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どうやら俺は異世界転生したはずが死んでる模様  作者: 仁 智
第三章:大公爵との出会い
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どうやら俺は魔に近い者の重要な特性を知る模様


「では、明日はよろしくお願い致します」



 宿泊先まで案内された後、スフィアスは深々と頭を下げてからやや疲れを滲ませつつ立ち去った。

 本来はアリィが到着後直ぐに謁見をする予定だったのだが、領内が慌ただしい事から明日に延期となった。

 まあ、街道に温泉掘っちゃったしね……。

 街道と畑の整備と警備に人員を割かねばならず、そのせいで館内の警備がどうしても手薄になってしまう事から、訪問者に対する対応がことごとく出来ない状態となったのが大きな原因だった。

 スフィアスも早急に対応が必要な案件が残っている事もあり、早々に館に戻らねばならなかったのだ。

 本来なら謁見後、ミディとゆっくり話す機会もあっただろうが、現状では時間の確保も難しいようだ。

 ミディとしても別の領地で騎士として務めていた姉が、何故レーゼンバウム領にいるのか聞きたかったらしいが、それはまたの機会となった。

 ただ、明日の謁見後は早い内にリルドリア領に向かわねばならず、姉妹の団らんはリルドリア領の問題が片付いてからと言うことになりそうだ。


 そんな事もあり、俺たちはレーゼンバウム大公爵の別邸にて(くつろ)がせて貰うことにした。

 俺の場合、ソファに座ったりベッドに横になったり、食事をしたり風呂に入ったりできないから何処でも同じなんだけどな…………悲しみ。


 その後、食事の用意が調ったからと、皆がダイニングルームに招かれた。

 なお今回も俺は皆の食事風景を見ていただけである。そう……見ていただけ……だが、今回は今までと少しばかり違っていた。

 スフィアスが俺を訪問者として扱った為、館内では姿を隠さずにいたのだが、それゆえ俺の分の食事も用意されてしまったのだッ!

 …………食べられないのに。

 食べられないからと断ったのだが、客人の対応に差を付ける訳には行かないと言われ、仕方なく料理が目の前に次々並べられるのを受け入れたが………………お供え物かよッ!


 結局、並べられた料理には一切手を付けること無く、そのまま片付けられたのだ。

 ……後でスタッフが美味しく頂いたに違いない…………。


 俺に取っては地獄の一時間だった。



    ■


 食後、俺たちは今後について話し合いを行うため、客人用の広間に集まっていた。

 皆がソファに座っているので俺もならう。先ほどのダイニングといい大分座ったフリが板に付いてきた気がする……まあ、そんな事はどうでも良いか。


 因みに話し合いの前にリーフに説教しようと思っていたのだが……その当人はモモと共に俺の隣に座っており、二人ともお腹をさすっている。

 二人とも食べ過ぎらしく、少し苦しそうだ。タップリ飯を堪能しやがってなどと思うより、大丈夫かと心配になった。

 途端に二人とも、何故かほにゃっと笑顔を浮かべる。


「大丈夫じゃ、少し其方の感情に煽られて食べ過ぎただけじゃ?」

「ですの~~~~~~」

「え? どういうこと?」


 モモの態度はちょっと可愛かったが、それより聞き捨てならない言葉を聞いた俺はリーフに聞き返した。

 俺の感情に煽られるって……。


「我らは其方の庇護下にあるからの……其方の魔力を通して其方の感情の影響を受けることがままあるのじゃ」

「ですの~~~~~~」

「………………初耳なんですが?」

「そうじゃな、これまで影響が少なかったゆえ言わずにおいたが、どうやら其方が妾達を庇護下に置いたと認識したことで、影響が大きくなっているようじゃな」

「それって大丈夫なの?」

「まあ、元々は《魔力に対する依存度の高い生物》……つまりは《魔に近い者》が、群れを統率する際に利用する能力じゃからの……大きな問題にはならん。ただ、庇護者である其方の感情によって行動の優先度が変わると、そう思えば良い」


 つまりは庇護者やリーダーの意思に従いやすいと言うことか……。

 結構、影響は大きい気がするが、そう言うものと割り切った方が良いのか?

 ……って、あれ?


「あのさ、リーフ……もしかして、マオカに殴りかかったのって?」

「だって、レイジ……其方はあのマオカなる人物に怒っておったじゃろう?」


 うえええッ!

 それが原因なのッ!?

 いや、確かに苛ついてはいたんだけどさ。

 昔から、ああいった権力を笠に威張り散らす人間はどうにも好きになれないし……嫌な過去を思い出し、どうしても苛ついてしまうんだけど……。


「其方の庇護下にある妾やモモにとって、其方が敵と感じた存在は妾達にも敵になるのじゃ。さらにあのマオカという人間は己の分も弁えず傲慢であった……故に己が敵意を向けた相手が何者か教えてやらねばと思ったのじゃ……」


 …………あのトラブルの原因は俺でした。

 って、ちょっとッ! これだと、俺は下手に誰かを恨んだりとか出来ないじゃん?

 いや、俺だってこんなんだけど元人間ですよ?

 普通に誰かを憎たらしく思ったりしますよ? 聖人君子じゃないんだから…………。

 いや、お前、《聖人》認定されてるじゃんって?

 そこは触れないで!?

 話を戻すと今後誰かを憎たらしく思うことも出来ないってこと?


「いや、心で憎々しく思いつつ表に出さないのが『大人の対応』なので……心中察してくれるのは嬉しいけど、勝手な行動は取って欲しくないなぁ……」

「いや、其方はかなりあのマオカとやらを憎々しく思っていたぞ? それこそ親の仇のようにの?」

「え? そうだった?」

「はいですの。ご主人様はそう思っていたのですの」



 マジかー。

 と言うかモモ、その喋り方はどうした!?

 ここ数日リーフに言葉を教わっていたけど……ってお前のせいかッ!

 これについても説教したいところだが『だって、其方はこう言うの好きじゃろ?』とか言われそうなので我慢しておく。

 いや、別にモモがちょっと可愛かったとか、そう言うのじゃないから!?

 本当だから!?


 ………………コホン。

 しかし、庇護下にある対象って俺の感情を割と明確に感じ取るのかぁ……。

 …………《魔国プレナウス》の魔王《紅蓮王》が『君臨すれども統治せず』ってスタンスなのは下手なことを思うと配下が戦争を起こすからとか、そう言う理由じゃないよな?

 ……可能性はありそうだ…………。


「兎に角、今後俺がそう言う事を思っても、下手な行動は取らず一度は俺に相談してくれ」

「分かった……極力そう努めよう」

「はいですの!」

「だがあの時はしかたなかったのじゃ!」「ですの!」


 おい。

 反省してねぇじゃん?



      ■


「それで明日の事ですが、明日は謁見後、即リルドリア領に向かって出発します。《魔国プレナウス》に神の肉体である《聖遺物》が持って行かれるのは、極力阻止しなければなりませんから……ミディには申し訳ないのですが……」


 そうだよな。本当はミディとスフィアスにはゆっくり話をして貰いたい。

 ミディの反応からしても会うのは久しぶりなようだし……。


「いえ、今はリルドリア領に向かう事が急務です。私の事はお気になさらずに……」

「まあ、リルドリアでの用事が済んだら、またここに寄っても良いんじゃないか?」


 本当は姉と話したいこともあるだろうと思った俺は、そう提案する。

 その言葉にアリィとレリオ、ラグノートも頷いてくれた。


「そうですよ。私の方からも大公閣下にそう申し上げておきますから」

「で、ですが……」


 ミディはアリィの言葉に申し訳なさそうに遠慮しようとするが、それを遮ってレリオが明るく言う。


「そうやで、折角会える機会があるんやったら会っとくべきやで」

「うむ、我々のような仕事はいつ何が起きるか分からん。家族には会えるときに会っておけ」


 ラグノートも同様にそう勧めた。

 リーフとモモは何も言わなかったが、これは当然とも言える。二人とも《家族》の概念が分からないのだ。

 リーフはそもそも転生を繰り返す始まりの竜プリミティブ・ドラゴンであるし、モモはゴブリンの群れの中で迫害されて生きてきた。

 だから敢えて口を挟まずにいるようだ。

 そんな感情が俺の中に流れ込んで来る。

 ……なるほど、庇護下の者に対し俺の感情が影響を与えるように、その逆もあるのか。

 もしかしたら一部の《魔物》はこの庇護関係にて家族を形成しているのかもしれないな。


「じゃあ、何か大きな事件などが無ければ、リルドリア領からまたここに戻ってくると言うことで良いよね?」


 俺がそうまとめると、皆笑顔で頷いた。


「で、でもレイジ様……レイジ様は家族に会えないのに……」

「ん~~~~~? 俺は元々天涯孤独の身だったから……あ、別に変に気を回したりしなくて良いぞ?」


 そう言って俺は苦笑する。


「そ、そうだったのですか……」

「だから、そんな顔するなって……あ……」


 落ち込みかかったミディを励まそうと声をかけたところで、俺はとあることを思い出した。

 忘れていたというか、意図的に忘れようとしていた事を思い出し、一瞬硬直してしまう。


「どうかしましたか? 何か気になる事でも?」

「いや、ちょっと昔を思い出してた。実は腹違いの妹がいて……まあ、一緒に暮らしたこともないし妹と分かってからは殆ど会ったこともないからあまり家族って感じじゃないんだが……」


 アリィの問いにちょっと堅くなりながら俺はそう答えた。

 いや、アリィ達に知られると都合が悪いとか、そういう事ではない。

 ただ……もし《義妹》の事を忘れていたと本人に知られたら……そう考えて、少しだけ恐怖を覚えたのだ。

 いや、だってアイツ絶対怒るもの……。

 う、何故か寒気がする。


「その人は今……って聞いても分からないですよね?」

「そうだな……主観時間で四年前を最後に会ってないし……」


 今どうしてるかなんて分かるはずも無い。

 俺が死んでからあっちの世界がどの位時間が経っているのかも不明だし。

 ……元気してんのかな?


「まあ、俺の話は良いじゃん。まずは明日の謁見を無事に終わらせて、その後リルドリアの問題を片付けて、それでまたここに戻って来る! 大雑把にそんな予定で良いよな?」

「戻ってきたときには温泉に入れるかもしれんで!?」


 俺は雰囲気を変えるため、わざと大きな声でそう言った。

 俺の心情を汲み取ってか、レリオもそんな軽口を叩いた。

 皆もそれに気付いて口々に「了解」と言ってくれる。

 本当は俺が仕切る事じゃないんだけど……。


 だが、本来この場を仕切るべきアリィは、何か気になる事があるのか少しばかり曖昧な返事をした。


「アリィ? 何か気になる事がある?」

「いえ、そんな事はないですよ?」


 アリィはいつもの様に穏やかな笑みを浮かべ、そう言った。

 だが、その笑顔とは裏腹に、何かを気にしているのは確かなようだ。

 それでも、ここでしつこく追求すべきでは無いと判断した俺は、それ以上何も聞かなかった。




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