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どうやら俺は異世界転生したはずが死んでる模様  作者: 仁 智
第三章:大公爵との出会い
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どうやら俺は悪霊としてその姿を顕す模様


「ぐげぇぇぇぇ……」



 リーフがマオカを蹴り上げたのを見て、俺は慌てて馬車から出ようとする。



「ご主人様、そのまま外に出ては駄目ですの!」



 モモの言葉に、俺は冷や水を掛けられたような気分になる。

 いけない、いけない。

 危うく状況をもっと複雑にしてしまうところだった。

 俺は姿を消してから、馬車の外に出た。


 数メートル上空までカチ上げられたマオカは、騎士達の真ん中に落下する。

 幸い、騎士達が受け止めたので『打ち所が悪くあの世行き』なんて事にはならなかったが、大の大人が年端もいかない少女に高々と空中に蹴り上げられたと言う事実は、その場にいた全員に少なからず衝撃を与えた。

 あまりにも現実感の無い絵面に呆ける者、リーフを危険視し警戒する者……リーフの暴挙を止められなかった事を後悔しているのは勿論俺たち全員だ。

 ただ、中には殴り飛ばされたマオカを見て、笑いを噛み殺す者がいた。マオカと言う人物は、どうも人望が薄いようだ。


 だが、俺たちからしたら笑い事ではない。

 レーゼンバウム領の警備を担当する文官を蹴り飛ばしたのだ。このまま逮捕されても文句は言えない。まあ、物理的拘束が事実上不可能な俺を逮捕出来る人間がいるかは別問題として……もだ。


 警戒を強めていた騎士が思い出したように俺たちを取り囲む。

 このまま大人しく捕まるべきか思案しながらアリィの方を見た。

 アリィは額に手を当て天を仰いでいた。

 ひっくり返りそうになっているアリィをラグノートとミディが慌てて支えようとする。

 レリオだけは、太陽の如き明るい笑みを浮かべ、リーフに向かってサムズアップを決めている。いや、そんな場合じゃないでしょ?

 って、こら。リーフもサムズアップで返さない。

 なんですか、そのドヤ顔は?

 褒めて欲しそうな顔をこっちに向けないで下さい。ここには誰もいないんですよ? てか何で俺のいる位置が分かるんですか? 【透明看破】の魔法ですか、そうですか。



「キ、キサマらーーーーーーーーッ! この私にこんなことをしてタダで済むと思うなッ! オイ、コイツらを引っ立てろッ!」


「し、しかし聖女様を捕らえるなど……」



 リーフを警戒しているとは言え、流石に『聖女を捕らえる』ことに抵抗があるのか、一部の騎士が異論を唱える。

 だが、マオカという人物は口角に泡を浮かせ、半狂乱になって叫ぶ。


「貴様も見たであろうがッ! あのような化け物を従える聖女などあるものかッ! 悪霊に取り憑かれたという噂もある者は、聖女などではないッ! 聖女の姿をした淫売だッ!」


「「「ア゛ア゛ッ!?」」」



 マオカが発した暴言に反応したのは勿論、ミディ、レリオ、そしてラグノートだった。

 ミディなんかもう既に抜剣してて、今にも斬りかかりそうである。

 アリィが何とか宥めようとしているから、まだ大事に至っていないだけで、マオカが次に余計な一言を発したら確実に止まらない。

 だが、そんなアリィ達の前にズイッと出たのはリーフだった。



「小僧……妾をまたもや化け物扱いしおったな?」



 そう言って、リーフは突然……………………服を脱ぎだした。


 ………………はい?


 いや、何を言っているのか分からないと思うかも知れないが、俺にも分からない。

 大勢の騎士達に囲まれた中央で、突然リーフは全裸になり、起伏の少ない裸体を晒したのだ。日本だったら逮捕案件である。脱いだ方と見てる方、どちらが捕まるかは知らんけど。

 あと、いつの間にかモモが馬車から出てきて、リーフが脱いだ服を回収した。

 敵味方の時間が静止する中、凜とした態度でリーフは胸を張る。

 その姿には全裸でありながらも王の威厳があった。

 普通の少女では有り得ないほどの圧倒的な威圧感に、騎士達が冷や汗を流して一歩下がる。

 ……全裸少女に威圧される騎士って絵面はどうかとも思うが……。



「このように、武器一つ身につけていない可憐で幼気いたいけな少女を化け物と、そう言うのだな?」


「……あ、当たり前だッ! 人間の、しかも少女にあのような力が出せるものかッ! この穢らわしい魔物めッ!」


「先ほどから黙って聞いておれば、おぞましいだの穢らわしいだのと……人間風情が……」



 いや、ちっとも黙って聞いてなかったですからね?

 即、手が――と言うか足が――出てましたらね?

 しかも変身までして…………え?


 リーフはそのまま半人半龍の姿を経て、完全な竜の姿へと変化する。

 俺たちの見ている前で、それは見る間に巨大化し、全長が一〇数メートルに及ぶに至った。

 初めて俺たちの前に飛来した時に比べれば格段に小さいが、それでも卵から孵った直後に比べれば遙かに大きい。僅か数日でここまで育つとは……始まりの竜プリミティブ・ドラゴン恐るべし……。



「いや、これ、絶対にレイジのせいですからね?」



 誰かがボソッと呟いた気がするが、聞こえなーい。


 リーフが変身を終え、その紅玉のような瞳で騎士達を見下ろす。

 額には始まりの竜プリミティブ・ドラゴンの証である、竜玉が輝き、そこから天を衝くような魔力が迸る。

 これまた宝石の様に輝く全身の紅い鱗が、目の前の存在が遙か高位の竜であることを、この場にいた全員が本能で理解する。



「我を侮蔑したのだから、相応の覚悟はあろうな?」



 リーフが今までに聞いたことのない、ドスの利いた声でそう告げると、マオカは小さな悲鳴を上げて、その場にへたり込んだ。

 周囲の騎士達も、「まさか……本物?」だの「竜転生をしたとは耳にしたが……」と口々に言うが、リーフが本物と理解しているのか、誰も剣を向けようとはしない。



「だ……騙されるものかッ! 知っておるのだぞ! 聖女には悪霊が憑いているだろうッ! その悪霊が見せる幻などに私が騙されたりはしないッ!」



 へたり込みながら言っても説得力は皆無だが、それでもその発言は無視できない。

 少なくとも、霊体が傍にいることを知っているような口振りが、どうしても気になる。

 今のところ、俺がアリィの傍にいることは《魔国プレナウス》にも知られていないはずだった。

 いや………………思い起こせば、レーゼンバウム領に入ってから監視の目は確かにあった。

 見つからないよう注意は払っていたが、大公爵ともなれば諜報に長けた斥候を部下に持つ可能性は高い。

 もしそこから報告を受けていたとしたら?

 その可能性は相当に高いと判断すべきだ。

 でなければ、いくら何でも理由も無く聖女に対し、『国家転覆の嫌疑』をかけたりしないだろう。


 ……つまりは俺のせい?


 困ったな。

 俺はアリィには本当に感謝しているし、アリィには迷惑を掛けたくないと思っている。

 その割に俺のうっかりで多大な迷惑を掛けていることも知っている。

 そして今、アリィは俺のせいで疑いを掛けられている。

 やはり、俺はアリィの傍にいるべきではないのではないか?

 だったら俺がすべき事は…………。



「その悪霊とは、もしかして俺の事か?」



 そう言って俺は誰にでも見えるよう、その姿を顕す。その際、魔力を多めに放出し、多少身体の大きさも大型に調整した。

 見た目はいつも通りの幽霊っぽい外見だが、少しアレンジしてフードを降ろし、自分の顔を晒し、尊大で傲慢な態度でマオカを見下ろした。

 マオカは仰天して俺を見つめ、口をパクパクとさせたまま言葉を出せずにいる。

 アリィ達が何か言いかけたが、俺はそれを手で制して続けた。



「悪霊とは俺の事かと聞いているんだが?」



 普段より威圧的な言葉遣いでそう告げ、更に魔力を溢れさせる。

 周囲の騎士達が降ろしかけていた剣を再び構えたが、その剣は皆一様に小刻みに震えていた。



「そ、そうだ! 貴様だッ! ええいッ! お前達何をしているッ! さっさとあの化け物を討伐せんかッ!」


「貴様ァッ!」


「フーーーーーーーーーーーッ!」



 マオカの言葉にリーフが憤り、モモまでも威嚇の唸りを発するが、俺は二人に一瞬だけ視線を向け、止めるよう促す。



「剣で俺をどうにか出来る訳がないだろう? 生きている内にもう少し頭を使え。それともレーゼンバウムには神聖魔法を使える司祭すらまともにいないのか?」


「い、言わせておけばッ! おいッ! あんな悪霊など滅してしまえッ!」



 マオカの指示の元、五人の司祭らしい男女が俺を取り囲む。



「「「「「【現世に囚われ彷徨う哀れな魂よ】」」」」」



 五人の司祭が一斉に同じ呪文を唱え始める。

 これは……【複合術式】?

 【複合術式】とは魔力の弱い者達がより強力な魔法を唱えるため、複数人の術者の魔力を会わせて放つ最も一般的な強化手段である。

 一般的とは言え、言うほど簡単なものではない。

 タイミングを一致させた魔法詠唱と、一人が突出しないようバランスを見極めた魔力操作が必要な高等技術である。

 恐らく、俺が『聖女すら支配できる悪霊』と判断してのこの選択なのだろう。これだったら確かに俺にも効果はあるかも知れない。

 先に言っておくが、本当にこのまま魔法を食らって消え去ろうとは露程も思ってはいない。

 ただ、相手の魔法に合わせて消えたフリをしようとしているだけだ。

 そうしてしまえば、アリィが悪霊に取り憑かれたという噂を払拭出来る。

 それどころか、レーゼンバウムの司祭達は『聖女を救った英雄』として評価されることになるだろう。

 勿論、それを指揮したマオカの評価も上がってしまうが、それは致し方ない。

 今はアリィの嫌疑を晴らすことを最優先に考える。

 俺の考えに気付いてくれたのか、アリィはもとより、リーフ達も詠唱を邪魔するような動きはしなかった。ただ黙って事の推移を見守っている。



「「「「「【我が主セレステリアの導きに従え】」」」」」



 五人の司祭が慎重に魔法を唱える。

 アリィや俺の魔法に比べて構築が遅いのは、【複合術式】という手段を執っているからだろう。

 俺は何もせず、ただ尊大な態度で魔法の完成を待っている。



「ふ、ふはははははッ! これで貴様も終わりだ、悪霊めッ!」


「ふ……そんな魔法が俺に通じると思っているのか?」



 取り敢えず、マオカの台詞には乗っておく。

 偉そうな態度を取っておきながら、あっさり倒された方が相手の達成感も高くなる。

 言ってしまえば、相手に『俺TUEEEッ!』と思わせる訳だ。

 俺の予想では彼らの魔法はほぼ俺には効果が無い。

 使用される魔力量とその密度、精密さにおいて、例え五人がかりであってもアリィの足下にも及ばないのは明白だった。

 これなら、多少ビリビリする程度で済むだろう。


 しかし……ここで俺には全く予想外の出来事が起きた。



「「「「「【死せる魂に安らぎを(ターニングアンデッド)】!」」」」」


「…………………………ッ!」



 しーーーーーーーーーーーーーん。


 ………………………………あれ?



「な……何が起きた!?」



 マオカがそんな事を言うが、実際には『何も起きていない』。

 魔法が発動せず、集まった魔力が全て空中に溶けるようにかき消えたのだ。

 決して表には出さないが、実は俺も内心動揺しまくりである。人間だったら大量の冷や汗を掻いていただろう。

 そして俺以上に、マオカや司祭達はもっと混乱していた。



「キ、キサマ何をしたッ!?」



 ………………俺の方が理由を知りたいんだが?




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