ……と思う。

 こっちの天使の立場が人間より下で無ければだが……いや、昨日のマオカ達の態度や周囲の反応を見る限り、それは無い。

 そこまで考えたところで、謁見の間の奥にある扉が開かれ、誰かが入ってきた。

 俺は跪くことなく、立ったまま憮然とした表情で入ってくる人物を見た。


 最初に入ってきたのはスフィアス。スフィアスは俺を見ると、ギョッとした顔を見せたがそれでも何も言うこと無く向かって左側の壁に控える。

 その後に入ってきた老人は…………ジロリと俺を睨んだ後、特に気にした風もなく玉座に座った。

 やはり間違い無い。あの人物こそが《大公閣下》と呼ばれる《ウォード・ユロガ・レーゼンバウム大公爵》その人だろう。かなり高齢なのは間違い無いが、年齢に相応しくない程の覇気が感じられる。その気配は大公爵を年齢より遙かに若く見せていた。

 その立ち振る舞いには支配者としての威厳が滲み出ている。レリオがおっかないと評したのも良く分かる。顔に張り付いた不機嫌そうな態度が、感じる畏怖に拍車をかけていた。だが、俺はおっかないというより、少し懐かしさの様なものを感じていた。

 大公閣下のもつ雰囲気は、忘れかかっていた記憶を思い出させる程に、とある人物に似ていたのだ。

 その後から清楚な少女が入ってくる。

 大公閣下の血縁者だろうか……まさか、奥さんってことは……無いよな?

 こちらもまた俺を見ると、ほんの少し口角を上げただけで、何も言うこと無く大公閣下の隣に座った。

 その後、やや遅れて神経質そうな禿げ上がった壮年の男性が入ってくる。

 レーゼンバウム領の政治家――政客の一人だろうか?

 このような場に来るくらいだ。立場的に宰相とかに就いているのかも知れない。

 その男は、俺を見た瞬間に烈火の如く怒鳴り出した。


「貴様あああああああッ! 控えんか、この無礼者があッ! 大公閣下の御前であるぞッ!」


 その男に、俺は不機嫌な態度を崩さず一度だけ視線を向け、そのまま面白く無さそうに大公閣下に視線を戻した。


「その態度はなんだッ! さっさと控え、頭を下げろッ!」


 その態度に腹を立てたのかその男は顔どころか頭全体を真っ赤にして俺を怒鳴り散らす。

 文字通り茹で蛸のように真っ赤だ。

 ……タコ食べたい。クーエルの知識の中にタコ料理あったから、きっとこっちの世界にもいる筈だ。


「何か言わんかッ! それとも何か!? 天使と言うのは人の言葉も話せんのかッ!」

「レーゼンバウム領では大公閣下の代弁者としてタコが喋るのか?」

「ブフッ!」


 俺の返答に、笑いを堪えきれずに噴き出したのは大公閣下の隣に座る少女だった。

 スフィアスも噴き出しそうになったのか、俺に恨みがましい目線を向けながらも必死に堪えている。

 俺の隣からもプルプル震える気配を感じる。特にレリオは大声で笑い出しても不思議じゃ無いほど震えている。

 ただ、大公閣下だけは何の変化も見せず、黙って俺を見ていた。


「き……ききききき貴様ァッ! だだだ誰に向かってそのような口をきいているッ!」

「そもそもコレは何だ? この不愉快な生き物を見せる為に私を呼びつけたのか?」


 俺はワザと尊大な態度をとって大公閣下にそう言う。

 タコに関しては敢えて相手をせずに無視を決め込む。

 天使として呼ばれたのであれば、俺はここで下手に出てはいけない。

 神の使いが大公爵とは言え、一介の人間に頭を下げるような真似をしてはならないのだ。

 それこそが俺がここに来てはいけなかった理由。

 この事に気付くのが遅れたのは失敗だった。

 ラグノートやミディが動揺している気配が伝わってくるが、二人ともアリィが何も言わないので、それ以上のことが出来ずにいる。

 アリィの立場からしたら、失礼な行いをしているのは大公爵側なので何も言わない。


「貴様……自分の立場を考えてものを言えよ? 大公閣下がその気になれば、諸侯に聖女に協力しないよう命じることも可能なのだぞ?」


 自分の力を使えよ、タコ。

 お前は終始、大公閣下頼みなのか?

 まあ、俺も神の威光とやらを全面に押し出してるので人の事は言えんか。


「つまりレーゼンバウム大公爵は神敵と認定されたいと?」


 俺は少し強めに魔力を放出してジロリと大公閣下を睨んだ。

 俺の言葉を聞いて引きつったのはスフィアスだ。

 タコも魔力に当てられたのか、「なぁッ!」と声を上げたあと、硬直している。

 大公閣下の隣に座る少女も、何とか気丈な態度を取っているが、若干青ざめていた。

 ただ、大公閣下だけは何も変わらずに俺を値踏みするように見ていた。


 すげぇわ、この人。

 普段一緒にいるアリィ達ですら、俺が強めに放った魔力に気圧されそうになっているってのに、大公閣下だけは微塵も変化が無い。

 くぐってきた修羅場の数が桁違いなのが俺にも分かる。

 出来れば敵に回したくは無いのが本音だ。


 かといって、俺も態度を軟化させることは出来ない。

 だから俺は徹底的に尊大な態度を崩さなかった。

 不意に、昔聞いた言葉が耳の奥に甦る。


 ――良いか、レイジ。力を持つ者は他者に対して尊大な態度を崩してはならん。でないと付け入ろうとする輩が後を絶たんからな。常に不機嫌に怒りっぽく見せていろ。ただし本当に怒るなよ? 冷静でいなければならんぞ?


 僅か数回会っただけの父方の祖父の言葉。

 もう顔も思い出さないのに、その言葉だけはやけに印象に残っている。

 そう言えば大公閣下と何処か似ているところがあったのかもな。


「それとも何か? レーゼンバウム大公爵は天使を屈服させたと諸侯に自慢でもしたかったのか? ふ…………そこらの有象無象の貴族と変わらんか」

「きっさまああああああッ!」



 気圧されていたタコが我慢の限界を迎えたように叫び出すが、それでも俺はタコを相手にしない。大公閣下から視線を外せば負けを認めるようなものだ。

 だが、それまでずっと黙っていた大公閣下は、俺の言葉に僅かに眉を上げる。

 そしてゆっくりとその口を開いた。


「……控えんか」


 重量感のある声で、それだけを言う。

 その瞬間、謁見の間にいた全ての人間が一斉にピタリと静まった。

 俺はと言うと、大公閣下を正面から見据えたまま動かずにいた。

 怖えええええええええッ!

 正直、逃げ出したいほど怖えええええええッ!


「そうだ、大公閣下の御前だぞ! 天使如きが図に乗るなッ!」

「控えるのは君だ。エスムス卿」

「……………………え?」


 大公閣下の言葉と不機嫌そうな視線はタコ……もとい、エスムス卿と呼ばれた男に向けられていた。



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